ブランドの言語化は「口癖」を決めること
今回のテーマは「ブランドの言語化」です。前回の「ブランドを人に例えるなら」という話を受けて、今回はその人がどんな言葉を使うのか、つまり口癖を決めていこうという回になっています。
せっかくブランドパーソナリティを決めてわかったとしても、言葉に落とし込まなきゃ相手には伝わらないよねと。
片山さんは、口癖がキャラクターを決めると説明します。ジャイアンの「おい、のび太」のように、言葉遣いにブランドの一貫性が表れるという切り口です。
つまり口癖を決めていこうねっていう話ですね。
ここで言う言葉遣いとは、タグラインやスローガン、キャッチコピーだけを指すのではありません。片山さんは、言語化の部分すべてが対象だと話します。
丁寧な人、フランクな人、熱い人、クールな人、全部言葉で、あるいは言葉遣いとかでも判断されてる。
保呂田さんは、言葉遣いで印象が大きく変わると指摘します。例として、真面目な介護系の会社がオラオラ系の言葉遣いをしていたら嫌だという極端なケースを挙げました。
ただし、これを自社で決めるのは難しいという点でも2人は一致します。片山さんは、第三者と相談しながらやったほうがスムーズで腹落ち感があると話しました。
言葉がブレると信頼を失う
片山さんは、この言語化が合致すれば強力な武器になると強調します。逆に、ここがちぐはぐだと信頼を損なうという話に展開していきます。
片山さんは、ホームページに「誠実で信頼できる企業です」と書いてあるのに、SNSでは軽いノリの言葉遣いをしている例を挙げます。どちらが本当の姿なのか、ちぐはぐ感が出てしまうという指摘です。
第一印象は良かったのに、ラインの文面が急に軽すぎたりとかしたら、あれ?ってなるじゃんね。
保呂田さんは、これで損している人が結構いるかもしれないと応じます。見た目で印象が良かったのに、言葉遣いで期待値が下がって減点になってしまうケースです。
これ会社でやったら結構致命的ですわ。
片山さんは、ブランディングというとデザインに意識が向きがちだと言います。しかし言葉遣いの部分もしっかり考えないといけないという点を、真剣に考えるべき要素として挙げました。
保呂田さんは、この番組でのブランディングの定義を改めて整理します。会社や製品・サービスがあっても、そこに柱を立ててより城になっていくものがブランディングだという説明です。
どんだけロゴを綺麗に作ろうが、ホームページ綺麗に作って、SNSバンバンやろうが、言葉の部分でちゃんとしていなかったら何もならない。
片山さんは、最初にやりがちなのがキャッチコピー作りだと言います。しかし本当はもっと深く、会社のビジョンの打ち出し方や、経営者・スタッフの日常会話のトーンまで含まれてくると話しました。
ビジョン・バリュー・トーン&マナーの3レイヤー
片山さんは、ブランドの言語化を3つに分けて整理することを提案します。キャッチコピーを作るだけではないという前提での、フレームワークの提示です。
ビジョンの言語化
この会社は何のために存在するのかを言葉にする
バリューの言語化
ビジョン達成のために、どんな価値観で行動するのかを言葉にする
トーン&マナーの言語化
どんな言葉遣いや声色で伝えるのかを言葉にする
この会社っていうのは何のために存在するのかっていうことを言語化しましょうと。
保呂田さんが印象に残ったのは、3つ目の「声色」という表現でした。MCなどを多く輩出する片山さんの会社らしい視点で、トーン&マナーの言語化ではなかなか出てこない言葉だと評しています。
お母さんの声色とか彼女の声色によってその意味合いって全然変わってくるしね。
同じ「あかん」という一言でも、声色によって怒っているのか、意味合いが変わるという話です。片山さんは逆にそう言われて気づいたと応じ、声色まで含めて統一感を持たせる大切さを確認しました。
片山さんの会社の実例と、保呂田さんから受けた影響
片山さんは、自社での実践を具体的に共有します。ビジョンは「価値あるものがきちんと伝わる社会を作っていきたい」というもので、これが「何のために存在するか」にあたります。
バリューは、片山さんの会社では「コアアイデンティティ」と呼んでいます。中身は「挑戦」「共創」「真摯」という日本語で、どんな価値観で行動していくのかの指針になっています。
コアアイデンティティって名称はかっこいいのに、中身がめっちゃ日本語な。そっちの方が分かりやすくない?
