日本で売れても海外で売れない、その悩みをどう解くか
この回のテーマは「海外進出とブランド翻訳」です。日本では売れたのに海外ではさっぱり売れない、という悩みはよく聞かれます。
片山さんは、この回を海外実務の経験がある保呂田さんの「ヒーロー回」と表現しています。価値をどう訳していくか、というブランドの翻訳がテーマです。
(今回は)海外テーマなんで、実際にね、実務でもやってるっていうこともあるので、この海外にどうやって翻訳するのが吉かみたいな話をしていきたいなと思うんですよ。
保呂田さんは、これまで理論を教わってきた立場から、今回は自分が体験・発見してきた事例をもとに話すと切り出します。
保呂田さんはこの回を「成功のレッドブルと失敗のチューハイ」と銘打ち、ブランド翻訳を解きほぐしていくと宣言しました。
レッドブルはもともとタイの疲労回復ドリンクだった
保呂田さんはまず、多くの人がレッドブルを世界的なエナジードリンクの生みの親だと思っている、と話します。片山さんはレッドブルをオーストリアの飲み物だと認識していました。
ところが保呂田さんによると、レッドブルの原型はタイのドリンクです。アメリカのアジア系食品マーケットに、雄牛が2頭戦う絵柄の甘くて炭酸のない缶が置かれていた、と説明します。
そのドリンクは1970年代のタイで作られたものでした。さらにさかのぼると、日本の大正製薬リポビタンが1960年代の商品で、70年代にはすでにタイへ輸出されていた、と保呂田さんは話します。
タイの現地で作られたのがレッドブルの原型で、保呂田さんはその商品名をクラティンディーン(クレッティンデーン)だと説明します。これをオーストリア人の起業家が1980年代に炭酸入りにしました。
その際、薬っぽかったパッケージを金属の缶にし、デザインを一新した、と保呂田さんは話します。片山さんが「オーストラリア」と言い間違えると、保呂田さんは間違えやすいがオーストリアだと確認しました。
疲労回復から「翼を授ける」へ、文脈そのものを翻訳する
ここで保呂田さんは、前回までの「機能価値」の話につなげます。片山さんは、レッドブルの原型が持っていたのは「疲労回復」という機能だと確認しました。
保呂田さんによれば、オーストリア人の起業家は、その疲労回復という機能価値を「情緒価値」に翻訳しました。それが「翼を授ける」というコピーです。
つまり「疲れを癒す飲み物」から「挑戦する自分を後押しする飲み物」へと文脈を変えた、と保呂田さんは説明します。「Red Bull Gives You Wings」という誰でも知るコピーへ昇華させ、世界中で爆発的に売れました。
保呂田さんは、この流れを「日本発の発想がタイで機能として現地化され、オーストリアで文化として翻訳されてから世界に広がった」とまとめます。効能ではなく物語を翻訳したことが世界展開の起点になった、という見立てです。
片山さんは個人的な体感として、F1のレッドブルというチームが好きで、そこから飲み物も好きになったと明かします。ホンダとのタッグや、角田という日本人選手が乗っていることが理由だといいます。
だからめっちゃブランディングされてるなって、実は体感としてあるんですよね。
保呂田さんは、レッドブルがエクストリームスポーツ全般を集中的にスポンサードし、ブランドの軸がぶれないからこそ、その層に響くと補足します。
一方でリポビタンDも「岩を登る」広告を打っているものの、「ファイト一発」でサラリーマンを応援する文脈であり、スポーツとは物語が違う、と2人は整理しました。
缶チューハイは20年前からアメリカ人に愛されていた
保呂田さんは、レッドブルを成功例とした上で、対比として缶チューハイを挙げます。缶チューハイは実はアメリカにも輸出されていて、スーパーに並んでいるのを見たこともある、といいます。
しかし、アメリカでは売れていませんでした。片山さんは、近年のインバウンドで外国人がストロング缶を買って飲んでいるニュースを見て、売れていると思っていた、と反応します。
保呂田さんによれば、これは今に始まった話ではありません。20年前に日本へ来たアメリカ人の若者たちは、すでに缶チューハイに出会い、「チューハイ」と呼んで愛飲していた、といいます。
昔からアメリカ人とか海外から来た人たちは、日本で缶で飲める清涼飲料水のようなアルコール飲料をとても魅力的に感じていた。
保呂田さんは「絶対に合うはずだ」と話します。口当たりはエナジードリンクのような清涼飲料水なのに、アルコールで酔える、という点を理由に挙げました。
