大学の同窓会から始まった、久保社長とBenさんの登場
この回のゲストは、有限会社M・K SQUAREが手がけるファッションブランドMANUAL ALPHABETの久保雅道社長と、モデルのBenさんです。片山さんはこの2人に会いたくて出演を依頼したと話します。
そもそものきっかけは、片山さんとBenさんがオレゴン大学時代からの友人だったことです。同窓会で久しぶりに再会したことから、この収録につながりました。
(片山さんとは)大学の友達ですね。オレゴンダックス。オレゴン大学の同窓会があって、久しぶりに片山さんに会って、ポッドキャストやってますよって。
片山さんはもともとMANUAL ALPHABETというブランドを知っていて、久保社長に会いたいと思っていたと明かします。Benさんがモデルを務めていたことが、ブランドを知るきっかけだったといいます。
スタイルもすごいミニマルなスタイルで、これ誰がデザインしてんねやとかすごい疑問だったし。やっぱこれ絶対経営者に会って話聞きたいってずっと思ってたんですよ。
Benさんが片山さんを久保社長につないだことで、この収録が実現しました。片山さんはその偶然を「マジで?ラッキー」と振り返ります。
英会話の先生だったBenさんが、ブランドの一員になるまで
Benさんと久保社長の出会いは、英会話スクールでした。久保社長がアメリカにMANUAL ALPHABETを売りに行くために英会話を学び始めた場所で、Benさんは先生を務めていました。
もともとは英会話スクールの先生やったんですよ。僕はアメリカに自分のブランドを売りに行ってて、英会話勉強しなくちゃいけないなと思って、スクールに通い始めて、そこでベンと出会って。
久保社長は、Benさんの内面性とルックスに惹かれ、直感で一緒に働くことを決めたといいます。最初はモデルとしてではなく、ブランドのスタッフとしての誘いでした。
これはもう直感で、彼を雇う方が面白いことできるなと思って、声かけたんです。うちちょっと手伝ってよと。
結果として、日本製のブランドをBenさんが体現することで、独自のストーリーが生まれていると久保社長は話します。Benさんはモデルにとどまらず、アメリカでの販売や海外からのオファーの通訳、カタログの翻訳まで担っています。
「大人が楽しめるシャツ」というコンセプト
MANUAL ALPHABETのメイン商材はシャツです。久保社長は、最初のテーマとして「大人が楽しめるシャツ」を掲げてきたと語ります。
ここでの「大人」とは、自分で稼いだお金で服を買う人を指します。そして、買うためには目的や理由が必要だと久保社長は考えています。
大人が楽しめるシャツを作るっていうのを最初のテーマとしてやってます。自分のお金を使って買ってもらう。それには買う理由が必要じゃないですか。
仕事に着る、デートに着る、子どもの世話をするときに着る。そうした日常のありふれた目的を持って選んでもらえる服を目指しているといいます。いわゆるYシャツを作るイメージは全くないと久保社長は話します。
商品はTシャツでもYシャツでもなく、襟とボタンのついたシャツです。買った理由について、片山さんは触った瞬間や着た瞬間の感覚を挙げます。
触った瞬間とか着た瞬間、なんかしっくりくるというか、めっちゃいいっていう感覚なんですよ。手触りとかが。
着た瞬間にすごい最高な気分ですね。
ブランド名を生んだ「点字」という勘違い
MANUAL ALPHABETという名前の由来には、久保社長自身の勘違いが関わっています。ブランド名を考えていたとき、辞書で「マニュアルアルファベット」という言葉を見つけたといいます。
マニュアルアルファベットっていう言葉が辞書を引いてたら出てきてね。僕も早とちりで、パッと見て点字やって(思った)。
久保社長は、これを「触ってわかる服を作りたい」というメッセージに結びつけました。目に見えるおしゃれではなく、触れてわかるものという発想です。
