イーロン・マスクは4年後の大統領候補になりうるのか
2024年11月の収録時点では、トランプ氏の大統領就任はまだ先でした。速水さんはその段階で4年後を考えておこうとし、イーロン・マスクが4年後に大統領候補になっている可能性があるのではないか、と問いを立てます。
速水さんが挙げるイーロン・マスクの最大の特徴は、事業目標の数値をかなり無理目なラインで打ち立て、退路を断ってから取り組む姿勢です。ギリギリまで追い詰めないと人も会社も成長しない、というのがマスクの信念だと速水さんは見ています。
逆にそのくらいとことんやらないと、彼(マスク)は生きている実感がもう持てないっていうね、そういうパーソナリティになってしまっているんですよ。
速水さんは、リスクテイカーという言い方もあるものの、マスクの場合はそれを超えて「人生がイカゲーム的」だと表現します。この「デスゲーム」という言葉が、回全体を貫くキーワードになっていきます。
速水さんはマスクと2歳違いで、同世代にあたります。日本ではホリエモンもこの世代にいて、子どもの頃にコンピューターを与えられ、SF小説やゲームに夢中になった世代だと速水さんは整理します。
速水さんによれば、この世代は親世代のカウンターカルチャーよりもオタク文化に引き寄せられた「コンピューター以降のオタク」です。世界中で同じように『E.T.』を観て、ウルフェンシュタイン ── 第二次世界大戦を舞台にしたシューティングゲームのシリーズ。1992年の『Wolfenstein 3D』は一人称視点シューティングの草分けとして知られていますや『ドゥーム』を遊んだ、という共通体験があるといいます。
80年代の象徴的なゲームとしてはマリオもあり、日本製の『ゼビウス』も原体験に入っている、と速水さんは続けます。グローバル化した文化とテクノロジーの上で育った世代には、国を超えた共通点があるのではないか、というのが速水さんの見立てです。
システム化指数と共感指数は両立しない?
速水さんは、シリコンバレーではマスクの世代以降の起業家に自閉症傾向が強くなっている、とよく言われていると紹介します。速水さんはスペクトラム症に関する本を読み、自閉症傾向の中でも能力が高い人を「ギフテッド」と呼ぶことにも触れています。
速水さんがその本で面白かったと語るのは、自閉スペクトラムの傾向を2つの指数で捉える考え方です。マスクはギフテッド的なところがあり、そのうちの一方が高いタイプだといいます。
1つ目は「システム化指数」です。複雑な計算やパズル、プログラミングなど、目の前に大きなシステムがあると夢中になり、解析してしまう能力を指します。速水さんは、マスクはこのシステム化指数が高いタイプだと説明します。
2つ目は「共感指数」です。人の感情の機微を感じ取り、それに沿って行動できる能力で、いわゆるコミュ力の高さにあたります。速水さんによれば、アイドルの推しや宗教へののめり込みも、この共感指数の延長線上にあるのかもしれません。
速水さんが読んだ本では、2つの指数は並び立たないとされています。2つの指数の違いは、次のように整理できます。
複雑な計算・パズル・プログラミングなど、大きなシステムに夢中になり解析する力。マスクはこちらが高いタイプ
人の感情の機微を感じ取り、それに沿って行動する力。推しや宗教へののめり込みもこの延長線上にあるかもしれない
どっちかが長けていればどっちかが足りない。どっちも持っていれば社会適応能力としては高いんだけど、どっちにしても偏ってしまうんだっていう研究の本を読みました。
FTX創業者サム・バンクマンフリードはなぜ詐欺師になったのか
速水さんは、マスクと比べる人物として、マスクより20歳ほど年下のサム・バンクマンフリードを取り上げます。サム・バンクマンフリードは暗号資産取引所FTX ── 2019年に設立された暗号資産取引所。急成長して世界有数の規模になりましたが、2022年に経営破綻しましたの創業者で、史上最も若いビリオネアとして登場した人物です。
サム・バンクマンフリードは20代後半でビリオネアになり、ここ5年ほどは新しい時代のテック企業の億万長者として、日本以外では盛んに取り上げられていました。速水さんによれば、去年あたりまでちやほやされていた有名人です。
ところがサム・バンクマンフリードは今年、集めたお金を盗んだとして詐欺で有罪判決を受けます。速水さんは、詐欺は「返すつもりがある」と主張され続けると立証が難しい犯罪だと言われるのに、サム・バンクマンフリードの場合はあっさり確定し、懲役25年という重罪になったと驚きを示します。
