F1をスポーツではなく「企業の自己証明の舞台」として見る
この回のテーマは、F1(フォーミュラ1)です。ただしレースの勝敗の話ではありません。ポジティブランディングラボとして、F1をF1(フォーミュラ1) ── 四輪モータースポーツの世界最高峰カテゴリー。世界各地を転戦し、各チームが速さを競う。という切り口ではなく、企業のブランディングの視点から見ていきます。
今日はF1をスポーツじゃなくて、企業が自分をどう定義してどう証明するかの舞台として見ていこうかなと。
収録日は2月13日で、まだシーズンは開幕していません。それでもF1好きの片山さんのテンションは高く、保呂田さんと平野さんはやや置いていかれ気味、というところから話が始まります。
なんでそういうふうにそんな言うねん。
やりたいから。
片山さんが着目したのは、自動車メーカーの中でも実際にF1に参戦している会社はごく一部だ、という点です。誰もが知る大手メーカーでも、多くは参戦していません。
トヨタとかフォルクスワーゲン、BMW、日産、マツダってね、誰でも知ってる車メーカーいっぱいあるけれども、ほとんど参加してないじゃないですか。
参戦する会社もあれば撤退する会社もあり、アウディのように今年から新たに参戦する会社もあります。つまり、F1参戦は「参戦できる大きな会社」であることの証明でもなければ、全メーカーがやることでもない、という前提が見えてきます。
これはF1参戦できる会社がやることでもない。大きい会社の証明でもない。
トヨタもかつてはチームとして参戦していましたが、現在はハースというF1チームに技術参画する形で、裏方的に関わっているだけだと説明されます。
売上規模とF1参戦は比例しない
片山さんは、参戦の理由を探る手がかりとして、まず各社の売上規模を並べます。トヨタグループが約48兆円規模、F1に参戦するホンダが約21兆円規模、アストンマーティンは数千億円規模とされます。
ここで意外なのがフェラーリです。ブランドとしては誰もが知る存在ですが、単体の売上規模は約7500億円規模とされ、トヨタやホンダとは桁が違います。
1兆もいってないんだ。
つまり、F1に参戦しているかどうかは、企業の売上規模とは相関していないということです。体力があるから参戦する、という説明は成り立ちません。
だからF1に参加してるって売上と関係ない。相関関係がないんですよね。
年間数百億円のコストと、ホンダの広告費との比較
次に話題はコストへ移ります。F1では2021年からコストキャップ ── チームがシーズンに使える運営費に上限を設ける制度。青天井の開発競争を抑える目的で導入された。という予算上限制度が導入され、経済構造が変わったと説明されます。
この500円の枠内でおやつ買いましょうねみたいな。
チーム運営には年間おおよそ180億〜270億円ほどがかかるとされます。上限が270億円ほどで、下限として180億円ほどをかけないと、勝ち負け以前にチームとして運営が成立しないレベルだと語られます。
さらに、ホンダのようなエンジンサプライヤーは別枠で、年間150億〜200億円規模の投資が必要になるといいます。合わせると、参戦には300億〜450億円規模がかかる計算です。
エンジンとかを提供するだけで、しかも別枠?
この額をホンダの広告費と比べると、年間約2500億円とされる広告費のうち6〜8パーセントほどにあたり、決して小さくない割合だと整理されます。ちなみにトヨタの年間広告費は5000億円ほどとされ、参入しようと思えば余裕でできるはずだ、とも語られます。
それでもトヨタは全面参戦していません。ここから、マーケティング効率だけで考えるとF1にかける意味は説明しづらいのに、それでもやる会社がある、という問いが浮かび上がります。
経営とかマーケティングのことだけ考えるんであれば、そこにかける意味ってあります?みたいなこと言われちゃいそうだよね。
でも裏を返すとF1が必要な会社もある。
F1の使い方①:撤退が自己否定になる「歴史維持型」
片山さんは、F1という舞台の使い方を大きく3つの型に分けて整理します。1つ目が「歴史維持型」、神話を守るためのF1です。ひとことで言えば、撤退がそのまま自己否定になってしまう舞台だと説明されます。
代表例はフェラーリです。彼らにとってF1は広告でも実験場でもなく、F1に参戦していること自体がフェラーリという存在そのものだという捉え方です。
彼らにとってはF1というのは広告でも実験場でもなければ、F1そのものがもうフェラーリっていう感覚。
だからこそ、270億円ほどの投資規模は、売上7500億円ほどの企業にとって決して軽くありません。それでも払い続けるのは、これが広告費ではなく「存在コスト」だからだと語られます。
この文脈で、保呂田さんは片山さんが手がける自社事業を引き合いに出します。ポッドキャスト「ショベリー」からもし撤退したら存在価値がなくなる、という問いかけです。話は冗談まじりながら、番組自体もそういう覚悟で立ち上げたはずだ、という確認に発展します。
プロがやってないで誰がやるっていうところから始まったので、実験室として。
