ワイヤレスイヤホンを持っていても使わない理由とは?
本題の前に、今井さんは青木さんがワイヤレスイヤホンを着けている姿を見たことがないと切り出します。青木さんの答えは、イヤホンはほとんど使わないというものでした。
青木さんによれば、オンラインミーティングは実質的に会議室で行い、音楽を聴くのも車の中が多いため、イヤホンの出番がないそうです。外出時に使うとしても、音を流さずノイズキャンセリングだけを使う「耳栓代わり」だといいます。
(周りに)いろんなインプットがある中で、ちゃんとそれぞれを捌けるっていうタイプじゃないんでね。一個一個みたいなタイプだから。
青木さんは「ながら作業」が得意ではないと話します。ただ車の運転中は、音楽やポッドキャストを聴いているそうです。
「ツドイ」と刻印したヘッドホンはなぜ売れなかった?
今井さんはガジェットレビューのYouTubeをよく見るガジェット好きで、ワイヤレスイヤホンも5〜6個持っているといいます。最近は耳を塞がないオープンイヤー ── 耳の穴を塞がずに音を届けるタイプのイヤホン。周囲の音も聞こえるため、長時間の装着や屋外での利用に向いています型の性能が上がり、着けていることを忘れるほど軽いものもあると紹介しました。
実は青木さんもガジェット好きで、使わないのにイヤホンを一通り買ってしまうそうです。Appleのヘッドホンは買って1週間ほどで飽き、気づいたら息子さんが常用していたといいます。
今井さんも発売当時に同じAppleのヘッドホンを買い、最近手放そうとしました。ところが購入時の刻印サービスで、会社名の「ツドイ」と入れていたことに気づきます。
メルカリで売ると身元割れるし。
名前よりきついな。
結局、今井さんはインスタグラムで募集して知人に譲ったそうです。本来はもっと高く売れたはずだと、今井さんは笑いながら振り返っています。
「制度上はOK、でも本音では歓迎されていない?」という相談
今回取り上げられたのは、数年前に勤務先で副業が解禁されたものの、まだ一歩を踏み出せずにいるリスナーからの相談です。
私は数年前、勤めている会社で副業が解禁されましたが、未だにチャレンジできずにいます。一度申請したことはあるものの、競業他社の業務に当たる可能性があるとして認められませんでした。その後も新しいことを始めたい気持ちはありますが、会社として制度上は副業を認めていても、本音では歓迎されていないのではないかと感じてしまいます。また、子供がまだ小さい今、仕事にかける時間をさらに増やすことが本当にいいのかという葛藤もあります。お二人は経営者として従業員の副業についてどうお考えですか。
今井さんは、副業によって社内評価が下がるのではないかという不安も含めた相談だと受け止めます。そのうえで、まず自社ツドイのルールを紹介しました。
ツドイでは副業を制限していませんが、普段の業務と同じことを他社でやるのは避けてもらっているそうです。経理担当がイラストの仕事をするのはよくても、クリエイティブ職の人が他社でイラストを描くのは控えてもらう、という線引きです。
クラシコムは「競業」と「総時間数」でどう線を引く?
クラシコムの副業ルールについて、青木さんは2つの基準を挙げます。1つは、会社としてやってほしくない競業にあたる仕事はできないこと。もう1つは、副業にかける時間の総量です。
青木さんによれば、クラシコムでは労働法規で認められる残業の上限時間を基準にし、社内の残業と副業の時間を合算して超えない範囲なら認めているそうです。今井さんが「副業は基本すべて残業になる」と整理すると、青木さんもそれに同意しました。
残業時間を法律が規定してる理由って、それ以上仕事をすると、従業員の心身に問題が出る可能性があるっていう基準を、何らかエビデンスから導き出して線を引いてるわけじゃない。
青木さんは、その上限を超える副業は、私生活やクラシコムでの仕事に悪影響が出る人もいる可能性があると説明します。だから総時間数にキャップをかけ、それを前提に申請を受け付けて許諾しているそうです。
法律の残業上限
心身に問題が出る可能性を根拠に線が引かれている
副業は残業と同じ扱い
社内の残業と副業の時間を合算して考える
上限を超えると
私生活や本業に悪影響が出る人がいる可能性がある
だからキャップをかける
合算で上限を超えない範囲なら許諾する
副業ルールを最初から制度化しないのはなぜ?
