陰口とDMだらけの組織はなぜ生まれた?
ラブグラフにはかつて、組織のコミュニケーションに大きな問題を抱えていた時期がありました。村田さんによると、駒下さんへの不満が村田さんに伝えられたり、社員同士が他の社員の不満を言い合ったりと、本人に直接言わないカルチャーが広がっていたといいます。
あんみつさんに対してこう思ってるらしいでとか、コマゲに対してあの子がこう言ってたでとか、又聞きで悪口聞くみたいなのが、蔓延してた。
村田さんは当時、なぜみんながこんなに不満を持っているのか分からなかったと振り返ります。今振り返ると、本人に直接言うことの難しさこそが、組織の状態を根本から悪くしていたと考えています。
この問題を数字で示したのが、Slackの分析機能でした。ラブグラフの社内では、経営陣から見えるパブリックチャンネルの会話よりも、DMでのやり取りのほうが多かったといいます。
私たちが知らない会話がこんなにこのオフィスでされてるんだみたいな。このチャンネルも動いてないのに。カタカタカタ。
チャンネルが静かなのにキーボードの音だけが響くオフィスの様子に、高木さんも「最悪ですよ」と反応しています。村田さんは、この状態を組織の悪循環であり不健全だったと表現しています。
「摩擦を生むほどダイヤは磨かれる」とDM原則禁止
陰口の蔓延を受けて、ラブグラフは「摩擦力」という行動指針を打ち出しました。ぶつかり合うことはいいことだと全社に発表し、そこから原則としてDMを禁止にしたそうです。
そう、摩擦を生もうみたいな。摩擦を生むほどダイヤは磨かれる。
DM禁止といっても、プライベートな話は対象外です。仕事のやり取りはすべてパブリックチャンネルで行う、というのが新しいルールでした。
「そんなに簡単に変わるのか」という高木さんの問いに、村田さんは「変わる」と即答しています。駒下さんは、経営者の2人自身が相当意識して動いたと補足します。
僕らが相当意識しましたね。そもそも。僕らがだいぶ多分直接言い合ってるのも見てるし。
具体的なやり方はシンプルでした。村田さんに誰かについての相談が来たら、「それって本人に言った?」と返し、本人に直接伝えるよう促したといいます。
不満は本人以外に伝わり、又聞きの悪口が蔓延。DMの割合が高く、経営陣の知らない会話が多かった
DMは原則禁止で仕事はパブリックチャンネルへ。相談は本人に直接伝えるよう促し、人間関係の問題は7〜8割なくなった
村田さんによると、話せば解決することがほとんどで、人間関係の問題は7割8割なくなったそうです。駒下さんは今の状態を、心理的安全性が高いと表現しています。
もう今はだからなんか文句とか不満あるんやったら言ってきてるやろなっていう、まあいい意味で安心があるんで、多分みんな心理的安全性は高いと思いますね。
なんかあったら言ってるやろっていう信頼があるんで。言ってないってことは大丈夫なんやなっていう。
組織づくりの経験が少なかった2人は、株主に相談したり、Netflixの組織論の本『NETFLIX 最強の人事戦略』を読んだりしながら模索していたといいます。駒下さんは、組織の問題を突き詰めると人間関係に行き着き、本人のいない所でこそこそ話すいじめの構図にも原理が似ていると感じたそうです。
MIXIとの資本業務提携はどう実現した?
話はラブグラフとMIXIの関係に移ります。駒下さんによると、MIXIには資本業務提携より前から何度も話をしに行っていたそうです。
最初のころ、MIXIの笠原健治 ── MIXIの創業者。SNS「mixi」を生み、現在は家族向け写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」を手がけていますさんと話した時点では、「みてね」はユーザー数を伸ばす時期で、マネタイズやアップセルの商材を売る時期ではなかったといいます。
それでもラブグラフは、資金調達のラウンドが進むたびにMIXIを訪ねていました。やがて「みてね」のユーザー数が1,000万を超え、ユーザーに向けてシナジーのある商材を探す時期に入ったことで、まず資本業務提携を結び、相性の良さを確かめた末にグループ入りまで進んだそうです。
駒下さんはスタジオ系を含めて他の会社もすべて検討したといいます。売却してすぐ抜けるつもりはなく、大事に育ててきた会社だからこそ、仲間が誇りを持てる相手を選びたかったと語ります。
なんかせっかくやったらその会社とそこで働く仲間たちが誇りを持てたりだとか、良かったねって思えるようなものにしたいなと思ってたんで、それが僕はミクシィだと思ったって感じですね。
笠原健治さんの「プロダクト愛」に惚れた理由
駒下さんがMIXIを選んだ決め手は、「みてね」の世界観と、笠原さんという経営者への共感でした。こうありたいと思える経営者の一人だったといいます。
駒下さんが今も覚えているのは、笠原さんとの食事の場面です。交友関係について聞くと話は一瞬で終わったのに、「みてね」の今後について聞くと話が止まらなかったそうです。
