時間を奪われる時代に、ブランドと消費者の「中間」を聞く
番組の冒頭、保呂田直行さんが最近感じている悩みを持ち出します。仕事をしなければいけないのに、TikTokやYouTubeショートについ時間を奪われてしまうという話です。
本当は仕事しなきゃいけないのに、ついついTikTokとかYouTubeとか見て時間を奪われちゃってる。リターゲティングマーケティングとかインタレストマッチとか、そういうのをいろいろやってきたのに、わかってるのに奪われちゃってるのってすごいなって。
片山光祐さんは、自分は勉強のためにあえて見ていると話します。見た目や作りを研究する目的だといいます。ただ保呂田さんは、その意図があってもつい持っていかれてしまうと返します。
ここで保呂田さんは、番組の趣旨を改めて振り返ります。世の中のブランディングがロゴやデザイン、SNSといった話に寄って曖昧になりがちな中で、1本筋の通った考え方を探りたいという問題意識から始まった番組です。
片山さんは、初回で話した核を補足します。ブランディングは発信物単体ではなく、組織文化や事業戦略までが連動して形成されるものだという整理です。
そして今回のゲスト選びの理由へつながります。ここ数回は、ブランドが受け取る人にどう知覚されるかというテーマを扱ってきました。そこで保呂田さんは、ブランドと消費者のちょうど中間に当たる「編集者」という立場の人がどう考えているのかを聞きたいと切り出します。
文芸志望から始まった編集者のキャリア
保呂田さんが、ゲストの森本隆二さんを紹介します。10年以上のパートナーであり、光文社に入社後、書籍や雑誌などさまざまな編集の立場を経て、現在はDX局に所属している人物です。普段はメディアで顔も声も出さないものの、今回特別に出演を承諾したといいます。
平野さんは、そもそもなぜ出版社に入ろうと思ったのかを尋ねます。森本さんの出発点は文芸の編集者になりたいという思いでした。
もともとは僕、文芸の編集になりたくて出版を受けようと思いました。ただ最初の1年ぐらいは文芸の部署にいて、そこから週刊誌の部署に行き、そこでウェブメディアに関わるようになって、今に至るという形ですね。
仕事の面白さについて、森本さんは部署によって会う相手が変わる点を挙げます。文芸なら作家、週刊誌なら取材対象、デジタル領域ならIT企業と、関わる人が幅広く変わります。
一つ共通しているのが、いろんな業界の第一人者みたいな方と会うことができるっていうのは、一つ面白いことかなと思いますね。
紙の部数が下がる中で、届け方をどう増やすか
平野さんは、出版社が今抱えている課題を尋ねます。森本さんはまず、紙の部数が下がってきている現状を挙げます。
これまでは書店や取次という完成されたシステムがあり、物を作れば読者に届けられる体制が整っていました。しかし、それがだんだん難しくなってきていると森本さんは話します。
今後やっていかなきゃいけないのが、ウェブメディアであったり、SNSであったり、動画であったり、いろんな形で読者の方々に届けるものを、いろんな届け方で届けていく必要があると。
森本さんが現在所属するDX局は、2年ほど前にできた部署です。会社のデジタル領域全般を担当し、情報システム部、ITソリューション部、ウェブマーケティング部の3部署から成るといいます。
変わらないのは「面白い人を取材する」こと
保呂田さんは、業界全体がどう変わっていくのかという未来像を尋ねます。オンラインへ移行する中で、出版社の丁寧な取材力に裏付けされた第一次情報の仕事が、どう変わっているのかという問いです。
森本さんの答えは、取材する対象そのものは大きく変わらないというものでした。その時代のカリスマ性のある人、才能のある人を取材して届けるという基本は、いつの時代も変わらないといいます。
変わるのは届け方です。書籍、雑誌、動画、ポッドキャストと、プラットフォームによって最適な形が違うため、切り取り方が変わってくると森本さんは説明します。
変わらない部分でいうと、その面白い人、面白いものを取材して届けるっていうのは変わらない。ただ、そのチャンネルによって最適化していくみたいなことは、今後いろいろ考えていかないといけない。
