AI時代になぜ靴なのか、身体性を解放するという思想
NEULOはシューズブランドですが、船瀬さんは自分たちを単に靴を作る会社とは捉えていないと話します。
まずそもそも我々シューズブランドではあるんですけれども、シューズだけを作る会社とは捉えていなくて、このAIの時代に、人間はもっと身体性に向き合ったりですとか、いろんな知的活動をAIがやってくれるようになるので、そうなると人間は01の問いの立て方であったり、アイデアの着想のところがより大事になると思ってます。
歩くと創造性が上がるという過去の研究もあり、AI時代だからこそ歩いて新しいアイデアを出し、健康寿命も長くなる時代になってほしい。そのための手段として、思想に馴染むシューズを提供したいというのがNEULOの狙いです。
つまり船瀬さんは、靴を作りたいという思いはありつつも、常に「何のための靴か」を問い直しながらプロダクトにたどり着いたと語ります。
現代人の眠った足を覚醒させる「都市型ギア」
NEULOのシューズは「パフォーマンスフットギア」や「ベアフットシューズ」と呼ばれるカテゴリーに関わりますが、馴染みのない人も多いカテゴリーです。
船瀬さんによれば、ベアフットシューズは主に4つの特徴を持つとされます。つま先近辺が広いこと、かかととつま先が同じ高さでフラットであること、靴底がペラペラで裸足感覚であることなどです。
一方で、現代人はアスファルトの上を歩くことが多く、靴底が薄すぎると足への負担を感じる人もいると船瀬さんは考えています。
そこでNEULOは、足指が動く感覚を大事にしつつ、都会でガシガシ歩けて、ベアフットに馴染みがない人でもトライできる「都会用のシューズ」として開発しているといいます。
人間の足はもともと複雑な機能を持っているのに、現代の靴によってその機能が眠ってしまっている、というのがベアフットの根底にある課題感だと船瀬さんは説明します。
足の指ってめちゃめちゃ動くし、物をつかもうと思ったら本当はつかめるんですが、そういうことをする機会が少ないがゆえに動きにくくなってたりですとか、足の裏にもいろんなセンサーがあるんだけれども、厚底のシューズを履いていると、そのセンサーも眠ってしまって、地面からの信号も受け取りにくくなっている。
楽して勝手に動くように設計され、足の負担を減らす方向
人間の足をサボらせず、指や体をしっかり使ってもらう方向
高性能というか悩ましいんですけど、考え方として人間の足をサボらせないというか、動かしてもらうというのがコンセプトなので、ハイスペックの自転車みたいに「楽して勝手に動きますよ」ではなくて、「あなたの指しっかり使ってください」なので、ギアを三にするんじゃなくて一にあえてしてもらうみたいな。だけどしっかり歩いてると気持ちよくなる、心地よくなる。その両立を目指して作ったのがこれです。
鈴木さんは、既存のベアフットシューズがトレイルランナーなどマニア向けだったのに対し、NEULOは日々歩く行為に向けた「シティユース」で市場に投入する点に新しさがあると話します。
今までのベアフットってどちらかというとマニア受け、玄人向けな印象を持っていた部分があるんですけど、それを一般開放するみたいなところのチャレンジにもなるのかなというふうには感じてますね。
工作図鑑に没頭した少年時代から京大ラグビー部へ
靴を「解剖」しながら開発する船瀬さんの原点は、少年時代のものづくりにありました。
大阪出身で、父はサラリーマン、母は専業主婦の3人兄弟。公立中学、公立高校を経て、中学では陸上、高校と大学ではラグビーに打ち込みました。
小学校でいうと、今の靴作りと共通するところでいうと、物作りとかは好きだったんで、工作図鑑という本を買って、延々とそこに書いてあるものを作ったりだとか、夏休みの自由研究とかはこだわっていろんなものを作ってた記憶はありますね。
その原点は今の靴作りにもつながっていて、中古の靴をハサミで解剖したり、ソールに穴を開けたり切れ目を入れたりと、工作のような試行錯誤を重ねていると話します。