ところが本来の意味は点字ではありませんでした。「マニュアル(手作業)」と「アルファベット」を掛け合わせ、手で作るものがコレクションになればという思いも込めていたといいます。
本当の意味を知ったのは、新町店を出すときにデザイン事務所のグラフに依頼したときでした。指文字(ハンドサイン)だと初めて指摘されたのです。
それが15年経った後ですわ。それが分かった。
久保社長は、意味を知った後も名前を変えませんでした。「もうこれで生きてるんやから」と、点字という言葉は使わなくなったものの、触ってわかる服という最初の思いは残しています。
ブランドってみんなそんなもんだよね。思いと(勘違いと)。
なぜTシャツではなくシャツから始めたのか
アパレルブランドの多くはTシャツから始めるなか、久保社長はなぜシャツを選んだのか。片山さんはその点を気にかけます。
久保社長は前職のハスコエンタープライズで、スケートボードやサーフボードなど横乗り系のアパレル事業部を任されていました。そこで出会ったのが、鶴橋のセレクトショップ「ナルー」の谷井さんです。
谷井さんとブランドを作っていくうちに、次シャツやりません?って言われて。シャツって何なんですか?って聞いたら、シャツってクロージングなんですよと。
クロージングとは何かと尋ねると、生地、縫製、パターンをすべてわかって初めて作れるものだと説明されたといいます。それまでイメージやかっこよさを先行させてきた久保社長にとって、この言葉はピンと来るものでした。
当時は挑戦してもうまくいかなかったものの、この言葉はずっと引っかかっていたといいます。そして独立するとき、シャツでやろうと決めました。
専務の実家がシャツメーカーだった縁
複雑なシャツづくりを、どうやって覚えていったのか。ここにも縁がありました。久保社長と一緒にスタートした専務の金田光宏さんの実家が、代々シャツのメーカーだったのです。
彼の実家が数代にわたってずっとシャツのメーカーなんです。生地から縫製まで全部自分たちで物作りしてたんですね。その背景を使わせてもらってできた。
その工場が作っていたのは、いわゆる百貨店で扱うような「アダルト」のシャツでした。久保社長は、父の日に贈るシャツや仕事で着るワイシャツのようなものだと説明します。
この工場はドレスシャツを作る工場でしたが、MANUAL ALPHABETはそこでカジュアルなものを作りました。分野が違うため、試行錯誤しながら今のシャツにたどり着いたことが、一つの肝だといいます。
久保社長によれば、カジュアルの工場とドレスの工場は似て非なるものです。職人が持つ伝統的な作り方に対して、もう少しこうしてほしいという要望を伝えるのは簡単ではなく、そのやり取りの中から今のシャツが生まれたと話します。
削られて削られて残った、引き算のものづくり
アクションスポーツ出身の久保社長が、なぜミニマルなデザインにたどり着いたのか。片山さんはその結びつきに疑問を投げかけます。
転機は、アーバンリサーチのオリジナルを手がけるようになったときでした。あるディレクターとのものづくりで、久保社長は自分の提案を次々に削られる経験をします。
(ディレクターが)これいらん、これいらんみたいな感じで、これはやめとき、取りましょう、取りましょうみたいな。名前も取られて、オリジナルボタンも取られて。
提案を削られることに、デザインする側として悔しさもあったと久保社長は振り返ります。ところが、削ってやると売れて、リピートもよく来たといいます。
削られて削られて残ったものが、ただ生地と縫製、生地と形、スタイルに関してはものすごくこだわってましたね。
この経験について、片山さんは重要な指摘をします。最初からシンプルなものを作っていたら、今の答えにはたどり着かなかったのではないかという見方です。
様々なアイデアがあって、これいらん、あれいらんって削られて削られていったからこそ、今の正解がここにバシッと固まったっていうのってないですか?
