大分発の英語セミナー「Summer in Japan」
廣津留さんが母と続けている「Summer in Japan」は、大分で小中高生を対象に行う英語セミナーです。毎年10人ほどのハーバード生を中心に海外大生を招いています。
内容はライティングや英語で教えるプログラミング、パフォーミングアーツ、プレゼンテーションのワークショップが中心です。廣津留さんはコンサートシリーズも担当しています。
コンサートを始めた背景には、ハーバードに進学したときの驚きがありました。学生の6、7割が楽器を弾けることを知ったのです。
ハーバード生って超ガリ勉のイメージがどうしてもあるから、みんなをステージに上げて、勉強もできるけど課外活動も超できるんだよって伝えたかったんです
今年で14年目を迎え、生徒のレベルは年々上がっているといいます。最初はシャイでも、一週間で英語を聞き取るスピードが上がり、休憩時間に英語で話し出す子もいるそうです。
子供って本当に吸収が早いので、それを見てると可能性ってすごいなって思うんです
運営は母と温泉に入りながら考え始めたもので、ここまで続くとは思っていなかったといいます。母は毎年「来年は絶対やらない」と言い続けているそうです。
現場と行政の両方から見る教育
廣津留さんは教育への関心について、自身の体験のギャップが大きいと話します。大分の公立学校での教育と、発言しなければ人として扱われないアメリカの環境との差でした。
現在は政府の中央教育審議会の委員や、大分市の教育委員も務めています。ミクロな現場と、引いて全体を統括する視点の両方に触れているといいます。
大分の教育委員だと中学校の英語の現場に行くし、中教審だともっと引いていろんなものを統括して見ないといけない。現場にいないとわからないこともたくさんあるんです
委員には各大学の学長などが並び、大学運営の視点にも触れられることが新鮮だと語られています。
ヴァイオリンの可能性を広げるライブ活動
演奏活動について、廣津留さんは人生のミッションを一人でも多くの人に生の音楽を届けることだと話します。クラシック愛好家だけにリーチしても意味がないと考えているそうです。
ヴァイオリンには「お嬢様がクラシックを弾く」というイメージが強くつきまといます。廣津留さんはインスタでポップスのカバーを出すなど、楽器としての可能性の広さを伝えようとしています。
映画音楽のコンサートや、異なるジャンルのアーティストとのコラボによって、裾野を広げたいと語られています。立ち上げたばかりのレーベルでも、次の作品でさまざまなコラボを重ねたいそうです。
話の中では、川邊さんがJuice=Juiceの入江里咲さんを勧めた話題も出ました。バイオリンを弾きながら踊る姿に、廣津留さんも可能性を広げていると感心していました。
ダンスしながら演奏できるんだって。バイオリンの可能性をすごい広げてらっしゃるじゃないですか
音楽を課題解決のツールにする視点
最終的に目指す方向として、廣津留さんはシンプルにコンサートを増やすことよりも、音楽で社会に還元できるメッセージを伝える活動へシフトしていくと考えています。
国同士の対話に音楽が入ってくるときに自分が何ができるか。音楽が地球を綺麗にはできないけど、音楽をツールに何ができるのか、その方に私はシフトしていくと思います
川邊さんは、時代がそうした音楽の役割を求める局面に入っていると応じます。平和の大切さを伝えたり、傷ついた人に癒しを届けたりする場面が増えると話しました。
一方で廣津留さんは、音楽の効用が数字に出にくい難しさも指摘します。アメリカなどでは予算を減らされることもあるといいます。
川邊さんは映画「タイタニック」の一場面を例に挙げました。船が沈むなか、オーケストラが乗客を落ち着かせるために演奏し続ける場面です。
廣津留さんは、それは知識の範囲を超えた作用であり、だからこそ伝えたいと話しました。
バイオリニストとしての人生の目標
人生についての問いに、廣津留さんは中学の頃から「死ぬまで弾けたらいい」と考えていたと答えます。
目標として掲げるのは、聴いた人が「廣津留すみれの音だ」とわかる演奏です。同じ曲を弾くクラシックの世界で、個性が出る音を作りたいと語られています。
音楽の後ろにあるストーリーを伝えられる人間として演奏していきたいんです
作曲についてはかつて商業的なゲーム音楽を手がけていました。今はタンゴのバンドを組み、そろそろ本気でオリジナル曲を作りたいと話しています。
