キャンプでのりたまご飯、カレー嫌いはどう説明してきた?
速水健朗さんはカレーが苦手で、今に至るまで食べられないといいます。小学校のキャンプや遠足では、みんながカレーを作って食べる横で、のりたまのふりかけを持っていって白いご飯を食べていたそうです。
なんかみんながカレー作って食べてる中、のりたまのふりかけを持ってってね、白いご飯を食べていたっていう。
速水さんは、食べ物の好き嫌いは周囲の空気を壊すことがあるので、なるべくひけらかさずに生きてきました。それでもカレー嫌いは珍しいせいか、しょっちゅう質問を受けるそうです。
よく聞かれるのは「タイカレーでもダメなのか」「スパイスのカレーなら美味しいのではないか」といった質問です。速水さんの答えは、どれも全部ダメだというものです。
何度も聞かれるうちに、速水さんは極論で切り返すようになりました。ホクホクのじゃがいもをご飯に乗せて食べる文化など日本にしかない、という言い方です。
これを最初にね、言ったの多分15ぐらいの頃で、まあスネ夫がいかにも言いそうなね、セリフっていうか。
日本文化の特殊性を持ち出すこの言い訳には、決まって「じゃがいもを入れないカレーだってある」という反論が返ってくるそうです。けれど速水さんはカレーを食べたことがないので、その知識がなく、再反論の余地がないと笑います。
45年のカレー嫌いに理由があった?ADHDと偏食
速水さんは45年ほどカレー嫌いを続けてきましたが、好き嫌いに理由などないと思っていました。ところが最近、カレーが嫌いなことには理由があるとわかったといいます。
速水さんによれば、ADHDの傾向の一つに偏食があり、その典型例の一つがカレーライスだそうです。食材単体は食べられるのに、調理の過程で他の食材と混ざると食べられなくなることがあり、白いご飯の部分だけを食べる人もいるといいます。
ADHDの傾向の人はね、なんか白いご飯の部分だけ食べるっていうことをやるらしい。「ああ、俺だ」って。
速水さんは汁を含んだ食べ物全般がかなり苦手で、混ぜご飯も正直好きではないそうです。ご飯は白いものだという刷り込みがあり、汁が移っている状態が苦手なのだろうと自己分析しています。
ただしチャーハンは例外で、好きだといいます。速水さんはチャーハンを、もともと白いご飯とは関係ない食べ物として受け止めているようです。
カレーライス、混ぜご飯、汁系の食べ物。白いご飯に途中で色や汁が移るもの
チャーハン。もともと白いご飯とは関係ない食べ物として受け止めている
白いものが途中で色がつくっていうことが基本的に嫌なんだと思います。
速水さんは、カレーライスが食べられないのは、一定の人々の中に存在する傾向の一つなのだと捉えています。ネット時代になってそれを知れてよかった、と話しています。
人気店のおすすめが食べられない、大人の偏食のやらかし
速水さんは、大人になるとカレーを食べなければならない場面は昔のキャンプほど多くないので、避けられるといいます。ただ、ほかにも苦手なものが多く、油断すると時折やらかしてしまうそうです。
最近も、人に人気店へ連れていってもらった際、その人が一番すすめるメニューが食べられなかったといいます。わざわざ予約して「これはすごい美味しいから」と出されたものに、苦手だと言うしかなかったそうです。
(苦手だと)避ける行動をしたんだけど、なんかそれも傷つけてしまうというかね。
「無理して食べなくてもいい」と相手に気を遣わせてしまう状況を、速水さんは久々にやってしまったと振り返り、本当に申し訳ないと話しています。
沖縄料理屋で降りてきた「心の中のパリス・ヒルトン」
速水さんはもう一つ最近のエピソードを紹介します。5人ほどのグループで、速水さんが率先して見つけた沖縄料理屋に入ったときの話です。
メニューは、5人のうち2人ほどが選ぶ軽い合議制で決まりました。ところが出てきた料理は、速水さんが苦手なものや、一口でいいと思うものばかりで、2周目の注文も同じ傾向に偏ったそうです。
普段よく行く沖縄料理屋なら食べられないものはそんなにないはずなのに、その日はお腹が空いているのに何も食べられない状況になりました。速水さんはそのとき、心の中に秘めていたパリス・ヒルトンが降りてきたと表現します。
速水さんはゴーヤチャンプルー、海ぶどう、ポーク卵といった定番の沖縄料理を頼みました。すると、それまで極端な料理を食べていた人たちから「定番もいいね」という空気が生まれたといいます。
「なんだ、みんな定番欲しかったんじゃん」って。俺が言わないと頼まなかったけど。
速水さんはこの感覚を、M-1でランジャタイ ── 独特で予測不能な芸風で知られるお笑いコンビ。M-1グランプリ決勝にも進出していますやトム・ブラウン、真空ジェシカが並ぶと「定番が欲しい」と感じるのに近いと例えています。
居酒屋の頼み方は3タイプ?定番派の思想
速水さんは、居酒屋のメニューの頼み方を単純に分けると、3つほどの属性があると話します。ポケモンに例えて「属性」と呼んでいます。
| タイプ | 頼むもの | 例 |
|---|---|---|
| おすすめ派 | 今日のおすすめ | その日の推しメニュー |
| 定番派 | どこの店でも外さないもの | やっこ、ハツ、つくね、揚げ出し豆腐 |
| 珍味派 | 頼んでみないとわからない店特有のもの | 店ごとの変わり種 |
速水さんによれば、それぞれの好みでバランスよく頼まれると喧嘩にはならないそうです。居酒屋で食べられないものも、梅水晶 ── サメの軟骨を梅肉で和えた居酒屋の珍味。コリコリした食感が特徴ですなどはあっても、そうそうないといいます。
沖縄料理屋の日は、変わり種を頼む人が多かったために、定番を頼みたい速水さんとは合わなかったというわけです。
「スタンダードを一致させる」ゲームはなぜ難しい?
