最初に一人で見た映画館の記憶
速水さんはまず、人生で最初に映画館へ行った記憶から話を始めます。両親が喧嘩をして母親が家出をした際、それについて行き、母親と一緒に寅さんを見た記憶だといいます。
3、4歳の頃で、映画の中身は覚えておらず、母親に確認しても「全く覚えてない」と言われるそうです。
その後、小学生になると子供同士で映画館へ行くようになります。北斗の拳の東映漫画祭りを友達3、4人で、ビーバップハイスクールの劇場版をクラスの男の子10人ほどで見に行った記憶が語られます。
これは中学生とかに絡まれたら大変なので、みんな10人ぐらいで行こうぜって言って、ビーバップハイスクールを見に行った記憶。まあ集団安全保障ってやつだよね。
そして最初に一人で見に行った映画が、南野陽子主演のスケバン刑事の劇場版でした。友達と行くはずが公開前日に喧嘩をして、一人で行くことになったといいます。
ドラマの劇場版はどう主流になったか
速水さんは、スケバン刑事の劇場版のあらすじを一度うろ覚えのまま語りかけ、途中で「これはちいかわが混じっている」と自ら訂正します。
いや、そんな話じゃなかった気もするんですけど、これはちいかわが混じっている。
実際のスケバン刑事の劇場版は、日本中の非行少年少女が集められ洗脳される島が舞台でした。洗脳する側は二・二六事件1936年に陸軍青年将校らが起こしたクーデター未遂事件。北一輝は事件に関与したとして死刑となった思想家。の首謀者の一人・北一輝をモデルにした人物で、少年少女で軍隊を作りクーデターを起こそうとする話だといいます。
ここから話は、ドラマの劇場版がどう作られてきたかへ移ります。当時はドラマの劇場版自体が少なく、必殺仕事人やあぶ刑事、スケバン刑事など、東映主導の制作体制から生まれたものが中心でした。
速水さんによれば、当時のテレビ局には劇場版を作るメリットがあまりなかったといいます。80年代の南極物語や子猫物語は、宣伝メディアとしてテレビが映画より優秀だと突きつけるビジネスモデルだったと分析します。
その状況を大きく変えたのが、1997年の踊る大捜査線でした。ヒットしている映画は全部テレビ局制作、という状況が当たり前になる転機になったと位置づけます。
なぜ今作は「分の悪い戦い」なのか
話題は、9月18日公開の新作『踊る大捜査線 N.E.W. メトロポリスを駆け抜けろ!』へ移ります。速水さんは、公開に向けて冷ややかな声が多数になるのは間違いないと冷静に見ています。
その理由として、今のフジテレビへの逆風、30年前の栄光の復活であること、一度「THE FINAL」と言って終わらせたものを復活させること、大友啓史監督が大物になりすぎていることなどを挙げます。
批評界隈とかサブカル映画の界隈の物書きとかっていうのは、まあ元からもうこれはさ、叩くこと前提の作品なんだよね。
一方で、ファンは確かにいてヒットもしている、と速水さんは指摘します。100億とはいかないものの、50億前後のヒット作品にはなっているといいます。
だから見に行く人たちはいるんだよ。ただ、これを語りたい人たちっていうのは、とにかく貶したい人たちっていうね。
速水さん自身は、劇場版3作目や4作目の頃に擁護する立場に回り、サブカル批評家に絡まれた経験があると振り返ります。今回も行きがかり上、擁護することになるだろうと話します。
空撮が映してきた東京湾岸の30年
速水さんが劇場版の見どころとして挙げるのが、冒頭の空撮です。お台場や東京湾岸の風景を毎回描くことで、1997年以降の湾岸開発を定点観測的に映し出していると指摘します。
1997、98年当時のお台場は「空き地町」と呼ばれるほど何もない場所でした。それが2003年公開の2作目では、急に発展し人で溢れるお台場が描かれます。
速水さんは、2作目が監視社会をテーマにしている点に注目します。1作目と2作目の間に9・112001年に起きたアメリカ同時多発テロ。ハイジャックされた旅客機がビルなどに突入する様子がテレビで中継された。が起こり、人々が監視カメラ越しに事件を目撃した時代を反映していると読み解きます。
さらに湾岸のタワーマンションや、3作目で工事中だった東京ゲートブリッジが4作目で完成している点など、空撮に映る変化を挙げます。
速水さんは、14年ぶりの今作で湾岸がどう変化したかを空撮でどう描くのかに、純粋に期待していると語ります。この間にオリンピックが開催されている点も大きな変化です。
青島俊作という名前が背負うもの
速水さんは、そもそも青島俊作とは何者だったのかを、名前の由来から掘り下げます。ドラマが始まる1997年より2年前の1995年、青島幸男が世界都市博の中止だけを公約に掲げて都知事に当選しました。
すでにイベントの企画料などは電通などに支払われており、撤回で取りっぱぐれたのは末端の下請けだったといいます。そして中止で一番とばっちりを受けたのが、会場予定地だったお台場でした。
逆に中止されて何も発展しなかった場所にフジテレビがやってきてしまい、フジテレビがとばっちりを受けるという。
