MISIAの大トリは今年で終わるのか
速水健朗さんは、紅白歌合戦の大トリをここ数年ずっとMISIAが務めている、という話題から番組を始めます。体感では15年ほど続いている気がするものの、厳密にはそこまでではないだろうと前置きしています。
速水さんによると、北島三郎さん、SMAP、嵐は大トリとして誰もが納得する存在でした。その後は松田聖子やゆずなどが続き、国民的歌手ではあっても大トリとしては収まりが悪い年が何年か続いたといいます。
そこに来たのがMISIAです。速水さんは、MISIAは挙げた名前の中では国民的歌手とは言い難いとしつつ、大トリとしての説得力はずば抜けていると見ています。
MISIAが持っている生きとし生けるもの全てを祝福するみたいな、あの力を持って国民的合意を得ているんだよね。
ただ速水さんは、誰も今さらMISIAに「今年が最後です」と言えなくなっているのではないか、とも感じています。今年はMISIAに自然に引導を渡すラストチャンスで、逃せばあと10年続く可能性もある、という見立てです。
大トリを任せられるのは誰か
速水さんが今年の候補として挙げるのは、エンターテインメントの頂点に君臨しているMrs. GREEN APPLEです。今年なら文句は出ないが、来年は急に失速する可能性もあるので分からない、と話します。
去年までならYOASOBIが大トリでも文句はなかったはずだが、今年だと「ん、今年?」となってしまう、とも速水さんは指摘しています。
米津玄師、藤井風、宇多田ヒカルについては、国民的歌手として揺るぎない一方で、紅白のトリは絶対に引き受けないだろう、というのが速水さんの見方です。
カメラ目線でさ、サビを歌えるかどうかみたいなさ。なんか福山雅治的なことを引き受けるっていう。
おそらくね、別スタジオで黙々と米津玄師が何かをやるとか、宇多田ヒカルがロンドンから何かやるとか、それは(大)トリを引き受けるとか真逆のことっていうね、別の競技だからっていう。
嵐については、来年ファイナルツアーを控え、スタジオに来るならトリをやるだろうと速水さんは見ています。一方で個人的には、嵐には年賀状のCMを再開して日本郵便の年賀状のラストを飾ってほしい、とも冗談めかして話しています。
| 歌手 | 速水さんの評価 | ポイント |
|---|---|---|
| MISIA | 説得力はずば抜けている | 誰も「最後」と言えない可能性 |
| Mrs. GREEN APPLE | 今年なら文句は出ない | 来年は分からない |
| YOASOBI | 去年までならあり | 今年だと違和感 |
| 米津玄師・藤井風・宇多田ヒカル | 国民的で揺るぎない | トリは引き受けない |
なぜ新しいポッドキャストは2人組ばかりなのか
速水さんは最近、新幹線での移動中などに新しいポッドキャストをいろいろ聴いてみたそうです。そこで番組がめちゃめちゃ増えていること、そして多くが2人で始めていることに気づいたといいます。
速水さんはその象徴として、アメリカ大統領選で話題になったジョー・ローガン ── アメリカのコメディアン・司会者。世界有数の人気ポッドキャスト「The Joe Rogan Experience」を持ち、長時間のインタビュー形式で知られますのポッドキャストを挙げます。特徴は長さで、ローガン自身は聞き役に徹し、トランプが出演したときも3時間ずっと話を聞いていたと紹介しています。
速水さんの解釈では、人々は政治集会や討論会での政策論議ではなく、和やかな会話を通じてその人の考えを知りたいのだといいます。トランプ陣営はそこに気づいてポッドキャスト出演を戦略にした、と速水さんは見ています。
ポッドキャストっていうのも、人の話をじっくり聞くためのコンテンツとして会話が求められてる気がするんですよね。
日本でも人気の「オーバーザサン ── ジェーン・スーさんと堀井美香さんによるTBSのポッドキャスト番組。中年女性2人のおしゃべりが幅広い支持を集めています」や「ききかいかい ── 2人組のトーク形式で人気を集める日本のポッドキャスト番組。」はやはり2人の会話で、それに影響を受けて2人組が始めているのでは、と速水さんは考えています。
言い切らなくていい「会話」の強さ
速水さんは、内沼晋太郎さんが自身のポッドキャストで語っていた話を紹介します。書くこととポッドキャストの一番の違いは、喋りは書き言葉と違って言い切らなくてもいい、という点です。
「思うんですよね」「よくわからんけど」のように語尾を開いておけるのが喋りの特徴で、文章は言い切ると強くなってしまう、と速水さんは説明しています。
さらに2人で会話にすると、相手が突っ込んだり話を変えたりすることで、言い切ったことのニュアンスを和らげられるといいます。速水さんはこれを「中和」と表現しています。
言い切ると強くなり、ニュアンスを和らげにくい
語尾を開いておけるうえ、相手の突っ込みや脱線で言い切りが中和される
一人で番組を続ける速水さんにとって、この点はもどかしさでもあります。
いや、俺は本当はもうちょっと脱線したいんだけど、一人で脱線するってすごい難しいんですよ。
