観光地を見るだけじゃない旅の広げ方
観光に来た時に、ただ観光地を見るだけではなく、出会った人と話したり、何をしに来たのかを伝えたほうが旅は広がりそう。前回そんな話をしたそうです。
その流れで、収録後に思い出した話があると親が切り出します。それは、五島で小さなホテルを営む友人のくわちゃんから聞いた話でした。
くわちゃんが営むのは、三室か四室だけの小さくて素敵なホテル。そこに、八十何歳のおばあさんと娘さんの二人が旅で泊まっていたそうです。
なくなった村を訪ねてきたおばあさん
そのおばあさんには、五島の「椎の木」と呼ばれる小さな村に子供の頃に住んでいたという過去がありました。
五島を出てから長い年月が経ち、年齢も重ねて、これから旅できることも多くはないだろうと考えたそうです。だからこそ、幼少期を過ごした椎の木をもう一度見たいと思い、五島にやってきました。
くわちゃんが調べてあげたところ、その村はすでになくなっていました。奥浦方面の山の中にあった小さな村で、行く道ももう残っていなかったそうです。
行くことは難しいみたいですと聞いて、おばあさんと娘さんは「残念」と言って、じゃあ島内を観光して帰りますと、タクシーを予約したんだよね
こうして二人は、島内を観光してそのまま帰るつもりでいました。
椎の木出身のタクシー運転手との出会い
次の日、予約したタクシーが来て、島内観光が始まります。二人が何の目的で五島に来たのかを運転手に話したところ、思いがけない偶然が起きました。
そのタクシーの運転手が、なんと椎の木という村の出身だったのです。島の中でも小さな集落のことですから、かなりの偶然だと親は話します。
その島の中でも小さな集落のことだから、すごい偶然だと思うんだよね。でもこういう偶然ってまあまあ起きたりする
運転手は、村はもうなくなっていて陸路では行けないと伝えます。ただ、海から行けば村の名残が見られると続けました。
私タクシーの運転手ですけど、船の免許も持ってて、船も持ってるんで、船出すんで見に行きましょう
運転手は自分の船を出し、二人を乗せて椎の木村のある山の海側へと連れて行ってくれたそうです。
海辺に残る記念碑と刻まれた家族の名前
椎の木村は、もともと潜伏キリシタンの人たちが開いたカトリックの集落だったそうです。
その集落を長く大事に守っていた神父さんがいたそうです。人々が神父と共に村を離れなければならなくなった時、海岸に記念碑を建てたと言います。
村はなくなっても、その記念碑は今も残っていて、船でしか行けない場所にあります。運転手は、みんなが思いをつないだその記念碑を見に行きましょうと連れて行ってくれました。
上陸してその記念碑を見ると、建てた村人たちの名前が刻まれていました。そこに、おばあさんのお姉さんとお母さんだったか、家族の名前がちゃんとあったそうです。
来ることができました。戻ってくることができましたって言って、とてもいい旅になって帰ってったという話を、この間聞かせてもらって
思いを口にすると人が動く島
この話を聞いて、親はただいい話というだけでなく、旅をしながら思っていることを周りに言い続けていると、こういうことは起こるのだと感じたと話します。
子は、見つけてあげたい気持ちがみんなにあって、それがちゃんとつながって人を呼んだのだと受け止めます。
もしそこの集落が全然見つからなかったとしても、こんだけ調べてくれたんだっていう気持ちだけですごい嬉しい気持ちになるから
話を聞いていると、おばあさんと娘さんはおしゃれなホテルを目当てにした様子ではなく、たまたま空きがそこしかなかったのではないか、とくわちゃんは見ていたそうです。
車を運転できない二人にとって、街中にあるホテルは利便性も良かったのだろうと親は言います。有名建築家が手がけたデザイナーズホテルなのに、そこまで世話をするくわちゃんがいる。その組み合わせも面白いところでした。
来る人たちもあそこに泊まることをゴールとしてるから、その人の人柄とか、何しに来たのかを別に問わなくてもいい仕事なのに、そこをやってあげる
夢は語っておいたほうがいい理由
思いをつなぐという話題から、子は自分が小さなカフェをやっていた頃の経験を語り始めます。
島で事業をするのはどうなのかと聞かれた時、生まれ育ちが島だったから見つけやすい面はあったものの、移住者でもやりたいことを話していればすぐつないでもらえると感じたそうです。
やりたいことを口にしていると、周りの誰かの脳の片隅に残り、物件を探していると言えば紹介してもらえる。だから夢は語っておいたほうがいい、と子は話します。
それはなんか夢は語っておいた方がいいわ。別にどこにおいてもそうかもだけど
親も、移住者がオフィシャルに空き家を探すとなかなか見つからないのに、いざ来て住むところを探していると言うと、なぜか見つかると応じます。
次の日に見つかったりとか、しかもめっちゃいい場所とかね
都会と違って情報がネットに出ているのではなく、人の気持ちの中に情報が眠っている。だから何事も人伝いなのだと親は言います。
子は、ネットの情報はすべてオープンだと思って育ってきたけれど、人に眠っている情報をオープンにできるかどうかは自分次第なのだと、五島に来てから気づいたと話します。
受け継がれる真心と、自分たちにできること
親は、今はない椎の木村を守ってきた神父さんが本当にいい人で、住民のために一生懸命働いていたという話を何度も聞いたそうです。
ずっと前の話でも、そうした善い行いはお話として残り続けると親は言います。それを求めて関わりのある人が訪ねてきた時に、受け継がれてきた感情が動くのだと考えられます。
自分もあの人がいい行いをしてたように、自分もその真似をしてみたいとか、多分ちょっとそういう連鎖があると思うんだよね
子は、してもらったいいことの持続性は長いと話します。カフェをやっていた頃、雨で商品が残ったとSNSに上げたら、真っ先に来てくれた友人夫婦がいたそうです。
旦那さんが奥さんに「これ全部買って」とこっそり言うのが聞こえてしまった。助けるという素振りを見せず、買いたいから買ったという顔をしてくれたその言葉を、雨が降るたびに思い出すほど嬉しかったと言います。
一方で、話すと相手は当たり前のことだと流してしまう。だからこそ、目の前の人にちょっとした真心を常に提供できるようになりたいと子は話します。
二人は、あからさまに観光客へおせっかいをして作為的になると、せっかくのつながりの良さが台無しになる、とも語り合います。
やっぱ物事は自然に起こるんだと思うんだよね。あんまり作為的になるとさ
親は、自分たちにできることは、神父さんの話のように、普段からいい雰囲気やいい感じを島の中に少しずつ重ねておくことだと言います。
観光客の人たちが来た時に、いいご縁がちょっとでもたまたま起こるといいなと思いながら
子は、島で起こったいいことや奇跡みたいな話を、いろんな人に話し続けるだけでも自分たちにできることだと応じます。最後に、五島を訪れたことがある人からも、島で起こったいいことを聞いてみたいと締めくくりました。
まとめ
なくなった村を探して五島を訪れたおばあさんが、椎の木出身のタクシー運転手と出会い、船で記念碑にたどり着いた話を軸に、思いを口にすることで人がつながる島の空気を親子が語り合いました。
- 目的や願いを出会った人に話すことで、旅は思いがけない広がり方をする
- 五島では情報がネットではなく人の気持ちの中に眠っており、多くのことが人伝いに動く
- 夢ややりたいことは語っておくと、誰かの記憶に残ってつながりやすくなる
- 善い行いや真心はお話として長く残り、受け継がれて次の連鎖を生む
- 作為的にならず、普段からいい雰囲気を島に重ねておくことが自分たちにできること
