五反田に無人タクシーが来た意味は?
速水健朗さんは最近、Googleが手がけるWaymo ── Googleの親会社アルファベット傘下の自動運転技術企業。アメリカの一部都市で無人の自動運転タクシーを運行していますの実証実験車両を、東京の五反田で立て続けに見かけたそうです。実験段階のため車内には人が乗っており、速水さんが見たときは2人が乗っていました。
速水さんは、東京にも無人タクシーの時代が近づいているという実感を持ったといいます。同時に驚いたのは、五反田の駅前周辺は道が狭く、一方通行も多い場所だという点でした。
九段下や東京タワー周辺でWaymoが実験していることは知っていたものの、そうした比較的道が混まず複雑でない場所なら走れるだろうと考えていたそうです。五反田まで来たことで、速水さんは「これは本気で来ている」と感じたと話しています。
(五反田に)来るっていうのは割とこれ本気で来てんなっていうね、なんか実感があったっていうか。まあけどまだまだ序の口ですよね。
ただし速水さんは、歌舞伎町の大ガードあたりを走るには、まだ3段階ぐらいレベルを上げる必要があると冗談めかします。二重駐車や、ホストと客がタクシーを奪い合う光景を、無人タクシーのセンサーに一刻も早く見せてあげたいと笑いを交えて語っています。
決裂の理由は大規模減税だけなのか?
トランプ大統領とイーロン・マスクの決裂は、録音時点で連日ニュースになっていました。速水さんは国内の専門家のコメントや日曜朝の討論番組を見たものの、テスラのロボタクシーの話がほぼ触れられていないことを不思議に感じたといいます。
報道では、マスクが反発した理由として、トランプが打ち出した大規模減税と、EV(電気自動車)への税控除の廃止が挙げられていました。速水さんは、このうちEV控除の廃止が怒りの理由だという見方には疑問を示します。
速水さんによれば、トランプは選挙戦の中でずっとEVへの過剰な産業保護を敵視し、やめると言い続けていました。その隣で、マスクはにこにこと応援していたといいます。
おそらくEVへの風当たりが強くなるってことは前提としてマスクは応援していた。で、その上で何か勝算があるんだろうなっていうこと。
テスラの状況が1年前と今とで大きく違うことはあるかもしれないものの、EVを理由にするのは手のひらを返しすぎだと速水さんは考えます。そのため、理由としては大規模減税がマスクの趣旨と合わなかったということなのだろうとしつつ、「そこ?」という不思議さも残ると話しています。
テスラにとって最悪のタイミングの決裂
速水さんが注目するのは、テスラが2025年6月中にテキサス州オースティンでロボタクシーのサービスを始める予定だという点です。速水さんは、EVメーカーとしてのテスラの未来はそれほど明るくないと見ています。
速水さんが挙げるテスラの懸念は複数あります。生産を中国に依拠しているため、関税の影響を避けにくいこと。創業以来伸びてきた販売台数がこの四半期で大きく落ち、成長が止まったこと。サイバートラックはリコールばかりが話題になり、新車種の話も聞こえてこないことです。
さらに、自動操縦ソフトウェアのトップが辞め、アメリカの運輸当局がテスラの自動操縦機能を調査中だといいます。歩行者を轢いた死亡事故が去年ぐらいから2件出ており、当局は走行データの提出を求めていますが、テスラは応じていないと速水さんは説明します。
速水さんの見立てでは、テスラは株価に支えられ、トランプ陣営に入ることで法規制をゆるくできるという読みもあったのではないかといいます。そのため、この10年のテスラにとって一番重要なタイミングでの決裂になってしまったと指摘しています。
辞めたエンジニア本人は家族の問題が理由で、マスクとはうまくやっていたと語っているそうです。ただ速水さんは、それをそのまま受け取っていいとは思えないと話しています。
後発のテスラはWaymoに勝てるのか?