中学の陸上部では、入部1ヶ月後になぜか先輩が全員辞め、出席日数が一番多かった船瀬さんが1年生5月にして部長になったという少しゆるいエピソードも語られました。
高校からはラグビーに転向。体格には恵まれなかったものの、創意工夫で戦える面白さにハマり、大学まで続けたといいます。
タックルって体重も大事だけど、スピードも大事。掛け算になります。そのスピードって足が速いかというよりも、相手が来る時に一瞬バッと踏み込めるかなので、その時の勇気であったり、思考であったり、どこにポジショニングしてるか。誰でも超足が速くなくても、そこの工夫でなんとでも改善できるので、そういう工夫が楽しかったんだろうなっていうのは思いますね。
大学は京都大学工学部の地球工学科に進み、土木を専攻。防災研究所で土砂に関する研究をしていたと話します。
「このままじゃやばい」カナダ留学とコンサルでの葛藤
大学院時代、船瀬さんは「このままでは社会を見ていない」という危機感を抱きます。
特に関西の学生には社会人と接する機会が少ないと感じ、まず海外に出てみようと留学プログラムに応募。1年間カナダの理系の強い大学に通いました。
そこで各国の学生から強い刺激を受けたことが、大きな原体験になったといいます。
一緒に入った授業のグループワークでカナダ人と一緒になって、彼が作ってたレポートの質が、パッと見もう卒業論文じゃないかくらいのクオリティで、一緒に作ったんですけど本当バリュー出せず。これが卒業してせーので社会人一年目で戦った時に、いや、それは勝てんわと思いまして。英語もペラペラでみたいな。
ビジネススキルでも英語でも危機感を覚えた船瀬さんは、グローバルで戦いたいという思いを強くし、1社目としてマッキンゼーに入社。約4年間、製造業や大企業のプロジェクトに従事しました。
しかし、提言や資料は作るものの、実際に意思決定するのはクライアントだというもどかしさを感じるようになります。
何か言ってるけど、自分はそんな経験もしてないのに大丈夫なのかなみたいなのは少し感じるところがありまして、意思決定の打席に立ちたいと感じるようになりました。打席に回数立とうと思ったらスタートアップなのかなって。
DeNA共同創業者のもとへ、東南アジアの現場での5年
2014年当時、コンサルからスタートアップへの転身はまだ多くありませんでしたが、船瀬さんは面白そうなファウンダーとの出会いをきっかけに一歩を踏み出します。
創業者はマッキンゼーの大先輩でDeNAを共同創業した人物で、イギリスで教育サービスを立ち上げ、ヨーロッパや日本のエンジニアが集まる不思議な会社だったといいます。
日本で半年、フィリピンで10ヶ月ほど事業をした後、リクルートに買収され、マーケットの大きいインドネシアに日本人2人で乗り込み、事業を立ち上げていきました。
この時期にインドネシアで出会ったのが、当時からジャカルタで活動していた鈴木さんでした。鈴木さんは、当時の海外は大企業や商社の駐在がほとんどで、スタートアップやメガベンチャー出身者は少なかったと振り返ります。
ほとんどが大企業や商社、金融機関、製造業で、いわゆる我々のようなスタートアップとか、前職サイバーエージェントなので、そういったメガベンチャーが海外に来ているのはほとんどいなかった時代なので、その領域で戦ってる日本人はそもそも少なかったので、自然と仲良くなりやすかったっていうのはあるかなと思いますね。
船瀬さんはインドネシアに丸5年ほど滞在。その間、Grabやゴジェック(GoTo)といった企業が兆円規模へと急成長する時期を目の当たりにしました。
一年後になると数千人でとかになってるわけですよね。アプリ内のサービスラインナップもボコボコ増えてはまた減ってみたいなのをどんどん繰り返してて、もうその変化のスピードに圧倒されながら、いやこれなかなかこんな変化が起こるのかなと。
その後、コロナで再入国が難しくなり退職。日本のスタートアップ2社(うち1社はジョシス)でBizDevなどを経験しつつも、いつか自分でやりたいという思いを持ち続けていたと話します。
