なぜ33歳の映画ライターは今ファーストガンダムを観たのか
この回のゲストは、映画ライターの島崎ひろきさんです。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』で初めてガンダムに触れた島崎さんが、1979年放送のファーストガンダム全43話を観終えたばかりのタイミングで収録されました。
(GQuuuuuuXの)テレビ版が始まる予習の間に見たわけでしょ。これ見ようと思ったきっかけって何だったんですか?
島崎さんは、『GQuuuuuuX』を「1作目のガンダムに誘導する作品としてめちゃくちゃよくできている」と評価しています。前半で初代ガンダムの世界を描き、後半ではシャアを探すシャリア・ブルの視線や、キラキラを求めるマチュの視線が、すべてファーストガンダムに向けられているという見立てです。
偽物があふれる『GQuuuuuuX』の世界で、主人公たちが探す「本物」がファーストガンダムだと速水さんが確認すると、島崎さんはうなずきます。劇場を出た島崎さんは、名作だと聞いていた作品を観る「タイミングが来た」と感じたそうです。
1979年前後の作品として、島崎さんは『ルパン三世 カリオストロの城』や『地獄の黙示録』を挙げ、速水さんは『太陽を盗んだ男』を挙げます。ただし島崎さんは、70年代の長尺テレビアニメシリーズを観た経験がほとんどなく、ファーストガンダムを観るには「見方のチューニング」が必要だったと話しています。
島崎さんは1992年生まれの33歳で、本人によれば『ガンダムSEED ── 2002年に放送が始まった『機動戦士ガンダムSEED』。2000年代に10代を迎えた世代にとって代表的なガンダム作品とされます』の直撃世代です。それでもSEEDも、エヴァンゲリオンも、『水星の魔女』も観ていませんでした。
そんな島崎さんが『GQuuuuuuX』を観たのは、スタジオカラー ── 庵野秀明が設立したアニメ制作会社。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどを手がけ、『GQuuuuuuX』の制作にも参加しています作品は毎回初日に観に行くと決めているからでした。予告から「ここから入っても大丈夫そう」と感じて初日に足を運び、そこからファーストガンダムにたどり着いたといいます。
「下劣な人間が一人も出てこない」戦争アニメ
ファーストガンダムを観る前の島崎さんは、ジオンを極悪非道な悪の軍団、仮面ライダーの敵のような存在だと思っていました。実際に観ると、その予想はまったく違っていたそうです。
島崎さんが最初に感動したのは、ファーストガンダムの戦争描写に下劣な人間が一人も出てこないという点でした。登場人物はみな軍人として何かしらのポリシーを持ち、戦争に勝とうとして戦略的に動いています。
島崎さんによれば、愚かな人間がいたから悲惨な事態が起きた、という言い訳を作品が一切していません。だからこそ逆に救いがない、というのが島崎さんの受け止めです。
島崎さんがそれに気づいたきっかけは、ガンダムが「強すぎる」ことでした。ガンダムの強さが意図的に高く設定され、やられる側のジオン兵のリアクションまで悲惨に描かれているため、ガンダムを素直な味方として観られなくなったといいます。
一気に13機やられたみたいな。あの辺はもう(ガンダムが)ガンダムやばいって話だからね。
さらに島崎さんは、ジオンに第二次世界大戦の枢軸国、つまり日本も含むイメージが重ねられていると見ます。日本で作られた作品が、日本側を敵に置き、連合国側のアムロを主人公に据えている点に「批評性の凄さ」を感じたそうです。
速水さんはこの視点を「今初めて」持ったと驚きます。二次大戦の連合国と枢軸国が比喩になっているのは間違いないとしつつ、速水さんの印象では、作中の戦争はヨーロッパで起きている感覚が強いといいます。
日本もそこの戦争の一部だったことっていうのは、かなり抜きにしないと、やっぱおもちゃメーカーに怒られちゃうからね。
島崎さんは、フィクションの設定だからこそさまざまなアナロジーとして読めると受け止めています。島崎さんの読みでは、15歳ほどの子どもが超兵器に乗るアムロの姿は、人類が核兵器を持つのはまだ早いというメタファーにも見えたそうです。
