命をかけるものは「探す」のではなく「落ちる穴」?
後編の冒頭で高木さんは、山川さんにとって「命をかけるもの」に匹敵するのはどんなものかを尋ねます。
この命かけるものっていうものって、もう改めて言語化すると、どういうものはそれに匹敵するの?
山川さんの答えは、そこにいるトップの「ピュアな何か」でした。その人と、その人のアジェンダが実現したい世界に命をかけられるかどうかが基準だといいます。
その人とものアジェンダに命賭けられるか、アジェンダ実現したい世界に命賭けられるかみたいな感じかなと思って。
高木さんは、かけるものを見つけたいのに見つけられない人は世の中に多く、山川さんは比較的それを見つける力が強いタイプではないかと投げかけます。
これに対して山川さんは、「やりたいこと」や「夢」とはだいぶ遠いところに来た感覚があると答えます。初恋の人と結婚しないことも、最初に就職した企業を辞めることも、誰もがわかっているはずだという例えです。
たまたま私的には最近なんか穴に落ちてるようなもんだなって感じがして、今度落ちたのこういう穴だったんだみたいな。
ポロッとこう来ちゃ、また来ちゃったなって感じなんですよ、シチュエーションが。
山川さんにとって、やりたいことは探し当てるものではなく、自分が進化していく途中で「たまたまぶつかったアジェンダ」です。高木さんはこれを「エンカウンターしちゃう」と言い表しました。
環境の仕事は「やりたかったこと」ではなかった
山川さんは、現在関わっている環境分野やセカンドホームの取り組みについても、もともとやりたいと思っていたわけではないと話します。興味やルーツはあったものの、たまたま出会って未来が見え、その人とコネクトできたときに「これなのかな」と感じたといいます。
じゃあ環境がやりたかったんですねとかって言われたら、別にやりたかったわけでも全然ないし。
山川さんはこの感覚を恋愛にたとえます。人は相手と付き合いながら、実は相手と付き合う自分自身を見つめ、新しい自分を発見して成長していく、という見方です。
目の前の仕事と付き合う中で自分の生き方を磨いていく、自分が成長していく、自分が変化していくっていう大きな機会。
高木さんはこれを「鏡が目の前に現れた」ような状態だと受け止めます。ぶつかっていく中で、振る舞いや考え方がアップデートされていくというわけです。
山川さんは、何をやっている会社かや誰とやるかも大事だとしたうえで、究極的には目の前のことが「自分自身が進化・変化し続ける機会」かどうかだと語ります。ECOMMIT ── 山川さんがChief Branding Officerを務める会社。エピソード説明では山川さんの現在の所属先の一つとして紹介されていますでも神山でも、毎回ここでやるべきかと悩むほど葛藤しながら挑戦しているといいます。
「やりたいこと」より「やりたいように」やる
高木さんは、自分の中にやりたいことやアイデンティティがあるという錯覚があり、それを見つけるのが大事だと言われがちだと整理します。実際には、人生に必要な問いや環境が降ってきて、やってみる中で自分が進化していくのではないか、という見立てです。
山川さんは、その幻があるからこそ燃えたり新しいものに飛び込めたりするので、素晴らしい幻ではあると補足します。それでも大事なのは、生き様や、そこに向かう中で自分がどうなれるかのほうだといいます。
高木さんも「やりたいことは、やりたいことにしていくことのほうが大事」だと応じます。中身をやりたいことに寄せていく、もともとやりたかったのだと自己暗示していく、という考え方です。
そんなもんないと思うからね。
山川さんはさらに、やりたいことをやるより、やりたいようにやることのほうが大事だと語ります。やりたいことを叶えるのは就職のように一瞬で終わってしまうけれど、戦い方や物事の実現の仕方は続いていくからです。
山川さんがやりたい「やり方」とは、人が物理的には必要としていないけれど、チームやビジョンに絶対的に必要なことを自ら立ち上げ、自由に楽しくやって人を集めていくことです。
就職したら終わるような、一瞬で完結するもの。幻だが飛び込む燃料にはなる
戦い方や実現の仕方を自由に貫くこと。生き様として続いていく
神山での2年間が与えた自信
山川さんは、かつてはこの「やりたいように」を自分に許可できていない部分があったと振り返ります。神山まるごと高専 ── 徳島県神山町に開校した私立の高等専門学校。山川さんはクリエイティブディレクターとして関わっていますに関わっていた時期には、これをやるべきなのかと強く葛藤したといいます。
だからなんかそれに対しては、自分はカミヤマというあの2年間で開口もして、本当に自分がいた意味があったなって思ったし、それによって自信も持った。
神山での経験を経て、山川さんは「こういうポジションでこういうことをやっていく」ことを自分の生きる道だと捉えるようになりました。積み上げでは成し遂げられないものを実現させていくことが、今のミッションだと語ります。
自分のやり方を許可できず、やるべきなのかと葛藤していた
自分がいた意味を実感し、このポジションを生きる道だと自信を持てた
「女神ポジション」とはどんな役割か?
