国産シャツを縫うのは、五島列島と枚方の熟練職人
後編のテーマは、前編で語られた「手間暇をかけて長くシャツを作ること」を、どうやって実現しているのかという仕組みの話です。
番組では、アパレルの生産拠点が海外に移るなかで、MANUAL ALPHABETが国産にこだわる理由から掘り下げていきました。
生産の拠点が結構海外の方に移って、今日本の産業ってどうなん?っていう話もあるらしいんですけど、(MANUAL ALPHABETは)国産にこだわってるっていうところで、どういうふうにやられてるのかなっていうのは気になった。
久保社長は、工場自体が少なくなっているため国産を続けるのは難しいと認めつつ、実際に日本国内の工場でシャツを作っていると話します。
メインのシャツを縫うのは、大阪・枚方の金井製糸工場と、長崎・五島列島の工場です。五島の工場は、日本人だけで動かしていると言います。
(五島の工場は)もともとそのシャツをメインにしてた大きい工場だったんですけども、ちょっと縮小して、今はこぢんまり言うてもそれなりの数はやってる。
どんな雰囲気の工場かと問われると、久保社長は「もう町工場みたいな感じ」と表現します。働くのは長年同じ工程を続けてきた職人たちです。
同じ工程をやってるんで、もう言うたら熟練した技術者です。
最年少がおよそ65歳という話も出ました。久保社長自身「間違ってたらごめんね」と前置きしつつ、その熟練の技術がMANUAL ALPHABETのシャツの品質を支えていると語りました。
工場に丸投げしない──「自分たちでオペレーションする」理由
MANUAL ALPHABETの仕事の大半は生産だと久保社長は言います。企画から生地屋との打ち合わせ、付属品、パターン、そして工場への工程の指示まで、自社で組み立てています。
企画からスタートして、生地屋さんと打ち合わせして、生地屋さんから提案もらって、付属屋さんとも話をして、パタンナーと打ち合わせして、工場にその工程を伝えてやってます。
これはコスパの悪いやり方に見えるかもしれません。多くの企業はコストを取って海外工場へ丸投げする、と番組は指摘します。しかしMANUAL ALPHABETはそうしません。
逆に国産で丸投げしてしまうと、もう全部そこが一緒くたになってますじゃないですか。僕らは自分たちでオペレーションすることによってコストを下げれてる。
つまり、自分たちで生産を組み立てることが、国産でありながらコストを抑える手段になっているという逆転の発想です。片山は、これを建築のDIYの感覚に近いと重ねました。
重要なところに関してはプロの職人を入れながらも、様々なことをDIYで何ができるのかなっていうところが(MANUAL ALPHABETの話に)近い。
ここで話題は「誰がデザインしたのか」というブランドの根幹に移ります。久保社長の答えは、特定の一人ではなくチーム全員でした。
営業も自分たちでする、ものづくりも自分たちでするっていうスタンスなんで、うちのMANUAL ALPHABETのブランド事業部の全員でやってます。
クリエイティブディレクターではなく「アーキテクト」
片山は、久保社長の話を聞いて、社長自身が「アーキテクト(設計者)」なのだと感じたと語ります。ファッションの文脈でいうクリエイティブディレクターに当たる存在です。
久保社長そのものが設計者であり、空気感を作った張本人だから、クリエイティブディレクターは久保社長なんですよ。
久保社長は、長年一緒にやってきたスタッフとの間に、その空気感が共有されていると応じます。
ずっと長年一緒にやってきて、その空気感っていうのは共通している部分はあるでしょうね。
番組では、立ち上げから20年が経ったことにも触れました。当時はシャツブランドが数多くあり、多くが姿を消していったなかで、生き残れた理由を尋ねます。
シャツとはみたいなのに固執してないのが大きいかもしれないですね。
作るアイテムはシャツでも、「この生地がシャツになったらどうなるか」という物づくりの視点を大事にしてきたと言います。製品染めや、芯を柔らかくする工夫などがその例です。
アウトドアのNANGAと、街で着るダウンをつくる
続いて話題は、国産ダウンメーカーNANGAとのコラボレーションへ。始まったのはおよそ10年前です。
片山は、アウトドアのイメージが強いNANGAと、ミニマルでスタイリッシュなMANUAL ALPHABETの組み合わせを意外に感じたと話します。
アウトドアイメージのNANGAさんと、ミニマルでスタイリッシュなMANUAL ALPHABETさんがコラボするっていうのは面白い。
きっかけは、スタッフが持ち込んだ「ダウンをやりましょう」という提案でした。アウターに力を入れたかったこと、そしてNANGAが日本製であることがマッチしてスタートしたと言います。
ただ、そのまま組み合わせるだけでは面白くない。そこで久保社長たちは、NANGAにはないデザインソースを加えました。
(コラボを)スタートした時はそこにNANGAにないようなデザインソースを入れようと思って、街で着るミリタリーっていうのをコンセプトに作りました。
売れ行きは「めちゃめちゃ良かった」とのこと。久保社長は、NANGAの成長を目の当たりにするなかで、物づくりへの真摯な取り組みが勉強になったと振り返ります。
ナンガさんの成長はやっぱり目の当たりに見てきたので、ものづくりに対しての真摯な取り組みは勉強になりましたね。
「BOROUGH」──ダウン量まで計算した街着の設計
現在も続くコラボの中心が「BOROUGH」というシリーズです。名前の意味を、モデルのBenjaminさんが説明しました。
(BOROUGHは)街の意味ですね。シティで、なんかすごい都会的なイメージありますね。
Benjaminさんは、ニューヨークの5つの区(ファイブ・バラ)を思わせる、都会的で洗練されたイメージだと語ります。アウトドアブランドNANGAのイメージだけでは成り立たない仕上がりです。
