SNSは届ける技術、決めるのは自分
SNSで発信を続けていると、投稿ごとに数字が返ってきます。「これは伸びた」「これは伸びなかった」を繰り返すうちに、いつのまにか"自分が何を伝えたいか"ではなく"何を書けば伸びるか"を基準に考えるようになる。西野さんはまずここに警鐘を鳴らします。
届ける努力そのものは大事です。伝え方を磨くのも仕事のうち。ただし、順番を間違えてはいけません。
この順番を間違えると、人生のハンドルをアルゴリズムSNSプラットフォームがどの投稿を優先的に表示するかを決める仕組み。エンゲージメントの多い投稿ほど拡散されやすい傾向がある。に渡してしまうことになる。他人軸の人生になってしまう、というのが西野さんの問題提起です。
なぜ「間違った発信」ほど数字が伸びるのか
ここ2〜3年、Xで経営者同士が延々と喧嘩をしている光景が目立ちます。西野さんは、これも結局は「喧嘩の方が伸びる」という数字に引っ張られた結果だと指摘します。
さらに踏み込んで、ある皮肉な事実にも触れます。それは「間違った内容を発信した方が数字が伸びる」というものです。
明らかに間違った内容を発信
「それおかしいよ」と指摘したい人が集まる
引用ポストで「こいつのここが間違ってる」と拡散
インプレッションが伸びる
頭ではわかっている。でも数字は動いてしまう。だから発信する側もその誘惑に負け、間違った内容や刺激的な話題に手を伸ばしてしまう。この構造こそが、SNS発信者を"他人軸"に引き込む正体だと言えます。
美術館の再生に見る、地味な仕事の価値
西野さんは今、河口湖音楽の森の美術館山梨県富士河口湖町にある美術館。西野亮廣さんが事業再生に関わっており、Podcast内でホームグラウンドと呼ばれている。の事業再生にかなりの時間を使っています。当然その過程をSNSで発信することもあります。しかし正直に言えば、美術館運営の話題は爆発的にインプレッションが伸びるテーマではありません。
刺激的な話題、議論を呼ぶ投稿、間違った内容への指摘合戦
設備の改善、動線設計、スタッフ教育、収支の見直し
美術館のアップデートに時間を使えば、庭は少しずつ美しくなり、無駄なものが排除され、施設は使いやすくなる。スタッフは成長し、収支は見直され、健康な事業体になり、お客様の満足度も上がる。
ブロードウェイ村の入り方や、『えんとつ町のプペル』西野亮廣さんが手掛けた絵本およびアニメ映画。IP(知的財産)として様々な展開が行われている。をIPとして強化する施策も同じ。SNSでは目立たない一つひとつの地味な仕事が、積み上げると誰にも奪われない資産になる、と西野さんは言います。
経営者IP化の落とし穴
最近、経営者自身がIPとなり「この人から買う」というゲームに持ち込む戦略が広がっています。作品や商品の内容だけでは差別化が難しくなった時代の対応として、方向性そのものは正しい、と西野さんは前置きします。
経営者が有名になったら採用も楽になるし、意味はわかるんですよ。ただ、それが過ぎちゃうと本末転倒で。
問題は、インプ稼ぎに時間を取られすぎることです。発信でインプを稼ぎ、YouTubeで再生回数を回し……と数字を追いかけているうちに、本業で残すべきものが残らなくなる。
この2〜3年で、あなたは何を残したか
放送の後半、西野さんは聴き手に率直な問いを投げかけます。
施設も、作品も、ブランドも、人材も、信頼も、すべて資産です。そしてこれらは本来、時間が経つほど価値を増していく性格を持っています。使うかどうかは自分次第。
結論として、西野さんが提示するのはシンプルな原則です。数字を見ないのではなく、数字は見る。ただし数字に人生を決めさせない。SNSは届けるための技術であり、何を届けるかは自分で決める。この順番を守り続けることが、他人軸に飲み込まれないための唯一の防波堤だと言えるでしょう。
まとめ
SNSの数字は麻薬のように、発信者から"自分は何を伝えたいのか"という問いを奪っていきます。西野さんの語り口は軽やかですが、指摘は鋭い。今日の投稿がバズるかどうかではなく、今日の仕事が1年後・5年後・10年後にどんな資産を残すのか。この視点で振り返ったとき、胸を張れる仕事をしているかどうか。それが、SNS時代のクリエイターと経営者に突きつけられている問いなのかもしれません。
- SNSは届ける技術。「何を届けるか」までアルゴリズムに決めさせない
- 間違った発信ほど数字が伸びる構造がある。だからこそ数字に引っ張られてはいけない
- 美術館の再生も、IP育成も、地味な仕事の積み重ねが誰にも奪われない資産になる
- 経営者のIP化戦略も、やりすぎると「何屋さんかわからない有名人」を量産する
- 数字は見る。ただし人生までは決めさせない。この順番だけは守る
