結婚式の余興で二曲目を歌う人がなぜ売れないのか
今回のテーマは、売れないアーティストに共通する特徴です。
西野さんはまず、この話は誰もが知っている内容だと前置きします。
この話は多分「知ってるよ」って話だと思います。ただ、知ってるとできるっていうのは違う。そんなこと知ってんのにやっちゃうっていう話が、今日はメインです。
例に挙げられたのは、結婚式の余興です。
「一曲お願いします」と頼まれたシンガーが、会場が盛り上がってきたからと二曲目を歌い始めてしまう。西野さんはこれを厳しく指摘します。
まず大前提として、お前が盛り上げたわけじゃない。お客さんが盛り上げたんだ。だって新郎新婦を祝いに来てるんだもん。お前が何の歌を歌おうが盛り上がります。
さらに問題視するのが、オリジナル曲を歌うケースです。
結婚式の余興でオリジナル曲歌うのほんまにやめて。ここはお前を売り込む場所じゃないんだ。新郎新婦を祝う場所で、集まっている全員が新郎新婦を祝いに来てるんです。お前の宣伝コーナーじゃないんです。
ただし、本人に悪気はないと西野さんは補足します。むしろ盛り上がっているからもう一曲、とサービスのつもりでやっていると考えられます。
持ち時間は「預かった信頼」である
西野さんは、持ち時間の意味を掘り下げます。
結婚式には新郎新婦が何ヶ月もかけて考えた進行があり、司会者の段取り、料理を出すタイミング、カメラマンの撮影プランもあります。
もう一曲っていうのは、これ自分の時間じゃないんですね。誰かの時間なんですよ。誰かから預かった時間なんですよ。問題は何分オーバーしたかじゃなくて、約束を守ったかどうか。
持ち時間とは「この時間をあなたに預けます」という信頼そのものだと西野さんは話します。売れている人ほど「あと三十秒で締めます」が徹底されているそうです。
一方で、これはソロライブの話とは別だと区別します。全員が自分を見に来ている単独ライブなら、アンコールで時間が延びるのはお客さんも嬉しい、というわけです。
エンターテイメントのゴールはどこにあるか
西野さんは、売れないアーティストに向けて核心的な問いを投げかけます。
エンターテイメントのゴールって何ですか。どれだけ自分を露出させられたかですか。違いますよね。お客さんをどれだけ満足させられたかでしょ。
自分が長く喋れた、一曲多く歌えたというのは、あくまで自分の都合だと言います。
場合によっては、自分の出番を一分短くした方がお客さんの満足度が上がることもある、と西野さんは指摘します。
イベント全体の価値を最大化しようと考え、自分の露出を減らしても全体の満足度を優先する
盛り上がっているからもう少し、今のうちに知ってもらいたいと、自分の持ち時間の最大化を考える
「あの人ならお客さんを満足させてくれる」「あの人ならイベント全体を壊さない」。その信頼が次の仕事を運んでくると西野さんは話します。
持ち時間を守るとは、時計を見ることではなく、お客さんと主催者を中心に考えることだとまとめます。
知っていたのに、自分事になると崩れた実例
ここからが今日の本題だと西野さんは切り出します。この話はこれまで何度もしてきて、みんな異論なく納得していたはずのものです。
だが、自分のことになると、ここを見失っちゃうって話なんです。
きっかけは、インパルスのつっつんさんが手掛けるアイドル育成番組の件でした。ベイビーロマンスという、間もなくデビューするアイドルが登場する番組です。
七月三十一日の川口音楽と森の美術館のビアガーデンで、そのアイドルが余興として歌う話になりました。西野さんは前向きに受け止めたと言います。
全然いい。全然そういう場所に使ってください、と思った。これから出ていくアイドルだし、みんなで応援するっていうノリが生まれたら最高だなと。
ところが、番組スタッフから「何曲ぐらい歌ったらいいですかね」と聞かれた時点で、西野さんは違和感を覚えたそうです。
