フォロワー4万5000人で加入者2000人超、Xサブスクで何が起きたのか?
第2回は、前編の振り返りから始まります。宇野維正さんが年末から始めたXのサブスクリプション(有料購読)の加入者が、本人の想像を大きく超えるペースで増えているという話です。
宇野さんによれば、もともと宇野さんをフォローしているXユーザーはプレミアム(有料プラン)の加入率が高く、それがサブスク機能の承認につながったのではないかといいます。フォロワー4万5000人ほどで、プレミアム加入者が2000人前後いるのは、比率としてかなり異例だと宇野さんは見ています。
さらに、サブスク限定で開いたXのスペース(リアルタイムの音声配信)には、1回目から700人近くが集まりました。サブスク加入者しか聴けない配信でこの人数が集まったことに、宇野さん自身も驚いたと話しています。
(スペースの)700がすごい数字だよ。だって別にさ、サブスクじゃなくてやったって700集まるってそうそうなくない?
この反響を受けて宇野さんは速水さんに連絡し、「取材を受けるくらいのことかもしれない」と考えたといいます。速水さんは、宇野さんを「日本で今いちばんサブスクがブレイクしている男」と冗談まじりに紹介しています。
加入者の中心は20代男性。求められているのは「まともな会話」?
速水さんは、宇野さんがファンダムを嫌うと公言している点に触れ、外からは「宇野さんの信者が課金を始めた」と見えるのではないかと問いかけます。サブスクには、ファンがお布施のように払うイメージがつきまといがちだからです。
宇野さんの答えは「違う」というものでした。スペースを聴いた知人のSibaさんからは、ジョー・ローガンの番組になぞらえて「ザ・宇野維正エクスペリエンスじゃないですか」と言われたそうです。政治的な話をしているわけではないものの、スペースで話しに来る人は圧倒的に20代の男性で、大学生も多いといいます。
20代男性の加入者が何を求めているのかという問いに、宇野さんは「質の高い情報」だと答えています。その背景として宇野さんが挙げるのが、映画や音楽の世界が全体としてwoke ── もとは社会的不正義に「目覚めた」状態を指す英語。近年は、社会正義を過度に重んじる風潮を批判的に呼ぶ言葉としても使われます化しているという感覚です。
宇野さんは、インディペンデントのシーンがwokeと親和性を持つのは当然で、一概に否定するつもりはないとしています。ただ、ポップミュージックやハリウッドの娯楽映画までその圧力にさらされている流れは、2016年ごろから8年ほど続いていると宇野さんは見ています。
宇野さんによれば、サブスクに集まっているのは、そうした流れに違和感を持つ若い男性たちです。宇野さんのファンというより、カルチャーについてはっきりとまともな会話をしたいという空気を感じると話しています。
表では言えないスーパー銭湯レビュー。サブスクと通常投稿はどう使い分ける?
速水さんは、サブスク向けと通常のX投稿をどう分けているのかを尋ねます。宇野さんが最初に挙げたのは、意外にもスーパー銭湯のレビューでした。
宇野さんがスーパー銭湯のレビューをサブスク限定にする理由は、4万5000人に「このスーパー銭湯がいい」と言うと、人が押し寄せて混んでしまうからです。速水さんも、自分の好きな店ほど混むのが嫌でおすすめできないのはXの大きな問題だと応じています。
約4万5000人に届くため、好きな店や施設を紹介すると混雑など自分の生活に影響が出る
加入者は1000人に届くかどうかの規模。スーパー銭湯の項目別評価やシネコンのスクリーン評価など、生活に関わる話も書ける
宇野さんはもともと、スーパー銭湯の評価をパラメーターに分けて自分のスマホに記録していたそうです。写真も載せたいので行ったときだけ記録しているといい、評価軸を作ること自体が好きだと話しています。
宇野さんにとって今のサブスクは、人数がちょうどTwitterを始めた頃くらいの規模です。宇野さんはその状態を、Twitterが始まった頃にみんなが楽しんでいたものを今やれている感じだと表現しています。
「5%が上限」とイーロン・マスク。Xだけに頼るリスクは?