一方で島崎さんは、敵側のシャアには惹かれてしまうと認め、「そこが複雑」だと話します。速水さんは、シャアを戦争の中のスターと位置づけています。
アムロは戦わざるを得ないから戦うわけじゃん。で、シャアは祖国のためではなくて、家族のために戦っているっていう、ちょっと応援できない感がすごいんだよな。
赤いザクか、量産型のザクか
島崎さんにとってのシャアの魅力は、赤く塗られた機体の目立ち方にありました。これに対して速水さんは、自分は「全く逆」だったと話します。
僕は全く逆で、みんなが同じザクに乗っているのにすごいアニメだと思ったの。
速水さんはここで、インタビューライターとして何度も仕事をした神山健治 ── アニメーション監督。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』などで知られます監督の言葉を紹介します。雑誌ブルータスのスター・ウォーズ特集で、神山監督は主人公側が量産型の機体に乗っていることや、TIEファイター ── 『スター・ウォーズ』に登場する帝国軍の量産型戦闘機。同じ形の機体が大量に出てくることで知られますを挙げ、裏に工業生産という概念がある世界だと語っていたそうです。
速水さんは同じことをファーストガンダムにも感じていました。一点物のロボット同士が戦うそれまでのロボットアニメに対し、量産兵器が登場したことは、市民が巻き込まれる第一次・第二次大戦型の戦争を描くこととイコールだという見方です。
速水さんが語った、ロボットアニメの描き方の違いは次のように整理できます。
それまでのロボットアニメの主流。特別な1機同士が戦う
ファーストガンダムのザクなど。工業生産を背景に、市民を巻き込む総力戦を描く
量産という点には気づかなかったという島崎さんは、別の角度からジオンのデザインに感動しています。ナチスの制服のように敵側のデザインが人を惹きつける力を、モビルスーツで表現できているという読みです。
連邦側の目立つ機体はほぼガンダムだけなのに対し、ジオン側は魅力的な機体が次々に登場し、すぐに消えていきます。島崎さんはその数とデザインの素晴らしさに感動したと話しています。
僕はだからガンプラ世代なので、ガンダムに対しての意識が低いんですよ。やっぱザクでありドムであり、みんな一番好きだったのって何なんだろうな。ズゴックとか。
ガンプラ世代の速水さんは、ジオンのメカに目が向いていたからこそ、『GQuuuuuuX』の量産をめぐる設定に注目しています。速水さんの整理では、どの機体が量産されたかで世界線が分かれています。
| 項目 | ファーストガンダム | GQuuuuuuX |
|---|---|---|
| ジオンの次期主力機 | ゲルググが量産化 | ギャンが量産化 |
| 連邦の量産機 | ガンダムのデータからジムを開発 | ガンダムが奪われ、ガンキャノンが量産化 |
| ビグザム | 量産されない | 量産化を実際にやってしまう |
速水さんは、『GQuuuuuuX』が量産型をガンダムの重要なテーマとしてきちんと捉えていると評価し、島崎さんも「それは確かに引き継がれてますね」と応じています。
手描きの線と「塩が足りない」が伝える戦場
島崎さんがもう一つ感動したのは、手描きで描かれたロボットのアニメーションでした。CGモデリングが多い現代のアニメと違い、ファーストガンダムのモビルスーツには線のばらつきがあり、人が描いていることが見えるといいます。
島崎さんによれば、その線のばらつきから人の温かみが伝わり、モビルスーツの中に人が乗っている実感につながったそうです。速水さんは「乗ってそうってことなんだ」と、その見方に感心しています。
さらに島崎さんは、線の乱れから、1週間以内に仕上げなければならないような過酷な制作現場の状況まで伝わってきたと話します。速水さんが「作画崩壊的」と言うと、島崎さんは「作画崩壊こそ」感動したと応じました。
島崎さんは、富野由悠季監督がインタビューで兵站の問題を描くようにしたと語っていたことに触れます。打ち切りへ向かう制作現場の物資不足と、作中で補給が足りなくなり戦争が過激化していく様子が重なり、手描きだからこそ生まれる戦争の悲惨さがあったという読みです。
島崎さんの読みの流れは、次のように整理できます。
手描きの線のばらつき
人が描いていることが画面から見える
