「ほんとバカですね。勉強させてください」と言える大人
後編は、立場ができていくほど恥をかきにくくなるという話から始まります。高木新平さんは、立場ができる過程では「そろそろ恥をかいたほうがいい」と言ってくれる人がいなくなり、むしろ周囲がチヤホヤするようになると指摘します。
家入一真さんもこれに同意します。年齢を重ねると周りは相対的に年下が多くなり、年上から「恥をかいたほうがいい」と言われる機会も減っていくと話しています。
ここで高木さんが紹介したのが、山形県鶴岡市でスイデンテラスを手がける山形デザインの山中さんのエピソードです。山中さんは前年に町づくりの賞や国の賞を多く受け、地方創生の成功例として扱われるようになりました。
ところが山中さん本人は、成功事例になった今こそ自分たちの存在を壊しに行かなければならないと語っていたそうです。地方は成功事例にただ乗っかるのではなく、試行錯誤を続ける場所だという考え方です。
高木さんがさらに印象に残ったのは、山中さんとひふみ投信の藤野さんとの出会いの話でした。山形デザインの評価がまだ定まっていない頃、山中さんが「教育も変える、農業も変える」と構想を語ると、多くの人は現実味がないという反応だったといいます。
その構想を聞いた藤野さんは、笑いながら「ほんとバカですね」「勉強させてください」と返したそうです。社会的に成功した人が、若い挑戦者に対して学ぶ側に立つ姿勢に、高木さんは驚いたと振り返ります。
家入さんはこの話を聞いて、いい話だし真似したいと感じたと話しています。成功した大人が自分から学ぶ姿勢を示すことは、恥をかける立場に身を置き直すことでもあるのかもしれません。
なぜ家入一真は下の世代から学び続けられるのか
家入さんは藤野さんの話を受けて、自身の経験を語ります。BASE ── 個人や小規模事業者が手軽にネットショップを開設できるサービス。BASE株式会社が運営していますを立ち上げた鶴岡さんは、家入さんから見ると一回りほど下で、リバティの元メンバーでもあります。
それでも家入さんは、最近は鶴岡さんから学ぶことがとても多いといいます。自分の下の世代から常に学べることを、家入さんは「めちゃありがたい」と表現し、いつまでも学び続けられることに感謝していると話しています。
話はそこから、家入さんの生き方そのものへ移ります。家入さんには若い頃から「こういう人になりたい」という具体的な目標像がなく、ずっと足元を見て歩いてきた感覚があるそうです。
CAMPFIREの立ち上げも、目標像から逆算したものではなかったといいます。ペパボ ── 家入さんが創業したGMOペパボの通称。レンタルサーバーやブログサービスなど、個人の表現を支えるサービスを展開してきましたで誰でも自己表現ができる世界をつくってきた流れを踏まえ、次は最初の一歩を踏み出すクリエイターやアーティストを、思いとお金の両面で応援できるサービスをつくろうと考えたのが始まりでした。
家入さんにとっての決断は、「これまでの人生を踏まえると、今これをやるべきだ」という積み重ねの感覚に近いようです。目標像がないことがコンプレックスだった時期もあったものの、今の年齢になると、これはこれでいいと思えるようになったと話しています。
ペパボ
誰でも自己表現ができる世界をつくる
次の問い
これまでを踏まえ、次に何をやるべきかを考える
CAMPFIRE
最初の一歩を踏み出す表現者を、思いとお金で応援する
キーワードは「衝動」
高木さんは、家入さんの「なりたい姿がない」という話に対して、なくてもいいのではないかと返します。そのうえで、家入さんには何かをいきなり作ったり、異常にハマったりする衝動的な一面があると指摘します。
高木さんの提案は、その衝動を出せる範囲を広げることです。そうすれば「何をやりたいんだっけ」という堂々めぐりの煮詰まりが解消されるのではないか、という見立てでした。
具体例として高木さんが挙げたのが小説です。続かないかもしれなくても、完成を待たずに途中の段階で出してみる。遠山さんのYouTubeのように、noteでも何でも途中のまま出していけばいいのではないかと話しています。
家入さんは「それはいいかもしれない」と受け止め、若い頃はそれを衝動でやっていた感覚があったと振り返ります。高木さんが「衝動だと思います。キーワード」と言うと、家入さんは「それメモっていい?」と返し、衝動というキーワードを何度も噛みしめるように繰り返しました。
SNSはなぜ思ったことをつぶやけない場所になったのか
家入さんは、衝動を出しにくくなっているのは自分たちだけでなく時代の空気なのではないかと問いかけます。高木さんは、時差はあるにせよそう感じると答え、箕輪さんの例を挙げます。
高木さんによると、箕輪さんは落ち着いた文化人のような立場になろうとしたものの無理だったといいます。その反発で飲んで暴れ、「破滅に向かってダッシュ」を自分のキーワードにして戻ってきてから、新しいレーベルの立ち上げなどアイデアが次々出てきたそうです。家入さんも、最近箕輪さんの人生相談に乗ったと話しています。
高木さんはここから、SNSの変化に話を広げます。かつてのTwitterでは、どこにいるかといったくだらないことを誰も気にせずつぶやいていました。しかし今は、いかに期待に応えるかという期待値調整に近いゲームになり、ビュー数が見えることもあって、自分の物差しでつぶやけなくなっていると指摘します。
思い思いにくだらないこともつぶやく、自己表現の場
期待に応え、空気を読み合う期待値調整に近い場
その結果として、世の中で強くなるのは、成功事例があるもの、理屈で説明できるもの、計画性があるものになっていくと高木さんは話します。そこに生きづらさや閉塞感を感じている人が多いのではないか、というのが高木さんの見方です。
