編集者の視点を、企業の発信にどう活かすのか
前回に続いて、光文社DX戦略局の編集者・森本隆二さんを迎えた後編です。今回は、編集者の目線を企業のブランディングやPR、広報にどう活かすかがテーマになりました。
保呂田さんは、森本さんと長く仕事をしてきた立場から、編集者の視点のありがたさを振り返ります。クリエイターは発信者側の気持ちに寄り添ううちに、世の中の見え方を見失いやすいというのです。
うちのサービス、うちのこの商品、こういうふうに売りたいんだという気持ちと、僕らも一緒になっちゃうことが結構あって。
そんな中で森本さんみたいな編集の方と話していると、逆に世の中の人はそういうふうに見てるよね、というアドバイスを的確にいただけることが多かったんですよ。
そこで今回は、編集者の目を借りて、企業の発信をどう解きほぐせるかを考えていきます。片山さんも「めちゃくちゃわかる」と強く共感していました。
タイトルの力は「主語×述語」で決まる
最初のテーマは、多くの企業が悩むプレスリリースです。森本さんは、どんな見出しになるかを考えることから始めると、広がりやすいリリースになると話します。
その考え方の軸が「主語×述語」です。誰が何をしたか、その掛け合わせでタイトルの力が決まるという、ウェブメディアでよく言われる発想です。
すごい著名な方だと主語が大きいので、主語の力が10だとすると、その人が大したことのない発信をしても、タイトルの力が10になる。
ただ、主語の力が1でも述語の力が10なら、それはそれで10の力になる。掛け合わせでどう力を発揮するかを意識して作るといいのかなと。
つまり、著名でなくても、述語を工夫すれば注目は集められるというわけです。片山さんが「述語なんや」と反応したように、多くの発信者が見落としがちな視点かもしれません。
新しいサービスや商品は、どうしても主語が弱くなりがちです。森本さんは、そこで述語を強くする要素として、ギャップや共感性、新情報の中で強いと思われるキャッチーなワードを挙げました。
編集者が「これはいける」と感じる基準
主語が弱い情報でも、森本さんが「これはいける」と感じる基準があります。それは、共感性があり、かつ強い要素が入っているかどうかです。
一次情報として、これはどこにも知られてなかった情報だな、という要素が入ってると、これは受けるだろうと思ったりします。簡単に言うとスクープなんですけども。
森本さんは、その商品やリリースの中で「スクープ性にあたるものは何か」を意識して深掘りし、それを端的に表せると広がりやすくなると話します。
保呂田さんが「プレスリリースから始まったスクープはあるのか」と尋ねると、森本さんは、単純なお知らせの中にニュース性が潜んでいた例を挙げました。
ご挨拶の連絡の中に、今まで知られてなかった要素がしれっと掲載されていて。事務所の所属タレントがちょっと移籍してるみたいな。あれ、これ出てないよね、と記事にしたことはありました。
発信側は「一応お知らせはしておくが、あまり拾ってほしくない」と考えていたのかもしれません。それでも編集者の目に留まる。ここに、読者の関心という判断軸が働いています。
特に雑誌はそうなんですけど、読者の関心がない情報を載せても意味がない、とよく言われていて。方向性を決めるとき、読者の反応はすごく考えますね。
見出しの細分化に見る、トレンドの変化
話題は雑誌の特集の変化に移ります。平野さんは、男性向けのライフスタイル誌で、特集の切り口が細かくなっていると感じていると話しました。
前は「冬のアウトドア」みたいな特集が多かったけど、今は「冬場、外でも中でも使える上着の中に着るのはこれ」みたいな。すごく細かくなってきてるなと。
この細分化の背景には、読者の飽きがあると森本さんは説明します。受けるものはみんなが使いがちで、そのぶん読者も飽きていくというのです。
受けるものがあるとみんなそれを使いがちなんですけど、だんだん読者も飽きてくる。そうすると逆張りに振れたりとか、そういうトレンドの変化は結構起きますね。
無名の企業が持っておくべき「他にない要素」
主語が弱い、つまりあまり知られていない企業は、どんな視点を持つべきか。森本さんは、その情報が「他にない要素」を必ず考えると言います。
たとえば鉛筆を売るとき、自分たちの強みを考えると同時に、鉛筆全体の中で競合と比べて勝っているポイントを探す。この二軸で考えるのがポイントです。
情報自体の強みと、それが同じジャンルの中でどういう強みを持ってるのか、という二軸で考えたりは結構するかもしれないですね。
片山さんは、多くの企業が商品開発の段階でSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)を踏まえているのに、リリースが埋もれてしまう現象を指摘しました。
森本さんは、埋もれる理由をメディア側の事情から説明します。プレスリリースは大量に届き、1枚を見る時間はごく短いというのです。
プレスリリースの一番最初の文字が端的に表現されてるかどうかで、取り上げる率はめちゃくちゃ変わってくる気がしますね。