速水さんは、シリコンバレーの企業には詐欺すれすれのものもたくさんあるのではないか、と考えています。そのうえで、サム・バンクマンフリードは本当に詐欺になってしまったケースだと位置づけます。
サム・バンクマンフリードとともに知られるようになった言葉が「効果的利他主義」です。速水さんの説明では、寄付をどこかのNPOにポンと渡すのではなく、事業のように厳密な仕組みを作り、寄付金に見合った成果を最大化しようとする考え方です。
どこかのNPOなどにポンと寄付するのが普通のやり方
事業のように厳密に仕組みを構築し、寄付金に見合った成果を最大にすることを考える
サム・バンクマンフリード自身が、効果的利他主義者の代表でした。慈善事業に使うためにお金を集め、運用して効果を高め、社会貢献に使うという投資会社を作り、その中で犯罪者になっていった、と速水さんは振り返ります。
速水さんが注目するのは、サム・バンクマンフリードには共感能力が欠けていて、社会貢献そのものへの関心が薄かったという点です。貧しい人やかわいそうな境遇の人を見て共感して動くわけではない、と速水さんは語ります。
速水さんによれば、アメリカの一流大学の理系博士課程に進む男性のうち、自閉スペクトラム症の特徴を持つ人の割合は一般平均の10倍だそうです。イェールやバークレーの物理専攻の学生のかなりの割合が効果的利他主義にハマっているとも紹介し、男性のギフテッドと相性がいい思想だと速水さんは見ています。
サム・バンクマンフリードは、みんなが夢中になるアイドルやスポーツ選手には無関心で、複雑なパズルのようなものにしか関心を示さなかったといいます。そうしたものがない時は人生が退屈でしょうがなく、学校の勉強もやる前からわかっているという絶望を抱えていたそうです。
推しの時代の裏側にいるのは誰か
速水さんがサム・バンクマンフリードの話の出典として挙げるのが、『マネーボール』で知られるマイケル・ルイスの新刊『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』です。投資や統計学、行動経済学の著作が多い作家で、速水さんも新刊を毎回楽しみにしているといいます。
速水さんによれば、マイケル・ルイスはこの本でサム・バンクマンフリードを、単にテック企業のスターから詐欺師になった男としてではなく、ちょっと同情的な視点で描いています。
サム・バンクマンフリードの人物像の面白さとして、速水さんはその服装を挙げます。ビジネスの重要な場面でも半ズボンにTシャツ、スニーカーで、髪はボサボサ。速水さんは「僕よりボサボサ」と笑います。
マイケル・ルイスの本は、サム・バンクマンフリードがアナ・ウィンター ── アメリカ版『ヴォーグ』の編集長を長く務めた人物。ファッション界で最も影響力のある編集者の一人とされていますとのZoom会議中に後ろでゲームをしていた、というエピソードから始まるそうです。
速水さんはここで「共感能力」という言葉で現代を整理します。推し傾向が強い人は個人に強く共感し、ホストへの共感はホスト狂いに、宗教もある種の推しになる、と速水さんは語ります。だから現代は共感能力の時代、推しの時代だと言える、というのが速水さんの見方です。
一方で、社会の現実を動かしているテック企業のトップたちは共感能力が薄く、ミーハーな心がない、と速水さんは続けます。デュア・リパのさいたまスーパーアリーナ公演に感動したり、カニエが東京で訪れた店に聖地巡礼したりすることには一切関心がない人たちだといいます。
速水さんによれば、テック企業のトップたちが突き動かされるのは複雑な社会や起業、投資といった方面だけです。推しやファンダムの時代と、共感の薄い人たちが社会のプラットフォームを作ろうとしていることは、裏表のワンセットで考えなければいけない、と速水さんは強調します。
愛国心のない億万長者と、大統領資格のウルトラC
サム・バンクマンフリードは2024年の頭に捕まりましたが、それまではバイデン政権下で、民主党の大統領選挙への高額支援者として全体の2番目か3番目だったと速水さんは紹介します。寄付金を返すのかどうかは調べていない、と断ったうえでの話です。
速水さんは、カマラ・ハリス陣営が過去最大の資金を集めたと言われる一方で、民主党の最大の支持者の一人を失ったことが、本来もっと集まってもおかしくなかった資金に影響したのかもしれない、と推測を交えて語ります。
民主党支持のサム・バンクマンフリードと、共和党支持のマスク。速水さんは、どちらも共感能力が低いのだから、どちらの政党にもそれほど共感していないはずだと見ています。
おそらくトランプっていうのは愛国心はあるんでしょう。だからみんななんか引っ張っていけるところがあるんだけど、