高木さんは、新しい「穴」に出会ったとき、相手とどう接するのかを尋ねます。山川さんは、自分から接触するより声をかけられることのほうが多いと答えます。
うわーまた来ちゃったな、まだ早くない?みたいな感じで出会うタイミングは。
それでも山川さんは、感覚的にやったほうがいいのだろうと感じるといいます。そして、その不安や迷いも相手に伝えることが多いそうです。
山川さんは、神山以来の自分の役割を「女神ポジション」と勝手に呼んでいます。自分がいたほうがその経営者を信じるものが増えそう、という感覚です。
なんか女神になれるんじゃないかという感じがするんですよ。なんか私がいた方がなんかこう良さそう。
不安じゃん、経営者って大変だし、寂しいし。
山川さんは、自分がいたらこんなことができそうだという話を相手と一緒にしつつ、「もうちょっと休みたいと思っていたのに早かった」といった自分の心境もシェアするといいます。
ヒエラルキーを飛ばすトリックスターと、それを許す懐
高木さんは、山川さんには空気を明るくする天然の力があると評します。さらに自分と通じるところとして、ヒエラルキーを飛ばしてトップのように振る舞えてしまうトリックスター ── 神話や物語で秩序をかき乱し、境界を越えて新しい展開を生む存在。転じて、組織の常識を揺さぶる人を指しますのような存在だと表現します。
勝手になんか言ってくれたりするし、なんか話広げてくれたりするし。そういう人がいることの懐がある人とやるってのも大事なのかもね。
山川さんはこれに同意し、命をかけられるかどうかの条件をあらためて整理します。自分がいたら全然違う未来になると思えるかどうかと、その部分を信じて自由にプレイさせてくれるかどうかです。
そこだってなんか私に違うものを求められちゃったらね、お互い不幸。
山川さんは、生まれてから今日まで例外なく、そういう懐の深い経営者に育まれてきたと話します。高木さんは、スタンスがはっきりしているからこそ、そうした人と相性がよいのだろうと応じました。
クレイジー独立から「今までで一番気持ちがいい」へ
山川さんは、CRAZY WEDDINGから独立したときは「どうなることやら」と思っていたと振り返ります。高木さんのもとには、山川さんの涙ながらの人生相談が年に1回は持ち込まれていたそうです。
すごいいいとこまでなんか流れ着いてきたなみたいな。
高木さんは、山川さんの役割が会社においても社会においてもクリアになってきており、いいスタイルを見つけていると評価します。山川さん自身も、今が一番気持ちがよく楽しいと答えます。
高木さんはこの「気持ちよさ」をとても大事だと語ります。忙しく細かく働くやり方は機能はするものの、規模に限界があるという見立てです。
忙しく細かく働く
短期的にはワークする
規模の限界
その感覚だと数十人から100人ぐらいまでしかいかない
リスクの増大
不機嫌になる、プレッシャーで辞める人が出るなどネガも大きい
再現性がない
上がりは大きくても続かない
高木さんは、プロやアスリートのように、ご機嫌で自然体のままハイパフォーマンスを出す状態を作ることが大事だとします。喉を潰すような無理な声ではなく、ずっと歌い続けなければいけないのだから、というたとえです。
幸せになるか、世界を変えるか。二択からの統合
山川さんは、ごく最近まで「幸せになるか、世界を変えるか」の二択しかないという世界にいたと明かします。高木さんは、解像度が上がったことで、その2つが実はグラデーションでつながっていると見えてきたのではないかと応じます。
なんか全然関係ない人に幸せになれば世界が変わるって言われて、そういう統合の仕方あるんだと思って。
山川さんは、どちらかに分けてどちらかを選ぶ傾向が強かったのが40歳までの自分だったと振り返ります。これからは統合していく世界を作っていきたいと語ります。
高木さんは、自分を大事にするか世界を大事にするかではなく、幸せという実感と世界が変わっている状態が、ぐるぐる回る構造を見つけることが大事だと整理します。
幸せになるか、世界を変えるかの二択で、どちらかを選ぶもの
幸せと世界の変化はつながっていて、互いを回すサイクルとして統合するもの
山川さんは、その兆しがすでに見えている気がすると話します。また命をかけたらどうなるのかという怖さもありつつ、それを少し引いて楽しんで見ている自分もいるといいます。高木さんは、それを冷静でめちゃめちゃいい状態だと受け止めました。
新しい起業家のロールモデルを作る人
収録の終わりに高木さんは、この回が「一部の人には異常に刺さる、深い話」だったと振り返ります。
高木さんは、山川さんがCRAZY WEDDINGで突き抜け、苦しんで退任したのち、神山まるごと高専やECOMMITなどで新しいポジションを作っていると整理します。それは、のびのびとクリエイティビティを発揮し、自分にしか出せないインパクトを作る方法の模索だったと語ります。
一つ、また新しいロールモデルをさきちゃんを作っていってるんじゃないかなっていう気がして、僕自身すごい勇気もらった。
起業やトップを一度経験すると、次の選択肢は取りづらくなりがちだと高木さんは指摘します。だからこそ、起業家には一口に言ってもいろいろな生き方ややり方があることを、あらためて面白いと感じたといいます。
まとめ
山川咲さんは、やりたいことを幻と捉え、たまたま出会ったアジェンダを自分が進化する機会として引き受けてきました。経営者の隣で女神ポジションを担い、幸せと世界を変えることを統合する働き方は、起業家の新しいロールモデルとして示されています。
- やりたいことは探すものではなく、進化の途中で「落ちる穴」のように出会うもの
- 大事なのは「やりたいこと」より「やりたいように」やること
- 命をかけられる条件は、自分がいる意味と、それを自由にさせてくれる経営者の懐
- 忙しさで押し切る働き方には限界があり、ご機嫌で自然体のハイパフォーマンスが長く続く
- 幸せと世界を変えることは二択ではなく、回り続けるサイクルとして統合できる


