若いうちの苦労は伏線になる──点を打ち続けることで、未来に線が引ける
アル株式会社代表のけんすう氏が、毎週火曜から金曜の朝に配信しているライブ番組「けんすうスピーク」。今回は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という古い言葉を、四十代を迎えた立場から改めて捉え直す回。経験を点として打ち続けることで、後から線として回収できるという話題を中心に、AI時代のキャリア観や転職、起業家のプライベートまで幅広く語られました。その内容をまとめます。
若いうちの経験は「点」、後から「線」として回収される
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」とおじさんに言われると、若い頃は「うるせえ」と思いがちです。けんすう氏自身もそう感じていたといいます。しかし四十代になって振り返ると、十代・二十代・三十代の頃の苦労や経験が、すべて伏線として回収されていく感覚があるそうです。
勉強を頑張った、嫌だけどやった、辛い経験をした、恥ずかしい思いをした、人に裏切られた──そうした出来事が今の仕事や生活の糧、家庭を築く土台になっているという声を周囲からもよく聞くといいます。逆に、若いうちに苦労や悲しい経験を避けようとしていた人は、伏線が少ないため線として繋がっていきにくいのではないか、というのがけんすう氏の見立てです。
辛いこと・経験が「点」として無数にある
勉強、苦労、趣味、失敗、出会い、ハマったもの……
後年、点同士をつなげて「線」にできる
仕事・人間関係・新しいサービスとして回収される
辛いことが一つだけだと「点」のままで線にはなりませんが、三つほどあるとつなげて線にできる。点が無数にあれば、引ける線も増えていく──というイメージです。
けんすう氏自身の例として挙げられたのが、子供の頃にビックリマンシールロッテが1977年から販売するチョコレート菓子のおまけシール。1980年代後半に「悪魔VS天使」シリーズで社会現象的な大ブームを巻き起こした。にハマった経験、漫画にハマった経験、大学時代にウェブサービスを作った経験。これらが後に「ビックリマンAI名刺メーカー」という、ロッテとのコラボサービスにつながり、ビックリマン愛・ウェブサービスの知見・IPビジネスキャラクターや作品などの知的財産(Intellectual Property)を活用したビジネス。ライセンス供与やコラボ商品開発などが代表的。・AIの活用が一本の線になって大ヒットしました。
予測できない時代だからこそ、点を多く打つ
「将来どんな線を引けばいいか」は時代によって変わるので、予測は基本的に不可能です。大谷翔平岩手県出身のプロ野球選手。MLBで投打二刀流として活躍。小学生の頃から野球に打ち込んできたことが知られている。のように小さい頃から一本道で成功する人を見ると、「早くやりたいことを見つけなきゃ」と焦りがちですが、それは特殊な例。多くの人は十代から三十代までに無数の点を打ち、後から「この線が引けるな」と気づくスタイルの方が現実的だといいます。
けんすう氏自身、5年前にここまでAIが急速に普及し世界が根底から変わるとは予測できなかったといいます。AIによる変革は単なる技術革新の範囲を超え、民主主義や資本主義、人権、倫理、家族観、生命観まで根本から変える可能性がある。そうした変革の時代において、二十代・三十代の段階で「正解の線」を設計するのは無理だが、点をたくさん作っておくことなら誰でもできる、という考え方です。
伏線にならない点もある?けんすう氏の実体験
「現時点で伏線になっていない若い頃の失敗はある?」というリスナーの問いに対し、けんすう氏は「無数にある」と答えています。たまたまその線になっただけで、使っていない点も多数残っているといいます。ただ、いつ突然それが線として使えるようになるかわからないのが面白いところ。例えば過去に連載していた雑誌の編集部の人と、半年後にたまたま仕事でつながる、といったことがよく起きるそうです。
使ってない点もあるんだが、いきなりそれが線として使えるみたいなことがあるんですよね。
趣味の話としては、大学時代に友達の影響でモーニング娘。1997年に結成されたハロー!プロジェクト所属の女性アイドルグループ。プロデューサーはつんく♂氏。メンバーが入れ替わる「期」のシステムが特徴。に少しハマっていた経験が、後につんく♂シャ乱Q のボーカルとして活動後、モーニング娘。などハロー!プロジェクトの楽曲プロデュースを手掛ける音楽プロデューサー・作詞作曲家。氏と知り合った際、「五期と六期の頃ってこうでしたよね」と解像度の高い会話ができることに直結しているといいます。LINEでつんく♂氏と盛り上がれる、というのは確かに具体的な「線」の回収例です。
節操なく変化することの強さ
二十代でエンジニアという天職を見つけて成功した人が、三十代・四十代で時代の変化に合わせて方向転換できず、パッとしなくなる──そんなケースが結構あるといいます。「自分の中ではこれが最短距離」と思い込んでしまうと、軌道修正が効かなくなるのです。
逆に、けんすう氏が「上手い」と評価するのがイケハヤ本名・井川啓央。ブロガーとして注目を集めた後、YouTube、NFT、AIアニメ、アプリ開発と次々と活動領域を変えている起業家・インフルエンサー。氏のスタイル。ブログで一発当てた後、ブロガーに固執せずYouTube、NFT、AIアニメ、アプリ開発と次々に乗り換えていく。一見「節操ない」「流行りに飛びついている」と見えるかもしれませんが、実はYouTube時代の動画編集スキルがアニメ作りに活きるなど、点同士が線として繋がっているわけです。
転職・休職・キャリアの考え方
今の仕事に不満が溜まり転職活動を考えています。AI時代、これからの転職活動やキャリアはどう変わっていくのでしょうか?
