自社の理念、社員は今日それを思い出して働いていますか?
番組冒頭、片山さんはリスナーに1つの問いを投げかけます。ホームページに書いてある理念を、社員は今日それを思い出して仕事しているか、という問いです。
思い出して仕事をしているか。していませんよ。
多くの会社がこの状態だと片山さんは指摘します。その根拠として持ち出したのが、ギャラップの2025年の調査です。
日本で仕事に熱意を持って働いている社員はわずか7%。
さらに片山さんは、社内コミュニケーションに何らかの課題を感じている社員が79%にのぼるデータも挙げます。保呂田さんは自社について、熱意はあるがコミュニケーションが苦手な人が多く、課題を感じている割合はもっと高いかもしれないと返します。
前回はロゴが思想・体験・記憶を経て結晶化するという話をしました。今回はその手前、体験を作るのは誰かというテーマに踏み込みます。
インナーブランディングとは組織の内側を整える経営行為
体験を作るのは会社の社員であり、これがいわゆるインナーブランディングだと片山さんは切り出します。アメリカではインターナルブランディングと呼ばれることもあると補足します。
片山さんはインナーブランディングを「組織のOSを書き換える経営行為」と表現しますが、保呂田さんはこの言い方に引っかかります。
お宅の組織のOS何?Windows。みんな言うよ。
OSという言葉がパソコンを連想させて誤解を招くため、要するに「内部の仕組みを考える」ことだと2人は整理し直します。
ブランディングは大きく2つに分けられます。お客さんや市場に向けたものがアウターブランディングで、社員に向けたものがインナーブランディングです。片山さんは両者を「見せ方」と「あり方」という言葉で対比します。
アウターが見せ方やったとしたら、インナーはあり方。
多くの企業は見せ方にはお金も時間もかけるのに、あり方にはどうかけていいかわからない、という問題を片山さんは提起します。どんなにアプリを入れてもOSが古ければ動かないのと同じで、社員一人ひとりの価値観や判断軸が共有されていなければ理念は動かない、という理屈です。
4つの視点で見るインナーブランディングの正体
片山さんは、インナーブランディングを4つの視点で整理します。1つ目はマーケティングの視点で、フィリップ・コトラーの言葉を引きます。
ブランドに命を与えるのは従業員である。従業員こそ会社そのものであり、自社ブランドの全てである。
顧客接点の全てにおける体験の総和がブランドを作る、つまり広告ではなく人間だ、というのが1つ目の要点です。
2つ目は戦略論の視点です。片山さんは経営学者ミンツバーグの「創発的戦略」を挙げ、変化が激しく計画通りにいかない今の時代には、臨機応変に動ける社員が必要だと説明します。保呂田さんは、それは昔から言われる臨機応変と同じではないかと返し、片山さんも同意します。
3つ目は組織開発の視点です。従来の理念浸透は「理念を教える」行為でしたが、今求められているのは「理念を自分事にする」ことだと片山さんは言います。入社時のオリエンテーションで終わらせず、継続的に意味づけし続ける活動にしないと意味がない、という点を強調します。
知ってるっていうのと生きてるっていう感じとは全然違う。
4つ目は学術的な定義です。インターナルブランディングとは、ブランドプロミス(会社の約束)を実現するために、組織内部でブランドを浸透させ従業員を動機づける一連の活動だと片山さんは紹介します。約束を行動に変えるプロセスだ、とまとめます。
ブランドに命を与えるのは従業員。体験の総和がブランドを作る
計画通りにいかない時代に臨機応変に動ける社員を育てる
理念を教えるのではなく、社員が自分事にする
会社の約束を行動に変え、従業員を動機づける一連の活動
4つに共通するのは、社員が自分で判断するために会社が与えるインフラだという点だと保呂田さんは受け止めます。片山さんは本質を「管理ではなく共感、教育ではなく文化化」と言い換えます。