これは読者側でも同じです。デジタルのタイムラインでは、読者が記事を認識する時間は1秒もないと言われています。だからこそ、端的に表したワードを最初の方に持ってくることが重要になります。
大量のプレスリリースを短時間で選別。最初の1文で取り上げる率が決まる
タイムラインで記事を認識する時間は1秒未満。興味がなければ次へ流れる
片山さんは、メディア側にいた経験と、企業のプロモーションに関わる今の立場の両方から、これは専門技術だと語ります。
端的に伝える、刺さるように伝えるって本当に専門技術だなと思うから、誰に頼んだらいいんだろうねと。自社でやるのは結構むずいんじゃないかな、という感覚は。
テクニックの先にある「熱量」という武器
話は、テクニックとは逆の要素へと向かいます。保呂田さんは、10数年前に名物編集者が個人的な興味や人とのつながりで一つのものを応援し、紙面を通じて盛り上げていった光景を思い出したと語りました。
そうした人と人とのつながりは、現代でも通用しますか。
森本さんは、そうした熱量的な要素はめちゃくちゃ必要だと答えます。自身の体験として、サウナ好きが高じた買い物を例に挙げました。
カシオさんがクラウドファンディングで作ったサ時計、本当に10分ぐらいで2300本か完売した。サウナが好きな方が作ったのが伝わってくる時計だったんで、即買いしましたね。
森本さんは銭湯も好きで、若い番頭が銭湯再生に取り組む店を偶然訪れ、実際に取材に至った経験も紹介しました。その記事はかなり読まれたといいます。
掛け合わせとかテクニカルな要素はいっぱいあるんですけど、究極的にはそういう熱量的な部分が大事になってくるんじゃないかなと思いますね。
平野さんは、この熱量こそAIが体現しにくい部分だと受け止めます。テクニックは今後爆発的に進化しても、熱量の伝わり方は変わらないだろうというのが森本さんの見立てです。
AIが熱量を伝えてます、というのは、人間からするとあんまり熱量を持って捉えにくいんだろうな。誰がちゃんと伝えてるのか、どういう人が発信してるのかは重要になってくるんだろうなと。
保呂田さんは、ビジネスでよく言われる「属人性の排除」とは逆に、コンテンツではいかに属人性を大事にできるかがキーかもしれないとまとめました。
AI時代に色濃くなる「生身の人間」の力
片山さんは、今日の学びを、テクニックはあるが結局は熱量をどう伝え、受け手にどう浸透させるかが大事だと整理しました。ポッドキャストで人の温度感を伝えることも、その一つだと言います。
さらに片山さんは、AIによって誰もが最高レベルの知識を持てる時代になると見ています。その先で評価されるのは、生身の人間の能力だと考えているようです。
AIを活用しながらですけれども、ますますアナログの力が、めちゃくちゃ大事になってくるなというのは個人的な学びだったかなと思いますね。
この主張を、片山さんはドラゴンボールの戦いに例えました。保呂田さんからは「相変わらず例えが昭和ですね」とツッコミが入り、平野さんもワンピースを途中でやめた話で応じるなど、和やかなやり取りが続きます。
3度目で実った、熱量のオファー
この対談の実現そのものが、熱量の話とつながっていました。保呂田さんによれば、今回の出演オファーは一度断られ、企画書を添えたメールでも断られ、3度目の電話でようやく承諾を得たといいます。
3回目で電話をして、こういうことをやりたいんですよと滔々と言ったら、それだったらいいですよと許してくれた。やっぱり熱量の部分だったのかなと。
森本さん自身は、承諾の理由を長年のパートナーシップに求めます。
ブラボーワークスさんは初期からかなりお世話になっていて、一緒にやってきたパートナーなんで、協力できる部分はさせていただきたいなと思って受けたって感じですね。
森本さんは、話すことで自分の考えが整理されたと収録を振り返りました。
話していく中で、確かにこういうことを大事にしてるんだな、こういうことを考えながらやってるな、というのが自分も整理できて良かったなと。
保呂田さんは、まだ聞き足りないと再登場を望みましたが、森本さんの返答は歯切れの良いものではありませんでした。
普段から教えていただいてたことを考えると、多分10パーセントから20パーセントぐらいだったなと。もっともっとあるんですよ。またぜひ来てもらいたいなと。
ちょっと前向きに検討。
まとめ
後編は、編集者が実際に何を見て情報を選んでいるのかを軸に、プレスリリースの設計からAI時代の発信までを扱いました。テクニックと熱量の両輪こそが、刺さる情報設計の本質だと語られています。
- タイトルの力は「主語×述語」で決まり、無名でも述語を工夫すれば注目を集められる
- プレスリリースは大量に届き、選ばれるかは最初の1文の端的さで決まる
- 自社の強みと、同ジャンル内での強みという二軸で「他にない要素」を考える
- テクニックの先にある熱量は、AIが体現しにくく、誰が発信するかが問われる
- コンテンツでは属人性を排除せず、むしろ大事に扱うことがキーになりうる