トーン&マナーとしては「ビジネス文書では丁寧に、雑談はカジュアルに、でも誠実に」という方針です。片山さんは、この整理をするようになったのは実は保呂田さんの影響だと明かします。
きっかけは、片山さんが数年前に保呂田さんの東京の会社を訪れたときのことでした。クリエイティブな仕事をしている保呂田さんたちが、客先にはスーツで行くと話していたことに刺激を受けたと言います。
クリエイティブ系のことやってるやついい加減そうっていう世間的な認知があるから、うちはそうじゃないよっていうのを見せたい。
保呂田さんは、その裏側にある一貫性を説明します。客先にはスーツで行くが、身内しかいない社内はTシャツ短パンで緩くする。TPOに応じて切り替えるスタイルで、それを「コスプレ」と呼んでいるそうです。
客先に出るとか、TPOに応じて俺たちコスプレって言ってるんだけど、しっかりコスプレしていこうぜと。
片山さんは、自分の会社では身内がいるときもそこまで緩くはしていないと話します。片山さん自身のパーソナリティを踏まえ、「真摯である」ことを大事にする方針を置いているためです。
だからそこは真摯であるっていうことを大事にするっていうのを置いてて。
この方針は、クライアントとのメールのやりとりにも及びます。ラフすぎる文面ではダメだという考え方で、トーン&マナーが日々のコミュニケーションに反映されているかたちです。
規模が増えると「緩さ」が勘違いされる
保呂田さんは、自身のスタイルの副作用にも触れます。社内は緩く、大事な時はビシッと決める。そのギャップが激しくなり、人によっては「だらしない」と感じられるかもしれないと話します。
大事な時にはビシッと決めていこうぜってなると、ビシッと決める時とだらっとしてる時のギャップ、めっちゃ激しくなった。
片山さんは、緩いスタイルはクリエイティブの環境では理想的かもしれないと言います。ただし人数が増えてくると、緩さを許容した結果、いざというときにビシッとできなくなると指摘しました。
保呂田さんも、会社の規模が大きくなる中で「適当でいいんでしょ」と勘違いされる場面があると認めます。そう思われてしまったら失敗だという、切実な実感です。
適当でいいんでしょ?っていう風に思われちゃったら、もう失敗じゃん、それって。
この経験から2人は、言葉遣いを一貫したメッセージとして出すことの大切さを再確認します。緩さの許容と一貫性の両立が、規模が増えるほど難しくなるという話です。
保呂田さんの会社が掲げる「Entertain the World」
保呂田さんは、自社の言語化の変遷を紹介します。創業当初のタグラインは「Be there or be square」でしたが、アメリカのヒッピー文化が元ネタで、日本人の社員やお客さんには伝わりにくかったそうです。
日本人の社員とかに実は全然伝わらんくて。アメリカ文化詳しい人じゃないと刺さらんっていうか。
そこで数年前に改定し、社内にも浸透した約束の言葉が「Entertain the World」です。保呂田さんは、Entertainには「魅了する」という意味があり、The Worldは社内や業界、家族なども含む相手を指すと説明します。
そういったところに俺たちはみんな魅了し続けていこうぜみたいな感じのメッセージがあって。
片山さんは、言語化には浸透フェーズの難しさがあると応じます。保呂田さんは、トーン&マナーの部分で無理をしていなければ継続でき、言い続ければいつか伝わると話しました。
とはいえ、このトンマナの部分で無理してなければ継続することができるから。
Apple「Think Different」がなぜ強いのか
ここから2人は、言語化に成功している事例を挙げていきます。片山さんがまず取り上げたのが、Appleの「Think Different」です。
Appleは違う考え方する会社だよねっていうイメージがすごいつく。
片山さんは、この言葉が単なるスローガンではなく、製品開発の指針にもなっていると見ます。iPhoneが生まれたときのように、「これはThink Differentか」という問いかけが社内でなされることで、Appleらしい製品が生まれるという見立てです。
保呂田さんは、この言葉の「余白の使い方」がうまいと評します。もし「Think We are Different」なら顧客は「You are Different」と思うだけで、読み手によって解釈が変わる余白があるからこそパワフルだという分析です。
ある意味これ社内にも伝える使えることだし、顧客へのコピーにも使えることだし。めっちゃパワフルだね、この2ワード。
片山さんは、パソコンの性能が各社で大きく変わらない現代においては、ユーザーは自分の価値観に近いほうを選びがちだと話します。Appleを選ぶことが、価値観の表明になっているという指摘です。
Macは「金持ちが使うもの」だった時代
保呂田さんは、片山さんの現代的な見方に対し、自身の時代の話を持ち出します。保呂田さんにとって、90年代のMacは「金持ちが使えるもの」だったと言います。
俺の時代はMacは金持ちが使えるものだった。