額縁の社訓と、行動に滲み出る理念のちがい
管理はルールで縛って行動させることで、共感は社員が自ら動きたくなる状態を作ること。教育は知識を与えることで、文化化はそれが当たり前の空気になること。片山さんはこう噛み砕きます。額縁に入った社訓と、毎日の行動に滲み出る理念のちがいだ、と言います。
ここで保呂田さんが自社のエピソードを披露します。電通の「鬼の十則」に着想を得て、自分なりの十則を怖いフォントで作り、会社のトイレに貼ったという話です。
席を立ってる時は踊ってろ、誰かに見られてるぞみたいな。
一番最後ね、心に思ったらすぐ言え。忘れるぞ。
保呂田さんの狙いは、真面目な社訓だろうと思って見上げた人に「あれ、何これ?」と思わせることでした。背景には、業務に集中して黙り込む社員が多いことへの不満があり、もっとワイワイ話してほしいという思いがあると語ります。
月曜日に行きたくないなって思う会社はこの世からなくなればいい。
一方でこの話は、額縁に飾るだけでは意味がないという前段の論点とも重なります。社内コミュニケーションに課題を感じる人が多いという最初のデータとも通じる、良くも悪くもリアルな現場の姿です。
インナーとアウターは両輪ではなく、根と幹と花
インナーとアウターの違いを、片山さんは樹木モデルで説明します。根っこと幹がインナー、花や葉っぱがアウターにあたり、根っこが腐れば花は枯れる、というイメージです。
保呂田さんは、根と幹を合わせて「根幹」であり、まさにインナーブランディングは会社の根幹だと言葉遊びを交えて受けます。片山さんも「インナーやインターナルと言わず、根幹ブランディングでいい」と応じます。
ここで片山さんは、外と内が一致していなかった実例を紹介します。広告で環境に優しい企業と打ち出しながら、社内では紙を大量廃棄していた企業が内部告発を受けたケースです。
根が腐ってて花枯れた。もうそのまんまだね。
SNSで内部のリアルが外に出る時代だからこそ、インナーとアウターの乖離は経営を直撃するリスクだと2人は確認します。だから片山さんは、インナーとアウターは対等な両輪ではなく、インナーがあってこそのアウターだと言い切ります。
この見立ての裏づけとして、片山さんはアメリカのポッドキャスト番組で聞いた、オーストラリアのブランドスペシャリスト、ケビン・フィンさんの言葉を引きます。ブランドは外側の前にまず内側であり、社員こそ最高のアンバサダーだ、という趣旨です。
対象は社員。目的は行動変容と文化形成。手法は研修・制度設計・MVV策定
対象は顧客・市場・社会。目的は認知拡大と共感獲得。手法は広告・PR・SNS・イベント
社内にもキャンペーンを張る、という発想
保呂田さんは、アウターと同じようにインナーも定量的に扱えるのではと発想を広げます。顧客には一生懸命情報を提供するのに、社内には全く提供できていない人が多い、という指摘です。
顧客には一生懸命情報を提供しようとしてるくせに、社内には全く情報を提供できてない人たちっていっぱいいるもんね。
ただし片山さんは、キャンペーンが短期で完結するのに対し、インナーの施策は3年から5年かかると釘を刺します。効果測定の指標としては、従業員が職場を親しい友人にどれくらい勧めたいかを測るeNPSや、離職率、エンゲージメントスコアを挙げます。
顧客がどれくらいロイヤルカスタマーかと同時に、社員がどれくらい会社を愛しているかを測る。それは勇気のいることだと2人は認め合います。
なぜ今、インナーブランディングが再注目されるのか
日本には愛社精神や訓示など、インナーブランディングらしいものが昔からあったと保呂田さんは指摘します。それがなぜ今また注目されるのか、片山さんは2つの理由を挙げます。
1つ目は世代の変化です。Z世代やミレニアル世代は、給料や地位だけでなく、この仕事に意味があるか、この会社の価値観に共感できるかという意味的報酬を重視するといいます。