ポッドキャストはおしゃべり界のF1ですよ。
歴史維持型のもう1つの例として、かつて強豪だったウィリアムズも挙げられます。今は成績が振るわなくても、参戦し続けること自体が歴史の証明になっている、という位置づけです。
F1の使い方②:勝って正当性を示す「未来証明型」
2つ目の型は「未来証明型」、技術の覇権を示すためのF1です。勝つことで自社技術の正当性を証明する舞台であり、代表はメルセデスだと説明されます。
メルセデスはこの10年ほど非常に強く、長くチャンピオンを取ってきたことで、世界で最も速い技術を作れる企業であることを示してきた、と整理されます。F1での勝利が市販車の説得力につながり、技術とブランドが直結するわかりやすい型です。
ここで平野さんが「メルセデスよりBMWの方が速かった」と自分の車の体感を持ち出しますが、片山さんは走りの速さではなくブランディングの話だと軌道修正します。市販車にはグレードがあり、比べる車種が違えば話が変わる、と補足されます。
これブランディングの話だから。機能の話じゃない。
未来証明型のもう1つの例が、今年からホンダと組むアストンマーティンです。数千億円規模の企業として身の丈を超えた投資を続けることになりますが、そこには狙いがあると分析されます。
アストンマーティンはどちらかというとレガシーなイメージの車販売メーカーでした。そのイメージを払拭し、未来へ投資できる企業へとブランドを刷新する戦略ではないか、と片山さんは読み解きます。
F1の使い方③:広告枠として測る「効率最適型」
3つ目の型は「効率最適型」、ビジネスとしてのF1です。代表例が、トヨタも技術面で絡むハースというチームです。
ハースの年間予算は約130億円で、これは参戦できるほぼ下限にあたります。フェラーリの270億円ほどと比べると半分ほどで、成績も正直あまり勝てていない、と語られます。それでも参戦する理由がポイントです。
F1に参戦している限り、世界中のレースで企業名が映り続けるんですよ。
つまり年間130億円ほどで、世界中の放送に企業名が出続けられます。広告費として考えれば悪くない、というのが効率最適型の発想です。
ハースはアメリカのチームで、チーム代表を務めるのは日本人技術者の小松礼雄さんだと紹介されます。トヨタと組んでいる点も含め、フェラーリとはF1の使い方・考え方がまったく違うことがわかります。
売上約7500億円で270億円を投じる。撤退はフェラーリでなくなることを意味する存在コスト。
年間約130億円で世界中の放送に企業名を露出。投資対効果で測れる広告枠として参戦。
どの型にも当てはまらないホンダ、続きは次回へ
最後に片山さんは、3つの型のどれにも当てはまらないチームが1つある、と切り出します。それがホンダです。ホンダは神話を守る会社でも、覇権を誇示する会社でも、効率を最優先する会社でもない、と整理されます。
ホンダはどこにも当てはまらへん、実は。
不可解なのは、圧倒的に強かったレッドブルと本格的には今年から別れ、それほど強くないアストンマーティンと組むことになった点です。なぜホンダは「勝ち続ける道」を選ばなかったのか、という問いが残されます。
片山さんはかつて、ホンダがレッドブルと組んだことでレッドブルを好きになったと話していました。そのため、今年はレッドブルを応援しないとも語ります。応援先の変化がドリンクの選択にまで及ぶ、というやり取りから、参戦企業のブランドが消費者の行動に結びつく様子がうかがえます。
モンスターを選ぶ人も、日も増えると思う。
この回は、ホンダの選択の理由を伏せたまま終わります。片山さんいわく、今回はF1という文脈を聞き手にインストールするための予告編で、いちばんおもしろい部分は次回だと位置づけられています。
F1という文脈を我々二人にちょっとインストールしようと、今回の会話。
終盤では、日本ではコアなファンのものに見えるF1が、世界的には大きなステータス性を持つことにも触れられます。鈴鹿の日本グランプリが毎年満員になり、世界のセレブも訪れる例が挙げられ、F1というブランド装置の大きさが確認されます。
ロゴが映るたびに広告費チャリンチャリンって頭の中で数えるようになりそう。
まとめ
F1は速さを競うだけの舞台ではなく、企業が「自分は何者か」をどう証明するかが可視化される場だ、というのがこの回の見立てです。参戦の有無や規模は売上とは比例せず、各社は歴史維持・未来証明・効率最適という異なる目的でF1を使い分けています。
- F1参戦は企業の売上規模とは相関せず、フェラーリは約7500億円規模ながら参戦している
- チーム運営は年間約180億〜270億円、エンジン供給は別枠で約150億〜200億円かかる
- 参戦の目的は「歴史維持型(フェラーリ)」「未来証明型(メルセデス)」「効率最適型(ハース)」の3つに整理できる
- フェラーリにとってF1は広告費ではなく、撤退が自己否定になる「存在コスト」
- どの型にも当てはまらないホンダが、なぜレッドブルと別れアストンマーティンを選んだのかは次回へ持ち越し





