ブランディングの誤解という一冊が心をわしづかみにした理由
この回は、これまで番組で話してきたブランディングの話を「ひっくり返す」ところから始まります。きっかけは、片山さんが読んだ西口一希さんの著書『ブランディングの誤解』でした。
片山さんの心をつかんだのは、本の冒頭にある一文でした。ブランディングの定義が曖昧なまま、過剰な期待と無駄な投資が続いているという指摘です。
2024年の今でもブランドとは何か、ブランディングとは何かが曖昧で、過剰期待や無駄な投資が続いている、って書いてあるんよ。
耳が痛いですね、それはね。しかもこの辺(心当たり)あるやつだよ、きっと皆さん。
片山さんは番組のエピソード0でも、ブランディングは定義が曖昧で自分も混乱していると話していました。だからこそ、その誤解を解きほぐす本書の内容を共有していきます。
誤解その1、ブランディングは見た目がかっこいいこと
本書が挙げる1つ目の誤解は、ブランディングを「見た目がかっこいいこと」だと思ってしまうことです。ロゴやトンマナ、世界観、SNSの統一感は大事ですが、それだけでブランドが成立すると考える人が多すぎる、という指摘です。
言ってみれば、デザイン会社に頼んで、はい、綺麗に作りましたよ、ブランド完成みたいな。
一方で保呂田さんは、見た目を整えることが完全に悪いわけではないとも補足します。見た目すら整えず現場に営業だけさせる会社もあり、大事なのは中身を見ているかどうかだといいます。
片山さんは、そもそもブランディングには2つの前提が必要だと整理します。買う理由である便益と、他を買わない理由である独自性です。
器ピカピカでも、まずいスープっていうのが一番アカンっていう話をしてますと。
誤解その2、ブランディングは売るための魔法
2つ目の誤解は、ブランディングを「売るための魔法」だと思われすぎていることです。片山さんは、魔法だと思っている人は多いのではないかと話します。
保呂田さんは、ブランディングは売るための魔法ではなく、思い出してもらうための仕組みだと言い換えます。商品が良いから買われるのであって、ブランディングはその良さを忘れられないようにする活動だという整理です。
商品がいいから買われるんであって、ブランディングっていうのは、そのいいものを忘れられへんようにする活動なんですよ。
片山さんは、これを「財布の中のお金を動かす」のではなく「頭の中の記憶を働かせる」ことだと受け止めます。ブランディングが作用するのは記憶の側だ、という視点です。
誤解その3、ブランディングは資産形成という目的化
3つ目の誤解は、ブランディングを「資産形成そのもの」だと考えてしまうことです。ブランディングをすれば無形資産が積み上がる、という論はよく語られます。
保呂田さんによれば、資産を積み上げるためにブランディングをすると考える会社は少なくありません。ただし西口さんは、ブランド自体が資産であることは事実でも、資産はあくまで結果だと述べているといいます。
片山さんは、多くの人が「資産」という言葉に寄っていくけれど、本当に大事なのはお客さんの記憶の中にある便益と独自性だと強調します。出発点として物が良くなければ、すべてが無駄になるという整理です。
だからやっぱり出発点としては物が良くないと全部無駄っていう、ことなんすよ。
保呂田さんは、これは当たり前のことだと受けつつ、その当たり前にフォーカスできていなければ、手法としてブランディングをかけても意味がないと補足します。
記憶の中に便益と独自性を焼き付けるという本質
ここで片山さんは、参考書籍が示すブランディングの本質を紹介します。西口さんの答えはシンプルで、記憶の中に便益と独自性を焼き付けることだといいます。
便益は買う理由、独自性は他を買わない理由です。この2つが記憶の中でセットになったとき、他が見えなくなる。それが究極にブランディングされた状態だと説明されます。
片山さんは、ここであえて「差別化」という言葉を使わない点に注目します。英語のdifferentiationは日本語では差別化と訳されますが、本来は独自化だという指摘です。
(差別化は)競合よりちょっと上、って理解されがちですけど、そうじゃなくて、比較されへんくらいちゃう?っていうのが本当のところ。
保呂田さんは、これをスターバックスの「第三の場所」という打ち出しにたとえます。片山さんも、それはユニークネスを一滴まで落とし込んだ例だと応じます。
競合と比べて「ちょっと上」を目指す考え方。比較の土俵に乗り続ける
比較されないほど固有の存在を目指す考え方。第三の場所のように土俵そのものをずらす
そして片山さんは、便益と独自性を記憶に焼き付けるための記号化がブランディングだと整理します。ロゴや色、トーンは、すべて記憶のためのタグだという捉え方です。
