本の世界と映画の世界は、まるでルールが違う
今日は「経営者では判断することができない数字」というテーマで書いてみます。
まず前提として、本の話からさせてください。
自分の本が8万部売れたとすると、多くの場合は次に10万部を目指して、その一冊を粘り強く売り続けることに意識が向くんですね。
もちろんその努力に意味はあります。
ただ、発行部数を伸ばす上で最も効果的な方法は、実は新刊を出すことなんです。
新刊は新しい読者との接点を生んでくれます。
そしてその作品を気に入ってくれた読者は、自然とその著者の過去作にも興味を持つようになる。
結果として、新刊だけでなく過去作の売り上げも連動して伸びていくんですね。
この戦略が成立する理由の一つが、過去作が棚に残り続けているという点です。
ここで言う棚は、街の書店の棚だけを指しているわけではありません。
Amazonや楽天ブックスといったオンライン書店の商品ページも、一種の棚として機能しています。
新刊を手に取った読者は、その著者に興味を持つと自然とその棚を遡る。
そこに過去作が並んでいれば、次の一冊を選んでくれるわけです。
新刊は、過去作へと読者を案内する入り口としても機能している。これが出版という世界の基本的なルールだと思っています。
映画は、過去作の受け皿がもう残っていない
厄介なのは映画なんです。
新作を公開したとき、過去作の多くはすでに映画館での上映を終えています。
新作をきっかけに過去作へ関心を持ってもらうことはできても、その導線の先にあるのはサブスク配信やDVD、Blu-rayであることがほとんどなんですね。
作品に触れてもらえること自体は嬉しいのですが、映画館で過去作を観てもらう体験には、なかなか繋がりません。
だから多くの映画関係者は、公開後も今やっている作品を少しでも多くの人に観てもらおうと、上映期間を延ばすためのPR活動に力を注ぐわけです。
ただ、ご存知の通り、映画は時間の経過とともに上映館数が減っていきます。
つまり、同じ量の宣伝を続けても、その効果を受け止める受け皿そのものが小さくなっていくんですね。
だからこそ、どこかで見切りをつけて、新しい挑戦にリソースを移さなければいけない。
公開済みの作品に執着し続けることは、次の作品を生み出す機会を失うことにもなりかねないんです。
頭ではわかっている。でも心が認めない
とはいえ、お恥ずかしい話です。
『えんとつ町のプペル~約束の時計台~』に関しては、私、その見切りをまだつけられずにいます。
公開から間もなく3ヶ月が経とうとしている今も、なおPR活動を続けているんですね。
冷静に考えれば、このPRの効果は公開直後とは比較にならないほど小さくなっています。
3ヶ月前と比べたら、宣伝で動く数字なんて驚くほど減っているんです。
それでも、手を止められずにいます。
これは合理的な経営判断というよりも、一つの作品に人生を注ぎ込んだ作り手の未練です。
経営者として絶対にやっちゃいけないことなんですよ。
ただ、クリエイターとしてはやらないと気が済まない。
頭では理解できていても、心がそれを認めないんですね。
未練が引き寄せた、初めての「復活上映」
そんな中で、思いがけないことが起きました。
先月、2ヶ月間の上映期間に幕を閉じた渋谷HUMAXシネマさんで、復活上映が決まったんです。
明日からまた『えんとつ町のプペル~約束の時計台~』の上映が再スタートします。
こんなこと、私自身初めてなんです。前作でもありませんでした。
何が起きているのか、うまく言語化できずにいます。
ただ一つ言えるのは、この復活上映の裏にあったのは劇場さんの思いだということです。
そして、その思いを引き出したのは、作り手の執念や未練の類だったなと思います。
仮に私が正しい経営判断を下していたら、この復活上映はなかったはずなんですね。
エンタメは、人間という変数の塊です。
その変数は、経営者には測ることができない。これが今回の気づきでした。
何かが起きそうな気がしている
明日の上映は17時40分からです。
私は17時過ぎには劇場に入って、グッズを購入してくださった方を対象にサイン会やツーショット撮影会をさせていただきます。
そして上映終了後は、この思いをお客さんに直接語りたいので、簡単な舞台挨拶をさせていただこうと思っています。
正直、何かが起きそうな気がしているんです。
もちろん起きないのかもしれません。
でも、変な動きが今、間違いなく起きている。
だから、ちょっと注目しておいていただけたら嬉しいです。
まとめ
経営者としては間違っているとわかっていることを、クリエイターとしてやめられない。その未練が、初めての復活上映を連れてきました。この動きがどこへ向かうのか、私自身もまだ答えを持っていません。ただ、数字に落とし込めない何かがエンタメを動かすことは、確かにあるんだなと感じています。
- 本は新刊で過去作の売り上げも伸びるが、映画は過去作の受け皿がすでに残っていない
- 公開済みの作品への執着は、次を生む機会を失うリスクがある
- 見切りをつけられない未練が、劇場さんの思いを引き出し、初めての復活上映につながった
- エンタメを動かす人間という変数は、経営者には測りきれない




