首相も都知事も元キャスター、なぜ誰も指摘しない?
2025年10月、高市早苗内閣が発足しました。速水健朗さんはまず、首相の高市早苗さんと都知事の小池百合子さんが、どちらもテレビキャスター出身であることを指摘し、それがあまり語られていないと話します。
速水さんは、高市政権をポピュリズムだと批判したいわけではないと前置きします。むしろ石破茂前首相のほうが、自民党の主流派を外側から批判する立場を取りながら政策が見えなかった、典型的なポピュリズム政治家だったと見ています。
高市さんへの支持が若い世代で高いことについて、速水さんは日本の若者の右傾化ではなく、経済政策への期待だと捉えています。若者の関心が経済政策に向かうのは韓国などでも同じで、日本だけが特殊なわけではないのでは、という見立てです。
(小池さんは)どの時代もね、「あ、こっちに風が吹いている」っていうのに乗ってきた、まあ時流を見るのがうまい政治家。
一方の小池百合子さんについては、代表的な政策が見えにくいと話します。本人が業績として挙げ続けるのは、環境大臣時代に導入したクールビズ ── 夏のオフィスで軽装を勧め、冷房の設定温度を上げて省エネにつなげる取り組み。2005年に環境省が提唱しましただといいます。
速水さんが当時の「チーム・マイナス6パーセント」をよく覚えているのには理由があります。総合格闘技PRIDEのさいたまスーパーアリーナ大会に環境大臣の小池さんが来場し、エアコン28度の方針に会場が忖度したのか、場内が暑かったというのです。
そしたら途端に試合の膠着度合いが高くなって、みんなその格闘技なんて接触スポーツなので、汗かいたらレベル下がるんですよ。
オアシス帰りの若者は参政党に入れていた
速水さんが本当に話したいのは、高市早苗さんが首相になり、トランプ大統領が来日し、オアシスも来日したという重なりです。オアシスはサッチャー政権時代を悪く言い続けてきたバンドの代表で、高市さんはサッチャーのフォロワーとして知られています。
きっかけになったのは、哲学者の鈴木泉さんによる、10月26日のオアシス東京ドーム公演初日の後のポストです。
鈴木泉さんのポストには「後楽園駅でオアシス帰りの若者が大量に乗り込んで来た」とあり、彼らが「この前の選挙では参政党に入れた」「高市さんはドラマーだったんだってね、だからあんなにバキバキに働くんだね」と話していた様子が書かれていました。結びは「現実はこんなもんなんだな」です。
速水さんは、この会話がどこまで本当かはわからないとしています。オアシスの観客は平均40代以上で、60代の書き手から見て40代も「若者」に含めたのかもしれない、とも補足します。それでも特にバズったわけではないこのポストが、速水さんの琴線に触れたといいます。
イギリスのUKロックファンがサッチャーを嫌うのは当然で、オアシスも労働者階級の両親のもとに生まれたバンドです。ただ速水さんは、書籍『オアシスの階級闘争』にもあるように、その見立てはとっくに崩れていると指摘します。
イギリスの週刊誌『スペクテイター』の2016年の記事によると、オアシスの主流のファンのうち30パーセントは、サッチャーがいた保守党の支持層でした。速水さんは、最大多数派になっている可能性すらあると話します。
その後イギリスではブレグジットが起き、オアシスファンの政治的な立ち位置はさらに分かれていきます。速水さんが語った流れを整理すると、次のようになります。
デビュー当時
労働者階級出身のバンドで、ファン層もサッチャー嫌いの労働者層が中心
2016年の記事
オアシスの主流ファンの30パーセントが保守党支持層になっていた
ブレグジット
保守党も労働党も残留派の中、国内経済を見ない政治家に反発した層が離脱を選ぶ
UKIPの台頭
ファラージ率いるUKIPが反グローバリゼーションと移民への反対で労働者の支持を集める
ブレグジットでは、政治家はEUばかりを見て国内経済を見ていないと反発した層が過半数を取りました。この流れでUKIP ── イギリス独立党。EU離脱を掲げた政党で、ナイジェル・ファラージ氏が党首としてブレグジット運動を率いましたが台頭し、反ロンドン・反エリートの労働者の支持を集めたと速水さんは説明します。
オアシスファンの中にも、当時のファン、後からのファン、投票先を変えた人などさまざまな層がいます。そして日本のオアシスファンは、それともまた関係がない、と速水さんは付け加えます。
森高千里が歌ったストーンズ初来日のバブル
政治とロックは切り離して考えられないものの、その関係性自体はずいぶん変わってきた、と速水さんは話します。浅井健一さんを指すベンジーと参政党の例も挙げつつ、それは今さらではなく35年ぐらい前に気づいておくべきことだったといいます。
速水さん自身は16歳のころ、1989年から1990年ごろにローリング・ストーンズが大好きでした。そのストーンズが1990年に初来日し、東京ドーム公演を行います。
1972年の公演が幻に終わり、ストーンズは日本に来られないと思われていた中での初来日は、日本の洋楽市場で最大の事件のような扱いでした。その様子を歌にしたのが、1991年の森高千里さんの「臭いものにはフタをしろ!!」です。
森高千里さんの歌には、「俺は10回ストーンズ見に行ったぜ」と得意げに語るおじさんが出てきます。速水さんは、「ロックンロールを知らなきゃモグリと呼ばれるぜ」とも言うそのおじさんを、スギちゃんの「ワイルドだろう」のようだと例えます。
