取材の入り口とKさんという受講生
今回のきっかけは、ハラユキさんが東洋経済オンラインで書いた《メンタルケア》の記事です。女性編と男性編があり、男性編にアツさんの講座PCTの受講生Kさんが登場しています。
ハラユキさんは元々、家事育児分担やコミュニケーションなど、うまくいっている家族に学ぶ連載をしていました。
その後、共同親権をめぐる賛否などをきっかけに、別居離婚シリーズという、これまでと真逆のテーマの取材を始めたと話します。
私自身、離婚しそうになったことはあるんですけど、離婚したことはないので、やっぱりわからないなって。
そこで当事者へのヒアリングを募集し、初期に名乗りを上げたのがKさんでした。ハラユキさんの本を読んでいたこともあり、以前からいろいろな試みを事後報告してくれていたそうです。
別居離婚で自分を見つめ直す活動に参加するって、すごく勇気のいることで。頑張ってるなってリスペクトしていて。
妻を下に見ていた自分に気づけた男性
アツさんによると、Kさんが最初に相談に来たときは別居中で、離婚調停中だったといいます。共同親権の施行前で、それも難しいと思っていた時期でした。
Kさんは記事の中で、妻と一緒にいると自己肯定感が下がると語っていました。アツさんは当時、その意味がよくわからなかったといいます。
さまざまなことに取り組む中で、Kさんは自分から「妻を下に見ていたんだ」と気づけたそうです。アツさんは、これを自覚できる男性はそう多くないと話します。
頭がいい男性こそ、社会的地位があって仕事ができる男性だと、なんか気づきにくくなりますよね。
アツさんも同意します。仕事ができる人ほど論理で考え、成功体験もあるため、妻とのコミュニケーションもロジカルになりがちだと言います。
情緒的な部分が抜けた状態で話してしまうため、自分のやっていることや自分の気持ちに気づきにくくなる、という指摘です。
最終的にKさんは、共同親権について妻の側から「してもいい」と言ってもらえるところまで至りました。アツさんは、Kさん自身の変化が相手にも伝わったのではないかと感じたそうです。
当事者たちが選んでいたセルフケアの形
ここから話は、記事に登場した男性たちが実際にどんなメンタルケアをしていたかに移ります。
眠れなくなればメンタルクリニックで薬を処方されながら頑張る人、本を読んで解決法を探す人、同じ立場の人と話す人などがいたといいます。
ハラユキさんは、男性に多いと感じたのはランニングやジムだと話します。体を動かして気分転換するタイプです。
アツさんも運動系に向かう人は多いと同意します。マインドフルネスを勧めても集中できない人がいて、そうした人に多い方法があるといいます。
高負荷のトレーニングをやりまくって、頭から何もかもが抜けた状態でマインドフルネスをするって聞いて。
別居離婚の渦中では、妻が不倫しているのではないか、もうダメなのではないか、と考えがぐるぐると止まらなくなりがちだといいます。特に多動型の人はそうなりやすいそうです。
体を極限まで追い込むことで、その反すう思考がやっと抜けやすくなる。だからこそ運動とマインドフルネスを組み合わせる人がいる、という説明です。
一方で女性はヨガやピラティスなどリラックス系が多い印象だとハラユキさんは話します。ただし追い込みすぎてしまう人もいる、とアツさんは注意を添えます。
美容師に話す、座禅とマインドフルネスの違い
漫画にして面白かったこととして、ハラユキさんは美容師さんに相談したという当事者を挙げます。
別居離婚は会社の同僚にも言いにくく、誰に話せばいいかわからない。そんな中、初めて行った店で知らない相手だからこそ話せた、というケースです。
カウンセラーみたいですね。毎月行くし。
後日テレビで、客の個人情報をメモして覚えている人気美容師が紹介されていたそうです。調停の数字まで記憶していて、繰り返し相談する客もいたといいます。身だしなみも心も整う、と二人は話します。
話は座禅やマインドフルネスにも及びます。アツさんはコミュニティメンバーと座禅に行った体験を振り返り、目的を持たないでくださいと言われて戸惑ったといいます。