保呂田さんは、それは昔からそうで「メソポタミアの時代から今時の若い者はと言われていた」と返します。そのうえで、経営者層と働く世代のギャップがあるからこそ、こうした活動が必要になるのだと解釈します。
2つ目は技術の模倣が簡単になったことです。商品やサービスはすぐコピーされ、AIの発展でその傾向は強まります。では差別化できる最後の砦は何かというと、人間だ、というのが片山さんの答えです。
差別化できる最後の砦は人。人間だけは簡単にコピーできません。
一方で保呂田さんは、日本の風土では必要性がまだ誤解されていて、クライアントに勧めても手を挙げるか疑問だと現実的な懸念も口にします。
クイズ形式で解く、インナーブランディング5つの誤解
ここから2人は、インナーブランディングにまつわる5つの誤解を、クイズ形式で整理します。誤解は「手段と目的を混同する系」と「時間軸と責任を間違える系」の2タイプに分かれます。
1つ目の誤解は「インナーブランディングとは社内広報・社内PRのことか」です。社内報や社内イベントは手段にすぎず、正しくは経営戦略を実行するための内部環境の整えだと片山さんは答えます。
2つ目は「MVVを作れば完了か」です。ミッションビジョンバリューの策定は大事でも、それだけでは血の通わない器で、制度化・習慣化・継続的な意味づけが本質だと言います。ギャラップのデータで共感が7%しかない例が、まさにこれです。
インナーブランディング施策の効果が出るのは半年くらいでしょうか?
3つ目の誤解がこれです。片山さんは、効果が出るのは3年から5年で、一発研修で終わりにできると思っている人が多いと指摘します。人の価値観や行動は繰り返しの体験と承認で変わるため、施策ではなく「経営のリズム」のように続けるべきだと語ります。
保呂田さんは、経営リズムという表現を「呼吸や心拍と同じで、止める選択肢がない」と受け止めます。実際に自社の経営発表を続けている同級生の経営者が会社を大きくしている例を挙げ、浸透度と成長には相関があると2人は話します。
4つ目は「会社の価値観を社員に植え付けることか」です。片山さんは、強制は表面的な同調しか生まず、反発や離職につながると言います。正しくは社員を策定プロセスに巻き込む共同創造(コクリエーション)で、「僕たちが作った理念」という当事者意識が自発的な体現を生むと説きます。
5つ目は「人事部の仕事か」です。片山さんは、社長・CEOこそ最大のインナーブランディング担当者であるべきで、人事はあくまで推進事務局だと位置づけます。
社員をゲストに招くポッドキャストという手法
トップが体現者であるべきという話から、保呂田さんは社内へのメッセージ発信にポッドキャストが有用ではないかと提案します。片山さんも、Voicyやポッドキャストでインナーブランディングをやっている事例が最近あると応じます。
ただし社長の一人語りではなく、社員をゲストに招く形が良いと片山さんは言います。入れ替わり立ち替わり社員が登場し、会社をどうしていくべきかを対談する、公開ワンオンワンのようなイメージです。
面と向かっちゃったらさ、圧もあるけどさ、Voicyでさ、社長の話聞かねえか。
JAL、リクルート、スタバに共通する成功のDNA
成功事例について、保呂田さんは経営者が本気かどうかが全てだと言います。そのうえで、JAL、リクルート、スターバックス、ソニー、オムロン、サイバーエージェントといった文化の強い会社に共通するDNAを挙げていきます。
トップが体現者
経営トップが理念を語るだけでなく生きている
社員を共同創造者に
理念を社員に発信せず、社員と一緒に作る
制度・仕組みに落とす
理念を経営リズムになる仕組みにする
仕組み化が大事な理由を片山さんはこう説明します。人は基本的に意志の弱い生き物で、仕組みになっていないと「今日はいいか」となってしまう。だから属人的にせず仕組みに埋め込むのだ、と言います。