制作現場の過酷さ
納期に追われる現場の状況が伝わる
作中の兵站の不足
物資や補給が足りなくなり、戦争が過激化する
戦争の悲惨さ
実写ドラマとも違う、手描きならではの重みになる
速水さんは制作事情の補足として、ファーストガンダムには総集編回や、本筋に関係のない回が数回に一度挟まれていたと話します。例として挙がったのが「ククルス・ドアンの島」で、速水さんはこれを回数の「調整回」と呼んでいます。
富野さん自身が描いている回とかって、割と絵コンテから演出やってる回とかっていうのはそういう(調整)回が多くて、むしろそっちが記憶に残っていて。
兵站の話で速水さんが思い出したのは、タムラ料理長の場面でした。タムラ料理長がブライトに深刻な顔で「塩が足りない」と告げるエピソードです。
本当に補給路とか何日までしか持たないみたいなことをやっぱり描いたアニメはガンダム。
島崎さんは、個人用にとっていた感動メモにちょうど塩のエピソードを書いていたそうで、速水さんがよく覚えていたことに驚いています。速水さんは自身を「兵站がすごい気になるタイプ」だと話しています。
ゲーム・オブ・スローンズとミノフスキー粒子の中世
島崎さんは、ファーストガンダムを『ゲーム・オブ・スローンズ ── アメリカのHBOが制作したファンタジードラマ。架空の中世世界で王座を巡る争いを描き、2010年代を代表するヒット作となりました』と重ねて観ていました。島崎さんによれば、全73話にわたり、善悪ではなく多くの視点を移動しながら戦争全体を描く作品です。
島崎さんは、ファーストガンダムも兵站や量産まで含めて、動いていく戦争の全体を捉えている点に感動したと話します。速水さんはそれを受けて、作り手の戦線と物語の中の戦線を重ねて見られる作品が島崎さんは好きなのだとまとめ、島崎さんも「本当にそうですね」と同意しています。
島崎さんがもう一つ挙げたのが、ミノフスキー粒子 ── ファーストガンダムの架空の物質。レーダーや通信を妨害するという設定で、モビルスーツ同士の接近戦が中心になる理由づけになっていますです。目視で戦い、指揮官の指示で部隊が動くため、セリフが飛び交う戦闘シーンのリズムが中世の戦いのように楽しめるといいます。
速水さんは、ミノフスキー粒子の設定は後から少しずつ変わっていったのではないかと見ています。速水さんの見立てでは、当時の作り手は再々放送などされないと思って作っていたため、設定を掘り下げる意味がなかったそうです。
正史っぽく作っているうちにどんどん作らざるを得なくなって、ずっとビジネスになってるからやるけど、ずっとやっぱ富野さん否定してきてるところあるじゃないですか。
速水さんは、雑誌企画で作られた架空のデザートドムのように、本編に出てこないものが後からスピンオフで登場する例も挙げています。富野監督自身は、子ども向けのものを嫌々作らされていると言い訳をしながら作ってきた面がある、というのが速水さんの見方です。
速水さんは、安彦良和 ── ファーストガンダムでキャラクターデザインと作画監督を務めたアニメーター・漫画家さんと富野さんの決裂にも触れます。安彦さんがその後ガンダムに関わりたくないとなった一番の理由は、ニュータイプが気に食わなかったことだと速水さんは話しています。
速水さんによれば、ニュータイプはスター・ウォーズのフォースくらいの感覚で使われていたのに、ファンが深読みするようになりました。1960年代のニューエイジ思想や、世代交代、反体制運動と重ねる読み方も生まれたといいます。島崎さんがドラッグ的な描写も多いと指摘すると、速水さんは『GQuuuuuuX』のキラキラはまさにそうだと応じています。
ラストのチャンバラはなぜガッツポーズだったのか
ファーストガンダムの最終回で、アムロとシャアがフェンシングのように戦い始めた場面で、島崎さんはガッツポーズをしたそうです。速水さんは「あそこガッツポーズなんだ」と驚き、どこが良かったのかを尋ねます。
島崎さんの読みでは、最終回には頭部が飛ぶイメージが連続しています。ガンダムの頭部がなくなり、ジオングの頭部も飛び、キシリアは頭を吹き飛ばされます。
(ガンダムは)メインカメラがやられただけだっていう。
島崎さんは、連続する頭部の喪失を、統治者がいない世界のアナロジーだと読みました。統治者を失った混沌の中では戦いが中世に先祖返りし、剣で戦うしかなくなるという解釈です。