これ何のためにやってんのかな、いつまで座ってればいいのかなって。目的を持たないでくださいって言われて、よくわかんないなと思って。
アツさんは、座禅とマインドフルネス瞑想は微妙に違うと感じています。マインドフルネスには明確な目的があると説明します。
注意集中瞑想では、聞こえてくる音だけに意識を向けます。雑念が浮かんだら、それに気づいてまた音に戻る。この繰り返しで、自分の注意を自分で動かせるようになるといいます。
日常でも、妻の言動を思い出して感情が膨らみそうになったとき、その一歩手前で気づいて冷静なところに戻れる。そのための訓練だ、という説明です。
この価値判断をしない受け止め方ができてくると、妻の言葉や気持ちにもいい悪いのジャッジをしなくなり、やがて思いやりの気持ちが湧いてくるとアツさんは話します。
一方でハラユキさんは、理屈とは別のところに良さを感じたといいます。自然の見えるお寺で、虫や鳥の声を聞きながら非日常を過ごすと、変なリラックスができたそうです。
気持ちよさから始まるセルフケアと第三者の力
アツさんも、長崎県西海市のリトリート施設を取材で訪れた体験を語ります。大内湾の穏やかな波を眺めながらお茶を点ててもらい、理屈抜きにリラックスできたそうです。
ハラユキさんも、台湾の山の上の茶芸館を思い出します。絶景の中で丁寧に淹れられた熱いお茶を飲み、ふわっとした感覚になったといいます。
その旅は夫と揉めた後の仲直り旅行でした。おいしいお茶にたどり着いたとき、連れてきてくれた夫への感謝が湧いた、とハラユキさんは話します。
ここに来てくれてた夫ありがとう、考えてくれてたんだって。まさにコンパッションを気持ちよさからそこにつなげたんだって、今思い出しました。
別居離婚では第三者機関も多くあります。だからこそ、自分に合うものを見つけることや、人間的な相性が大事だとハラユキさんは言います。
取材でメンタルケアをしているか尋ねると、それどころじゃないという人も多かったそうです。それでも、見つけられた人の方が大変な係争を乗り越えられるかもしれない、と話します。
アツさんも、相手の姿が見えない中で文章だけが届くと感情を喚起されやすいと補足します。係争中でなくても、家庭がピリピリして居場所がないと感じることもあると言います。
弁護士のケアと、自分の心に泉をつくること
記事で取り上げた工夫として、座禅、写経、ジムやランニングのほか、弁護士の存在も挙がります。
家裁や調停まで行くと、司法のシステムや相手側の弁護士に理不尽を感じることが多いといいます。そんな中、ある弁護士は勝算を正直に伝えつつ、こう言ってくれたそうです。
恨みつらみは自分に言ってくださいって言って受け止めてくださった。だから自滅しないで冷静に戦えたって。
ハラユキさんは、本来それを弁護士に求めるのは筋が違うとも補足します。法の専門家だからこそ、この人は当たりでラッキーだった、という位置づけです。
だからこそ、心をケアするコンパッションのような温かさが真ん中に必要になる、と二人は話します。
アツさんは、夫婦関係が行き詰まって苦しいとき、妻のことを考えなければと思っても自分に余裕がない状態が多いと言います。まず自分の心を満たすことが先だ、という考えです。
アツさんは、心をコップにたとえます。思いやりという水がタプタプになるよう、自分の中に泉を作り、自家発電のように水を作り出す。溢れたものを他者に差し出す、というイメージです。
これを自分で作れない人は他者に求めてしまうといいます。幼少期に満たされなかった分を妻に求めてもうまくいかないため、自分で泉を作る必要がある、という話です。
その時に役立つのがセルフコンパッション、自分への優しさです。ただ甘えるだけでなく、至らない自分と向き合う勇気や、不快な状況に耐え続ける強さも含まれるとアツさんは言います。
仕事にも生き、眠っていた優しさを起こす
今回改めて面白かったこととして、ハラユキさんはKさんの変化が仕事にも及んだ点を挙げます。管理職として混乱するトラブルの場面で、マインドフルネス的な手法を思い出し、気持ちを切り替えられるようになったそうです。
苦しみの渦中で管理職試験を受け、昇進したこと自体がすごいと二人は話します。夫婦問題を何とかしたいという取り組みが、予想外に仕事で役立ったのです。