速水さんには、自分はスタンダードを選ぶのだという思想があるといいます。例に挙げるのは、お笑い芸人が集まって「90年代のジャンプ漫画のヒーローといえば誰か」の答えを一致させるバラエティのゲームです。
孫悟空って答えるのか、ルフィって答えるのか。まあ、その2択でいいのかな。あーけど桜木花道っていう手もあるか。
速水さんは、このゲームを高度な空気の読み合いだと見ています。その場のメンツやリアルタイム世代かどうかで答えが変わるので、ゲーム性が高いという見立てです。
ただ、スタンダードを選ぶ立場の人にとっては、その勘が外れ始めると危ないとも感じているそうです。そこから話は、ラジオ番組での体験へ移ります。
ブルーノ・マーズが通じない生放送はトワイライトゾーンか
2024年の年末、速水さんが司会を務める文化系トークラジオLIFE ── TBSラジオで放送されているトーク番組。速水さんがレギュラー出演し、YouTubeでも生配信していますで、1年の流行を振り返る3時間の生放送がありました。選曲権を持つ速水さんは、1曲目にブルーノ・マーズとロゼの「APT.」をかけたそうです。
速水さんの狙いは、散々聴き飽きたベタな曲で「またこれか」という反応をもらうことでした。ところが8人ほどいた出演者全員が「何ですか、これ」という反応だったといいます。
全員が「いや、知らないっすね」ってなるって、なんかね、担がれてるのかなと最初思ったの。
ブルーノマーズをどこまで、北朝鮮じゃないですよ、日本のラジオ局で説明しなきゃいけないのかってすごいぐるぐる考えちゃって。
速水さんは、ドッキリではないとわかるとホラーだと感じたそうです。地球人なら誰でも知っているものを、その場の全員だけが知らない状況を、「トワイライト・ゾーン」の自分以外全員が宇宙人だったという話に重ねています。
CMの間には、LINEでつながっている知人に「APT.を知っているよね」と確認しないと正気が保てない状況だったといいます。そんな中で、速水さんは3時間の司会をやり切りました。
知識豊富な共演者の中で、一人だけ外すシュート
速水さんは、ほかの出演者がものを知らないわけではなく、むしろ逆だと強調します。たとえばスケザネさんは、源氏物語の解釈が変わってきているといった話をしていたそうです。
番組自体はすごく上手くいったと速水さんは振り返ります。それは司会力のおかげではなく、出演者たちのアシスト力や知識量のおかげだといいます。
マンチェスターシティ、僕アーセナルファン、アーセナルみたいなサッカーをしているんだけど、僕に来た時だけ僕がシュートを外すみたいな状況なわけですよ。
スケザネさんのように得意ジャンルで確固たる話をする人はブレません。一方で、スタンダードを求める速水さんは、みんなが知っている前提が崩れた時点で、一人だけ地上50センチでサッカーをしているような感覚になったそうです。
自分の得意分野の確固たる話をしているので、周囲が知らなくてもブレない
みんなが知っている前提に立つため、前提が崩れると一人だけ浮いてしまう
それが年齢のせいなのか、その場の世間だけが違ったのか、答えはわからないと速水さんは話しています。
パリス・ヒルトン自伝が明かすADHDと過酷な寄宿学校
速水さんは、周囲に合わせることはこの時代のトレンドではないと話し、パリス・ヒルトンの自伝『PARIS The Memoir』(村井理子訳、太田出版)の翻訳を取り上げます。お騒がせセレブとして知られる彼女も、読むとかなり評価が変わるといいます。
本によれば、パリス・ヒルトンは12、3歳の頃からパーティーが大好きで、今のキャラクターはその頃から変わらないそうです。家の2階から抜け出して遊びに行っては叱られ、親は修道院に入れようとしたり、祖母の家に隔離したりしたといいます。
速水さんによると、自伝の冒頭でパリス・ヒルトンは自分がADHDであることを告白しています。親に禁止されてもパーティーに行ってしまうのは、反省していないのではなくそういう性質だから、という書き方だそうです。
その脳が常にぐるぐる思考が止まらないタイプ、なんか五感を刺激してくれるものを求めてしまうみたいな話を書いていて。
