ローマ教皇が警告した「二級人間」の誕生
ローマ教皇ローマ・カトリック教会の最高位の聖職者。世界に約14億人いるとされるカトリック信者の精神的指導者で、政治・倫理問題への発言は国際的な影響力を持つ。レオ十四世が、つい先日「Magnificat Humanitasラテン語で「人類を讃える」といった意味合いの文書。教皇による教説や声明のタイトルとして用いられる。」という声明を発表しました。資本主義や反移民政策など幅広いテーマに触れた内容で、評判も上々のようです。けんすう氏は、Forbes JAPANの紹介記事を読んで興味を持ったとのこと。
声明のなかでも特に印象的なのが、「AI経済は奴隷制社会に類似している」「二級の人間を生み出すことになる」という強い警告です。
教皇は、現代社会をバベルの塔人類の傲慢と分断を象徴する寓話として、しばしば資本主義や技術文明への批判に引用される。になぞらえています。けんすう氏は、これを貧困層とエリート層の経済格差への警告と読み解きます。両者が共通の言語を失い、互いに共感できなくなる──それが「二級人間」が生まれる構造だというわけです。
テック企業が政府を超える時代
声明の核にある問題意識は、「テック企業が政府よりも強くなっている」という点です。けんすう氏は、これがここ20〜30年の大きなテーマだと指摘します。
かつて第二次世界大戦の頃は、技術革新といえば国家主導で起きるものでした。しかし今や、社会を変える技術革新はGoogle検索、Android、Google Cloud、Geminiなど世界最大級のテクノロジー企業。親会社はAlphabet。やOpenAIChatGPTを開発したAI企業。生成AIブームを牽引している。などの民間企業が起こしています。
国家主導
軍事研究・公的機関がイノベーションを牽引
ビッグテック主導
Google・Meta・Apple・OpenAIが社会を動かす
象徴的な例として、けんすう氏はStarlinkイーロン・マスク率いるSpaceXが運営する衛星インターネットサービス。ウクライナでの戦争で軍事通信インフラとしても使われ、その影響力が注目された。を挙げます。イーロン・マスク氏がスイッチを切れば、ウクライナ・ロシア戦争の通信状況が一変するほどの影響力を、一企業が持っているのが現代です。
Google Healthが示す「無自覚な統制」
けんすう氏が「これはあり得る」と実感を込めて語ったのが、AIによる健康管理の話です。氏はFitbit手首に装着するウェアラブル端末。心拍数や睡眠の質を測定する。Googleが買収しており、現在はGoogle Healthの一部となっている。のAirという端末を装着し、Google Healthのアドバイスに沿って生活しています。
AIが食事や運動をアドバイス
「くるみを四粒食べてください」など具体的な指示
体調・腸内環境の改善
身体が整い、気分も明るくなる
人間関係・人生がハッピーに
連鎖的に生活全体が変わっていく
問題は、この「人生を変える指示」を出しているのが、政府でも公的機関でもなく、アメリカの一企業であることだとけんすう氏は指摘します。企業は当然、お金が儲かる方向に最適化していきます。
恐ろしいのは、これが権力として意識されないことです。「くるみを四粒食べた」という行動は、明らかにGoogleの指示によって発生したものなのに、本人はGoogleの権力下で生きている感覚を持ちません。気づかぬうちにアルゴリズムが政治信条にまで影響を及ぼす可能性がある──けんすう氏はそう指摘します。
そして、こうしたAI活用ができる人とできない人の間で、すでに格差が生まれつつあるとも言います。中小企業のなかには「AIを全然使っていない」ところもあれば、バリバリに使いこなすところもある。これは知能格差に直結する違いです。
AI兵器と新しい戦争の段階
声明のなかでもう一つ重要なテーマが、AI搭載兵器の使用です。すでにウクライナではドローン兵器が実戦投入されており、無人で攻撃が可能な段階に入っています。
戦争は新たな段階に突入しつつあり、しかもその技術を主導するのは民間企業。これがさまざまな倫理的・政治的な問題を生むだろうとけんすう氏は予測します。
けんすう氏は、雑談パートでもこのテーマに触れています。AIが「向こうが撃つ前にこちらが撃つべき」と判断する可能性は否定できず、キューバ危機1962年、米ソが核戦争寸前まで対立した冷戦下の事件。一歩間違えれば人類滅亡という状況だった。のような瀬戸際が、AIによってまた起こりうるという見立てです。
分断は加速するのか
リスナーから「コロナ以降、分断を煽るニュースが増えた」というコメントがあり、けんすう氏もこれに同意します。2000年代には「インターネットが普及すればフラットで平等な社会になるかもしれない」と思われていましたが、現実は逆でした。
いろんな人の意見が交わり、社会はフラットで平等になるはず
アルゴリズムによって分断が加速。エコーチェンバーが社会を分ける
そして次はAIによってどうなるかも未知数です。奴隷制のような構造になるかもという指摘は、決して大げさではないとけんすう氏は語ります。
すでに今でも、コンビニや保育士など社会インフラを支える人たちの給料は決して高くない一方、トップ層は莫大なお金を簡単に稼げる構造ができています。「奴隷制」というと露骨ですが、お金持ちが有利になり続ける仕組みであることは確かで、「それは本当に自由なのか」という問いが浮かび上がります。
リスナーからの「ビッグテックがパワーを持っているのに、それに無自覚なのが怖い」という感想にも、けんすう氏は強く同意します。だからこそ人文知やメタ認知、メタスキルが重要になるのです。認知が麻痺すると、知らぬ間に危険なことに加担してしまう──これは教皇の警告とも響き合うテーマです。
まとめ
ローマ教皇レオ十四世の声明は、AI時代の社会構造を「バベルの塔」と「奴隷制」というキリスト教的・歴史的なメタファーで切り取った点で、極めて挑戦的なメッセージです。けんすう氏が読み解いたのは、これがビッグテックという「権力」への根本的な批判であり、しかもその権力が私たち自身に意識されないまま行動を変えているという二重の問題でした。
AIで健康になることは、幸せを増やすかもしれません。しかしその「幸せ」を設計しているのが誰なのか、その方向に進むことが本当に自分の意思なのか──そう問い直すことこそが、二級人間にならないための第一歩なのかもしれません。
- ローマ教皇レオ十四世が「AI経済は奴隷制社会に類似し、二級人間を生む」と警告
- テック企業が政府を超える権力を持ち始めており、教皇はそれをバベルの塔の構造になぞらえている
- Google Healthのように、AIによる生活改善は意識されない権力として作用する
- AI活用の有無は知能格差につながり、考え方や生活の質に大きな差を生む
- 無自覚に操作されないために、メタ認知やメタスキルが今後ますます重要になる