今井さんは、「月に何日までOK」のような手前の結論はすぐ出せるのに、青木さんたちがいちいち本質を考えるのはなぜなのか、どれくらい時間をかけているのかと尋ねます。
青木さんの答えは、会社で初めて副業をしたい人が出てきたとき、「副業とは何か」を考えるところから始まるというものでした。説明が上滑りする感じやスッキリしない感じがあれば、その理由を考えるそうです。
そういうのでも大体一瞬よ。ああ、こういうことかみたいな。じゃあこうだなとか。
ただし青木さんは、出した結論をすぐに副業ルールとして発表するわけではないといいます。まずはマネジメント側で、聞かれたらどう答えるかのガイドラインとして持っておくそうです。
副業を希望する人はそれほど多くないため、次に出てきた人に試し、半年から1年ほどかけて現実に耐えられるか、フェアに機能するかを確かめます。そのうえで固まったら制度として運用する、という順序です。
「副業」と「複業」は同じではない?
今井さんは、「ふくぎょう」には「副社長の副」と「複数の複」という2種類の漢字があると話を広げます。相談者が使っているのは、本業が主で、その従としての「副業」のほうです。
今井さんは、どちらの仕事にも敬意を持つ意味で「複業」を使う風潮があると感じつつも、自分がもし会社員なら「副業」を使う気がするといいます。そこには自分の古さがあると認めています。
これ結構ほんと直さないとって思ってるんですけど、やっぱ一つの道を極めることがかっこいいとか。
(自分が)編集者兼クリエイティブディレクターですみたいなことを言うことに抵抗があって。
今井さんは、肩書きを並べることに、どこか逃げているような感覚を自分で勝手に抱いてしまうそうです。青木さんは「そういう考えあるよね」と受け止めました。
副業はなぜフェアネスの設計がむずかしいのか?
青木さんは「副」と「複」の違いを、より制度的な観点から考えていました。クラシコムには副業で仕事を手伝ってくれる人もいれば、他社で副業をしている社員もわずかにいるため、両方の立場に立っているといいます。
青木さんが問題視するのは、正規雇用している社員を、別の会社が副業として業務委託で使っている場合です。業務委託側は必要がなくなればいつでも契約を終えられますが、正規雇用側はそうはいきません。
この人が副業に入れ込んで、実際その社員としての働きに問題が出た時に、この人(を)解雇することはできないんだよね。
青木さんは、正規雇用の会社はパフォーマンスがどうあれ付き合い続けることを前提にしていると話します。そのため、両者を「並列の複業」と表現するのはおかしいと考えています。
青木さん自身が他社の正社員に副業を頼むときは、相手先の都合を優先してほしいという気持ちでお願いするそうです。逆の立場でも同じであるべきなので、社員として副業するなら「副」の字のほうがふさわしいという考えです。
一方で「複業」として並列に働きたいなら、フリーランスとして複数の仕事をすればよいと青木さんはいいます。いい仕事をする人なら業務委託に切り替えるのも嫌ではなく、そのほうがフェアでモヤモヤしないとまで話しています。
正規雇用の前提にフェアであるべきで、本業を優先し一定のルールの中で行う
どの取引先とも同じ立場で、どちらが正でも副でもない関係になる
青木さんによれば、副業で本業が回らなくなっても、正規雇用側の会社にはほとんど対処のしようがありません。評価を下げたり役割を小さくしたりはできても、それはお互いにとって大きなストレスなので、時間という節度でいったん区切っているそうです。
会社は社員の私生活にどこまで関与すべきか?