ジーマもあるのに、なぜアメリカで缶チューハイは根づかなかったのか
片山さんは、外国人にはハードリカーを炭酸で割る飲み方やクラフトビール好きのイメージがあり、缶チューハイという認識はなかった、と述べます。
これに対し保呂田さんは、アメリカにも昔からジーマやスミノフといった商品群があったと指摘します。ただしそれらはビールのカウンターパンチであり、ビールを飲み続けたくない人や女性が選ぶものだった、と整理しました。
土台としてジーマのような飲料が人気だったのに、日本から輸出された缶チューハイは現地でまったく受け入れられませんでした。片山さんは「売れそうなのに、なぜ」と繰り返します。
保呂田さんの答えは、売り場にありました。缶チューハイは主にアジア系の食品コーナーで売られていた、というのです。
レッドブルのタイから来たあの雄牛が戦っている缶がそっと置かれていたように、(缶チューハイも)一部のアジアンスーパーマーケットとかでしか売れなかった。
ハードセルツァーという「別の物語」に市場を持っていかれた
保呂田さんは、近年アメリカで「ハードセルツァー」という缶入りの清涼飲料水のようなアルコール飲料が爆発的にヒットしていると紹介します。
機能で見れば清涼飲料水にアルコールが入ったものですが、情緒的価値がまったく違う、と保呂田さんは説明します。白っぽい洗練された缶のデザインで、新しい飲料としてアメリカ国内でマーケティングされ、大ヒットしました。
日本人からすれば「20年前から愛飲されていた缶チューハイのパクリ」に見えます。しかし現地の人々は、それを別物だと捉えている、と保呂田さんは言います。
いや、これはチューハイじゃないよ。(ハードセルツァーは)ジーマとかスミノフとかのコンテキストの上に成り立ってるんだよ。
中身の成り立ちも違います。日本のチューハイは基本的にスピリッツ(蒸留酒)で作られるのに対し、ハードセルツァーは醸造系だ、と保呂田さんは説明します。
ただし、売り方としては日本のチューハイを模したとしか言いようがない、とも指摘します。ここで保呂田さんは、日本の大手飲料メーカーは何をしていたのか、と問いを投げかけました。
日本から持っていった様々な大手飲料メーカーさん、何やってたんですかって。
保呂田さんは、アメリカに持っていくなら現地の文脈に合わせてブランディングすべきだった、と話します。売れる要素を現地の人々に再開発されてしまえば、儲かるのは現地側になる、というのが危機感です。
スピリッツ(蒸留酒)ベース。アメリカではアジア系食品コーナーに置かれ、ブランドとして翻訳されないまま卸された
醸造系。洗練された白い缶で「昼間に気軽に飲める爽やかなアルコール」として現地で再設計され大ヒット
度数の問題ではない、缶チューハイの5%と現地の文脈
片山さんは、日本のチューハイは「強さ・早く酔う・安い」という文脈で伝えられ、アメリカでは不健康や危険という連想につながったのでは、と推測します。
これに対し保呂田さんは、缶チューハイの時代のアルコール度数は5%だったと訂正します。度数が強すぎたから売れなかった、という理解は違う、というわけです。
保呂田さんは、近年のストロング缶や9%の商品については別だと補足します。500ミリリットルにテキーラ換算で4杯分のショットが含まれる計算になり、日本でも警鐘を鳴らした方がいいほど強い酒だ、と話しました。
一方で、アメリカ人が日本に来ても、ストロング缶を選ぶか通常の5%を選ぶかの選択肢はちゃんとある、と保呂田さんは言います。つまり問題は度数ではなく、現地の文脈を捉えられなかったことにある、という結論です。
ハードセルツァーはどう伝わっているのか、昼から飲める爽やかさ
片山さんは、ハードセルツァーが現地でどう伝わっているのかを尋ねます。保呂田さんは「気軽に飲める昼間のアルコール飲料」「爽やか」と表現しました。
夜のイメージではなく、日中でも清涼感を楽しむためのドリンクだ、と保呂田さんは説明します。アルコールは5%ほどしっかり入っているものの、レッドブルのような気軽さで飲むイメージだといいます。
保呂田さんは、缶チューハイが「お酒として翻訳して持っていったのか、ブランド関係なく商品として卸しただけなのか」と疑問視される伝わり方だった、と振り返ります。