アメリカの自動運転タクシーでは、Waymoが一歩先を行っています。サンフランシスコなどで運用実績があり、あとは広げていく段階だと速水さんは見ています。
一方で速水さんは、テクノロジー業界では後発の企業が圧倒的にコストの安いサービスを出し、一気に逆転することがよくあると指摘します。テスラの狙いもまさにそこにあり、Waymoよりはるかに安いロボタクシーを投入しようとしているといいます。
速水さんの説明では、Waymoは車内のセンサーなどの機材にお金をかけ、安全性能にも力を入れているため、テスラの2倍ぐらいのコストがかかっているそうです。テスラはその半分の額で、800万円ほどのモデルYを使って展開しようとしています。
WaymoとテスラのロボタクシーをWaymo側とテスラ側で並べると、コストと安全性能をめぐる考え方の違いが見えてきます。
先行して運用実績を持つ。センサーなど機材にお金をかけ、安全性能を重視するぶんコストが高い
後発。Waymoの半分ほどのコストで、モデルYをベースに安く量産し一気に普及させる狙い
テスラが描くのは、ロボタクシーを安く量産して売り、個人がタクシーを所有するオーナーになるというビジネスです。最初はオースティンで10台ほどから始め、うまくいけば実質フランチャイズに近い形で一気に広げる計画だといいます。
ただし安全性能はコストとトレードオフで、事故もそれなりに多いと速水さんは話します。マスクの経営手法は、納期を短くして開発期間を圧縮し、問題が起きたら後から解決するモデルだというのが速水さんの見方です。
スペースXだってね、当初はロケット打ち上げとにかく失敗しかしなかった。で、それはなぜかっていうと、機材が安物だから。
スペースXは何度も打ち上げてデータを取るうちに安い機材でも飛ばせるようになり、高い機材を使う他社に対して一強になったと速水さんは説明します。テスラも本来は量産で安くなっていくモデルだったものの、量産がうまくいかず、結果的に高級車のイメージが偶然できたのではないかといいます。
速水さんは、マスクにはデザインにこだわるスティーブ・ジョブズへの憧れがある一方、人より安く作ってシェアを取るビル・ゲイツ型の資質のほうを強く持っていると見ています。自動車メーカーとして車体もソフトウェアも自前で作れる点が、GoogleやAmazonに対するテスラの強みだといいます。
とはいえロボタクシーは許認可ビジネスでもあります。トランプとの決裂で運輸当局とどう向き合うのかという問題が出てくるため、速水さんはテスラがかなり不利になったのではないかと話しています。
マスクとトランプに共通する「素人」のブランド
速水さんはYouTubeでテスラの事故動画を探すうちに、反テスラ運動を続けるアメリカのテック系ビリオネア、ダン・オダウドの存在を知ったそうです。自腹でテスラを買い、テスラの自動操縦ソフトウェアを批判し続けている人物です。
ダン・オダウドはソフトウェア会社のCEOで、何億というお金を出してスーパーボウルで反テスラのCMを流したといいます。X(旧Twitter)のフォロワーは3万人ほどで、アメリカでそれほど有名というわけではなさそうだと速水さんは話します。
そのダン・オダウドがXに投稿してバズった言葉として、速水さんは「イーロン・マスクは知識の浅い者には天才に見えるが、専門家には知識不足に見えている」という一文を紹介します。速水さんはこれを、マスク評としてほぼ完璧に言い表していると評価しています。
天才に見える
知識不足に見える
速水さんによれば、マスクの本質は天才的な技術者や経営者ではなく、素人であることにあるといいます。宇宙開発のような専門的な分野や、フォードが100年続けてきた自動車業界に素人が新規参入する心意気が物語になり、それがマスクのブランドになっていると話します。
速水さんは、トランプも同じだと指摘します。政治の素人だからこそ硬直した社会を変えられるのではないかという期待があり、政治に執着しない大金持ちが素人として政治に入ると何かが変わるという構図です。
ポピュリズムイコールエリート批判みたいなことがね、あの必ず言われるんだけど、それだけじゃなくて、なんか今の時代って素人が出てくること(が大事)。