最終回についての島崎さんの読み解きは、次の流れになります。
頭部が飛ぶイメージの連続
ガンダム、ジオング、キシリアの頭部が失われる
統治者のいない世界
国家の論理が終わり、混沌が訪れる
中世への先祖返り
アムロとシャアがフェンシングのような一騎打ちをする
仲間の元への帰還
領土と関係のない小さな船へ帰っていく
島崎さんがさらに注目したのは、アムロが最後に帰っていく先です。領土侵略の話である戦争を描き続けた末に、アムロが帰る場所は領土とは関係ない仲間たちの元で、しかもホワイトベースではなく小さな船だという点が象徴的だといいます。
俺、初めてそれすっごい今納得した。自分の人生のガンダムのいろんな解説の中で。
速水さんは、その小さな船を「ランチ」だと確認し、そこで今でも泣くと話しています。島崎さんは、そこへアムロを導くのがニュータイプの力である点から、70年代の作品がインターネットや、遠くの人ともつながれるグローバリゼーションの希望を予見していたのではないかとも読みました。
ただし速水さんは、ラストのサーベルでの突き合いだけは「全然意味わかんない」と話します。速水さんにとっては、大国同士の論理を描き切った後に個人の論理が始まる展開が、なぜ中世的な形になるのかがわからなかったそうです。
いや、けど、けどね、その読み解き面白かった。
2025年にファーストガンダムを観る意味とシャリア・ブル
島崎さんは、2025年にファーストガンダムを観たことに「今だな」という肌感覚があったと話します。ファーストガンダムは1979年の時点で20世紀の戦争を俯瞰して的確に描いた作品であり、世界情勢が怪しくなっている今の空気感に合っていると感じたそうです。
闇バイトから戦争になっていくって話のリアルさ、そこの先に自分たちが思いもよらなかった世界と接していく、それが戦争になっていくっていうのはGQuuuuuuXの一つのポイントかなと思った。
島崎さんは、『GQuuuuuuX』が今の時代を捉えるポイントを2つ挙げています。1つ目は、アムロがガンダムに乗るという、これまで信じられてきた正史をひっくり返している点です。
島崎さんは、アメリカの存在感の変化なども含め、ありえない世界線が現実に入り込む今、ポップカルチャーの正史を反転させることで「準備しとけよ」と観る側に促しているように感じたそうです。
2つ目は、シャリア・ブルを中心に据えている点です。ファーストガンダムでのシャリア・ブルはすぐに死んでしまう、ギレンとキシリアの間で板挟みになるキャラクターでした。
島崎さんは、そのシャリア・ブルが『GQuuuuuuX』ではマチュの世代とオリジナルシリーズの間で再び板挟みになっていると読み、その配置を「恐ろしい批評性」と評しています。
ようやく(シャリア・ブルが)中心になれる世界線に来たと思ったらまたかっていうね。
速水さんは、シャリア・ブルの人気や評価が途中でブレていたものの、ようやくみんなが愛せると言うようになったと話します。島崎さんによれば、収録時点の10話で大きく盛り上がっていたそうです。
収録の最後に、二人は12話が終わったら飲み会をしようと約束します。島崎さんは、GQ JAPANのウェブで『GQuuuuuuX』のレビューを書いていると告知しました。
まとめ
『GQuuuuuuX』をきっかけにファーストガンダムを初めて観た島崎ひろきさんは、戦争描写、手描きの線、ラストシーンに新鮮な読み解きを示しました。ガンプラ世代の速水健朗さんは、量産兵器や兵站、制作事情を補いながら、その読みに何度も驚き、納得しています。
- 島崎さんは、ファーストガンダムに「下劣な人間が一人も出てこない」ことに戦争描写の凄みを感じた
- 速水さんは、量産型のザクや工業生産の概念こそが総力戦を描くガンダムの核であり、GQuuuuuuXもそれを引き継いでいると見る
- 手描きの線のばらつきや「塩が足りない」場面から、制作現場と作中の兵站不足が重なって見える
- 最終回で頭部が飛ぶイメージと、アムロが小さな船へ帰る結末を、島崎さんは統治者なき世界と仲間の元への帰還として読んだ
- 2025年の世界情勢の中で、正史を反転させるGQuuuuuuXとファーストガンダムは連続した批評として観られる