「ポッドキャスト人間」という人格
速水さんはあえて脱線し、自分が「ポッドキャスト人間」になってきていると話します。村田沙耶香 ── 芥川賞作家。コンビニで働く女性を描いた『コンビニ人間』で知られますの『コンビニ人間』になぞらえた言い方ですが、本人も後で「村田沙耶香関係なかった」と笑っています。
SNSで発信するときにはX用のペルソナがあるように、速水さんにはポッドキャスト用の人格があるといいます。シラスでの生配信では人格がまったく違い、夜中は隣に家族がいるのでこのテンションでは喋れないそうです。
ポッドキャスト人間としての速水さんは、Xで発信しようと思った話を抑えて「この話はポッドキャストでしよう」と考えるようになったといいます。Xで滑った話を「長い話としてするべきだ」と取っておくこともあり、ただ編集段階で結局消すこともあると明かしています。
野村高文さんの本が描くポッドキャストの現在地
速水さんは、友人でもあるポッドキャストプロデューサーの野村高文さんの著書『プロ目線のPodcastのつくり方』を紹介します。野村さんはNewsPicks出身で、ポッドキャストで起業し、「News Connect」など有名な番組を手がけ、自身も喋っています。
この本は、ジョー・ローガンの話を入り口にポッドキャストが新たに注目されていることを示し、機材からトークの準備までを丁寧に教える内容だと速水さんは評しています。速水さんはこの本の書評を日経新聞に書いたそうです。
速水さんがこの本から読み取ったのは、今のポッドキャストの流れが相手の話をいかに引き出す会話にある、という点です。ショート動画やYouTubeは冒頭数秒で離脱を防ぐアルゴリズムを意識せざるを得ず、広告のUIも人を騙すようなものばかりだと速水さんは指摘しています。
一方でポッドキャストは、そこまでアルゴリズムに支配されていないといいます。速水さん自身の番組も、テーマによって再生数が増減せず、ゲストに宇野常寛さんが来ると少し跳ねる程度で概ね安定しているそうです。
冒頭数秒で全体を示さないと離脱され、作り手もアルゴリズムを気にする
アルゴリズムに支配されにくく、再生数が安定し、時間に縛られない
速水さんによれば、日本のチャートではラジオ番組の再配信が目立つものの、野村さんの本はアメリカのようにオリジナルポッドキャストが日本でも伸びる余地を示しています。日本で受けているのは保守メディアというより人生相談の方向だ、とも速水さんは話しています。
2人だから生まれるトークと、一人語りの限界
いろいろな番組を聴いた速水さんは、改めて2人はいいと感じたそうです。
速水さんは一人でポッドキャストを3年ほど続けてきましたが、別のやり方を模索しているといいます。今さら相方を探すのは難しく、ゲストを増やす案もあるものの、編集の手間が一人のときの5倍から8倍かかるそうです。
次回はゲスト回で、2時間半収録したものを編集中だと予告しています。
やる人は増えても、聴く人は増えているのか
速水さんは、日経新聞の書評ではポッドキャストの新しい波という表の部分を書いたとしたうえで、ここからは別の話だと切り出します。日本ではポッドキャストをやる人は増えていても、聴く人は増えていないのではないか、という問題です。
聴かれているプラットフォームは1位がYouTube、2位がSpotifyだといいます。速水さんは基本的にSpotifyで聴いていて、「POP LIFE」の田中宗一郎さんや「ききかいかい」などがあったことで、ポッドキャストといえばSpotifyというイメージを持っていたそうです。
そっか、YouTubeかっていう、なんかちょっとイメージが湧かない、そこ出身のポッドキャストとかって、ちょっとなんかピンとこないよねっていう、まあ別にプラットフォーム関係ないんだけどね。
ポッドキャストが長くなり続けるのはなぜか
速水さんは、ポッドキャストがどんどん長くなっている問題にも触れます。2人の会話なら10分ではまだ温まらず、30分はすぐ過ぎるうえ、編集に凝らない限り10分でも30分でも作り手のコストはあまり変わらないといいます。
対照的に動画は大変で、30分の動画のエンコードに1時間かかり、修正すればまた1時間かかることもあると速水さんは説明します。その結果ポッドキャストは簡単に長くなり、1時間だった番組が1時間半になるのはザラだといいます。
作り手のコストが低い
会話なら10分でも30分でも手間がほぼ同じ
会話は長くなりやすい
2人なら30分はすぐ過ぎる
ファンが長さを求める
「もっと長く」とは言われても「短く」とは言われない
長尺が当たり前に
1時間だった番組が1時間半になる
速水さんはリスナーから「もっと長いのを作ってください」と言われることはあっても、「短くしてくれ」と言われたことはないそうです。ただ、そこには罠があると考えています。
長いコンテンツは「常連しかいないバー」になる
速水さんによれば、長いコンテンツはファンには問題なくても、情報を知りたい人は10分、15分で短くまとめてほしいと思うはずです。「お前の話なんて知らねえよ」という人もいる、と自嘲気味に話しています。