久保社長はこの見方に納得します。あれもしたい、これもしたいというアイデアを盛り込んでいた時期を経て、「シャツとはこれでいい」という考えにたどり着いたのです。それは最初に聞いた「クロージング」という言葉につながっていました。
シャツだけでコレクションを組み、アイデアを盛り込んで作っていた時期
削られて磨かれ、生地・縫製・形にこだわった引き算のシャツにたどり着いた
20年以上の積み重ねの中で、当時と今ではシャツが全く違うと久保社長は話します。削いでいくほど本質が前に出るという感覚は、今もより強くなっているといいます。
試着が購買につながる、新町店の店舗体験
MANUAL ALPHABETの服は、写真だけでは魅力が伝わりにくいものです。触れてもらう機会をどう作るかが課題になります。久保社長は、もともと卸がメインで全国に卸先があり、そこで広めてもらってオンラインにつながっていると説明します。
片山さんは、Benさんの出演の挨拶を兼ねて新町店を訪れました。当初は2点だけ買うつもりだったといいます。ところが、試着を重ねるうちに購買意欲が上がっていきました。
試着を重ねると、あれいいな、これいいなってめっちゃなっていくんですよ。これ信じられないぐらい。
結果として、片山さんが購入したのは5点でした。触れて試着してもらう店舗体験が、購買につながる仕組みそのものです。
Benさんは、この服が海外で褒められると話します。全然知らない人でも、道を歩いているだけで声をかけられるといいます。
特に海外に行ったらすぐ褒められますよ。全然知らない人でも、普通に道歩いてても、これちょっと日本ぽい服ですねと。
その日本らしさは、和柄のようなわかりやすいものではありません。久保社長は、海外の人はシルエットや縫製の丁寧さといった別のところを見ていると考えています。
日本らしさって、シルエットも含めて縫製の丁寧さとか、ちゃんと見てる人は見てると思います。
阪急でのポップアップストアでは、外国人客が多く購入していったといいます。海外の人にとっては価格が控えめな面もありますが、触った感じとシルエットが選ばれた理由だと語られました。
足す前にまず削る、というブランディング
MCの中島さんは、番組コーナー「ナカジマノート」で、この回の話を整理します。積み重ねてきたものと引き算していくもの、そしてクロージングを追求する姿勢のバランスに魅力を感じたと語ります。
久保社長は、流行を無視しているわけではないと補足します。シルエットや素材感といった形の部分は、毎年アップデートしているといいます。裾の形やシルエットを1センチ単位で調整するなど、常に追求している点です。
このアップデートが、リピーターを生みます。片山さんは、少しずつ違うからこそ、毎シーズン3、4枚は買ってしまうと話します。
ちょっとずつ違うっていう話をされたじゃないですか。多分毎年毎シーズン3、4枚絶対買うんですよ。
一方で、久保社長は同じシャツを探しに来る年配の客の話も紹介します。素材がもう手に入らず、同じものは作れないケースもあるといいます。
その人はいろいろ着せて、その時は買ったけど、これを自分の中に消化して納得してまた買いに来るとも言ってました。
片山さんは、これを「お客さんに合わさせている」と表現します。ブランドの進化にお客の価値観の方がついてくる、健全な関係だといいます。押し付けではなく、静かに納得させる接客が背景にあると片山さんは見ています。
この回はここまでで前編です。後編では、見えないところになぜそこまで手間をかけられるのか、という点にフォーカスして掘り下げていきます。
まとめ
MANUAL ALPHABETは、勘違いから生まれた名前と「触ればわかる服」という原点を軸に、削られて磨かれた引き算のものづくりで選ばれ続けています。触れて試着してもらう店舗体験と、毎シーズンのシルエットのアップデートが、リピートと海外での評価を支えていました。
- ブランドの原点は「大人が楽しめるシャツ」と「触ればわかる服」というコンセプト
- ブランド名は点字という勘違いから生まれ、意味を知った後も思いとして受け継がれている
- シャツは生地・縫製・パターンをすべて理解して作る「クロージング」という考えに基づく
- アイデアを削られる経験を経て、引き算のミニマルなものづくりにたどり着いた
- 写真では伝わりにくい魅力を、試着できる店舗体験で購買につなげている






