なぜ映画館を作ろうと思ったのか
今、『河口湖 音楽と森の美術館』の運営のバトンを、じわじわと引き継がせてもらっています。
この美術館プロジェクトは、僕らにとって史上最大の投資になる見込みでして、その分、難易度も可能性も最大なんです。
その計画の一つに、館内のホールを映画館としても利用できるようにする、というものがあります。
そもそもなぜ映画館を作ろうと思ったのか。理由は、美術館を持つ覚悟を決めた理由とまったく同じなんです。
僕らは絵本やミュージカルや映画といったコンテンツを作っていますが、それらは全部ソフトなんですね。
本屋さんや劇場といったハード、プラットフォームを間借りしないと、そのソフトはお客さんに届けることができないんです。
ハードはソフトがないと機能しない。その一方で、ソフトにはハードの事情でスケジュールを切られてしまう、展示スペースを決められてしまうという、圧倒的な弱点があるんです。
夏休みの劇場も、映画の公開時期も、自分では決められない
たとえば去年の夏休み、僕らはミュージカル『えんとつ町のプペル』を丸々1ヶ月間、上映させていただきました。
でも、夏休みに劇場を借りたいプレイヤーなんて山ほどいるわけです。もう取り合いなんですね。
だから夏休みの興行というのは当たり前じゃないんです。お客さんに「また来年もやってください」と言われたりするんですけど、僕らがやりたくても、劇場が空いてなかったらできないんですよ。
これは映画の公開時期も同じで、自分たちの都合で決められるわけではないんです。他の作品とのバランスを見て、劇場さんがプペルの公開時期を決められる。
スケジュールが決まっている二番館だと、お客さんが入っていても公開終了になることもあります。宮古島の公開終了はもう決まっていて、あと4日5日で終わっちゃうんですけど、お客さんが入っていても終わってしまうんですね。
この課題を解決しない限り、本当の意味で作品を守りきることはできないし、スタッフを守りきることもできない。だから随分前から、ハードプラットフォームの開発を企画していました。
7年8年ぐらいかかって、ようやく2026年に美術館がスタートします。そして今、その中に映画館を作ろうとしているんです。
テスト上映で確かめたかった、音と視認性
昨日のテスト上映で確認したかったのは、音の響きと視認性でした。
仮設で300インチのスクリーンを立てて、前方に3つ、後方に2つのスピーカーを設置して、映画の上映テストをやってみたんです。
音に関しては、もともとここはコンサートをする前提で、なんならオルゴールの音を最高のシチュエーションで届ける前提で作られたホールなんです。だから響きはバッチリでした。
スピーカーの音も良かったんですけど、そもそも建物の作りから返ってくる音の感じがもう良くて。音に包まれるという体験を、しっかりすることができました。
問題は視認性です。天井からバカラの巨大なシャンデリアが2発垂れていまして、それがこのホールの魅力である一方で、巨大なスクリーンを見るとなると、客席の両サイドは視界にシャンデリアが被ってきちゃうんですよ。
シャンデリアがある以上、客席を削らなきゃいけなくなる。だから当初は、シャンデリアを外す方向で話が進んでいたんです。
やってみて初めて、シャンデリアを残すと決まった
ところが、です。
上映前の客入れの時間帯に、シャンデリアにうっすらとオレンジ色の明かりがついていて、その向こうに映画のスクリーンがある。その景色を昨日見たんですけど、これが新鮮でね。
映画館に巨大なシャンデリアがあるという景色が、ここでしか味わえない体験になっていて。そして映画が始まってしまったら、もうシャンデリアが気にならなくなったんです。
その瞬間、テスト上映に立ち会った人たちが満場一致で、シャンデリアはあった方がいい、と。
こういう場所を使っているのに、他にあるような普通の映画館を作ってどうするんだ、という話になりまして。バカラの巨大シャンデリアを残す方向で、話がまとまりました。
シャンデリアは歴史も価値もあるものなので、そりゃ残せるなら残したかったわけです。でも今回残すことになったのは、妥協ではないんですね。
残した方がさらにいいという、情報修正で着地した。そこが嬉しかったんです。
改めて思うのは、会議室で紙の上にいる僕らは、正解を知らないということです。やってみなくちゃわからない、というのが今回の結論でした。
まとめ
自分たちの作品も、スタッフの思いも生活も、お客さんの思いも、そして美術館にある歴史の数々も、全部守りたい。それを強く強く思った夜でした。長い挑戦になりますが、ここを取り切ったらだいぶ面白いと思うので、見守っていただけると嬉しいです。
- ソフト(作品)はハード(劇場)を間借りしないと届けられず、スケジュールや上映期間を自分で決められない弱点がある
- 作品とスタッフを本当の意味で守るために、随分前からハードプラットフォームの開発を企画し、2026年に美術館がスタートする
- 館内のホールに300インチのスクリーンを立ててテスト上映したところ、音の響きは抜群だった
- 外す予定だったバカラのシャンデリアは、やってみたら残した方がいいと満場一致で決まり、紙の上では正解はわからないと実感した




