今回のMC交代と「ブランディングって何のため?」という出発点
今回はいつもと違い、保呂田さんがMCを務めます。前回4本を一度に収録した片山さんが、アドリブを拾いながら話を整理する役に消耗したためです。
(前回は)ナオちゃんのアドリブをこうめっちゃ拾い、整理しながら、ちゃんとこう話の筋を通った一本にするっていう作業を収録中に頭フル回転してやってた
あの4本収録終わった後にすっげえ疲れて、めっちゃその後仕事できない状態ぐらいポンコツなった
テーマは「そもそもブランディングってなんでやるの?」という、これまで正面から扱っていなかった問いです。片山さんは、この点をちゃんと話せていなかったと振り返ります。
今回言いたいのは、そもそもブランディングってなんでやるの?っていう話を実はやってなかったなって気づいて
選ばれ続けるだけじゃない、ブランディングのもう1つの効果
片山さんは結論として、これまで「選ばれ続けるため」を中心に話してきたが、もう1つ大事な効果を言い忘れていたと切り出します。それが単価を上げる効果です。
もう一個大切な話が、言うの忘れてて。それは単価を上げる効果がある
すなわちこのプレミアム価格を堂々と言えるっていう状態を作ること
保呂田さんは、ブランディングの目的を「価値を上げること」と定義しようとする趣旨だと整理します。値上げをお願いするのではなく、価値を先に提示する発想への転換です。
どうにか値上げしてくださいませんか?って言うんじゃなくて、もう先出しジャンケンで、私たちの価値ってこれなんですよって形にする
なぜ今この話が重要かというと、値上げが多くの会社の経営課題になっているからです。AIの進化、最低賃金の上昇、物価高でコストが上がるなか、値上げをしないといけないのに、それがとても怖いという現実があります。
片山さんは具体例として、保呂田さんの写真撮影を5万円から8万円にする場面を挙げます。既存客に値上げを伝えるのは難しいけれど、それができたらいいという問題提起です。
いや、すごいリアルに感じちゃって、今。難しいと思っちゃった
機能・情緒・自己表現という3つの階段
ここから片山さんは、ブランドを3つの階段として整理します。覚えるのは3つだけで、これを上りきればプレミアム価格が言えるという考え方です。
この三つの階段を上がっていくっていうイメージで
1段目は機能的便益です。商品やサービスとして、便利さや利益をきちんと提供できているかという土台です。ここがクリアできていなければ、そもそも論外だと片山さんは言います。
2段目は情緒的便益で、その商品やサービスを通じてお客さんの気持ちが上がったり、安心したりする体験を提供できているかという段階です。
情緒的便益っていうねんけれども、お客さんの気持ちが上がる、安心する体験っていうのを提供できているか
3段目は自己表現的便益です。その商品を身につけていること自体が「これが私だ」というアイデンティティの表現になっている状態を指します。
その商品を身に着けてること自体が自己表現になってるよっていう状態を作る
楽器で実感する「これが私だ」という感覚
保呂田さんは音楽をやる立場から、3つの階段がよくわかると語ります。楽器はピンからキリまであり、憧れのアーティストが使っていたメーカーを自分も使うとテンションが上がるといいます。
自分が昔から大好きだったあんなアーティストが使ってたこんな楽器。それを自分も使ってみるっていう番になった時に、やっぱり上がる
これは2段目の情緒の話であり、機能を満たしたうえでメーカーへの憧れが乗っている状態です。さらに、そのメーカーを使う自分自身が誇らしくなる段階が3段目にあたります。
(憧れのメーカーを使うと)俺もこの一員になれたんだ、このメーカーを使ってる俺かっこいい、みたいな
保呂田さんによれば、値段は見るものの、それは買えるか買えないかの判断で、値段を理由に「買わない」という選択肢にはなりにくいといいます。だからこそプレミアム価格が成立します。
だからそこから買わないっていう選択肢にはあんまならへんってことやね。だからやっぱプレミアム価格言えるってことやんね
ハーレーは何を売っているのか