アツさんは、コンパッションは心の根っこを変えるので、夫婦関係修復だけでなく人生全般に使えると考えています。子育てにも仕事にも生きるといいます。
アンガーマネジメントを何十万円も払ってできなかった人が、PCTをやったらできましたね、という方は結構多いんですよね。
理由について、アツさんはテクニックではないからだと考えています。怒りの原因は多くの場合、反すう思考にあると言います。
反すう思考は、扁桃体と大脳のネガティブなループで起こると説明します。扁桃体が不安や恐怖のサイレンを鳴らし、想像力や内省を司る大脳がそれを繰り返すことで、感情が増幅していくといいます。
前頭前野を発達させすぎてしまった人間だけが、この反省能力を手に入れちゃった。コンパッションではトリッキーブレイン、厄介な脳って言うんです。
マインドフルネスやセルフコンパッションのワークで、この反すう思考を自分でなだめていく。研究では、熟練者は扁桃体のアラートが少ないことがわかっているとアツさんは話します。
ハラユキさんは、人間性の根本自体は変わらないのではないかと問いかけます。アツさんは、元々備わっている慈悲の感覚が眠っているものとして開くのかもしれない、と応じます。
幼少期に感情を否定されたり、職場でパワハラを受けて自分を抑え込んできた人は、ケアするシステムが活性化していない状態かもしれない。それを呼び起こしていくイメージだ、という話です。
ハラユキさんは、優しい心が眠ったままなら起こしてあげた方がいいと言います。努力してもダメで別居離婚になった後も人生は続き、気づきとケアがないまま次へ行くと同じことを繰り返してしまうからです。
アツさんも、結婚生活を続けるにしても終えて次へ行くにしても、心が整って慈悲の心があった方がうまくいきやすいと話します。離婚を決めた女性についても同じだといいます。
ハラユキさん自身のセルフケア
最後にアツさんが、ハラユキさん自身のセルフケアを尋ねます。ハラユキさんはセルフケアが得意だと答えます。
銭湯や温泉、ストレッチが好きだといいます。数年前に鬱になった経験もあり、たまたま知り合いの精神科医のおかげで早く治せたそうです。その過程を、誰でもみんな鬱になるとまとめたと話します。
鬱になるの恥ずかしいとか思う人もいるかもしれないけど、私みたいなこんなに喋ってるような人でもなっちゃったので。なるんだなって。
治療の中でいろいろなケアを試したそうです。レモングラスの香りを持ち歩いて嗅ぐこと、精神科医に勧められてお風呂に焼酎を少し入れることなど、小さな工夫を挙げます。
特に効いたのは、朝起き抜けにポジティブな一言を口に出したり思ったりすることでした。起き抜けは脳が無防備で染み込みやすいためだといいます。
今日いい日になるとか、天才いいものが書けるとか。今日は誰々さんに会うけど楽しく喋れる、とか設定させるんです。
逆に、その無防備な状態でSNSの罵詈雑言を見ると変なものが入ってしまうため避けた方がいい、とハラユキさんは補足します。
旅先でも折りたたみのストレッチマットを持ち歩き、朝のビーチで簡単なストレッチをするそうです。落ち込んではケアし、を繰り返していると話します。
アツさんは、こうしたセルフケアを自分に許していくことが大事だと感じたといいます。自分はケアしてもいいと許せると、いろいろ広がっていくと話します。
まとめ
別居離婚のような苦しい状況では、まず自分の心を満たすことが出発点になります。運動や座禅、美容師との会話、弁護士の受け止め、そしてコンパッションまで、方法は人それぞれです。大切なのは、自分に合うケアを見つけ、自分をケアしていいと許すことだと二人は話しています。
- 別居離婚の当事者は傷ついており、メンタルケアは女性にも男性にも欠かせない。
- 方法は運動、座禅、美容師や弁護士との会話などさまざまで、自分に合うものと相性が大事。
- 他者に思いやりを注ぐ前に、自分の心に泉をつくり、自分を満たすことが先になる。
- セルフコンパッションは甘えではなく、至らない自分と向き合う勇気や不快に耐える強さも含む。
- 心を整える力は夫婦関係だけでなく、仕事や子育て、その後の人生にも生きる。