16歳の頃には、マコーレー・カルキンの家に出入りしていた話も出てくるそうです。そしてある夜、寝ていたところに知らない男2人が入ってきて、彼女を抱えて連れ去ったといいます。
恐ろしいのは、その様子を親がそっと見ていたことでした。男たちは親が派遣した人物で、パリス・ヒルトンは手錠をはめられて飛行機に乗せられ、寄宿学校に入れられたそうです。
速水さんは、その施設を原作版『スケバン刑事』の地獄城や戸塚ヨットスクールに例えています。パリス・ヒルトンは何度も脱出を試みては失敗したと書いているそうです。
その施設は、多動症や注意欠陥の気がある子を親が入れて矯正するためのものだったといいます。速水さんは、施設も親も虐待だと言える衝撃的な内容だと話しています。
それでもパリス・ヒルトンは、周囲に馴染まなければならない社会はクソだと言ってパーティーを続けたそうです。速水さんは、本としてめちゃくちゃ面白いと評価しています。
パリス・ヒルトンはなぜ炎上社会のロールモデルなのか
速水さんは、言語センスとしてのパリス・ヒルトンは天才的だと話します。スティーブ・ジョブズが電話を再発明したと言ったiPhone発表のパロディとして、「私はパーティーを再発明した」と言ったそうです。
1981年生まれの彼女は、お金持ちで美人で若いセレブとして偏見まみれの目で見られてきました。セックステープの流出のように、自分から望んだのではない出来事でも、他人がビジネスにする状況に置かれていたと速水さんは語ります。
そうした中でパリス・ヒルトンは、ADHDの性質を矯正するのではなく、それと向き合い、肯定して生きてきたといいます。速水さんは、彼女はネット炎上社会が始まった時からのトップランナーで、落ちては這い上がってきたと見ています。
反省しろ反省しろって言われる中、反省しないで、自分と向き合ってパリス・ヒルトンを演じていくっていうね、
速水さんの評価のポイントは、インフルエンサーより上の概念になった彼女が、周囲に合わせるより自分と向き合う姿勢を貫いてきたところにあります。
大人になっても減らない好き嫌いと、週5のタコス
速水さんは、大人になれば好き嫌いは減り、大人ならではの舌が熟成されるのかと思っていたそうです。けれど自分の場合はそうではなく、漬物は子どもの頃も苦手で、今はもっと苦手だといいます。
速水さんの実家では、速水さん以外の家族はみんなカレーライスが好きでした。そのため修学旅行などで速水さんがいない時だけ、速水家の夕食はカレーだったそうです。
僕が帰ってくると、あ、なんかカレーの匂いがするんだけどみたいな。パリス・ヒルトンいたじゃん、俺の中に昔からっていう。
速水さんは、カレーの匂いが残っていることすら嫌がった当時の自分を「嫌なやつ」と振り返り、家族に申し訳なかったと話しています。
克服したほうが人生は楽だし、食べず嫌いも多いと速水さんは認めます。そのうえで、本当に苦手なものは苦手だと認めることも、心の中のパリス・ヒルトンなのかもしれないと語ります。
最後に速水さんは、好きな食べ物の話として、今は週5でタコスを食べていると明かします。3年ほど前まではタコスをほぼ食べたことがなかったそうで、この年になって週5で食べるものが加わったといいます。
大丈夫です。タコス付き合いますよ。
まとめ
速水健朗さんは、長年理由がないと思っていたカレー嫌いをADHDの偏食傾向と結びつけ、居酒屋やラジオでの体験から「スタンダードを選ぶ自分」と周囲とのずれを語りました。そこにパリス・ヒルトンの自伝を重ね、周囲に合わせることだけが正解ではないという見方へ話を着地させています。
- 速水さんのカレー嫌いは、混ざると食べられなくなるというADHDの偏食傾向と重なっていた
- 居酒屋の注文はおすすめ・定番・珍味の3タイプに分かれ、速水さんは定番を選ぶ派だという
- ブルーノ・マーズの「APT.」が生放送で誰にも通じず、スタンダードの前提が崩れる体験をした
- パリス・ヒルトンの自伝は、ADHDと向き合い反省せずに自分を演じる生き方を描き、速水さんは炎上社会のロールモデルと評価した
- 苦手なものは苦手だと認めることも、心の中のパリス・ヒルトンなのかもしれない