青木さんは、副業そのものには賛成も反対もないと明言します。副業でいろいろ経験してきてほしいとも、副業はどうかとも思っていないそうです。
仕事終わった後にその人がプライベートでお酒飲みに行くことについてどう思いますか?って言われてるのとほとんど同じ感覚なのよ。
青木さんにとって、業務時間外に何をするかは基本的に社員の自由です。ただ飲みすぎて翌朝遅刻する、飲みの席でハラスメントを起こすといった本業に響くことは困る、という点で副業も同じだといいます。
青木さんは、自己管理に任せられるのが一番だとしつつ、会社には新卒からベテラン、セルフマネジメントが苦手な人から鉄壁の人までいると指摘します。人数が増えると相対で個別に判断するのは難しく、安全策をとった統一ルールにせざるを得なかったと説明しています。
経営者が副業を「大歓迎」しにくい理由とは?
ここで青木さんは、相談者の「本当は歓迎されていないのでは」という問いに立ち返ります。心持ちとして、副業を大歓迎する経営者はあまりいない気がすると話しました。
青木さんの見立てでは、大歓迎できるのは、社員と業務委託のように付き合っている会社や、雇用の継続性に強くコミットしていない会社、経営者自身も「いつまでこの仕事をするかわからない」と思っている会社です。
ある種の秩序とか安定性をもたらそうというような感覚で経営してると、大丈夫かなって心配になるっていう気持ちはなんか持ってる人多そうだけどな。
今井さんは、毎日元気に出社して仕事を続けてもらえるかがポイントになると受け止めます。そのうえで今井さん自身は、副業を推奨はしないものの全然いいと考えていると話しました。
収入のための副業なら、転職を考えたほうがいい?
今井さんが副業を認める理由は、人生のフェーズと会社の状況が噛み合わず、社員が望む額を払えない時期があると考えるからです。
どうしても1000万欲しいんですみたいな人に、うちはどうしても700までしか出せない。じゃあこの300を、その700の仕事に支障がない範囲で健康にやってくれるんなら(ありがたい)。
今井さんは、その差額をほかで補ってくれる会社にはむしろ感謝する気持ちになるといいます。これに対し青木さんは、違う見方を示しました。
いや、だったら転職したらいいんじゃない?って思っちゃう。
青木さんは、1000万円稼げると思うなら、1000万円払ってくれる会社を探したほうがいいと考えます。クラシコムは仕事の負荷に対して十分な額を払っているつもりでも、必要な金額は人それぞれだからです。
さらに青木さんは、お金が理由の副業には別のリスクがあると指摘します。万一その副業が会社にとって良くないものになったとき、生活がかかっているため辞めてもらいにくく、ジレンマが生じるというのです。
払いたい額を払えない時期に、本業に支障なく差額を補ってくれるなら感謝したい
望む収入を得られる転職先を探すほうがよく、生活がかかると副業をやめてもらいにくい
副業の効用は気分転換と「相対化」にある?
一方で青木さんは、副業の効用として気分転換を挙げます。クラシコムで限られた時間に副業をしている社員を見ていると、本業にやりがいを持ちつつ、副業がいい気分転換になっているように感じるそうです。
青木さんは、気分転換した状態で本業に臨めばパフォーマンスも上がるだろうと考えます。また、副業先の良い点や劣った点を通じて、今の仕事を相対的に見られることにも価値があるといいます。
この物事の相対化を実際の価値につなげるって、めちゃくちゃ成熟が求められるじゃん。
青木さんが例に出したのが「ではの神」という言葉です。大企業からベンチャーに移った人が「前の会社では」、留学経験者が「イギリスでは」と繰り返す様子を揶揄する言い方で、青木さんは言われる側も言う側もどうかと感じているそうです。
青木さんによれば、相対化された情報を持っていても、組織内で大きな裁量がない人は振る舞いが難しくなります。不満を持つ同僚に「副業先にはもっとひどいことがある」と伝える逆のパターンでさえ、成熟を持って活用するのは難しいだろうと話しました。
社外取締役やドラクエの「職業掛け持ち」に見る副業の相乗効果
今井さんは、社長が他社に関わる形として社外取締役を挙げ、自身も務めていると話します。青木さんは「まさにあれ副業だね」と応じました。
今井さんによれば、社外取締役を迎える会社は伸び盛りでうまくいっていることが多く、その秘密を垣間見られるといいます。さらに、掛け合わせによって新しい強みが出ることもあると、ゲームを例に挙げました。
リメイク版の(ドラクエ)VIIはついに職業掛け持ちっていうことができるようになった。
今井さんはプレイしていないものの、バトルマスター兼魔法使いのような組み合わせで、その組み合わせだから使える特技が生まれるらしいと紹介します。外での経験が自分のスキルにフィードバックされる、という比喩です。
青木さんは「実験できる」点を挙げます。本業でもできるはずなのに今は機会がないことを、副業で試したり経験したりできれば役に立ちそうだと話しました。
今井さんはもう1つ、海外のドキュメンタリー『アンダーカバー・ボス』を紹介します。社長が特殊メイクで変装して自社店舗のアルバイトに入り、現場で詰められたり「上はクソだ」という本音や指示の伝わらなさを聞いたりする番組だそうです。今井さんによれば、日本ではWOWOWが権利を持っていて今は見られないといいます。
問題は副業そのものより、信頼関係の設計にある?