けんすう氏は、AI時代における採用基準の変化スピードに注意を促します。半年・1年ごとに採用基準は大きく変わっており、経営者同士の会話でも「こういう人材が欲しい」から「今は採用をやめた方がいい」まで温度感が高速で変動しているといいます。
つまり「自分の不満が溜まったから」というタイミングだけで動くと、たまたま市場が悪い時期に当たってしまう可能性があります。変化が早い時代こそ、自分の都合より外部環境の動きを見て動くべき、というアドバイスです。
仕事上のトラブルがきっかけで休職し、復帰したものの再度休職してしまいました。修復は難しい場合、けんすうさんならどう人間関係を再構築しますか?
「転職一択」というのがけんすう氏の答えです。日本人は所属意識が強く、こじれた職場を修復しようとしがちですが、マイナスからゼロに戻すのに膨大な工数がかかる割に、ゼロに戻ったところでプラスにはならない。アメリカ的に「所詮仕事」と割り切る方が健全だといいます。
2回も休職するのは異常事態であり、職場側からも「使いづらい」と思われている可能性が高い。その状態で復帰してもいい環境にならず、パフォーマンスも出ず、より厳しい目で見られる──という悪循環に陥りやすいとのこと。
起業家のプライベートとライフバランス
起業家たるもの、同窓会には行かない方がいいですか?どこまでプライベートを削るべきですか?
けんすう氏の答えはシンプルで「自由」。同窓会で2時間過ごしても事業内容は変わらないし、逆に昔の人と再会して仕事につながることもある。実際、けんすう氏の周りには「いつ仕事しているの?」というほど遊んでいるのに、いい経営成績を出している経営者も多数いるそうです。今もワールドカップを観に1ヶ月海外に滞在している経営者もいる中、けんすう氏自身は遊ばず仕事をしているけれど「経営成績が特別良いわけでもない」と自嘲気味に語っています。
遊ぶ時間を全部削ってまでやってるのでうまくいってますって人もいれば、全然遊んでるけどうまくいってますっていう人もいる。
AI時代に若手は不利になる?
少子化で「若い人はチャンス」という見方に対し、けんすう氏は懐疑的です。これまでの20〜30年、デジタル系の新技術が出るたびに若い人の方が圧倒的に有利でした。InstagramやTikTokに詳しい二十代がマーケティング部長になる、というケースも珍しくありませんでした。
しかしAIに関しては事情が違うといいます。AIは経験値やマネジメントスキルとの相性がよく、中年以降の人材の方がむしろ有利になる場面が増えてきている。50代がAIを使ってこれまで若手の仕事だったものを作ってしまえる時代になっているのです。
新技術への適応力で若手が有利
SNSの感覚値で二十代が部長に
経験値・マネジメント力との相性が良い
中年以降の人の方が有利な場面も増加
仕事へのフルコミットと複利の話
若いうちは仕事にフルコミットした方がいいと思いますか?
けんすう氏の答えは「仕事でも趣味でも何でもいいから、エネルギーがあるうちにたくさんいろんなことをやっておく方がいい」というもの。特に二十代から三十代後半までに死ぬほど働いた人は、その経験値が複利として積み重なり、四十代以降に圧倒的な強さを発揮するといいます。
逆にワークライフバランスを重視して二十代を過ごすと、三十代後半以降に若手との競争で負けやすくなる。先に種をまいておくと、四十代でワールドカップを観に1ヶ月海外に行きながら仕事もバリバリこなせる──という人になりやすいといいます。
まとめ
「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という古い言葉を、けんすう氏は「点をたくさん打って、後で線として伏線回収する」というモデルに置き換えました。AIによる急激な社会変革で未来は予測不可能。だからこそ、若いうちに最短距離を引こうとせず、無数の点を打っておくことが、後の選択肢の広さにつながるという考え方です。
同じ場所で同じ経験ばかりを積むと点の距離が近すぎて、長い線が引けません。離れた場所に点を打つこと、ピボットできる柔軟性を持つこと、不安を解消する手段として「動かない」を選ばないこと──これらが、変化の激しい時代を生き抜くための実践的なアドバイスとして語られた回でした。
- 若いうちの苦労や経験は「点」として残り、四十代以降に「線」として回収されていく
- 未来は予測不可能だからこそ、最短距離を引こうとせず点を多く打つことが有利
- 辛い経験が3つあれば線になる。点が無数にあるほど引ける線の数も増える
- 節操なく時代に合わせて変化することは強さであり、過去の経験が新領域で活きる
- 休職を繰り返すような職場は修復より転職。マイナスからゼロに戻すコストは膨大
- AI時代は経験値とマネジメント力が活きるため、必ずしも若手が有利とは限らない
- 若いうちに仕事や趣味にフルコミットすれば、複利として長期的に効いてくる