保呂田さんは、編集者の目線はどんなプラットフォームにも活かせるものだと受け止めます。森本さん自身は、その視点で意識したことはなかったものの、いろんな業界で同じことが言えるかもしれないと応じました。
見出しから考える、編集者に染みついた思考の癖
平野さんは、編集者として大事にしている視点を尋ねます。森本さんはニュースメディアが長かったこともあり、見出しから考える癖があると答えます。
ニュースメディアの編集者としては、見出しから考える癖がありますね。お話をしている中で出てきた単語が、面白い単語があると結構反応したりとか、そういう見出しから物事を考えるっていうのは、編集者として癖がついてる気がします。
話を聞いている最中にも、この要素は見出しになりそうだと反応してしまうといいます。書籍や月刊誌ではまた違う要素かもしれないとしつつも、ニュースメディアでは強く染みついた思考だと森本さんは話します。
10ページのために積み上がる、膨大な取材量
保呂田さんは、かつて編集部でカメラマンとして特集に参加したときの驚きを語ります。仕上がりは10ページなのに、取材の量が段違いだったといいます。
10ページに仕上げるものなのに、取材の量が紙でこんなに量があったんですよ。本当にA4の束が箱であるんじゃないかっていうぐらいの取材量があって。
保呂田さんは、この膨大な取材から選んで10ページにまとめる人がいることに気づき、どうやってやるのかを知りたかったと振り返ります。
森本さんは、雑誌によって体制は違うとしつつ、週刊誌の一例を挙げます。取材する人、それをまとめるアンカー、さらにタイトル要素に合わせて調整する編集者など、何人かが関わって話の軸を作っていくといいます。
何を捨て、何を残すか──判断の軸は見出しにある
平野さんは、テレビの情報番組出身という自身のキャリアを重ねます。テレビのディレクターは、一次情報を扱う雑誌を見てネタを探すフローだといいます。雑誌側もそれを意識して記事化しているのか、と尋ねました。
森本さんは、そこは特に意識していなかったと答えます。ただ、番組側から取り上げたいと連絡をもらうことがあり、自分が担当したページだと嬉しいと話します。
そして平野さんは核心を突きます。膨大な取材の中から、何を捨てて何を採用するのか、その基準はあるのかという問いです。
森本さんの答えは、見出しから考える癖の話とつながっていました。まずタイトルや見出しをある程度決め、その軸に合うものは残し、軸から逸れるものは面白くても削るというのです。
この着眼点は編集者ごとに違い、読者に刺さる見出しを立てられる人がいい編集者と言われる、と森本さんは説明します。刺さらなければ、少しずれているから調整しましょうということになるといいます。
紙は一晩で仕上げる、Webは数時間で消費される
平野さんは、紙とWebという2つの媒体の作業の違いへ話を進めます。まず紙媒体はどのような工程を経て世に出るのかを尋ねました。
森本さんによれば、紙媒体はプラン会議で企画が通るかを決め、取材のアポ取りや取材を進め、締め切りに向けて原稿作成・レイアウト・発注を一晩でまとめるといいます。週刊誌の締め切りは木曜日や金曜日あたりだと話します。
平野さんが「一晩でやるのか」と驚くと、森本さんは原稿作成はほぼ1日でやると答えます。昔は朝までやることも多かったものの、スタート時間を早めるなどの工夫で、今は早めに終わるようになってきているといいます。
一方、Webはもっとスピーディーで、1日に何本も担当することもざらだといいます。情報の鮮度も大きく違います。
紙はやっぱり一週間とか月刊誌だと一ヶ月なのが、ウェブは本当に一日とか、下手したら半日とか、数時間で消費される情報とかもあったりするんで。
平野さんが「数時間で消費されて終わることもあるのか」と確かめると、森本さんは事件などでは新情報が更新され続け、前段階の情報が読まれなくなることはざらにあると答えます。
情報の鮮度は1週間、月刊誌なら1ヶ月。一晩で原稿・レイアウト・発注をまとめて世に出す。
1日に何本も担当することもざら。半日や数時間で消費される情報もあり、新情報で古い記事は読まれなくなる。
アルゴリズムとリアルタイムの数字と向き合う
平野さんは、Webでは読者の反応がすぐ返ってくる点に注目します。森本さんは、SNSの反応をよく見るほか、ツールで今どれくらい読まれているかを確認し、記事が当たっているかどうかを次の作り方の参考にすると話します。