番組では、片山が収録中にオンラインショップを開いてダウンの色を選んでいたことがばれる一幕もありました。ショート丈とミッド丈の2型があり、そのサイズ展開の理由へ話が及びます。
ショートとミッドのサイズ(丈)があるじゃないですか。これめっちゃ迷うポイントじゃないですか?なぜツーパターン出してるのか。
久保社長は、このBOROUGHが「街で着るダウン」として、だいぶ計算して作られたものだと明かします。
ダウンは暖かさが最重要ですが、街で着ると暑すぎる。そこでダウンの量にこだわって調整したと言います。さらに、ダウンパックをあえて大きくすることで、シルエットを整えているのがポイントです。
ダウンパックもあえて大きくするんですよ。上のダウンが下に落ちるんですよ。だから肩のシルエットがめちゃめちゃ綺麗に見えるんですよ。
この量の調整やダウンパックの大きさは、NANGAとかなりこだわって決めたものだと言います。片山は「これもまたアーキテクトだ」と重ねました。
暖かさを最優先し、ダウンをしっかり詰める
街で快適に着られるようダウン量を調整し、ダウンパックを大きくしてシルエットを整える
コラボの条件と、続けるための現実
コラボはそんなに多くするものかと問われると、久保社長は「あんましてないです」と答えます。生産数も大きくはないものの、ソールドアウトするなど順調です。
番組では、ブランドの信念やブランディングに沿わなければコラボはできないのか、という問いも投げかけられました。久保社長は「かっこよく言えばそうですよね」と受けます。
片山は、以前の回で話したシューズブランドの例を持ち出します。有名ブランドとコラボを重ねた結果、人気を落としていったという話です。
ただ単に有名ブランドとコラボしましたよ、じゃあもうダメで。そこ(靴のブランド)に久保さんみたいなアーキテクトがいなかったんだよね、きっと。
一方で久保社長は、コラボの目的はブランドによって様々だとも補足します。1つで儲けるというより、ブランドの価値観を上げる相乗効果を狙う場合もあると言います。
社長が「一番大事」と言った財務基盤
番組は、ブランドを続ける上で経営者として一番大事にしていることを尋ねました。久保社長の答えは、理念でもデザインでもなく、財務の基盤でした。
中小企業にとって一番大切なのは、当然会社の理念とかいろいろありますけども、僕はやっぱり財務の基盤やと思いますね。これがしっかりしてないとやりたいこともできないですし、取引先にも迷惑かけますし。
片山は、ファッションブランドの社長が財務をしっかり語れることのすごさを強調します。中小規模のアパレルが出ては潰れを繰り返すなかで、MANUAL ALPHABETは続いてきました。
久保社長は、メーカーと工場ではお金の回り方がまったく違うと説明します。生地を仕入れ、工場に工賃を支払い、物を納めてから、ようやく代金を回収できるからです。
ってことは、もうお金のリードタイムがものすごく長いわけです。製造業みたいなもんなんですよ、僕らはね。
だからこそ、その間を支える財務基盤が大切になります。久保社長は、中小企業のスポンサーは銀行であり、その付き合い方が重要だと語ります。
リード타임が長く、必要な額が何億にもなると、信用保証協会の枠内だけでは賄えなくなります。そこで銀行からプロパー短期の融資や枠を確保する必要が出てきます。
そのためには、決算をしっかり組み立て、短期・中期のビジョンを示して交渉に臨むことが欠かせないと久保社長は言います。
決算をしっかり組み立てて、次の短期であったり中期であったり、ビジョンをしっかり組み立てて、カンファレンスができないとお金は来ないですよね。
華やかに見えるブランドの裏にある、現実的で泥臭い部分。片山はその重みを噛みしめます。
誠実に組み立てる人──10年のつながりが語ること
モデルのBenjaminさんと久保社長の付き合いも、およそ10年になります。前編で久保社長がBenjaminさんを「ナイスガイ」と紹介していたことに触れつつ、久保社長の人柄へ話が向かいました。
(久保さんは)すごい良かったですよ。すぐ仲良くなる。バー来てくれてね、お酒飲みながらすごい話があって。
2人は一緒に海外へ行き、ポートランドにあるBenjaminさんの家族のもとも訪ねたと言います。ビジネスの枠を超えたつながりがうかがえます。
保呂田は、ブランドを立ち上げ、財務まで見る久保社長の姿から、「思うよりやっぱり真面目じゃないとあかんな」と感想を述べました。
MCの中島も、アパレルは華やかでセンスが必要という印象に目が行きがちだが、実際は誠実に続けていくことが肝だと受け止めます。
だからクリエイティブディレクターじゃなくてアーキテクトだって思ったんですよ。誠実に組み立てて設計をして、チームを組んで、サプライチェーンを守って、全体を守るための財源もしっかり徹底されている。
後編は、前編の「触ればわかる服の良さ」とは雰囲気を変え、地に足のついた、どっしりとした話が中心となりました。
まとめ
MANUAL ALPHABETが20年続いてきた背景には、国産の熟練職人による生産を自社で組み立てる姿勢、価値観の合うコラボ、そして華やかさの裏で徹底される財務基盤がありました。久保社長は、ブランドを守るために自ら設計する「アーキテクト」として語られています。
- メインのシャツは大阪・枚方と長崎・五島列島の国内工場で、熟練職人が縫っている
- 工場へ丸投げせず自社でオペレーションすることで、国産でもコストを抑えている
- NANGAとの約10年のコラボ「BOROUGH」は、街で着るためダウン量まで調整して設計された
- コラボは価値観が合うことが条件で、数を重ねればよいというものではない
- 久保社長が経営で一番大事にするのは財務基盤で、長いリードタイムを支える銀行との関係づくりが欠かせない