ブランドの話で必ず挙がるのがハーレーダビッドソンです。片山さんは、高いイメージなのに売れているこの事例を3段階で分解していきます。
ハーレーって正直イメージとしてめちゃくちゃ高いっていうイメージがまずあるけど、めっちゃ売れてるっていう感じじゃないですか
1段目の機能として、ハーレーはバイクとして走る性能を十分に満たしています。ただ、そこだけなら他のバイクと値段で比較されてしまう段階です。
2段目の情緒は、見た目やサウンドが担っています。保呂田さんは、映画に出てくるアメリカの荒野を駆け抜けるイメージが他のどのバイクとも違うと語ります。
映画に出てきたアメリカの荒野をブオーンってドドドドドドって駆け抜けるあのイメージって、どのバイクとも違う
独特のエンジン音でテンションが上がること、ディーラーのレザーの匂いやかっこいい展示も、すべて情緒の演出だと片山さんは説明します。だから少し高くても欲しくなる、という感覚が生まれます。
そうそう、あれ情緒なんだよ。で、あれに憧れてディーラーまで行きました
3段目の自己表現を担うのが、HOGというオーナーグループです。レザーベストにワッペンやピンバッジを記号として身につけ、すれ違うハーレー乗り同士が仲間だと合図し合う文化があるといいます。
保呂田さんは、普段は革ジャンを着ない自分でも、ハーレーに乗ればライダースジャケットを買い、ツーリングのコミュニティに入るだろうと想像します。それが醍醐味になっていくのです。
こうなると価格の安い高いの勝負ではなくなります。ブランドが確立していれば、値段を見ても「買わない」にはならないという好例だと2人は整理します。
採寸で言われた「引退した力士」というオーダースーツの失敗
高い買い物の話題から、保呂田さんは最近つくったセミオーダースーツの体験を話します。体型を考え、15万から20万ほどのスーツを路面店でつくったといいます。
採寸時の雑談で自分の体型を心配したところ、店員から「うち引退した力士もいっぱい来るから大丈夫」と言われてしまいます。
僕こんな体型なんで大丈夫ですかねみたいな話をしていたら、大丈夫だよ、うち引退した力士もいっぱい来るからって言われて
仕上がったスーツは、太めに作られていて「引退した力士そのもの」に見えたといいます。情緒的な満足も得られず、結局着ないで吊るしたままだと保呂田さんは苦笑します。
出来上がってからも俺引退した力士にしか見えないから、結局着ないで吊るしてあるわ
片山さんはこれを、3段階でいえば土台の1すら満たしていない例だと指摘します。同じオーダースーツでも、価値のつくり方でここまで差が出るという対比になっています。
ビクトリースーツは「夢を実現する戦闘服」を売っている
対照的な事例として、片山さんはビクトリースーツを挙げます。ミューズという会社が手がけるオーダースーツで、片山さん自身がこの日ジャケットを着て収録に臨んでいます。
ただのオーダースーツじゃなくて、この夢を実現する戦闘服みたいな感じで再定義して、オーナー同士が交流できるコミュニティまで作って
1段目の機能として、完全オーダーで体に完全にフィットさせています。セミオーダーでは綺麗に出にくい背中のラインまで沿うようにつくり、高級生地のバリエーションから選べるといいます。
2段目の情緒を担うのが「夢を実現する戦闘服」というコンセプトです。代表の勝友美さんが打ち出したもので、良いスーツを作るのではなく、目標達成をスーツで支援すると言い切っています。
オーダースーツではなくて、夢を実現するために、たまたまそれがオーダースーツだよねっていう話をしていく
初回は採寸ではなくカウンセリングから始まります。「3年後のあなたはどうなっていたいか」「その場面でどう見られたいか」を聞き、そこから逆算して色や生地、シルエットを提案していく流れです。
保呂田さんは、これはスーツというものを売りながら、実は個人のセルフブランディングをコンサルティングするサービスだと気づきます。
それスーツっていうものを売ってるけど、むしろセルフブランディングっていう、その個人のブランドをコンサルティングするサービスだね、もはや
営業マンなら契約を取りに行く戦闘服、経営者ならプレゼンの勝負服というように、納品物はスーツでも、売っているものはスーツではないという発想がプレミアム価格を支えています。