ただ、クリエイティブにはまとまった時間が必要だと二人は語り合います。いかに時間を確保するかが課題になっています。
AIへの没頭と、これからのコラボ
川邊さんは、AIに没頭する時間を確保するために6月で退任し、ほぼすべての役職を辞めると明かします。20以上の役職のうち、災害支援のヤフー基金の理事だけを残す予定だといいます。
信じられないぐらい面白い楽器が1個生まれちゃって、その最初の演奏家になれるかもしれない。そういう刹那なんで、もうやるしかない
この朝も4時半に目覚め、興奮のままAIを触っていたそうです。5時過ぎに連絡した仲間からもすぐ返事が来て、同じ熱量で没頭している様子が伝わってきたといいます。
廣津留さんも音楽とAIについて、人間にしかできないこととAIの力を借りて生まれるものの両方があると語ります。
AIは音楽とは、っていうんじゃなくて、共生していきたいっていうのはすごく思うんです
川邊さんは、AIが作る音楽はどれも名曲になるため「名曲のコモディティ化」が起きると予測します。だからこそストーリーが重要になると話しました。
名曲を作れることそのものに価値があった
名曲が当たり前になり、その曲を聴く理由やストーリーに価値が移る
長期目標より、選択肢を広げる生き方
スタッフから、幼い頃に将来の夢はあったのかと問われると、廣津留さんは幼稚園では周りに合わせてお花屋さんと言っていた程度だったと答えます。
小中学校のコンクール後のインタビューでは、自然体で演奏したい、自分の音がわかるバイオリニストになりたいと語り始めていたそうです。ただ大学時代は、バイオリニストに限定するのはもったいないと考えていました。
長期の目標を決めることで、自分のできることがリミットされたらもったいないなっていうのは常にある気がします
川邊さんは、この考えは年齢を重ねるほど効いてくると応じます。実績と人脈が生まれると向こうから話が来るようになり、選択肢を並べて選ぶ習慣が40代50代で活きるといいます。
廣津留さんは、それでも自分の関心は必ず音楽と結びつくと話します。いろんなところに種があるほど広がると感じているそうです。
一回山に登ったらもっと高いところが見えて、あれも登りたい、登りたいってなっていっちゃうんです
川邊さん自身は、少年ジャンプやファミコンに親しんだ学生時代からインターネットに出会い、夢中になって30年が経ったと振り返ります。そして今、AIが当時と同じ感覚で現れているといいます。
印象に残る演奏家と、努力の水準
これまで会って印象的だった人を問われ、廣津留さんは共演したヨーヨー・マさんと、バイオリニストのギル・シャハムさんの2人を挙げました。
シャハムさんは誰よりも早く現場に着き、一人で練習していたといいます。廣津留さんから見れば十分できているのに、何度もリピートを重ねていたそうです。
録音中も細かい部分が気になって止めるたびに謝り続けるため、指揮者が「謝り貯金箱を設置する」と冗談を言うほどだったといいます。
私たちにとってはもうすごい人なんだけど、ご本人のレベルってどこまでも上がれるから。音楽にはゴールがないってわかってるけど、あまりにもなさすぎて唖然としました
川邊さんも、マドンナのバックダンサーから聞いた話を紹介します。世界ツアーに向けた筋トレを、男女のダンサーの中でマドンナ本人が一番、2か月にわたって続けていたそうです。
できる人ほど「ここでやめよう」がない。二人はそう語り合いました。
まとめ
バイオリニストの廣津留すみれさんは、教育やライブ活動で音楽の裾野を広げながら、音楽を課題解決のツールとして使う未来を見据えています。長期目標に縛られず選択肢を広げる姿勢と、AIとの共生をめぐる川邊さんとの対話が印象的な回でした。
- 大分の英語セミナー「Summer in Japan」は14年目を迎え、コンサートでハーバード生の多才さも伝えている
- 廣津留さんのミッションは、一人でも多くの人に生の音を届けること。ジャンルを超えたコラボで裾野を広げようとしている
- 音楽の効用は数字に出にくいが、その見えない作用こそ伝えたいという思いがある
- AI時代には名曲がコモディティ化し、曲を聴く理由やストーリーが価値を持つようになる
- 長期目標で自分を限定せず、選択肢を広げる生き方は年齢を重ねるほど効いてくる