4〜5年の紆余曲折の末、潜在意識にあった"靴"へ
起業を意識し始めた船瀬さんですが、最初から靴をやろうとしていたわけではありませんでした。
鈴木さんとは定期的に事業アイデアを壁打ちしていましたが、リサーチと議論を重ねるたびに「このアイデアは違う」となる、その繰り返しだったといいます。
色々と議論はして、リサーチをして深めていって、議論をしてってやると、いやでもこの事業アイデアって違うなみたいな話になって。定期的にディスカッションを重ねていく中で、突然靴をやりたいっていう話が来て。おお、そうか。みたいな。
靴の前にも何個ものアイデアを説明していたため、鈴木さんも当初は「また来たか」くらいの受け止めだったといいます。しかし、いつも以上の熱量を感じたことが転機になりました。
なぜ靴にたどり着いたのか。船瀬さんは、潜在意識に蓋をしていたものを取り除いた感覚だと表現します。
なんとなく潜在意識的には靴作りたいなと多分あったと思うんですけど、ずっとスタートアップやってたんで、スタートアップイコールテックじゃないといけないみたいな先入観はあったかもしれない。潜在意識が勝手に蓋をしてたところをちょっと取り除いていったら、ようやくたどり着いたみたいな感覚ですね。
鈴木さんは、正解を押し付けるのではなく、船瀬さん自身が気づけるような問いを投げ続けたといいます。
タカさんそういうのうまくて、「いや、それ違うでしょ」とか「それ本当にあんの?」みたいな言い方はせずに、気づかせられるような問いかけを投げて、自分の中でも言われてみて、「でも確かに本当にこれやんのかな」とか、気づかされるきっかけはもらいましたね。
鈴木さんが最も重視するのは、ファウンダーの熱量です。投資を受ければ5年、10年と簡単には辞められないからこそ、そのドメインへの執着や好奇心が問われると話します。
中古靴をハサミで解剖、良い工場をこじ開けた泥臭さ
好きから始まった靴が、なぜVCから調達するビジネスになり得るのか。船瀬さんはまず市場の大きさを挙げます。
靴市場はグローバルで約70兆円とされ、年間6%ほどで成長を続けているといいます。レッドオーシャンではあるものの、だからこそ埋まりきっていないニーズにチャンスがあると船瀬さんは考えています。
参入障壁を乗り越える方法は、極めて地味で泥臭いものでした。船瀬さんは、インドネシア時代に営業拠点を10ヶ所構えて学校訪問をしたり、海外パートナーにコールドコールしたりといったドアノックを重ねてきたタイプだといいます。
鈴木さんは、靴づくりの難しさを具体的に説明します。ナイキやアディダスのようなブランドは自社工場ではなくパートナー工場で作ることが多く、良い工場はすでに強いブランドに押さえられているといいます。
靴って結構やっぱ難しいんですよね。服以上に難しい。いい工場で作れないといいクオリティの靴にならないんですよ。でもそういったいい工場は世界の強いブランドがパートナーですでに抑えてしまってるんですよ、ラインを。趣味的にやるようなスタートだと一切相手にしてもらえない。
そこで船瀬さんは、工場に凸って会いまくり、解像度を上げていきました。良い工場と組むには一定の資金量と生産計画を見せる必要があると分かり、エクイティで調達する方針が固まっていきます。
Onのように、ここ10〜15年で生まれた新興ブランドが数兆円規模に成長した事例があることも、二人の背中を押したといいます。
百パーセント確証はないんですけど、やってみる価値はあるんだと。難しいっていう話も、やり続けてたらどっかでは作れる。一年以内に絶対作れるかはわからないけど、時間軸は多少ずれるかもしれないけど、やり続ければどっかでたどり着ける系のものが多いんじゃないかなって思ったっていうのはありますね。
開発は、デザイナーや足型職人、さらに大手スポーツシューズメーカー出身の開発者などの協力を得て進んでいます。つま先が広い特殊な形状は、船瀬さん自ら加工することもあったといいます。