こうした話を受けて、青木さんは副業は本来、向いている人にはいいことしかないのかもしれないと考えます。ただ、日本の雇用法制や会社の立て付け、企業が育んできた文化とうまくはまっていないのだろうと話しました。
青木さんは、自分が話してきたことは、全部既存の仕組みと合わないという話だったと振り返ります。それでも、「副」でも「複」でも、やることがいくつかあれば相乗効果は起きやすいと見ています。
本業副業のそれぞれの向き合う相手と信頼関係を築くにはどうしたらいいのかとか、(中略)どういうインターフェイスで、それを成すかというデザインとか設計の問題なんだろうな。
青木さんは、相談者が歓迎されていないと感じるのは、副業をめぐる設計がまだしっくりきていないからではないかと推測します。「どんどん知見を広げて」という会社でも、設計がしっくりこなければ社員は本当に歓迎されているのかと感じるかもしれないといいます。
また、最初は歓迎するつもりでも、運用の中でその方向では破綻すると気づき、マイナス面が顕在化していくケースもあるのではないか、と青木さんは話しています。
タイミーをやってみたい今井さんと、「バイトマスター」の青木さん
最後に今井さんは、スキマバイトサービスのタイミー ── 働きたい時間に単発で働けるスキマバイトのマッチングサービス。面接や履歴書なしで、短時間の仕事に応募できるのが特徴ですをやってみたいと明かします。「大人のキッザニア」と言っている人がいて、その感覚がわかるそうです。
今井さんの人生最初のアルバイトは、18歳のときのマクドナルドでした。経営者になる気はなかったものの、世界一のマニュアルを見てみたいと思ったといいます。
ケチャップのガンみたいなプチって出して、マスタードのガンあって、で、それ1個ずつ両手で持ちましょうとかも全部決まってるんですよ。
今井さんは、ピーク時には片手で済ませたくなるものの、それでは美しさが損なわれ、クレームにもつながりかねないと話します。すべてが考え抜かれ改変の余地が少ない仕事は自分には向いていないと感じたそうですが、一度でも見ておく価値はあると振り返りました。
一方の青木さんは、30歳手前までアルバイトしかしていなかったため、もううんざりで、今からタイミーをやりたいとは全く思わないと笑います。自らを「20代後半のバイトマスター」と称して、今回の話を締めくくりました。
まとめ
今回のエピソードでは、「制度上は副業OKでも本音では歓迎されていないのでは」という相談をきっかけに、副業の是非よりも、正規雇用とのフェアネスや信頼関係をどう設計するかが本質だという見方が示されました。
- クラシコムは「競業」と「残業との合算で法定上限を超えない総時間数」で副業の線を引いている
- ルールは最初から発表せず、マネジメントのガイドラインとして試しながら固めていく
- 青木さんは、正社員の副業は正規雇用への配慮が要る「副」業であるべきだと考えている
- 収入目的なら転職を考えたほうがよい一方、気分転換や相対化、相乗効果という効用もある
- 副業が歓迎されていないと感じる背景には、会社と社員の間の設計の未成熟があるのかもしれない



