暑い国のはずが「意外と寒い」サウジアラビア
この回は、保呂田さんがブランディングの仕事でサウジアラビアに到着した直後の現地から接続して収録された番外編です。
開口一番、保呂田さんは「結構寒い」と口にします。暑い国というイメージとは裏腹に、体感は東京の秋ごろの寒さだといいます。
めっちゃ寒いんですけど。
暑い国だけど、一ヶ月前まで(サウジに)来ていた他の日本人の人から聞くと、ダウン着てましたよって言ってたくらい。
空港からすぐの場所にモスクが見えるなど、日本とはまったく違う景色のなかからレポートは始まります。
三十数年ぶりの映画館。ビジョン2030で変わる国
保呂田さんは、サウジアラビアが今「大変革」の只中にあると話します。もともと宗教が非常に厳しく、女性は目以外を隠すヒジャブ ── イスラム圏で女性が頭髪や体を覆うために身につける布のこと。地域や宗派によって覆う範囲や呼び方が異なる。を身につける必要があったといいます。
その規制が少しずつ緩くなり、なんと三十数年ぶりに映画館ができたと保呂田さんは驚きを伝えます。以前はコンサートもなかったといいます。
(女性は)ヒジャブ、目を全部、目以外は隠さないといけない。髪の毛もね。っていう感じだったのが少し緩くなって。
背景にあるのが、2030年をゴールに据えた国家プロジェクトです。巨大な施設を作り、エンターテインメントを厚くしていこうという動きが進行しています。
人口の6割が自国民。中東でも「国ごとに性格が違う」
片山さんが事前に調べた基本情報も交えて、国の輪郭が語られます。サウジアラビアの人口は約3600万人で、うち6割がサウジ国民、4割が外国人だといいます。
保呂田さんによると、この自国民6割という割合は中東では多いほうです。他の中東の国は自国民の割合がずっと少ないのが特徴だといいます。
他の中東の国は、例えば王族とかVVIPみたいな人以外全員外国人みたいな。ものすごい自国民割合が少ないのが他の中東の国の特徴っていうふうに聞いてます。
さらに保呂田さんは、日本人が韓国人や中国人の性格の違いをなんとなく感じ取るように、中東諸国にも国ごとの「性格」があると話します。
(中東でも)「レバノン人の言うこと聞いちゃダメだよ」とか(言われる)。
そのうえで、中東で仕事をするときは現地をよく知る人に聞きながら進めてほしい、というアドバイスを付け加えます。特に多いのが、ロイヤルファミリーとのつながりを騙る詐欺だといいます。
「俺はロイヤルファミリーの誰々を知っているよ」っていう詐欺はめちゃくちゃ多い。
今回はロイヤルファミリーの一つと一緒に仕事をするため、その点は問題ないと保呂田さんは話します。
急成長する経済と、リヤドという巨大都市
片山さんは、経済面のデータも紹介します。サウジアラビアのGDPは1.24兆ドル、2026年の成長率は4.6%と予測され、世界平均の3.1%を上回る急成長が見込まれているといいます。
一人当たりGDPは3万5100ドルで、これは日本とほぼ同水準です。首都リヤドの人口は800万人で、片山さんは「大阪府とほぼ同じ規模」と例えます。
ここで話題は、先ほど触れたビジョン2030に戻ります。2016年に発表された構想で、石油依存から脱却し、観光・製造業・物流へ軸足を移していく狙いがあります。年間1億人の観光客を目指すといいます。
保呂田さんは、メッカのある方角にあたる紅海沿いに巨大なリゾート計画が立ち上がっていると話します。そこに日本の食材や高級レストランが入り始めることで、2030年まで需要が伸びていくといいます。
片山さんの手元のデータでも、高級ホスピタリティ産業が爆発的に成長中で、富裕層の消費拡大とともに高級食材マーケットが急成長している、という点が裏づけられます。
やっぱりショッピングモールとか、そういったところもものすごくて、高級なものがすごく多い。
チャンスであり課題でもある「ハラール」の壁
ここから話は、日本の食材、とりわけ和牛の輸出へと移ります。片山さんは、豚肉やアルコール、血液などを禁じるハラールの前提を挙げ、「牛肉はいいのか」と問いかけます。
保呂田さんは、日本国内にもイスラムの作法に厳格に則って屠畜 ── 食用のために家畜を処理すること。イスラム教では作法に則って処理されたものだけがハラールとして認められる。をしている場所が存在すると答えます。ただし全体からするとごくわずかな割合だといいます。
そうした施設が、国内のイスラム教徒のインバウンド対応や、海外へのハラール輸出を支えていると保呂田さんは説明します。