具体例として、オムロンの社内表彰制度「TOGA」が挙がります。社員が自ら社会的課題の解決事例を発表するもので、理念の実践が業績と同列で表彰される点が特徴だと片山さんは紹介します。
トップ営業マンと、経理のトップ打ち込み人が、タイピストが一緒に表彰されるみたいな感じ。
これは、理念を知っている状態から、理念に従って判断している状態への橋渡しであり、制度なしには難しいと片山さんは言います。目立たない影の功労者を評価できる仕組みだと2人は評価します。
インナーとアウターを意図的に接続する重要性も語られます。片山さんが引くのはスターバックスの「グリーンエプロンブック」です。歓迎する、心を込めるといった行動規範が書かれた価値観の手帳で、スタッフが日常的に使うといいます。
中小企業が明日からできる、対話と共同創造のステップ
保呂田さんは、大企業の事例はいいとして、中小企業はどうすればいいのかと問います。片山さんはまず、アンケートで組織の体温を測るサーベイを挙げますが、これには勇気がいると認めます。
片山さんの会社では実際にサーベイを取ったところ、「ちゃんと反映してくれているのか」という辛辣な意見も出たといいます。保呂田さんは、それなら逆に「君ならどうコミットする?」と聞き返せばいいと提案します。
次のステップは、社員を巻き込んで理念を再定義することです。社長が一人でMVVを作らず、ワークショップ形式で社員と一緒に作る。みんなで作った言葉だからこそコミットできる、という理屈です。
ここで保呂田さんは、自社の就業規則を社員みんなで作ったエピソードを語ります。その理由がこの回の核心に触れます。
会社を守るのは社長じゃない。みんななんだっていう話をした。
だったらみんなで会社守ろうよって言って、みんなが会社を守るためのルールをみんなで考えてもらったの。
リスクはあるが働く人に優しい就業規則になったと保呂田さんは言います。その根っこには、月曜日に行きたくないと思う会社はなくなればいい、スタバに行きたいと思うように会社に行きたいと思ってもらいたい、という思いがあります。
スタバのお姉さんぐらい優しくしなきゃダメだな。(というほどの接客を会社でも目指したい)
宿題は「あなたはなぜこの会社で働いているの?」
クロージングで片山さんは、リスナーに宿題を1つ出します。社員に「あなたはなぜこの会社で働いているの?」と聞いてみてほしい、というものです。
その答えがあなたの会社のインナーブランディングの現在地です。
スラスラ答えが出てくれば土台があり、詰まったり困惑したりすればそこがスタート地点だと片山さんは言います。今すぐ着手できる宿題だと保呂田さんも太鼓判を押します。
最後に2人は感想を交わします。保呂田さんは、自分が苦手な構造化やシステム化について、片山さんの強みを借りて属人性を排したい語ります。片山さんは、共感できる組織作りと、みんなで前に向かう姿勢がないと成長できないと、自社のインナーブランディングへの決意を述べます。
次回は保呂田さんが主体となり、樹木モデルでいう花にあたるアウターブランディングをテーマに、ブランドを外の世界へどう届けるかを扱う予定です。
まとめ
インナーブランディングは、理念を教え込むことではなく、社員が自分の判断で理念を体現できる状態を作る継続的な経営行為です。根と幹が整ってこそ花が咲くように、内側が整わないままアウターに投資しても、いずれ乖離が表面化します。
- 理念は「知っている」だけでは足りず、日々の判断に「生きている」状態を目指す
- インナーとアウターは対等な両輪ではなく、インナーがあってこそのアウター
- MVVは作って終わりではなく、制度化・習慣化・継続的な意味づけが本質
- 理念は上から植え付けず、社員を巻き込む共同創造で当事者意識を生む
- 最大のインナーブランディング担当者は社長。まず「なぜこの会社で働くのか」を社員に聞くことから始める






