大阪万博とジャングリアは本当に失敗だったのか?
速水さんはまず、大阪万博とジャングリアという2つのイベントを取り上げます。大阪万博は始まる前に「目も当てられない」と言われていたものの、数ヶ月経つと成功しているように見えると話します。
速水さんによると、大阪万博ではミャクミャクの効果やリピーター、グッズ収入なども含めて、成功しそうな雰囲気が出ているといいます。
沖縄のテーマパーク、ジャングリアも開業当初は炎上から始まりました。ただ1ヶ月ほどして落ち着くと、事前にアトラクションを予約すれば結構楽しめる、そこまでひどくない、という感想も出てきたそうです。
何が失敗かっていうのは、すごい短期的には見られないよねっていう、今時のものの見方っていうのを考える材料に、この2つのイベント(万博とジャングリア)はなっているんですけど。
この2つの例を踏まえて、速水さんは本題であるダウンタウン・チャンネルの話に入ります。ダウンタウン・チャンネルは11月1日に開局予定で、ファン参加型のサービスになること以外、まだ何も発表されていません。
ダウンタウン・チャンネルについては、成功する、失敗するとさまざまな予測が出ています。速水さんは「ファン参加」にはやや危うさを感じつつ、あえて失敗する側にベットして話すと宣言します。
なぜならね、イノベーションのジレンマっていう法則にバッチリ重なるっていうのがちょっと気になります。
正しい判断をする大企業が、なぜ負けるのか
速水さんは最近、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ ── 経営学者クレイトン・クリステンセンが1997年に発表した本。優良企業が合理的な判断を重ねるほど、新興企業の破壊的な技術や製品に市場を奪われる構造を論じています』を読んだといいます。新しい市場が生まれるとき、破壊的なイノベーションによって旧来の市場リーダーは必ず敗れる、という内容です。
速水さんが挙げるわかりやすい例はマイクロソフトです。90年代までのマイクロソフトは市場リーダーでしたが、インターネットの時代になってGoogleやFacebookが登場すると、5、6番手へとずり落ちていきました。
さらにSNSなど次の市場の変革が起きると、GoogleやFacebookもリーダーではいられなくなります。『イノベーションのジレンマ』は、この繰り返しがどんな法則で起きているのかを説明した本だと速水さんは紹介します。
速水さんが強調するのは、大企業が判断を誤るから負けるのではない、という点です。分析も戦略も正しいのに、正しい判断こそが新しい市場では逆に作用してしまうのが、このジレンマの核心だといいます。
分析も戦略も正しい。けど、その正しいやり方でやっても勝てないんだっていうね。
ドリフからひょうきん族、ダウンタウンへ。お笑いの破壊的イノベーション
速水さんは、イノベーションのジレンマはお笑いの世界にもそのまま当てはまると考えています。速水さんの世代では、ドリフと欽ちゃんがお笑いの王様でした。
その市場に現れたのが『オレたちひょうきん族』です。速水さんは、ひょうきん族を「革新的」と呼ぶのとは少しニュアンスが違い、本の用語でいう破壊的イノベーションだったと説明します。
ドリフと『オレたちひょうきん族』のやり方の違いは、次のように整理できます。
厳しいリハーサルを繰り返し、アドリブはほとんど許されなかったお笑い
リハーサルもせず、出たとこ勝負のアドリブで作るお笑い
視聴者はドリフよりもひょうきん族のほうが面白いと感じ、よりコストの安い新しいものを喜ぶようになった、と速水さんは見ています。
ダウンタウンの登場も同じ構図だったといいます。最初は「大阪のあんちゃんたちが立ち話をしているだけ」と批判されましたが、それまでのお笑い好きが怒りたくなるようなものこそが、次の市場のルールを作ったという見立てです。
速水さんはもう一つの例として、1994年から95年ごろのゲイシャ・ガールズとH Jungle with tを挙げます。前者は坂本龍一さん、後者は小室哲哉さんの仕事で、当時すでにダウンタウンはお笑いの王様でした。
明らかに手を抜いている小室哲哉の破壊的イノベーションというかね。
速水さんは、80年代のポップスと90年代のJ-POPの違いを、作り手ではなく聞き手の変化として捉えます。
すごいものを作るほど勝てない?ダウンタウン・チャンネルの宿命
速水さんは、この理論をダウンタウン・チャンネルに当てはめます。吉本は新しいプラットフォームまで作り、今のコンテンツの流れを踏まえて才能ある人を集め、最新のプロモーションやマーケティングも導入するだろうと予想します。
開局の3日前ぐらいにインフルエンサーたちが騒ぎ始めるような展開もあるかもしれない、と速水さんはジャングリアになぞらえて話します。
ただ、すごいものを作れば作るほどイノベーションのジレンマにはまり、素人の作った安いコンテンツに勝てない、というのが速水さんの予測です。速水さん自身も「身も蓋もない話」と認めています。
けど、ここから、僕は今の松本人志にしかできないことってあると思っていて、その提案の話をね、しようと思って。
速水さんの提案は、もちろん頼まれたものではなく勝手な妄想だと前置きされています。ドキュメンタリーではなく、リアリティ番組とドラマの中間のような作品で、第1話は東南アジアの空港から始まります。