長いコンテンツをコンプリートしようとすると、睡眠や読書の時間が削られる機会費用 ── ある選択をしたことで失われる、別の選択から得られたはずの利益や時間のことの問題が生じます。推しのファンが犠牲を払って追いかけることで成り立つコンテンツは、ハードルが上がっていくと速水さんは指摘します。
速水さんは実際のバーで観察した常連コミュニティの例を語ります。ひとつは常連が草野球を始めるパターンで、店の話題が草野球のローテーションばかりになり、バーテンダーも夜遅くまで働いた後に朝の応援へ行かなければならなくなるそうです。
常連は野球の後に飲むようになり、夜はバーに一杯顔を出す程度になるので、売上には貢献していないだろうと速水さんは見ています。
もうひとつよくあるのは、常連同士がくっついたり離れたりするパターンです。バーテンダーから聞いた話では、カップルが誕生すると友達だらけの店には来なくなり、トラブルが起きてもやはり来なくなるため、店にとってはいいことがないといいます。
速水さんは、常連に特化したポッドキャストも同じように、とっつきづらさが先に立ってしまうとまとめています。
『コンテンツ過剰接続』と1.2倍速の編集
速水さんはおすすめとして、私はこーへさんとキムラさんの2人による『コンテンツ過剰接続』を挙げます。長くて敷居の高いものはダメと言いながら、一番長くて敷居が高い番組を勧める、と笑いつつの紹介です。2025年5月に始まった番組だそうです。
速水さんが注目したのは最新回のコメント欄でした。リスナーから次のような苦情が寄せられていたといいます。
そのコメントは「早口で情報量が多いので会話の間がカットされていることで情報処理が追いつかず流れていってしまいます。せっかく面白いことを語られているのでもう少しゆっくり」という内容でした。
編集担当の私はこーへさんによるとみられる公式の返答は、「熱がこもると早口になってすいません。案外会話の流れはそのままで途中がカットされているということはなかったりします。他のポッドキャストの1.2倍速ぐらいの仕上がりでという意思で話をし、編集していますので、実は0.9倍速で再生すると1.08倍になり、ちょうど良い速さで聞けたりします」というものでした。
速水さんは、1.2倍速で喋って詰め込み、速すぎる人は遅くして聴いてほしいという発想が予想を超えていて面白かったと話しています。
ポッドキャストにも「呼吸の間」が必要
一方で速水さんは、早口であることと空白を埋めることは別だと指摘します。私はこーへさんは編集で空白をかなり埋めていて、そのせいで会話のテンポに不自然さが出て、洗脳を受けているような感覚になるといいます。
速水さんは、ラジオのリスナーは無意識に喋り手の呼吸の間と同期して呼吸するらしい、という話を聞いてから、無理やり間を詰めるだけの編集はなるべくしないようにしているそうです。
この番組がまだ2人組だった頃に編集を担当していたプロのラジオディレクター、ちょんくんは、逆に呼吸音を編集で加えていたこともあったといいます。速水さんは、吐息を削らずに残したマイケル・ジャクソンの「Billie Jean」も例に挙げています。
まあそこまでやる必要ないけど。けど、呼吸の間って結構ね、ポッドキャストでもラジオでも重要ですっていう話。
コロナ禍の道玄坂で踊ったMISIAの夜
速水さんは話したいネタを先に話すのが習慣で、紅白のトリの話も旬だから冒頭に置いたと明かします。最後に、MISIAにまつわる思い出を語っています。
コロナ禍に、夜中の12時から始まる道玄坂のクラブでのMISIAのアルバムリリースパーティーに行ったそうです。レコード会社主催の催しで、人々が集まること自体が許されにくい時期だったため、来場者は飢えていたように盛り上がったといいます。
有名なDJが「Into the Light」をいつかけるかを皆が待ち、来た瞬間に爆発したそうです。もちろん本人は来ていませんが、皆がMISIAの曲で踊り「MISIA来いよ」という空気のパーティーで、めちゃめちゃ楽しかったと振り返っています。
速水さんは、MISIAは紅白のトリを取る歌手でありながらフロア対応の曲も多い稀有なミュージシャンだと評し、その思い出があるから今年もトリを取ってほしい、と冒頭の見立てとは逆の願いで締めくくっています。
まとめ
紅白の大トリ予想から始まったこの回は、2人組ポッドキャストが増える背景として「言い切らずに済む会話」の価値を掘り下げつつ、長尺化による常連化や、間を詰めすぎる編集の危うさにも目を向けた一人語りでした。
- MISIAの大トリは説得力が抜群だが、今年は引導を渡すラストチャンスかもしれないと速水さんは見ている
- ポッドキャストは人の話をじっくり聞く会話の場として求められ、2人なら言い切りを中和し脱線もできる
- 作り手のコストが低いため番組は長くなりがちだが、長すぎると「常連しかいないバー」のように入りづらくなる
- 早口で詰め込む編集にも面白さはあるが、聴き手が同期できる呼吸の間は大切にしたいと語られている