加入者をもっと増やしたいのかという速水さんの問いに、宇野さんは、増えすぎたら考え直す必要があるとしつつ、増やしたい気持ちもあると答えます。ここで宇野さんが紹介したのが、クリエイターエコノミーに詳しいけんすうさんとの会話です。
けんすうさんによると、こうしたサブスクリプションモデルの加入率はフォロワーの5%が限界だといいます。宇野さんはこれを受けて、フォロワーが仮に5万人になっても、加入者は最大2500人ほどだろうと計算しています。
けんすうさんからはもう1つ、Xだけで加入者を集めるのは危ういという指摘もあったそうです。イーロン・マスクがシステムを変えたり、Xを手放したりすれば、その仕組みが突然なくなることもありうるという理由です。
話はイーロン・マスクのTwitter買収にも及びます。宇野さんは、カート・ワーグナーによるTwitter買収劇の本『世界から青い鳥が消えた日』を紹介しつつ、この本が大統領選の前までの話で終わっている点に注目しています。
広告主が離れ、主要な社員もごっそり去り、Twitterを壊した失敗だと語られていた
トランプ氏が勝利し、Xがその原動力にもなった。Xの収益だけで損得を見るのが間違いだったと多くの人が気づいた
宇野さんは、イーロン・マスクにとってXは単体の収益ではなく、全体の中でどう使うかという発想だったと見ています。そのうえで、Xのサブスクが仮になくなっても、それはそれでいいと話し、速水さんから「今すっごい悪い顔したよ」と突っ込まれています。
初めての直接課金で見えた「ロイヤリティの高さ」とYouTubeの天井
宇野さんがXのサブスクにこだわらない理由の1つは、使い方がとても昔のTwitterっぽく、ほかに汎用性がないからだといいます。noteで同じことをやる感じでもないと宇野さんは話しています。
一方で宇野さんは、自分にとってXのサブスクが初めての直接課金モデルだという点を強調します。論壇で活動する人の中には、言論活動や配信サービスなど課金の入り口を複数持つ人が多く、そうした人にとってXのサブスクは「やっとくか」という程度のものだろうと宇野さんは見ています。
宇野さんのポッドキャスト出演は人の番組で、YouTubeもメディアと一緒にやっています。始めた途端にスマホが熱くなるほど反応が来たことに、宇野さんは「ちょっと感動した」と話しています。
速水さんは、本や雑誌ではなくYouTubeに早くから乗り出していた宇野さんが、Xの中のファン向けメディアを選ぶのは逆行にも見えると問いかけます。宇野さんの答えは、全部やってみないとわからないというものでした。
無料で、再生回数は回って2万5000、回らないと5000ほど。幅は小さく安定しているが低空飛行
東京や大阪の会場でのイベント配信の売上を見ると、見ている人の忠誠度が高いとわかる
宇野さんは、有料配信を見てくれる人がこれだけいるならYouTubeはもっと回ってもいいはずだと感じています。その天井が課題である一方、ロイヤリティの高さこそが自分の特質であり、だからXのサブスクと相性がよかったのだと初めてわかったといいます。
速水さんは、YouTubeのユーザーが求める方向に寄せていいのかという問題を、ReHacQ ── 経済メディアとして始まり、2024年には政治系の企画で大きく再生数を伸ばしたYouTubeチャンネルの例で語ります。政治系の回は10万、30万と伸びる一方、ほかは1万〜2万という落差があったものの、ReHacQは政治一辺倒にせず幅を残したのが面白いと速水さんは評価しています。宇野さんは、自分がYouTubeで政治をやったら大変なことになると応じています。
アメリカのポッドキャストは車と宣教師ラジオの延長線上にある?