さらに平野さんは、Webの記事にはアルゴリズムが関わるのではないかと尋ねます。森本さんは、その影響はめちゃくちゃあると即答します。
めちゃくちゃあるので、その都度その都度やっぱり対応する必要が出てきているんですけども、本当に成功する場合もあれば、そうじゃない時期もあったりして、試行錯誤しながらやってますね。
アルゴリズムは頻繁に変わるといいます。例えばGoogleは数ヶ月に一回、大きな変化が起きることがあり、最近まで良かったものが急に引っかかりにくくなることもあるため、シビアな世界だと森本さんは話します。
一方で、Webメディアには数字がダイレクトに見える面白さもあるといいます。自分の記事がリアルタイムで読まれていく様子が見えると、この記事を頑張って書いてよかったと思えるところが、Webメディアの良さだと森本さんは語ります。
「時間を奪う戦争」に、プロとして立つ
保呂田さんは、この場に集まった顔ぶれの面白さを指摘します。森本さんは出版業界から、片山さんはテレビから、保呂田さんはインターネット業界から、そして全員が今ラジオやポッドキャストへと集まっている、という整理です。
その上で保呂田さんは、冒頭の悩みへ話を戻します。こうしたメディアのプロがインターネットの世界に来たからこそ、自分の時間が奪われているのだと実感したといいます。
こういうプロがやっぱり時間を奪いに来てるんやなって。
平野さんは、この顔ぶれに新聞だけがいないと指摘し、場が和みます。そして、SNSで気になる記事を読み始めると深掘りしてしまい、時間を取られる感覚があると自身の実感を重ねました。
片山さんは、この状況を「時間を奪う戦争」と表現します。SNSもTikTokのクリエイターも競合になり、いかにユーザーの時間を奪うかが戦争状態になっているといいます。
その中で、片山さんはオールドメディアと呼ばれるようになった立場にこそ、プロとしての手腕の見せ所があると前向きに捉えます。保呂田さんが「ニューオールド」と応じ、経験を新しく活かす姿勢を言葉にしました。
紙とWebの両方を知る強みは「寄り道」にある
平野さんは、紙もWebも知っている森本さんに、両方を経験したからこその強みを尋ねます。森本さんはまず、紙の時代の良さを挙げます。
紙の時代は取材にコストをかけられ、余裕もあったため、寄り道のようなこともいっぱいできたといいます。それによって自分の考えの幅が広がったと森本さんは振り返ります。
一方、デジタルは数字に最適化される側面が強く、マネタイズという面で磨かれると森本さんは話します。この両方ができたことが良かったといいます。
紙時代の寄り道の例として、森本さんは火星の人面岩の記事や、原宿駅に出た猿を追いかける取材などを挙げます。どう取材するのかと平野さんが驚くような、こうした寄り道的な記事を作れたことが面白かったと振り返りました。
平野さんは、時間の尺を踏まえて一区切りをつけます。他にも聞きたいことがあり、森本さん自身も話したいことがあるだろうとして、続きは次回に持ち越すことにしました。
初出演を終えた森本さんは、最初は緊張していたものの、皆の誘導が上手でちゃんと話せたと感想を述べます。保呂田さんは次回の予告として、編集者目線を企業のブランディングや広報、中小企業の経営にどう活かせるかを深掘りしたいと語りました。
まとめ
紙とWebの両方を経験した編集者・森本隆二さんの回では、膨大な取材から何を残し何を削るかという「捨てる技術」の核が、見出しという判断軸にあることが語られました。届け方や消費スピードは媒体で大きく変わる一方、面白い人を取材して届けるという本質は変わらないという整理が印象的な回です。
- 編集者は見出しやタイトルの軸を先に決め、その軸から逸れるものは面白くても削る
- 取材する対象や「面白いものを届ける」本質は変わらず、変わるのはプラットフォームごとの届け方
- 紙は情報の鮮度が1週間、Webは数時間で消費されることもあり、スピード感が大きく違う
- Webはアルゴリズムの影響が大きい一方、リアルタイムで数字が見える面白さがある
- 紙時代の「寄り道」が考えの幅を広げ、Webの数字最適化と両方を経験したことが強みになっている