味のないおしゃれなレストランと、遊び人のたとえ
片山さんは、味の議論なしに器だけを語るのは本末転倒だと話します。ここから、具体的なレストランの体験談に話が広がります。
片山さんは、盛り付けも店内もおしゃれなのに、味は普通で接客が最悪という店に行ったことがあるといいます。列ができるほど人気でも、二回目は行かないという実感です。
めっちゃおしゃれで、盛り付けもおしゃれやけども、味はまあまあ普通で、接客最悪みたいなね。
保呂田さんは、これを過去回で話したマーケティングとブランディングの関係に重ねます。おしゃれに盛り付けて人を引き付けるのがマーケティングで、そこからリピートにつながらないのは、関係構築ができていない状態だと整理します。
(見た目で)関係構築できなかったんだね。
保呂田さんは、これを恋愛の「遊び人」にもたとえます。見た目が良く人を引き付けても、その後に関係性を築けなければ長続きしない、という比喩です。
ブランディングはマーケティングの一手段という視点
ここで片山さんは、西口さんが番組のこれまでの立場とは違うことを言っていると紹介します。番組では、マーケティングとブランディングを両輪でやろうと話してきました。
これに対して西口さんは、ブランディングはマーケティングの一手段であると位置づけているといいます。両輪ではなく、片方の中にもう片方を入れ込む捉え方です。
西口さんこう言ってるの。ブランディングはマーケティングの一手段である。
保呂田さんは、これをアートとデザインの関係に重ねます。アートは表現、デザインは商業的に組み立てられたもの、と区別されがちですが、実際には切り離せないという見立てです。
アートの中にはデザイン性は必須で、デザインの中にもアートピース、アート要素というのは切っても切り離せない関係性がある。
保呂田さんは、マーケの中のブランド要素と、ブランディングという活動の中のマーケ要素は、どちらも内在していると考えます。だからどちらが正しいという話ではない、という立場です。
曖昧な言葉を使わないという西口流の割り切り
さらに片山さんは、台本には入れていなかったという西口さんの姿勢を紹介します。マーケティングやブランディングは定義も説明も曖昧すぎるため、議論が混乱するので、あえてその言葉を使わないというものです。
マーケティングとかブランディングとかって定義も説明も曖昧すぎるから、余計議論の場で混乱するから、あえて言葉使わへんって言ってる。
片山さんによれば、目的は基本的に同じで、長期的に愛されるプロダクトにしたいのか、いま瞬間的に売りたいのか、という議論が会議でなされます。だから曖昧な言葉に頼らないほうがよい、という割り切りです。
保呂田さんは、この姿勢をコペルニクス的だと評しました。片山さんも、これは一つの学びだと受け止めています。
価値づくりから記憶づくりへ、順番を守るという救い
最後に片山さんは、実践の順番を整理します。まず価値を作る、それは便益かける独自性であり、それをどう記憶に定着させるかが次のステップだといいます。
片山さんは、両輪と言うと頭がごちゃごちゃになるけれど、順番と言われれば一つずつやればいいと考えられると話します。西口さんの説明のわかりやすさは、この整理にあるという見方です。
価値を作る
便益(買う理由)かける独自性(他を買わない理由)で、まず価値そのものを作る
記憶に定着させる
ロゴ・色・トーンなどのタグを使い、便益と独自性を記憶に焼き付ける
保呂田さんは前編のまとめとして、3つの誤解を裏返した要点を挙げます。ブランディングは見た目ではなく便益と独自性を記憶に焼き付ける活動であること、差別化より独自化で比べようのない存在を作ること、そしてブランディングはマーケの一部で、価値を作ってから覚えさせる順番だということです。
来週の後編では、同じ『ブランディングの誤解』から、P&Gが失敗したリブランディングの罠や、中小企業が1パーセントの熱狂で勝つ方法が紹介される予定です。
まとめ
この回は、西口一希さんの『ブランディングの誤解』を手がかりに、ブランディングが過度に期待される背景にある3つの誤解を整理しました。見た目・売上・資産という思い込みをほどくと、記憶の中に便益と独自性を焼き付けるという本質が見えてきます。
- ブランディングは見た目を整えることではなく、買う理由と他を買わない理由を記憶に焼き付ける活動
- 差別化ではなく独自化、比較されないほど固有の存在を目指す
- ブランディングは売るための魔法ではなく、良い商品を思い出してもらう仕組み
- 資産は目的ではなく結果であり、出発点として物が良くなければすべて無駄になる
- 順番は価値づくり(便益かける独自性)から記憶づくりへ、この順番を守ることが迷子にならない鍵