速水さんは、東京の開発史において湾岸は戦前からずっと「鬼っ子」だったと語ります。都心に大量の埋立地がありながら、戦争やバブルなどで計画にケチがつき続けてきた場所だといいます。
そのいい加減な都知事の名前を借りたのが、青島という主人公です。青島幸男はテレビ黎明期のバラエティ作家でありタレントでもある、中心的な人物の一人でした。
青島幸男から青島俊作へっていうのは、テレビの始まりからテレビの終わりっていう、テレビの時代の終わりっていうね。
速水さんは、今作がテレビの終わりを匂わせてくれれば綺麗にオチがつくかもしれない、と期待を寄せます。一方で、青島幸男という名前が「刑事と同じ名前の都知事が昔いたんだ」と忘れられる時代に入りつつあるとも話します。
「なんちゃって」から国民的ヒーローへ
速水さんは、踊る大捜査線がもともと数字の良いドラマではなかったと指摘します。ロンバケなどが平均30%を取っていた時代に、平均視聴率はせいぜい18%ほどの中規模作品でした。
その本質は、70〜80年代に主流だった刑事ドラマを、90年代に「なんちゃって」としてやってみた作品だと速水さんは語ります。
当時はまだ2ちゃんねるもない時代で、公式の掲示板が盛り上がり、放送終了後もファンがグッズを作るなどして話題が続きました。そのなかで劇場版化が発表されたといいます。
まあジョークだと思ったんだよね。だってそんな映画化されるような人気ドラマでも看板ドラマでもなかったわけ。
速水さんの見立てでは、劇場版は「大作風の刑事物パロディ映画」でした。空撮から始まる演出も、劇場版ならこうするよねというパロディとして作られたといいます。
ところがそれが本当に大作っぽく見えたためにヒットし、1作目・2作目を通じて青島俊作は国民的ヒーローになってしまいました。
速水さんは、3作目で作り手が「国民的ヒーローとしての青島」を描いたわけではないと考えます。だからこそ、3作目をノータイムで批判する姿勢が一般化したと分析します。
俺は3もTHE FINALも、実は1、2と変わらず力の抜けたコメディ作品。
湾岸署がガス攻撃を受けるがスカンクが逃げただけ、といった安いコントを平気でやってしまう。速水さんは、それがもともとの青島のキャラクターであり作風だと擁護します。
復活作に必要な「説得力」
14年ぶりに織田裕二が帰ってくることについて、速水さんは復活には説得力が必要だと語ります。一度「THE FINAL」でケリがついたシリーズを、なぜ復活させるのかが問われるといいます。
比較として挙げるのが、長い期間を空けて復活し成功したトップガンとプラダを着た悪魔です。トップガン マーヴェリックは、AI時代に人間のパイロットが無用になるテーマを、役者の存在にも重ねて描いたと読み解きます。
AIの時代になると役者も無用だよねって言われるのと同じことを突きつけられてるトム・クルーズは。
速水さん自身、トップガンの続編には当初「やめてくれ」と思っていたものの、公開されて真っ先に見て喝采を上げたといいます。復活作は、下手をすればオリジナルを毀損しかねない複雑な感情を突きつけると話します。
じゃあ青島はどうなんだろう。まあ、これは本当に答えは一ヶ月後っていうことになります。
公務員役者・織田裕二と、寅さんの系譜
最後に速水さんは、役者としての織田裕二を論じます。当初は引っ込み思案で煮え切らない男の役が多く、青島がイメージの転機の一つになったと振り返ります。
速水さんは、織田裕二を「公務員役者」と評します。踊るの刑事、県庁の星の県庁職員、アマルフィなどの外交官など、偉くなっても公務員の役が多いと指摘します。
一方で木村拓哉が演じる職業はロールモデルになる一匹狼が多い、と対比します。青島俊作も、組織のあり方に怒る熱血漢でありながら、市民にサービスを提供する公務員からははみ出さないと分析します。
刑事、県庁職員、外交官など。偉くなっても公僕からはみ出さない公務員役者
ピアニスト、美容師、検事など。憧れの対象となる一匹狼のロールモデル
速水さんが青島に見出すのは、寅さんやハマちゃんの系譜です。渥美清や西田敏行のように、役を通じてずっと宴会をやっているようなサービス精神ある存在を、二枚目俳優の織田裕二が引き継いでいる点を評価します。
速水さんは、新作に期待するのはこの寅さん的なものだと語ります。保守的な願望だと認めつつ、そちらを求めてもいいのではないかと話します。答え合わせは公開後、このポッドキャストで改めて行う予定です。
まとめ
速水さんは、酷評されがちな『踊る大捜査線』を、東京湾岸の開発史と国民的キャラクターの系譜という2つの軸から擁護しました。冷ややかな声を承知のうえで、新作の見どころと期待を語る回です。
- 劇場版の空撮は、1997年以降の東京湾岸開発を定点観測的に映してきた
- 青島幸男の名を借りた青島俊作は、テレビの始まりと終わりを背負う存在
- 踊るはもともと中規模の「なんちゃって」刑事ドラマから国民的ヒーローになった
- トップガンやプラダを着た悪魔のように、復活作には説得力が必要
- 公務員役者・織田裕二が寅さんやハマちゃんの系譜を継ぐ点に注目している