話題は、今回のアメリカ大統領選でポッドキャストが大きな影響力を持ったという話に移ります。象徴的な存在が、ジョー・ローガン ── アメリカのコメディアン、格闘技解説者。ポッドキャスト「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」は世界有数の人気番組で、2024年の大統領選ではトランプ氏が出演して話題になりましたです。
宇野さんは、日本ではよく「アメリカの何年先を行っている」と語られてきたものの、ポッドキャストについては日本で同じ状況になるイメージがあまりないと話します。速水さんも「全くない」と同意しています。
速水さん自身、ポッドキャストには先行投資のつもりで参入したといいます。人気番組はお笑い芸人ばかりで、メジャーなラジオと変わらないので、そこを除けばブルーオーシャンだと考えたものの、収益性やポジションの取り方は思っていたのと違ったと振り返っています。
動画や切り抜きと連動し、YouTubeに近い。車移動中に聴く習慣があり、かつて宣教師の説教ラジオを聴いていた人たちが今はポッドキャストを聴いている
人気番組は芸人中心でメジャーなラジオに近い。音声メディアが政治を動かす姿が見えず、それを狙う人もいない
宇野さんは、中西部の何もない道を宣教師の説教を聴きながら走っていた人たちが、今はポッドキャストを聴いていると説明します。受容のされ方の土台が違いすぎるため、日本で音声メディアが政治を動かすのは想像しにくいというのが宇野さんの見立てです。
フワちゃん炎上は「サブスクの誤爆」だった?
宇野さんは今年のトピックとして、フワちゃんの炎上を持ち出します。宇野さん自身はフワちゃんにもやす子さんにも特に思い入れはなく、誰かを叩くのは嫌いだとしたうえで、あの投稿は本来サブスク向けだったものが一般に出てしまったのではないかという仮説を語ります。
宇野さんによれば、Xではサブスク向けに設定して書いていた投稿が、カーソルを戻すなどの操作で全員向けに戻ってしまうことがあるといいます。実際に自分で手を動かしてみて、そうなりうると実感したそうです。
サブスク向けに投稿
Aマッソの加納さんらと旅行中、サブスク向けのつもりで書いた
全員に公開
操作の拍子に設定が戻り、数分間一般に公開された
即スクショ
気づいたときにはスクリーンショットが出回り、過去のサブスク投稿も発掘された
事件後には、フワちゃんが過去にサブスクで千原ジュニアさんらについて書いた投稿もスクリーンショットで出回ったそうです。宇野さんは、仮に誤爆だったとしても「会員向けだった」は言い訳にならず、他の発言が発掘されるだけなので本人も言わないのだろうと推測しています。
一方で宇野さんは、サブスクの投稿がスクリーンショットされて炎上する例はほとんどないとも指摘します。気をつけているのか、活性化していないのか、お金を払うことで治安が保たれているのか、理由は定かではないと話しています。
サブスクでは「いい人」になる。表で言えない仮説の置き場所
速水さんは、Xの仕組み上、サブスクの投稿がうっかり公開される可能性もあると指摘し、もし宇野さんの投稿が表に出たら「地獄の釜は開くのか」と尋ねます。
宇野さんの答えは、地獄の釜にはならないというものでした。500円とはいえお金を払ってくれる人に向けて書いているので、サブスクではむしろ善人性が出ると宇野さんは話しています。
とはいえ宇野さんも、表で言うと波風が立つことはサブスクで書いていると認めます。速水さんはそれを「140字で説明できないけど、言いたいこと」と言い換えています。
星野源さんをめぐる騒動についても、宇野さんはサブスクで、カニエ・ウェストとのつながりにも触れながら「あれは意図的なものではないか」という仮説を書いたといいます。宇野さんは、炎上のたびに旗を振って燃やす人は毎回同じ顔ぶれで、結果的にそうした人をあぶり出しているのではないかと考えたそうです。
宇野さん自身は、こうした話を「暴論」「推理」「仮説」と呼び、名前も顔も知られた立場なので表では言わないと話しています。ただし、誰かを傷つけることはしていないと強調しています。
サブスクではリポストができないため、インプレッションを気にせずに済むと宇野さんは言います。速水さんが「インプレッションとキャンセルは裏表」と話すと、宇野さんはサブスクではよりピュアに思ったことを言えると応じています。
スペースでは近況報告を10〜15分した後、最近観た映画の話などをしているそうです。映画の感想は、少しでもけなすと叩かれるため表ではつぶやかなくなっていたものの、サブスクでは10年前のように素直に言えると宇野さんは話しています。
西野亮廣か中田敦彦か。閉じたコミュニティは後退なのか?