おそらくストーンズがそこまで好きじゃなかった人たちがね、話題になりすぎて、俺の権力でストーンズ手に入るけどねみたいな場所になり果てたっていうね。
ストーンズの話と今回のオアシスが「何か繋がっちゃった」としつつ、速水さんはオアシスファンへの含みは一切ないと断っています。友人の多くもオアシス公演に行き、すごく良かったと話しているそうです。
オアシスをスルーした世代が夢中になったTLC
オアシスは1994年デビューで、当時20歳か21歳だった速水さんはまさにオアシス世代です。洋楽世代の自覚もありながら、オアシスはスルーしていたと振り返ります。
当時の速水さんが一番夢中になっていたのは、黒人女性3人組のTLCでした。1990年代はビルボードチャートの上位にR&Bやヒップホップなどのブラックミュージック勢が出てきた時代で、速水さんにはその中にオアシスが出てきた印象が強いといいます。
一般にはオアシスは、グランジやマッドチェスターなど陰鬱で抑制的だった時代の反動として語られがちです。速水さんは、それだけではないという思いがあると話します。
まあなんか日本人ってロックとフォークだけが好きな民族みたいなね、これは僕の偏見があって。
速水さんの見方では、90年代のヒットチャートはブラックミュージック、音楽好きはテクノやドラムンベースなどのクラブミュージックに向かっていて、オアシスはそこと乖離してヒットしていました。TLCはさらに別の位置にいて、当時一番おしゃれで、音楽もファッションも最先端の存在だったといいます。
象徴的なのは、同じ年にオアシスの「Wonderwall」とTLCの「Waterfalls」が出ていることです。速水さんは二つを90年代の二大アンセムと呼び、来日公演の規模も含めて対比します。
代表曲「Wonderwall」は当時だけで100万枚売れた。今回の来日はドーム2デイズで10万人規模
代表曲「Waterfalls」は速水さんがポップス史上一番好きな曲。結成30周年の昨年の来日は、ジャネット・ジャクソンとの同時公演と豊洲PITでの単独公演
速水さんは、TLCの来日が寂しい規模だったことについて、レコード会社頑張れよという話でもあると言います。90年代の来日でもTLCは渋谷公会堂、オアシスは武道館だったのではと、記憶ベースで話しています。
行けた人の幸せと、ロック大国すぎる日本
今回のオアシス公演は、ラジオ局のプロデューサーでもチケットが取れなかったほどだったそうです。速水さんは、業界人がチケットを押さえていたストーンズの時代とは違い、純粋なファンの集いだったと思うと話します。
例として、DeraChicBoysのナガモリナガモリさんが北海道からチケットを当て、ポッドキャストで語り続けてきたオアシスにやっと会えた感動や、神楽坂の音楽好きが集まるバーYOHAKUのマスターが親子2代で念願の公演に行けたことが挙げられます。
ああなんか本当に行けた人たち幸せそうでよかったなっていうふうに思いました。
その一方で速水さんは、1995年にTLCに夢中だった自分と、総理大臣もヘビーメタルのドラマーという「ロック大国すぎる日本」を対比します。
ただ速水さんは、TLCが日本で人気がないという話ではないとも言います。ロックバンドとしての規模ならU2のほうが大きいはずで、今回のお祭り感は、ギャラガー兄弟の喧嘩が仲裁されるという奇跡があったからだろうと考えています。
鈴木英人の世界展、解説を書いた理由は?
番組の最後に速水さんは、11月1日から11月30日まで開かれる「鈴木英人の世界展」を紹介します。イラストレーターの鈴木英人 ── 1980年代に雑誌『FMステーション』の表紙などで知られたイラストレーター。鮮やかな色彩のアメリカ西海岸風の作品で人気を集めましたさんの展示を、美術館で行う規模の大きな展覧会です。
速水さんはこの展覧会の解説文を書いています。中学時代に『FMステーション』や英語の教科書の表紙で鈴木英人さんの絵を知り、洋楽好きになったのもその影響で、自著『エアチェック少年』もそこから始まっているといいます。
速水さんは、豊橋に行ける人はこのタイミングで行ってほしい、解説が目に留まったらぜひ読んでほしいと呼びかけて番組を締めました。
まとめ
高市内閣の発足とオアシス来日という重なりを入り口に、速水健朗さんは、サッチャー嫌いのUKロックという図式がすでに崩れていること、ロックが政治や社会と結ぶ関係が変わり続けていることを、ストーンズやTLCの記憶と重ねて語りました。
- 首相の高市早苗さんと都知事の小池百合子さんがともにキャスター出身であることを、速水さんは重要なのに指摘されていない点として挙げた
- オアシス帰りの若者が参政党や高市さんを話題にしていたというポストが、政治とロックの関係を考えるきっかけになった
- 2016年の時点でオアシスの主流ファンの30パーセントは保守党支持層で、その後ブレグジットとUKIPの台頭でさらに分かれていった
- 1990年のストーンズ初来日のバブルと今回のオアシス公演を対比しつつ、今回は純粋なファンの集いだったと速水さんは見ている
- 同じ年の「Wonderwall」と「Waterfalls」を並べ、日本がロック大陸すぎると速水さんは語った

