死の淵から戻るまで、何があったのか?
宇野維正さんは2025年6月13日の未明、大動脈解離 ── 心臓から全身へ血液を送る大動脈の壁が裂ける病気。突然の激痛を伴うことが多く、緊急手術が必要になる場合もある命に関わる疾患ですで倒れました。救急車で運ばれて大手術を受け、その後1週間は意識が戻らなかったといいます。
宇野さんによると、意識が戻ってからも2週間は集中治療室で過ごし、倒れてから約1ヶ月後に退院しました。収録日の7月22日は、宇野さんにとって6週間ぶりに電車に乗った日だったそうです。
宇野さんの病状は、すぐに手術できる医師のいる病院へ救急病院から移され、優秀な医師による9時間の手術で命を取り留めたという経過です。宇野さんは、CTを撮られるところまで、つまり手術に入るまでは記憶があり、全身麻酔がかかってからの1週間は完全に記憶がないと話しています。
今回の入院について、宇野さんは初めての救急車、初めての入院だったと振り返ります。両親も健在で、身近に亡くなった人も少なかったため、自分だけはそういうものから逃れ続けられるという錯覚があったといいます。
速水さんが「人生観が変わったのか」と尋ねると、宇野さんは、悪魔に一気に追いつかれた感じだと表現しました。速水さんが「十字路に立ってたやつ」と応じ、映画『罪人たち』に重ねたやりとりになっています。
宇野さんが倒れてから退院するまでの流れを、時系列で整理すると次のようになります。
Xが止まった3週間、ネットでは何が起きていたか?
宇野さんが倒れた時期、速水さんと宇野さんは7月に一緒にイベントを予定していました。イベントは発表の数日前だったため中止のアナウンスは不要でしたが、宇野さんによると、裏で中止になった仕事はいくつもあったそうです。
速水さんは、いつものようにMESSENGERで宇野さんにイベントの連絡をしたところ、「宇野の妻です」という返信が来て、事態を知ったといいます。その後も宇野さんの妻から、手術の成功や快方に向かっていることなど、段階ごとに連絡を受けていました。
意識が戻りかけた宇野さんが「Twitterを気にしている」という話も、速水さんは宇野さんの妻から聞いていました。宇野さん本人は、それはうわごとレベルだったはずだと話しています。
宇野さん自身は、毎日発信していた人が2〜3週間黙ればフォロワーは減るだろうと心配していました。しかし速水さんが「増えたでしょ」と聞くと、宇野さんの答えは「増えた」でした。
速水さんの見立てでは、宇野さんのXの更新が2〜3日止まった時点で、ずっと追っている人たちの間にざわつきが起きていました。知人の島崎さん(JCAX)も、ポッドキャスト収録中に何度も宇野さんを心配していたといいます。
あの、やっぱりさ、アンチはファンなんだよね。
宇野さんの妻は、宇野さんの意識が戻る直前のタイミングで、病名を伏せ必要な情報だけを書いたアナウンスを出しました。その投稿がネットニュースになり、宇野さんのスマホには、大学時代の友人など長く連絡のなかった人からも多くのLINEが届いていたそうです。
速水さんは、宇野さんの妻のアナウンスの後に補足の投稿を出しています。フォロワー5万人に向けて発信することに緊張していた宇野さんの妻に、速水さんは「みんな味方だから」と伝え、やりとりの中身をそのまま出していいと助言したといいます。
速水さんの補足投稿には、宇野さんがどうやらTwitterを気にしているようだという情報を加えました。速水さんによると、宇野さんにブロックされている人たちまで本気で心配し始めていて、それを見て「ほのぼのした」そうです。
宇野さんが「人の命の優先順位って高いんだね」と感想を述べると、速水さんは少し違う見方を返しました。
宇野さんがそれを「目覚めが悪い」と言い換えると、速水さんも同じ言葉で応じています。
集中治療室から戻ると、世界線が変わっていた