速水さんは、サブスクが収益面でも物書きにとって安定した土台になりうると評価します。宇野さんは、何百人も加入してくれたから力を入れたのであって、20〜30人だったらやっていないと話し、加入者が増えるほどサブスクの情報量と質は増え、表の投稿は減るかもしれないと続けます。
速水さんはこれを聞いて、「キングコング西野じゃん」と指摘します。宇野さんはそこから、TBSの年末報道番組の司会を務める中田敦彦さんの話を持ち出しました。
宇野さんによれば、中田敦彦さんは、かつて島田紳助さんや爆笑問題の太田光さんが担っていたポジションにYouTube経由でたどり着いたといいます。宇野さんはそれがどうかと思うとしつつ、西野さんや中田さん、カジサックさんらを以前は自分も馬鹿にしていたが、今はもう馬鹿にできる人は限られていると話しています。
オンラインサロンの中での影響力。内向きで、ファン以外からは「今何をやっている人なのか」と見えてしまう
YouTubeでの影響力。外向きで、テレビより上の存在としてもう一度テレビに求められている
閉じこもっちゃうの?宇野さんは。(中略)俺たちにもサウナの場所教えてほしいよっていう。
目指すのは「鈴鹿8耐」。広く知られることにこだわらない理由
宇野さんは、閉じこもるのかという速水さんの問いに、かつての上司である渋谷陽一 ── 音楽評論家、編集者。ロッキング・オンを創刊し、ROCK IN JAPAN FESTIVALなどの大型フェスも立ち上げましたさんの話で答えます。渋谷さんがロック・イン・ジャパンを始めるときに目指していたのは、音楽フェスではなく鈴鹿8耐 ── 三重県の鈴鹿サーキットで行われる8時間耐久のオートバイレース。最盛期には非常に多くの観客を集めましただったといいます。
宇野さんによれば、鈴鹿8耐は世の中で広く共有されていなくても、一部の人たちのものすごいロイヤリティで巨大な動員を生んでいました。ロック・イン・ジャパンもまさにそうなり、ここ十数年はコロナ期を除いて申し込みが何倍も来て、動員ではなく会場のキャパに悩む状態だそうです。
宇野さんは、たとえばフジロックが6万人、ロック・イン・ジャパンが20万人と比べても、倍率を考えれば潜在的な人数はもっと多いと説明します。そこから世の中にそんなに知られていいことなんてないという発想を、宇野さんは自分のサブスクにも重ねています。
また宇野さんは、芸人のように見えるならそれでもいい、違うジャンルだからと話します。他の映画ジャーナリストや音楽ジャーナリストが何をしているかには一切興味がないとし、オールドメディアはいずれ死ぬという見方も口にしています。
速水さんが「Xに乗っかりすぎている」と懸念を示すと、宇野さんはそれはそれでやばいと認めつつ、「イーロン・マスクと心中でいいんじゃない?」と締めくくりました。収録はここで一区切りとなり、イーロン・マスクの話をもう少し聞くために、短い追加回を録ることになっています。
まとめ
宇野維正さんにとってXのサブスクは、初めての直接課金モデルであり、昔のTwitterのように素直に話せる場でした。加入者の多さは、フォロワーのロイヤリティの高さという宇野さんの特質を映したものだと考えられます。その一方で、アメリカのように音声メディアが社会を動かす土壌は日本にはまだ見えないという点で、二人の見方は一致しています。
- 宇野さんのXサブスクは、フォロワー約4万5000人に対してサブスク限定スペースに約700人が集まるほどの反響があった
- サブスクでは混雑を避けたい店のレビューや、表では波風が立つ仮説を、インプレッションを気にせず書いている
- けんすうさんの「加入率5%が上限」という指摘や、イーロン・マスク次第で仕組みが変わるリスクも語られた
- アメリカのポッドキャストは車社会や宣教師ラジオの延長にあり、日本とは受容の土台が違うと宇野さんは見ている
- 宇野さんは、鈴鹿8耐のように広く知られなくても熱量の高い場をつくる発想を、自分のサブスクに重ねている