当時、WindowsのPCが10万円台で買える頃、Macは20〜30万円していました。保呂田さんは、倍額払っても買ってみたい憧れの製品であり、特にクリエイティブの仕事では障壁が高かったと振り返ります。
保呂田さんは、当時のIT業界が猛烈な速度で進化していたことにも触れます。その渦中では、「お前PC派? Mac派?」という分断が戦争のように起きていたと語りました。
2つの大きい派閥で戦争になるんじゃないかっていうぐらい分断が起きてたよ。
片山さんは、Macが高い価格でも勝負できたのは、無形資産と言われる部分が大きいからだと補足します。ただしこれはブランディングの別テーマだとして、今回は言語化の話に戻しました。
話を戻すと、「Think Different」はクライアントも社内も共通認識を持ちやすい言葉であり、文化になっていく典型例だという結論です。保呂田さんは、スターバックスの「サードプレイス」も同様の例として挙げました。
CNN本社で体感した「Be the First to Know」
保呂田さんに問われ、片山さんは自身が体感した言語化の事例を紹介します。それが、世界で初めて24時間ニュース放送を始めたCNNです。
速報性、独自性、信頼性っていうのを、このブランド言語の柱に置いて、「Be The First to Know」、誰よりも先に知るっていうフレーズを掲げていました。
片山さんがこれを体感したのは、大学生の頃にテレビ朝日のアトランタ支局でインターンをしていたときでした。そのオフィスがCNN本社の中にあり、現場の空気を肌で感じられたと言います。
衝撃的だったのは「最速で伝える仕組み」です。世界中の特派員から、確定・未確定の情報が社内ネットワーク(イントラネット)にどんどん上がってくる仕組みが、2000年代初頭からありました。
確定マークがパッてついた瞬間、ネタとして即オンエアするっていう仕組みがあって。
片山さんは、これこそ「Be the First to Know」がシステムレベルで言語化され、落とし込まれていた例だと語ります。保呂田さんは、スローガンがオペレーションやシステムに落とし込まれていることに驚きました。
片山さんは、未確定情報には「まさか」という内容も多かったと振り返ります。イラク戦争の時期には、当時ありえないような速報の候補が一旦保留状態で流れ、見ている人にフラグが立つ仕組みでした。
言葉が「共通の口癖」になるとチームが動く
片山さんは、大きな事件があった時には社内のスタッフが徹夜で情報を待ち構えていたと話します。「よっしゃ伝えたった」「俺らが一番だ」という文化になっていたという振り返りです。
保呂田さんは、その徹夜文化の是非は置いておきつつ、みんなが一丸となって同じ方向を向けたのは、その言葉があったからだと受け止めます。
実際にそのスローガンを体現するために、みんなで一丸となって同じ方向を向いてやったっていうワクワク感を得られるのは、その言葉があったからだよね、完全に。
片山さんは、共通の口癖になれば内部のコミュニケーションもオペレーションもスムーズになると応じます。一方で保呂田さんは、自社の「Entertain the World」を社内でどれだけ体現できているかには疑問が残ると自省しました。
うちのEntertain the Worldで社内でどれだけエンターテインできてるかに関しては、俺は疑問が残るな。
言葉は「決める・浸透・仕組み化」の3フェーズ
2人は、言語化には3つのフェーズがあると整理します。言葉を決めるだけでなく、浸透させ、さらに仕組みにまで落とし込んで初めて機能するという話です。
キャッチコピー作ったよって単純に満足してちゃダメかなって。浸透フェーズすごいむずい。
保呂田さんは、「Be the First to Know」のように再現性のある仕組みにまで落とし込めている点が肝だと言います。マインド寄りの「Entertain the World」では、具体的にどうするかが課題として残ると自覚していました。
この言葉みんな知ってたとしても、じゃあそれを仕組みにまで落とし込めてるのか。
最後に片山さんは、マーケティングとブランディングの違いにも触れます。「私たちはこういう人です」と自ら言うのがマーケティングなら、第三者に「あなたはこういう人ですよね」と言ってもらえるのがブランディングだという整理です。
まとめ
ブランドの言語化とは、キャッチコピーを作ることではなく、会社全体の口癖を決めることです。ビジョン・バリュー・トーン&マナーの3層で整理し、決めるだけでなく浸透させ、仕組みにまで落とし込んで初めて機能します。
- ブランドの言語化は、パーソナリティの「口癖」を決めること。言葉がブレると信頼を失う
- 言語化はビジョン・バリュー・トーン&マナーの3レイヤーで整理する
- Apple「Think Different」は余白があり、社内外の共通言語になれる強い言葉
- CNNは「Be the First to Know」をシステムやオペレーションにまで落とし込んでいた
- 言葉は「決める・浸透させる・仕組みにする」の3フェーズが揃って初めて機能する