高級食材の需要が高まる今、日本の産業にとってチャンスかという問いに、保呂田さんはチャンスであると同時に足かせもあると答えます。宗教的に認められた食材でなければ輸入してもらえないためです。
さらに難しいのは、ハラールの「厳しさ」が国によって変わる点です。イスラム圏なら一律という単純な話ではないといいます。
(ハラールの厳しさは)これも国によって厳しさが変わってきたりするんですよ。
「勢いのある政治」を肌で感じる目まぐるしい発展
保呂田さんにとって今回のサウジ訪問は複数回目で、来るたびに国が発展していると話します。前回工事していた場所が完成していることも珍しくないといいます。
目まぐるしい発展ってこういうことなんだなって。勢いがある政治ってこういう感じなんだなっていうのをちょっとひしひしと感じますわ。
もともとサウジアラビアは石油が豊富で、決して貧しい国ではなく、イスラム圏でリーダーシップを取ってきた国だと保呂田さんは補足します。
一方で、飛行機の上から見ると一面の砂漠だといいます。片山さんが「ドラクエみたいな感じ」と例えると、保呂田さんは「マイクラみたい」と返し、砂漠に都市が築かれていく様子を伝えます。
保呂田さんは、砂や土の色に対する現地の美意識にも触れます。ハワイの海の青を美しいと感じるように、こちらでは黄土色の大地を母なる大地として美しく感じる文化もあるといいます。
偶像はNG、幾何学模様はOK。現地に合わせるブランディングの作法
今回はブランディングの観点で訪れているため、現地の人から日本の商品に対する要望を聞くと、日本国内では生まれにくいアイデアに出会うと保呂田さんは話します。
具体例として挙げたのが商品パッケージです。象徴的な偶像は入れられない一方で、幾何学模様は問題ないと現地で確認できたといいます。
こういうのはいいんですか?って聞いたら、幾何学模様はいいらしいんですよ。
保呂田さんは、現地で美しいとされる色やパターンを組み合わせつつ、日本らしさをアピールできるものをつなぎ合わせることで、現地文化に合わせたブランディングを突き詰められると説明します。
片山さんが「幾何学模様ベースで日本のデザインを融合させるなんて誰がやるのか」と難しさを口にすると、保呂田さんは日本にも江戸時代からの伝統的な文様があると返します。
(日本にも)ああいう伝統的な文様みたいなものっていうのは、これまた良かったりするんで、さらに日本らしさもアピールできたりとか。
現地の美意識と日本の伝統文様は、どちらも歴史が長いからこそ噛み合う。現地に合わせすぎず、日本を押し付けすぎないその間の設計が肝になるという発想がここで示されます。
「和牛はビーフじゃない」——別カテゴリー化する価値
片山さんは、世界の和牛市場が2025年の269億ドルから2032年にはほぼ倍の427億ドルになるという予測を紹介します。数字だけ見ると順調に見えるこの話に、保呂田さんは慎重な反応を見せます。
そういうこと言わないでください。頭痛くなるから。
保呂田さんによれば、輸出再開から10年ほどの間、業界の目標はオールジャパンで実際に達成されてきました。一方で今ある目標は希望的観測に近い部分があり、個人としては精度をコミットしづらいと率直に語ります。
初期は前年実績がないため成長率が大きく出やすく、新規開拓で伸ばせた時期でした。しかしここからは事情が変わると保呂田さんは説明します。
和牛の値段についても話が広がります。片山さんの手元のデータでは、日本産和牛が高価格帯にあり、オーストラリア産和牛はその約3分の1、アンガスは約5分の1、ブラジル産は約15分の1とされていました。
保呂田さんは、その数値の正確性は置くとしつつも、日本の和牛が最も高い位置にあり、他国産や交雑牛へと価格が下がっていく構図自体は事実だと補足します。
そのうえで保呂田さんは、和牛を単なる牛肉として比較すること自体を問い直します。
海外では硬めの牛肉に慣れた人ほど、和牛を「同じビーフではない」「別の生き物だ」と受け止めることがあるといいます。この感覚を象徴する出来事として、世界のステーキ決定戦の話が語られます。
日本の和牛が何年か勝ったその翌年に、もうステーキの部門に日本の和牛出るの禁止になりまして。(代わりに)和牛ステーキの部門ができちゃったぐらい。
保呂田さんは、スポーツで日本が勝ちすぎるとルールが変わるのと同じだと例えます。和牛はビーフの一種ではなく、独立したカテゴリーとして扱われ始めている、というのがこの話の核心です。