だからこそ、遠山さんが未完成のままでも自分でやるYouTubeは、高木さんの目には「レジスタンスっぽい」ものに映るといいます。BondeeやDiscordのようなクローズな場が広がっているのも、同じ流れの中にあると高木さんは捉えています。
恥をかくことが炎上に直結する時代
家入さんは話を恥のテーマに戻し、今の時代は恥をかくことが炎上に直結しがちだと指摘します。ここでいう恥は、人に迷惑をかけるような恥のかき方ではありません。
家入さんによれば、会社を経営していたりフォロワーがいたりする人の場合、ただ恥をかくだけでは済まず、炎上につながる可能性まで考えてしまいます。そのため、新しく挑戦するような恥のかき方がしづらくなっているといいます。
一方で家入さんは、遠山さんのYouTubeについて、恥をかいてはいるものの安全地帯のような感じがあると話します。高木さんも、期待が違う別のプラットフォームであることが必要だと応じています。
高木さんは、成田悠輔さんやひろゆきさんのように「それ言っちゃっていいの?」ということを言う論客が支持を集めるのも、みんなが空気を読み合っている世界だからだろうと分析します。2010年代前半のSNSには自己表現の世界観がありましたが、経済が浸透し一般化したことで、素直にものを言える楽園ではなくなったと話しています。
家入さんも、昔は炎上もよくしながら好き勝手に言っていたのに、今は何かがブロックしている感覚があると打ち明けます。高木さんは、安易な発言で炎上した人の見せしめを見せられていることも影響しているといい、二人は発信が政治家の発言のように割に合う・合わないで測られるようになったと語り合いました。
ラグジュアリーブランドがSNSを閉じる理由
高木さんは、バーバリーが最近SNSをすべて閉じたことに触れます。ボッテガもおそらく同じだろうとしたうえで、ブランドとして期待される以上、運用コストは非常に高く、ミスをすれば大きく炎上してしまうと説明します。
しかも今は、SNSをやっていること自体がもう特別なものではありません。高木さんは、出さないから取りたい人は取りに来い、というクローズな方向にブランドが向かっているのは、感性の早いラグジュアリーブランドらしい動きだと見ています。
高木さんによれば、これはプライバシーの問題でMetaやFacebookを信用できないからやめる、という話とは違います。純粋に心地よくない、自分たちにとって快適なコミュニケーションの場ではなくなったから、SNSをやらないという判断だといいます。
得られるものは限定的
一度のミスで炎上し、人生が終わることもある
家入さんはこの状況を、細い橋を渡っていて一歩でもこけたら落ちてしまう感覚にたとえます。最近のスシローの件のように、一発のミスで人生が終わることもあると話し、高木さんも、リスクのあるブランドや企業ほどSNSをやらなくなるだろうと応じました。
アテンションエコノミーからコミュニティの時代へ
高木さんは、昔はアテンションを取ることでゲームチェンジができ、面白がられていたものの、今のアテンションエコノミー ── 人々の関心や注目そのものが経済的な価値を持ち、それを奪い合う構造のこと。SNSや広告ビジネスと結びついて語られますはもうきついと話します。立場のない「無敵な人」が強くなる面はあるものの、全体としては壁のあるコミュニティ型のクローズな世界へ移行していくと見ています。
高木さんはマーケティングの変化にも触れます。マスメディア対マスだった時代から、SNSによって対パーソナルになりましたが、パーソナルな訴求は強い訴求や機能的な訴求による刈り取りになりがちだといいます。
対マス
マスメディアから大衆に向けて訴求する
対パーソナル
SNSで個人に強く訴求するが、刈り取り型になりがち
コミュニティ型
企業とユーザーが対話できる、少し壁のある場へ
高木さんによると、D2C ── Direct to Consumerの略。メーカーが小売店を介さず、自社サイトなどで消費者に直接商品を販売するビジネスモデルのブランドは認知されても顧客ロイヤリティが生まれにくく、積極的な認知が育たないことに苦しんでいるといいます。コミュニティ型のプラットフォームが次々に出てきているのは、SNSが企業とユーザーの対話の場として限界に来ているからだというのが高木さんの見立てです。
高木さん自身も、NuPeaceとしてコミュニティテックやコミュニティマネジメントの領域に入りたいと考えていると話します。SNSは最初はよかったものの、想像以上に居心地の悪い空間になり、影響力があるからみんな様子見で続けている状態だといいます。
その一方で、若い世代はBondeeやDiscordのように別のものを自然と触り始めているのではないか、と高木さんは語ります。家入さんも「なるほどね」と受け止め、話は次の展開へと続いていきます。
まとめ
この回では、立場ができた大人ほど恥をかきにくくなるという問題を起点に、下の世代から学ぶ姿勢、衝動を外に出すこと、そしてSNSが恥をかけない場所になった背景までが語られました。恥をかける場所をどう確保するかが、大人の挑戦を左右する鍵として浮かび上がります。
- 藤野さんの「ほんとバカですね。勉強させてください」という言葉は、成功した大人が学ぶ側に立つ姿勢として紹介された
- 家入一真さんは、目標像がないまま足元を見て歩き、下の世代から学び続けることをありがたいと語った
- 高木新平さんは、家入さんのキーワードを「衝動」とし、完成を待たず途中でも出すことを提案した
- SNSは自己表現の場から期待値調整の場へ変わり、恥をかくことが炎上に直結しやすくなった
- 高木さんは、アテンションエコノミーから壁のあるコミュニティ型の世界へ移行していくと見ている