おそらくサム・バンクマンフリード的なタイプの人、イーロンマスク的な人、本当に愛国心はないと思います。
冒頭の「マスクが大統領になるかもしれない」という問いには、大きな前提があります。アメリカの大統領にはアメリカ生まれという資格規定があり、南アフリカ出身のマスクには資格がない、と速水さん自身が明かします。
それでも速水さんは「ウルトラC」はあり得ると話を広げます。たとえば南アフリカをアメリカに編入させる、Twitterを売ったお金で生まれた地域を買って合衆国だと言い張る、といった冗談めかしたアイデアです。
そのルールって変えられるもんだからね。権力者は。何が起こるかわからないですよ。
アメリカはデスゲーム国家になるのか
速水さんは、マスクは自分の立てた目標どおりに物事を進めることにものすごく厳しく、退路を断って全部のリスクをぶち込むタイプだと改めて語ります。そのため、アメリカの官僚のリストラも本当に進めていくだろうと予想します。
速水さんによれば、官僚のリストラは普通に考えれば緊縮経済です。これまで財政出動をしてきたアメリカが人を切る形で緊縮に向かえばどうなるのか、という問題もあります。そのうえで速水さんは、マスクはそれをデスゲームとしてやるので、イカゲームのように脱落者が続々と出るのではないかと見ています。
デスゲームは今やイカゲームに代表されるエンタメの一ジャンルです。速水さんはその端緒として、1987年の映画『バトルランナー』を挙げます。スティーブン・キング原作でシュワルツェネッガー主演の作品で、中学時代に月刊GUN ── モデルガンや実銃を扱う日本の銃専門誌。銃器の詳細な解説記事で知られていましたを愛読していた速水さんは、劇中の銃まで細かく覚えているといいます。
『バトルランナー』の舞台は近未来の独裁国家です。政権が国民のガス抜きとして与えるテレビ番組が実質的な公開処刑ゲームで、参加者は刺客から逃げ回り、視聴者はどう残虐に殺されるかを賭けの対象にして楽しみます。速水さんはこれを「風雲たけし城みたいな映画」と表現します。
日本でも大晦日にショッピングモールで鬼ごっこをする番組が人気だと速水さんは触れ、デスゲームという形式自体が娯楽として定着していると指摘します。
速水さんは、娯楽と政治の関係を次のような流れで捉えています。
誕生日は365分の1でしかない?
速水さんは、推しの時代と言われる現代で、世界を動かしているのは共感力に欠け、デスゲームを生きる人間たちだとまとめます。そのうえで、共感の薄さを示すサム・バンクマンフリードのエピソードを紹介します。
マイケル・ルイスの本によると、サム・バンクマンフリードは自分の誕生日にも、記念日全体にも関心がないそうです。ユダヤ教徒の両親も途中から祭日を祝わなくなり、クリスマスのプレゼントも別にクリスマスでなくていいと少し早めに買うような家庭だったといいます。
「どんだけだ」と驚きつつ、速水さんは「あ、俺と同じだ」とも思ったと明かします。速水さん自身はギフテッド的な要素はないとしながら、自分の誕生日を特別な日だと思わず、祝日も興味がなくて苦手だといいます。
11月23日が何の日って20代の頃に忘れて、一回もそこから興味がないから覚えようとしてない。子供の頃は知っていたと思う。
速水さんは、共感能力のあるタイプかないタイプかでいえば自分は明らかに欠けている側だと語ります。マスクやサム・バンクマンフリードの話を、少し離れた他人事としてではなく、自分にも通じるものとして締めくくっています。
自分の誕生日は365分の1っていうタイプの人間です。
まとめ
速水さんはこの回で、推しや共感が重視される時代の裏側に、共感の薄いギフテッドたちが社会の仕組みを作っているという構図を描きました。イーロン・マスクの退路を断つ流儀や、サム・バンクマンフリードの効果的利他主義と転落を通して、娯楽だったデスゲームが現実の政治と重なりつつある可能性を指摘しています。
- イーロン・マスクは無理目な目標を立てて退路を断つタイプで、速水さんはその人生を「イカゲーム的」と表現した
- システム化指数と共感指数は両立しにくく、推しや宗教は共感指数の延長、テック起業家はシステム化指数の側にいるという見方が示された
- サム・バンクマンフリードは効果的利他主義の代表だったが、詐欺で懲役25年の判決を受けた
- 速水さんは、推しの時代と、共感の薄い人たちが社会のプラットフォームを作ることは裏表のワンセットだとした
- 『バトルランナー』以来のデスゲーム娯楽を楽しむうちに、アメリカ自体がデスゲーム国家化しているという皮肉が語られた