血が苦手な文化と「スライスして焼く」工夫
話題は、サウジアラビアでの和牛の食べられ方に移ります。保呂田さんは、サウジアラビアが非常にビーフをよく食べる国だと紹介します。
(サウジは)めっちゃビーフ食べる。
保呂田さんによれば、アメリカンサイズのステーキハウスがレストランの数で言えば日本より多いほどで、アメリカ系のチェーンも数多く進出しているといいます。
片山さんが調べたところ、サウジアラビアでは肉をしっかり焼く文化があります。保呂田さんはこれをサウジに限らずイスラム教全体に関わる話だと説明します。イスラム教徒は血を口にすることを避けるためです。
インドネシアとかマレーシアでもイスラム教の人たちに(肉を)提供するときには、よく焼き、血が出ないように心がけて焼いたりします。
ただし和牛は焼きすぎると良さが半減してしまいます。そこで保呂田さんは、一口サイズにカットやスライスしてから表面だけを焼き、肉汁を中に閉じ込める工夫を紹介します。
一口サイズにスライスした後に、またちょっと表面を焼いてあげることによって肉汁を中に閉じ込める。
手間はかかるものの、こうした知識の有無が現地での満足度を左右するといいます。
薄切りは「シェアの精神」。食文化はその国の文化と絡み合う
保呂田さんは、日本の薄切り文化にも独自の解釈を加えます。しゃぶしゃぶやすき焼きのように薄く切るのは、少ない素材を家族で分け合うシェアリングの精神から来ているのではないか、という見立てです。
その証拠として、希少なフグは薄く切り、量のあるマグロは厚く切ることを挙げ、希少性によって薄さが変わるのではと想像したことがあると話します。
フグはめっちゃ薄く(刺身とか)切るけど、マグロは分厚く切るとか。この希少性によって薄さって変わってくるのかなって想像したことが一回あった。
この「シェアの精神」という視点は、以前イタリア人シェフと仕事をしたときにも共有されたといいます。
このシェアの精神っていうのがどれぐらいあるかっていうところが、その国において食文化を形成していく上では大事なんだ。
片山さんが「日本にはシェア文化があまりないのでは」と言うと、保呂田さんは、料理を小皿に取り分けて出す時点で、すでに皿単位でシェアしているのだと切り返します。中華の回転テーブルだけがシェアではない、という発想の転換です。
ローカライズと日本らしさの、絶妙なバランス
片山さんが、保呂田さんの仕事は単なるプロモーションではなく、日本の食文化を中東に広げる「文化大使」のようだと評します。保呂田さんは大層なことは言えないとしつつも、実の部分でそうなっていきたいという思いを口にします。
活躍の余地は中東だけではないといいます。保呂田さんは、アメリカでも寿司が当たり前になったのはここ数十年のことで、まだ一緒に作り上げていく余地があると話します。
保呂田さんは、パクチーが苦手だったが、メキシコ料理のシアントロと同じものだと知って食べられるようになった自身の経験も交えます。名前や先入観が食の受け入れを左右する、という具体例です。
最後に、輸出のブランディングで常に意識していることとして、ローカライズのバランスが語られます。
その絶妙なバランスは、現地に行くことで初めてリアルに感じ取れると保呂田さんは話します。今回もイベントやプロモーション活動をしながら、新たな学びを得ている最中だといいます。
番外編はここで区切り、続きは次回の収録で聞くという形でしめくくられます。今回のサウジ滞在は5日以上の予定で、状況次第で他の国が絡む可能性もあるといいます。
まとめ
変革の只中にあるサウジアラビアの現地から、和牛輸出のチャンスと壁、そして現地に合わせるブランディングの作法が語られた番外編でした。数字の裏にある現場の難しさと、食文化を通じたローカライズの奥深さが伝わる回です。
- サウジアラビアはビジョン2030のもとで急速に変わり、映画館解禁や巨大リゾート計画など、高級食材の需要が伸びる土壌が広がっている。
- ハラールはチャンスであると同時に、国ごとに厳しさが変わる「壁」でもあり、和牛輸出にとって課題となっている。
- 世界では和牛が「ビーフとは別のカテゴリー」として扱われ始めており、ステーキ決定戦で和牛部門が独立した例もある。
- 血を避けるイスラム圏では、和牛を一口大にスライスして表面だけ焼き、肉汁を閉じ込める工夫が満足度を左右する。
- 輸出のブランディングでは、現地に合わせすぎず日本を押し付けすぎない、ローカライズの絶妙なバランスが肝になる。