スーツにリュックの次は靴、日本の信頼を武器に世界へ
NEULOのエッジはどこにあるのか。船瀬さんは、履く体験そのものを重視すると話します。
履く体験がすごい大事だと思ってまして、履き心地って履いてみないとわかんない。口では言ってるけど多分伝わってない。最初のモデルを出す日から店舗をオープンする予定でして、実際に試していただく機会は実現したいなと。お客様の体験、足に向き合うブランドとしてやり続けたいと思ってます。
店舗はEコマースの前段にある、体験のハブでありラボになると位置づけています。初期ターゲットは、ベアフットを履いたことはないが興味がある人や、健康意識・身体感度の高い人だといいます。
鈴木さんは、都心のビジネスパーソンにも市場があると見ています。かつてスーツにリュックを背負う文化がなかったのが今や当たり前になったように、同じ変化が靴でも起こると考えているのです。
スーツにアタッシュケースやハンドバッグが当たり前だった時代
ジャケットにリュック(バックパック)が当たり前になった現在、次は靴に同じ変化が来ると想定
いつからかジャケットにリュックを背負うっていうのが今は当たり前になってるじゃないですか。この流れは多分靴にもなると思ってるんですよ。そこの靴がまだ革靴だったり、パフォーマンスを解き放つって意味では良くはない靴を履いてるところを、シティユースでやると、すごく市場としては大きくなるんじゃないかな。
おいなりさん自身も、シティユースで使える運動靴を探してOnとオールバーズの二択で迷った経験を明かします。船瀬さんは、この2つは作りが全く違うのに用途やブランディングでは近い位置にいることに気づかされたと反応しました。
Onはランニングシューズのような形が多くて、オールバーズは非常にフラットなのにウールをつけただけで、作りからいうとこんなに違うのに、用途やブランディングでは近いところにいる。やっぱり見せ方次第なんだなと。今言えるのはこの形には自信があるので、もう履いてもらいたい。
最後に鈴木さんは、日本ブランドへの信頼を武器にグローバルへ挑む意義を語りました。家電量販店で日本ブランドの売り場が手前から奥へと移っていった現実に触れつつ、先人が積み上げた信頼はまだ日本の強みだと話します。
古くは日本のブランドへの信頼っていうのが、先人の方々が今まですごく積み上げてきてくれたものが日本の武器だと思ってるんですよ。アシックスさんが先陣を切って、ミズノさんがいてとか、多くの先人の方々が世界的に信頼を積み重ねていただいてるところがあるので、そこをスタートアップ的にレバレッジかけながら、しっかりとグローバルにチャレンジできる、そんな大きな挑戦を今まさにやろうとしてる。
NEULOは絶賛採用中で、マーケティングやコミュニティづくりなど幅広いポジションを募集しているといいます。体を動かすのが好き、シューズが好きという人も気軽に連絡してほしいと呼びかけました。
まとめ
AI時代に人間の身体性を解放するという思想から出発したNEULO。テック起業の先入観を捨て、4〜5年の紆余曲折を経て潜在意識にあった靴へたどり着いた船瀬さんと、その熱量に賭けた鈴木さんの対話からは、好奇心と泥臭さ、そして日本の信頼を武器に世界へ挑む姿勢が見えてきました。
- NEULOは「シューズだけを作る会社」ではなく、AI時代に身体性を解放する思想を打ち出すブランドを目指している
- NEULOは足指を使わせる「サボらせない」設計と、都会でも歩きやすい仕様を両立させたシティユースのフットギアを開発している
- 船瀬さんは工作図鑑に没頭した少年時代からものづくりが好きで、その原点が中古靴を解剖する現在の開発にもつながっている
- 鈴木さんが最も重視するのはファウンダーの熱量で、事業への強い好奇心や執着がなければ長くは続かないと考えている
- 良い靴工場は強いブランドに押さえられており、参入には資金と生産計画が不可欠。日本ブランドへの信頼を武器にグローバル70兆円市場へ挑む