集中治療室にいた間、宇野さんはネットを見る関心すらなかったといいます。酸素マスクをつけ、1週間寝返りも打てず、全身が痛い状態でした。
宇野さんの家族は、手術が成功し、頭もちゃんと動いて喋れていると喜んでくれました。けれど宇野さん本人は、死ぬほどきつく、あのまま死んでいた方が楽だったのではと思うほどだったと、意識が戻ってからの1週間の偽らざる気持ちを語っています。
宇野さんが最初に触れた外の情報は、ネットではなくテレビでした。意識が戻って1週間ほどして集中治療室のテレビをつけると、TOKIOの松岡昌宏さんが記者に謝っていて、なぜ謝っているのかわからなかったそうです。
宇野さんが倒れたのは東京都議会議員選挙の前で、投票の案内も届いていました。ところが気がつくと都議選は終わり、みんな参議院選挙の話、それも参政党 ── 2020年に結党した政党。「日本人ファースト」を掲げ、2025年の東京都議選・参院選で議席を伸ばしましたの話ばかりしていたといいます。
宇野さんが驚いた変化はほかにもあります。速水さんがよく仕事をしている田村淳さんのロンドンブーツ1号2号が解散し、お笑いコンビのインディアンスは「ちょんまげラーメン」に改名していました。速水さんは、インディアンスの改名はドッキリだと補足しています。
宇野さんが倒れる前と戻った後で、目に入った世の中の様子は次のように変わっていました。
都議選の投票案内が届き、誰に入れるか考えていた。TOKIOもロンブーも活動していた
都議選は終わり、話題は参院選と参政党ばかり。TOKIOは解散、ロンブーも解散、インディアンスは改名
TOKIOの解散についても、宇野さんは国分太一さんが何かをしたらしいところまでは突き止めたものの、何をしたのかは調べてもわからなかったといいます。速水さんは、言いにくいわけではなく、何も発表されていないのでみんなわからないのだと説明しました。
映画を見られない映画ジャーナリスト、カニエと坂本龍一
宇野さんの本業は音楽、映画、テレビシリーズで、毎日新作を見る仕事です。3〜4週間それが止まった時点で、どうしたらいいかわからなくなったといいます。
宇野さんは、試写が倒れる直前だった『28年後...』や『スーパーマン』をまだ見られていません。興行分析の原稿も書く立場として、宇野さんは「こんなやつは映画の仕事をしちゃいけないんじゃないか」と、収録時点では思っていると話しました。
宇野さんは、抜け落ちた期間をどう取り戻すか、そもそも取り戻すべきものなのかと考え、「アイデンティティクライシス」に陥っていると表現します。速水さんは、話している限りでは完全に元に戻っているように見えると返しました。
宇野さんの体の変化として、意識が戻った直後は手術の影響で左手が動かず、味覚もなくなっていたそうです。医師は難しい手術で命を救えたことに満足げでしたが、宇野さんは、命さえ救えばみんな満足してしまうのだと実感したといいます。
収録時点で、宇野さんの味覚は7〜8割、しびれは8〜9割回復していました。それでも1週間前までは、映画やドラマ以前に「楽しくねーな、この世の中」という気分だったそうです。
闘病中の音楽について、宇野さんはカニエ・ウェストが聴けなかったと話します。カニエは勝手に病んで勝手にエネルギーを放射する音楽で、聴く側が寄り添わなければいけないため、フィジカルに弱っているときは受け入れられなかったといいます。
代わりに宇野さんが聴いていたのは坂本龍一さんでした。坂本さんが大病をした後に2回取材していたこともあり、宇野さんの中では「大病、入院、坂本龍一」という単純な連想が働いたそうです。
聴けなかった。病んだエネルギーを放射する音楽で、こちらが寄り添う必要がある
聴けた。歌のない音楽しか受け付けない中、大病後の取材経験からの連想で手が伸びた
映画館での最初の1本について聞かれると、宇野さんは、もう『鬼滅の刃』の公開が始まってしまい、見たい作品がIMAXでかかっていないと嘆いていました。
参政党はなぜ急に台頭したのか?芝公園はフェスだった