空港の入国審査の列に、サングラスにキャップの怪しい身なりの男が並んでいます。名前と職業を聞かれた男、つまり松本人志さんは「コメディアン」と答えますが、不審者扱いされ、それならネタを見せろと迫られます。
押し問答の末、有名人であることを証明しようとスマホでYouTubeを開き、自分の名前を検索します。すると出てくるのは乱交パーティーやハラスメント疑惑など自分のスキャンダル動画ばかりで、慌てて隠すところまでが冒頭のアバンだといいます。
自分を知らない国で、もう一度コメディアンになる第1話
速水さんの企画では、空港に迎えに来るのは雇われた観光ガイドです。このガイドは日本から来る人の世話を頼まれただけで、松本人志さんの存在も職業も知りません。
舞台の都市は特定せず「東南アジアぐらいでいい」とされています。速水さんの狙いは、自分のことを全く知らない人しかいない国で生活する有名コメディアンと、すっとぼけたガイドの会話劇です。
言葉がおぼつかない2人は、ドライブを重ねるうちに互いを面白いと感じ始めます。やがてガイドは、この国でスタンドアップコメディをやってみたらどうかと言い出します。
「なんかあなたなかなか面白いじゃないですか。なんかこの国でスタンドアップコメディでもやってみたら、いや、うまくいくんじゃないの?」
実はガイド自身もコメディアン志望で、養成学校に通っていました。興味を持った松本さんが学校を見学すると、授業では「コントとは何か」が教えられ、カツラとセットを組み合わせてコントを演じる課題が出ていました。
第1話の流れを整理すると、次のようになります。
入国審査
コメディアンと名乗るが不審者扱いされ、スキャンダル動画を隠す
ガイドとの出会い
松本さんを知らない観光ガイドと会話劇が始まる
コメディアンスクール
ガイドが通う養成学校を見学する
コントに挑戦
キャシー塚本を演じるが、現地の生徒の反応はいまいち
成り行きで授業に参加した松本さんは、パーマのカツラとキッチンのセットを選び、突然キレ始める料理学校のハイテンションな先生を演じます。これはキャシー塚本 ── 松本人志さんが演じたコントのキャラクター。料理番組の講師として登場し、突然激昂して暴走する芸風で知られますのネタですが、現地の生徒の反応は「やっぱいまいちだね」というものでした。
元ネタは『フランスでは有名人』。タイトルは2案
速水さんは、第1話を1回45分ぐらいと想定し、出国、新しいパートナーとの出会い、街での再スタートを描く回だと位置づけます。
この企画には元ネタがあります。Netflixで6、7年前から配信されている『フランスでは有名人 ── 2019年にNetflixで配信されたフランスのコメディドラマ。人気コメディアンが本人役のような役柄でアメリカに移り、無名からやり直す姿を描きます』です。
『フランスでは有名人』は、フランスで成功している中年のスタンドアップコメディアン本人が脚本と主演を務め、パリに嫌気が差してLAへ移住する物語だと速水さんは紹介します。
速水さんはドラマのタイトルも考えています。候補は語順を入れ替えただけの2案で、「無名のダウンタウン」と「知らない街」のダブルミーニングを込めたといいます。
速水さんが推す案
ChatGPTが勧めた案
まあこれね、どっちでもいいんですよ。まあそれ(タイトル)はね、まっちゃんが選んでくれればいいなと。
速水さんは冗談めかして、この企画は「連絡お待ちしています」と締めくくります。
吉本の予算はAbemaTVに届くのか
速水さんが気になっているのは、11月1日という開局日が大阪万博の会期を見事に避けている点と、予算規模です。どのくらい本気で取り組むのかが予算に表れるからです。
比較対象として挙がるのがAbemaTVです。運営するサイバーエージェントは超巨大企業で、先行投資としては大した額ではないとされつつも、赤字だけで年間200億円規模だと速水さんは話します。
一方の吉本は、劇場運営や行政との関わりがあっても、サイバーエージェントに比べれば小さい会社だと速水さんは見ています。本業に近い領域でそこまでの先行投資をするのは難しそうだ、という見立てです。
ただしAbemaTVも、最初は作り手が何も届いていないと感じるほどの手応えだったものの、続けるうちに下手な地上波より見られている実感が出てきたといいます。
まあ何事もそうですけど、継続ですよね。
ポッドキャストが4年目に入るという速水さんは、継続の大切さを語って番組を締めています。
まとめ
速水健朗さんは、イノベーションのジレンマの視点から、作り込むほど安いコンテンツに勝てないダウンタウン・チャンネルの難しさを指摘しました。そのうえで、自分を知らない国で再出発する松本人志さんを描くドラマ企画を提案し、最後は継続の重要性に触れています。
- 大企業は正しい判断をするからこそ、新しい市場では負けるというのがイノベーションのジレンマの核心
- ドリフからひょうきん族、ダウンタウンへの交代も、安く新しいものが市場のルールを変えた例として語られた
- 速水さんの企画は、無名の地で再出発する松本人志さんを描く『フランスでは有名人』風のドラマ
- 吉本の投資規模はAbemaTVの年間200億円の赤字と比べて小さいと予想されるが、成否は継続次第でもある