速水さんはこれを、素人の底知れなさが支持を集める仕組みとして、世界的に起きているポピュリズム ── 一般の人々の不満や感情に訴え、既存のエリートや体制と対立する形で支持を集める政治のあり方を指す言葉ですの一面だと捉えています。成田悠輔さんや落合陽一さんに天才性が見出されるのも、立ち振る舞いと素人感によるのではないかと話しています。
マスクに残された3つの道とは
速水さんは、決裂後のマスクが取りうる道を3つに分けて考えています。
| 道 | 内容 | 速水さんの見立て |
|---|---|---|
| 距離を取る | トランプと離れて自分のビジネスに邁進する | 一番ありうるが、宇宙開発もテスラもかなり苦戦しそう |
| 仲直りする | 周囲の勧めでトランプと関係を戻す | テック業界もトランプ側も困るので容易に想像がつく |
| 追放される | トランプがマスクをアメリカから追い出す | その場合マスクは火星移住を前倒しする |
1つ目の道について、速水さんは宇宙開発は政府の後ろ盾なしには難しいとされること、テスラは中国生産が中心で関税を避けられないこと、トランプ時代にEVの普及が後退するのは間違いないことを挙げます。ロボタクシーでWaymoに二番手として追随し、運輸当局に安全性能を示せるかも課題だといいます。
2つ目の仲直りについては、周囲がすでに強く勧めているそうです。トランプ側もマスクの推進力に頼っていた部分で行き詰まりが出てきており、もう一度手を組むことも容易に想像できると速水さんは話します。
3つ目は、本当に決裂し、トランプがマスクをアメリカから追い出しにかかるという道です。速水さんは、個人を追い出せるのかという疑問はあるものの、やらなくはないだろうと見ています。
速水さんは、ダグラス・ラシュコフ ── アメリカのメディア理論家・作家。テクノロジーと社会の関係を論じ、富裕層が文明崩壊に備える姿などを批判的に描いてきましたの指摘を紹介します。金融やテック系の富裕層は格差がつきすぎて、革命が起きれば真っ先に追放される立場にあり、マスクの火星移住構想はそうした人たちを取り込む「地球脱出ビジネス」を狙ったものではないかという見立てです。
速水さんは、トランプもそこに乗ればいいと冗談を交え、地球が新たな道を歩み、ジオン公国が生まれるような宇宙世紀の始まりになるかもしれないと話します。長い歴史で見れば、トランプとマスクの喧嘩が宇宙移住のきっかけだったと言われる可能性もあると語っています。
イーロン側がキレるという予言は当たったのか?
速水さんは、トランプとマスクの決裂を以前から予測していたといいます。宇野さんとの対談で、トランプではなくマスクの側が喧嘩を売ると明言していたそうです。
三谷幸喜さんも予言していたので誰でもできることだったと速水さんは言いつつ、マスク側がキレるという点は当たったと振り返ります。ただ、キレた理由は自分が考えていたテクノロジー観の違いとは少し違うものだったと話しています。
速水さんは、思ったより早かったとしつつ、今後どうなるかはわからないと締めくくります。どこかで仲直りすると言われながら一生仲直りしないケースもあるとして、フミヤとタカモクを例に挙げ、「規模が違うけど」と笑っています。
まとめ
速水健朗さんは、トランプとマスクの決裂を、報道で見落とされがちなテスラのロボタクシー事業の行方と結びつけて読み解きました。素人であることをブランドにした2人の関係が、地球脱出ビジネスという突飛な未来にまでつながりうるという視点が示された回です。
- EV控除の廃止は選挙戦の頃から前提だったため、決裂の主因は大規模減税ではないかと速水さんは見ている
- オースティンでのロボタクシー開始と当局の調査が重なる時期の決裂は、テスラにとって最悪のタイミングだと指摘
- テスラはWaymoの半分ほどのコストで量産し、後発から逆転する戦略を取っている
- マスクとトランプは「素人」であることをブランドにしており、それが現代のポピュリズムの仕組みにも通じる
- 決裂後の道は、距離を取る・仲直り・追放と火星移住の3つが考えられると速水さんは話す