宇野さんの最初の質問は「参政党はなんであんなことになったの?」でした。速水さんは、都議選で参政党が議席を増やし、自民党がかつてない大敗をしたことで政治情勢が一気に盛り上がったと説明します。
速水さんによると、トランプ政権の関税で25%が本当に課されるという現実も突きつけられ、20代・30代が選挙の話しかしなくなりました。その話題の9割が参政党だという状況に入ったのは都議選以降で、その瞬間を見ていなければ世界線が変わったように見えるだろうと速水さんは話しています。
宇野さんは「別のマルチバースに入った感じ」と応じつつ、2〜3年前から幕張メッセの別ホールで参政党のイベントが人を集めていたのを見ていたと振り返ります。来ている人は見た目は普通の人で、草の根の活動を着々と続けていたのだと感じていたそうです。
速水さんは、議員が増えてテレビの討論会に出たことに加え、アンチが騒いだことが追い風になったと見ています。速水さんは毎回、選挙最終日に最も盛り上がっている陣営を見に行くと決めていて、今回は芝公園の参政党の演説に足を運びました。
(芝公園の参政党の演説は)みんな言ってた通りなんだけど、フェスだった。
速水さんによると、党首演説会は普通、狭い距離で立って聞くため、どの党でも熱狂的な空気になります。ところが参政党の演説では、フジロックにいそうな家族連れが芝生に寝そべり、犬を連れてきていたといいます。
宇野さんが「政治的にはフジロックと逆」と言うと、速水さんは、反グローバリゼーションや家計の苦しさを語る内容は左翼の集会のようだったと返しました。宇野さんは「APバンクフェスみたいな感じ」とたとえています。
速水さんは、前方ではカウンターの人々が叫んでいても後方には聞こえず、どこで見るかで印象がまったく違うと話します。隣では台湾フェスが開かれ、すぐ近くの東京タワーの下には外国人観光客が大勢いて、「日本人ファースト」の集会と隣り合っていることも含めてフェス感がすごかったそうです。
荒い言葉は誰にも届かない、トーンポリシングのすすめ
参政党をめぐる議論について、宇野さんが問題にしたのは叩き方でした。宇野さんは、イデオロギー的な言葉を輸入し、その言葉を広めるためにソーシャルメディアで誰かを糾弾するやり方が目立つと指摘します。宇野さん自身もずっとそうされてきたといいます。
宇野さんは去年ごろから「トーンポリシング ── 主張の中身ではなく、口調や言葉遣いを問題にして相手の訴えを退けること。議論のすり替えとして批判的に使われることが多い言葉ですはしていこうぜ」と言っています。退院後にもその趣旨をポストしたそうです。
宇野さんの考えは、言葉遣いの荒い人の話は誰も聞かないというものです。荒い言葉を使わざるを得ない立場の側に立っていないと責められても、目的のためにこそトーンはちゃんと整えるべきだと話しています。
宇野さんによると、整えられていない言葉が同じ人たちの間だけでバズり、世の中にはほぼ影響を及ぼしていません。「みんなバカじゃないんだから、そろそろ気づけよ」と今回改めて思ったそうです。
速水さんは、日本でもいずれ世界と同じことが起こると言われながら、欧米の政治状況を踏まえて態度が変わった様子が見えないと応じます。宇野さんは、トランプ大統領の荒い投稿でアメリカ人は盛り上がるが、参政党は内容はさておき言葉遣いは荒くないと比較しました。
トランプ大統領の荒い投稿でも人々が盛り上がり、ついていく
荒い言葉を使う人にはついていかない。参政党は言葉遣いが荒くなく、批判する側の声の荒さが目立つ
速水さんは、参政党を批判する人たちの声だけが荒く見えると、外からどう見えるかという問題になると整理しました。宇野さんは、海外の活動家のスタイルをそのまま輸入しても日本ではついていかず、自分の命に関わることが起きたときにみんなが優しくなったように、メンタリティーが違うのだと話しています。
情報から解放されて、心地よかったのか?