ビアガーデンで人々が交流している場なのだから、答えは一曲だと西野さんは考えます。
ここで西野さんは、もし自分が歌うならという例えを挙げます。定番曲を選ぶという発想です。
俺だったらオー・シャンゼリゼ歌うなと思う。えんとつ町のプペルも歌うなと思う。アイドルなら、ここでこの人たちを盛り上げられるのは何かって考える。それが「三百六十六日」でしょ。
その場に集まっているのは、おそらくえんとつ町のプペルの映画を観たお客さんです。誰もが知る定番曲を歌えば、立ち上がって拍手してくれる。それがファンをつくるということだと西野さんは話します。
なぜ「六曲」になってしまったのか
西野さんはさらに、オリジナル曲についても持論を述べます。
正直、オリジナル曲もいらないと思うよ。それトイレタイムだと思うよ。そういうことで集まってるわけじゃないから。基本一曲。一曲で勝負決めて、あとは会場に残ってお客さんと交流すりゃいい。
一度は番組の中で、この考え方を共有し、スタッフも納得したそうです。
ところが後日、つっつんさん経由で送られてきたセットリストを見て、西野さんは驚きます。
六曲。うちMC二回。え、マジで言ってます。これ絶対売れないわと思って。全員嫌いになる、このアイドルのこととこの番組のこと。
六曲を短く刻んでも十五分から二十分はかかる、と西野さんは見積もります。交流のために集まった場でそれをやれば、お客さんの時間を奪うことになると指摘します。
一度ダメだと言い、相手も納得したのに、また同じ提案が上がってくる。西野さんはここに人間の視野の狭さを見ます。
一回「これダメだよ」って言ってるんです。そうですよねって納得してる。で、これがまた上がってくる。人はこれをやっちゃう。売り込むチャンスだって思っちゃって、売り込み方を間違ってるって話です。
売れない人ほど「自分がどう見られるか」が抜け落ちる
リスナーからも共感のコメントが寄せられます。
コメントいただきます。「なんとかお金を工面して子供たちと行きます。何を聞かされてるんだろうって絶対思ってしまいます」。そうだよね。確かに帰れって思う。
ただし西野さんは、コメント欄で「なんでわからないの」と怒っている人たちも、前回番組で同じ話をした時は同じように納得していた、と冷静に振り返ります。
「そうだそうだ」って皆さんと同じ反応だったんです。この反応の人が、自分がやるってなったら六曲歌っちゃうんですよね。
西野さんは、売れない人の思考回路をこう分析します。会議で盛り上がっている間に、自分がどう見られるかという視点がごっそり抜け落ちてしまうのではないか、というわけです。
原則を理解
他人事なら「一曲でしょ」「全体を優先すべき」と正しく判断できる
自分事になる
打ち合わせで盛り上がり、これをやりたいという気持ちが前に出る
視野が狭くなる
自分がどう見られるかが抜け落ち、六曲歌う提案になってしまう
今回はつっつんさんが事前に確認を取ってくれたため、当日の事故を防げたと西野さんは話します。
誰のための空間なのか、何の目的で集まったコミュニティなのか。それを考えなければいけない、と西野さんは締めくくります。
まとめ
持ち時間を守れるかどうかは、単なるマナーではなく「自分の露出」と「お客さんの満足」のどちらを優先するかという姿勢の問題です。誰もが理屈では知っている原則が、自分事になると崩れてしまう。西野さんは実際の出来事を通じて、その落とし穴に気づくことの難しさを語りました。
- 持ち時間は自分の時間ではなく、誰かから預かった信頼である
- エンターテイメントのゴールは、自分の露出ではなくお客さんの満足度にある
- 仕事は露出した人ではなく、安心して任せられる人に来る
- 原則を理解していても、自分事になると視野が狭くなり同じ失敗をしてしまう
- 誰のための空間で、何の目的で集まった場なのかを常に考える必要がある