片山さんは、日本ではハードセルツァーが流行っておらず、日本に住む日本人には感覚として理解しづらい、と率直に述べます。保呂田さんは、いずれ日本にも輸入として入ってくるかもしれない、と応じました。
レッドブルは日本上陸時、成分まで変えて棚を取りに来ていた
片山さんは、ハードセルツァーが日本にローカライズされる時は別の翻訳が必要かもしれない、と問いかけます。保呂田さんは、レッドブルの日本上陸を例に挙げました。
日本上陸時、レッドブルはロックスターを一緒に連れてきた、と保呂田さんは話します。日本では「棚割」をいかに獲得するかが勝負だったからです。
さらに保呂田さんは、レッドブルはアメリカと日本で栄養成分が違うと明かします。アメリカのレッドブルをそのまま日本に持ってくると医薬部外品になってしまうため、成分を変えている、というのです。
清涼飲料水コーナーやコンビニに置いてもらうために、成分まで変えて持ってきた、と保呂田さんは説明します。片山さんは「それは知らなかった」と驚きました。
保呂田さんは、レッドブルが日本市場をリサーチした上で、ロックスターやモンスターエナジーといったライバル社をあえて一緒に連れてきて、棚をドンと確保したと語ります。
(レッドブルは)ちゃんと戦略があって、ちゃんと奪いに来てる。
保呂田さんは、日本がそこまでやられたように、日本側も現地の文脈を考えて海外に出ていくべきだと締めくくります。
機能より文脈、連想構造、体験——ブランド翻訳の3原則
保呂田さんに問われた片山さんは、ブランド翻訳をフレームワークとして3原則に整理します。
1つ目は「機能より文脈を訳す」ことです。何ができる商品かではなく、どんな気分を作る商品かを定義していく、というステップです。まさに「翼を授ける」がその例だと2人は確認します。
2つ目は「現地での連想構造を調べて実践する」ことです。ハードセルツァーであれば、不健康な連想ではなく、自由やヘルシーといった軽やかなイメージを連想として仕込んでいく、と片山さんは説明します。
3つ目は「コピーより体験を翻訳する」ことです。パッケージ、売り場、写真、コラボなど、体感を一貫させるというステップに、保呂田さんも強く共感しました。
自分の商品に当てはめる、3つの問いのミニワーク
片山さんは、リスナーが自分の商品やサービスに当てはめて考えられるよう、3ステップのミニワークを提案します。
1つ目の問いは、あなたの商品やサービスの理想の利用シーンはどんなところか、です。2つ目は、現地や他の市場で誤解されそうな連想はあるか、です。
3つ目は、それを望ましい文脈に変えるとしたら、どんな言葉や体験に置き換えるか、です。片山さんは、この3ステップを続ければ脳のトレーニングになると話します。
保呂田さんは「いい筋トレだ」と応じ、和牛だったらどうか、と考えながら聞いていたと明かします。この切り口は普段の経営やマーケティングではなかなか持てないので、ヒントになればいい、と締めくくりました。
伝えるではなく伝わる、文脈がブランドの未来を決める
片山さんは、この回の結論はとてもシンプルだとまとめます。伝えるのではなく、伝わる文脈をどう訳すか、という一点です。
保呂田さんは、レッドブルは「疲れを癒す」を「挑戦を後押しする」へと文脈自体を翻訳して変えた、と振り返ります。
一方でチューハイは日本のまま打ち出され、ハードセルツァーの軽やかさと現地らしさに負けてしまった、と対比しました。
最後に2人は、感想はXで「#ポジティブブランディングラボ」をつけて投稿するか、概要欄のフォームから送ってほしいと案内します。次回は「ブランディングは過剰に期待されている」という、これまでと真逆の話をする予定だと予告しました。
まとめ
レッドブルの成功と缶チューハイの失敗を対比すると、海外で勝つブランドは機能ではなく「文脈」を翻訳していたことが見えてきます。伝えるのではなく伝わる文脈をどう設計するかが、ブランドの未来を左右します。
- レッドブルはタイ発の疲労回復ドリンクを「翼を授ける」という物語に翻訳し、世界に広がった
- 缶チューハイは20年前からアメリカ人に愛されていたが、文脈が翻訳されずアジア系食品コーナーに置かれ、売れなかった
- 現地はその要素を「ハードセルツァー」として再設計し、昼から飲める爽やかな飲料として大ヒットさせた
- ブランド翻訳の3原則は「機能より文脈」「連想構造」「体験」を訳すこと
- レッドブルは日本上陸時に成分まで変え、ライバルごと連れてきて棚を確保する戦略で市場を取りに来ていた