速水さんは、去年のアメリカ大統領選のハイライトがトランプ氏の暗殺未遂だったことを持ち出し、宇野さんの復活と重ねてからかいます。宇野さんは「トランプは利用したわけじゃん。俺も政治利用しなきゃ」と笑いつつ、ブランディングは何もしていないと答えました。
宇野さんがいま必要としているのは、まずモチベーションを取り戻すことです。宇野さんの仕事のスタイルから見ると、1ヶ月以上情報がない状態はかなりのクライシスだといいます。
速水さんが、情報から解放されて意外と心地よかったのではと尋ねると、宇野さんの答えは「ない」でした。宇野さんは、海外サッカーやオアシス、最近ならNewJeansのように、何かに心酔して自分を忘れることで生きてきたと話します。
宇野さんは、体が不調な今は嫌々ながら自分のことを考えているものの、早く自分のことを考えずにいられるようになりたいというのが、今回わかった結論だと語りました。速水さんは、娯楽は自分と向き合わないためのものだと村上龍さんが言っていたと応じています。
一方で宇野さんは、そういう人は生きるための事務手続きを忘れがちだと注意を促します。今回の入院で、宇野さんは日本の国民皆保険制度や高額医療制度 ── ここでは医療費の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」を指すと考えられます。入院や手術で医療費が高額になっても、所得に応じた限度額を超えた分が払い戻されますのありがたさを痛感したそうです。
宇野さんによると、緊急搬送やICUの費用もほぼ戻ってくるといいます。宇野さんが調べた範囲では、同じ症状での手術の成功率は日本の方が明確に数倍高く、海外なら相当な確率で死んでいたと話しています。
丸くならない宇野維正、それでも汚い言葉からは距離を置く
宇野さんは、トーンポリシングを責められても気にしないという立場を改めて示しました。宇野さんの観察範囲では、この半年から1年で表現を柔らかくする人が一部に出てきていて、逆にまだわかっていない人が悪目立ちしているといいます。
宇野さんは、死の淵から戻っても言うことは言う、全部は丸くなっていないと話します。速水さんは、NewJeansや小沢健二さんが好きな妻が「人が変わっていたらどうしよう」と心配していたので、変わっていなかったと伝えておくと応じました。
ただ、表に出す自分としては「博愛主義的」になっていくと宇野さんは語ります。日々飛び交うビーフや汚い言葉からは、死の淵を見たからこそ、より明確に距離を置くようになるだろうといいます。
神って復活するから神になるわけじゃん。
速水さんが、復活後の宇野さんは第2期トランプなのか、カニエのように神がかっていくのかと冗談めかすと、宇野さんは、クリスチャン教育を受けているのでその方向に行く可能性はあると返します。カニエが『Jesus Is King』の時期に汚い言葉を使わなくなったように、そういうモードに少しなるかもしれないと話しました。
最後に宇野さんが驚いたこととして挙げたのは、倒れる直前まで話題にしていたはずの長野メインさんの件を、意識が戻ったら誰も話していなかったことです。宇野さんは、なくなったのはCMだけで、普通に戻れるものなのだと感想を漏らし、第1部が締めくくられました。
まとめ
大動脈解離で倒れた宇野維正さんは、1週間の意識不明と集中治療室での日々を経て、1ヶ月以上ぶりに社会へ戻りました。戻った世界では参政党の台頭やTOKIOの解散が起きていて、宇野さんはその変化に戸惑いながら、言葉のトーンや自分と情報の距離について考え直しています。
- 宇野さんは6月13日に倒れ、9時間の手術、1週間の意識不明、2週間のICUを経て約1ヶ月後に退院した
- Xの更新停止はファンにもアンチにも心配を呼び、フォロワーはむしろ増えた
- 情報遮断の間に、都議選は終わり、話題は参院選と参政党一色になっていた
- 宇野さんは、荒い言葉は同じ仲間内でしか届かないとして、トーンポリシングの必要性を訴える
- 言うことは言いつつ、表では汚い言葉やビーフから距離を置く「博愛主義」に向かうと語った



