早く世に出た恩恵と「目立ちたい」の卒業
西野さんはまず、自分が他のクリエイターより少しだけ恵まれていた点として「世に出るのが早かったこと」を挙げます。もちろんスピード出世には副作用もあり、相方の梶原さんキングコング・梶原雄太。西野さんの相方で、若くしてブレイクした後の苦しい時期を経て、現在はYouTuber「カジサック」としても活動している。はそのスピードに振り回されて苦しんだ時期もあったと振り返ります。それでもなお、若いうちに世に出られた恩恵は大きかったと言います。
25歳の頃には自分たちの番組が日本で一番視聴率を取る番組に成長し、その後、絵本作家として30代半ばで代表作を持つことができた。その結果、西野さんの中から「目立ちたい」「もっと知られたい」「ちやほやされたい」という欲求が、かなり早い段階で抜け落ちたと語ります。
今はですね、露出することにモチベーションは別にないんですね。なので、数年後に大きく飛ぶために三年間、四年間ちょっとしゃがむかという判断が簡単に下せると。
一方で多くのタレントやクリエイターは、世の中から忘れられることを極端に恐れるあまり、費用対効果よりもとにかく露出する、スケジュール表を真っ黒に埋めるという選択をしてしまう。その気持ちは理解できるが、それは能力ではなく「承認欲求」の問題だと西野さんは指摘します。
代表作を持つことで変わった意思決定
もう一つ大きかったのは、30代半ばで代表作を持てたこと。それ以降の西野さんの目的は「自分が評価されること」ではなくなったと言います。西野が作ったかどうかはどうでもいい。目的はただ一つ、お客さんを感動させることだけ。
だから西野さんは、自分が前に出た方が作品が届くなら前に出るし、広報担当のポジションにもつく。逆に自分の名前がない方が作品が遠くまで届くなら、クレジットから自分の名前を消してもらうこともあると言います。「西野の名前を出したらマイナスだから出さなくていい」という判断ができるのは、代表作という土台があるからこそ。
川口湖音楽と森の美術館で「名前を出さない」選択
最近運営のバトンを引き継いだ川口湖音楽と森の美術館山梨県富士河口湖町にある観光施設。自動演奏楽器のコレクションや庭園で知られ、河口湖エリアの代表的な観光スポットの一つ。でも、同じ判断をしていると西野さんは語ります。過去の運営者が積み上げてきた歴史に全力であやかる方針です。
関係者から「チムニータウンミュージアムに改名しないか」という提案も受けたが、西野さんはそれを断ったといいます。理由はシンプルで、その方がお客さんにとって価値が大きいから。
西野亮廣のファン施設になる。来場者は西野ファンに偏る。
河口湖旅行で立ち寄る観光施設であり続ける。来場者の母数が圧倒的に大きい。
もし代表作を持てていなかったら、この判断はできなかったかもしれない。「名前を売るチャンスだ」と考えてしまっていた可能性もある。だからこそ、自分は恵まれていたと西野さんは振り返ります。
苦戦するクリエイターに共通する「執着」
仕事柄、多くのクリエイターと会う西野さん。苦戦しているクリエイターには共通点があるといいます。それは、目の前に「巨人の肩」が空いているのに、そこに乗らず、誰も知らない自分のオリジナル作品だけに執着してしまうこと。
もちろんクリエイターにとってオリジナリティは大切。しかし、その選択が本当に創作上の理由によるものなのか、それとも「自分の名前で認められたい」という承認欲求によるものなのかは、一度立ち止まって考えた方がいいと西野さんは問いかけます。
AI時代に問われる「どの肩に乗るか」
西野さんが特に強調するのが、AIの登場によって「オリジナル作品を作ること自体の価値が急速に下がっている」という現実です。作品を作る人は増え続ける一方、人間が使える時間は増えない。結果として「お前のオリジナル作品なんて知ったこっちゃねえよ」という風が、これまで以上に強くなっている時代だといいます。
そして西野さんは、承認欲求そのものを否定しているわけではありません。むしろ「めっちゃ大事な燃料」だと言います。問題なのは、その燃料にハンドルまで握らせてしまうこと。
承認欲求をハンドルにすると、目的地を見失う。だから、なるべく早く片付けておいた方がいい。人生の中盤から後半は、認められるためではなく届けるために使った方がずっと自由になれる──西野さんはそう結びました。
まとめ
「お前のオリジナル作品には誰も興味がない時代」というショッキングなタイトルの裏には、AI時代を生きるクリエイターへの実践的なメッセージがありました。承認欲求は努力の燃料として活用しつつ、意思決定のハンドルは「お客さんに届けること」に渡す。先人が築いた巨人の肩が目の前に空いているなら、そこに乗ることを恐れない。自分のオリジナリティへの執着が、本当に創作上の理由なのか、それとも承認欲求なのか──その問いに正直に向き合うことが、これからのクリエイターには求められるのかもしれません。
- 承認欲求は努力の燃料になるが、経営判断の基準にすると危険
- 早く世に出て代表作を持つと、「届けること」に意思決定の軸を移せる
- 名前を売るより、お客さんの体験価値を優先する判断ができるかが分かれ目
- 苦戦するクリエイターは、巨人の肩が空いていてもオリジナルに執着しがち
- AI時代は供給過多。「何を作るか」だけでなく「どの肩に乗るか」が問われる