採寸中心。「引退した力士もいっぱい来る」と言われ、太めの仕上がりで着られず。機能の土台も満たせなかった
カウンセリングで3年後の夢を聞き、目標達成の戦闘服として提案。機能・情緒・自己表現を積み上げる
8年前の目標と、店舗が生む「夢を叶える工房」の空気
片山さんが着ていたジャケットは8年前につくったものでした。当時のカウンセリングで立てた目標を、片山さんは今も達成できていないと笑いながら振り返ります。
その目標は、全国展開するチーズケーキ店パブロの、イケメンで有名な社長に「いつか勝ちたい」というものでした。担当者は「勝ちましょう」と応じてくれたといいます。
さすがにパブロとやって勝つのは、我々制作業からして、全くピボットの方向性が違う。いきなりチーズケーキ作り始めないといけない
保呂田さんは、営業を頑張りたいといった目標ではなく「あんなイケメンのようにキラッと輝きたい」と言える点を素晴らしいと評価します。目標そのものが自己表現に近い設定です。
店舗はアトリエのような雰囲気で、商品が陳列されているというより「夢を叶える工房」に近いといいます。出来上がった服を着た瞬間に気分が上がる空間演出がされています。
出来上がった服を着た時にね、これで俺は夢を達成するんやみたいな気分も上がっていく
この話を聞いた保呂田さんは、「引退した力士」に見えた自分のスーツ体験を思い出します。演出や店の空気が、情緒の段階を大きく左右することが対比で浮かびます。
コミュニティで一員になる自己表現の段階
3段目の自己表現を担うのが、ビクトリースーツのオーナーコミュニティです。年に一度の周年パーティーなどでオーナー同士が集まり、「あなたの夢は達成できましたか」と交流するといいます。
集まるのは社長だけでなく営業の人も多いといいます。片山さんはまだ勇気を出してパーティーに行けていないものの、身近に完全な一員がいると明かします。
僕の保険を担当してくれてる人がもうビクトリースーツオーナーで、彼女はバキバキそういうパーティーも行ってて
その担当者は毎年トップ営業の基準を満たし、パーティーにも通う存在です。ブランドのコミュニティが、そのまま「なりたい自分」の象徴として機能していることがうかがえます。
中小企業でもできるコミュニティづくりと今日のまとめ
保呂田さんは、ハーレーのような大規模組織は中小企業には難しくても、ユーザーやステークホルダーとしっかり交流していく取り組みなら手が届くのではないかと提案します。
ユーザーだったりとか、いろんなステークホルダーっていう様々な人たちとしっかり交流していくって考えるだけでも、中小企業でもできそうな取り組み
片山さんも、周年パーティーにお客さんを招き、お客さん同士をその場で紹介することからコミュニティにつながると応じます。自分も参考にしたい取り組みだといいます。
最後に片山さんは、この回のテーマを改めて整理します。継続して買ってもらい続けることに加え、ブランディング施策によってプレミアム価格を提示できるようになる、という2つの効果です。
ブランディング施策をすることによって、プレミアム価格をお客さんに提示していくことができるよねっていう話
まとめ
ブランディングは「選ばれ続けるため」だけでなく、プレミアム価格を怖れず提示するための取り組みでもあります。機能・情緒・自己表現という3つの階段を上ることで、値上げの怖さを価値を伝える言葉に変えていける、という回でした。
- ブランディングには、選ばれ続ける効果に加えて、単価を上げてプレミアム価格を堂々と提示できる効果がある
- ブランドは機能・情緒・自己表現の3段階で捉えられ、機能を土台に情緒と自己表現を積み上げると価格の勝負から抜けられる
- ハーレーは走る機能に、独特の情緒とHOGという自己表現のコミュニティを重ね、高くても選ばれる状態をつくっている
- ビクトリースーツは「夢を実現する戦闘服」として、採寸ではなくカウンセリングから始め、売っているのはスーツではなく目標達成の支援になっている
- 大規模組織が難しい中小企業でも、周年パーティーや顧客同士の紹介など、交流の場づくりから自社のコミュニティを育てられる