今年なんかみてねで今後どんなことやっていきたいんですか?って聞いたら、今年は9つあって、9つもあんの?みたいな。
仲いい人1人も出てこなかったんだけど、みてねで9つも出てくるの?みたいな。ずっと喋り続けるみたいな、そういう感じがすっごいいいなと思って。
駒下さんは、笠原さんが本当にプロダクトを愛し、ユーザーのことを考え続けている姿勢を「最高」と表現します。村田さんの「最強のプロダクトマネージャー」という言葉にも、駒下さんは同意しています。
デザイン思想まで似ていた、満場一致の「両思い」
村田さんも、「みてね」とラブグラフは似ていると感じていました。ラブグラフのビジョンは「幸せな瞬間をもっと世界に」、「みてね」のコンセプトは「心のインフラを作る」で、言葉は違っても思いは同じだといいます。
自分が作ったと言ってもなんかバレないんじゃないかぐらい、すごい。やっぱデザインの多分思想が一緒なんですよね。
村田さんが挙げる共通点は、写真を尊重して邪魔しないシンプルなデザインや、ひらがな多めの可愛らしく温かな言葉遣いです。
この思いは一方通行ではありませんでした。取材での公的な発言として、「みてね」側が複数の撮影サービスを検討した際、デザイナーに意見を聞くと全員がラブグラフを選んだと伝えられたそうです。
高木さんは「そんな幸せなM&Aある?」と驚きます。ユーザー層や人材を目当てにした買収が多いなか、世界観が一致しているからこそシナジーがある、という例は実際にはあまり聞かないと高木さんは語ります。
駒下さんも、昔から見ている起業家たちから、ここまで相性のいいM&Aはないかもしれないと言われたそうです。発表した時点で、2人自身も「ここしかない」と感じていたといいます。
グループ入りで何が変わり、何が変わらなかった?
駒下さんによると、グループ入り後も経営の自由度は、いい意味で全く変わっていません。事業計画の予算はあるものの、達成の方法は基本的に任され、足りない部分ではMIXIの予算を持ってきてもらうなどの支援もあるそうです。
一方で、目に見えて変わったのはオフィスです。資本業務提携をきっかけに、ラブグラフは渋谷スクランブルスクエアにあるMIXIのオフィス内、「みてね」事業部のデスクを借りるようになりました。
ほんと少年ジャンプじゃないけど、映画みたいにどんどんステップアップしてる感じが、やっぱチームにとってすごいモチベーションになってるというか。
駒下さんは、ラブグラフにはビジネスマン然とした人よりも、会社が本当に好きで入った人が多いと話します。好きなことを続けていたら新しい景色が見えてきた、という体験がチームにいい影響を与えたのかもしれません。
M&Aまで7年、「撮りたかった絵がやっと撮れた」
高木さんは、駒下さんが当初目標にしていた、はやたろうさんたちのメリーのM&Aのような景色にたどり着いたのでは、と問いかけます。駒下さんの答えは「ついに来たか」でした。
はやたろうさんたちは2〜3年でM&Aしていたため、駒下さんも3年ほどを想定して始めたそうです。実際にはM&Aまで7年かかり、途中で心が折れそうになったり、辞めたくなったりした時期もあったといいます。
そうですね、こだわって良かったな。自分が思い描くそのゴールみたいなのにこだわって良かったなって。
実際にその場面を迎えた心境を、駒下さんは映画監督にたとえています。
世界の0.0001%で満足していられない「勘違い力」
M&Aの直後、駒下さんは一区切りついたと感じていたそうです。けれど、日本中の家族がラブグラフを使っているわけではないと気づき、再び火がついたといいます。
元々世界中100%って話なんで、全然まだ0.0001%も使ってないよって話で、こんなんで満足してる場合じゃねえだろ俺って最近燃えてるって感じですね。
周りにはM&A後に落ち着いてしまう起業家もいるなかで、駒下さんは自分のモチベーションの源を「勘違い力」と表現します。
なんか謎に勘違い力が結構高いんで、俺ならもうちょいいけるやろって常に思い続けてるのが、多分なんだかんだモチベ高くやれてる理由な気がします。
M&Aの後は「次に何をやるのか」とよく聞かれるそうです。駒下さんは、熱を込められるものに出会えていることの幸せに改めて気づいたと語ります。
それでも身を捧げたいと思えるほど、なんかこう愛せるものに出会えるとか、熱中できるものに出会うのってめっちゃ難しいことやし、ほぼ奇跡みたいなことなんで、
駒下さんは、AIのようなトレンドを追うことはできても、それとは別に、愛せるものが今あるなら迷わずやったほうがいいと話します。そして、それを探すことにこそ人生の時間を使うべきだと、exitを経て強く感じたそうです。
写真はなぜ「未来への贈り物」なのか?
高木さんは、駒下さんが写真に確信を持てた瞬間を尋ねます。それまで趣味も特技もなかった駒下さんにとって、自分の撮った写真がTwitterやLINEのアイコンになり、誰かの役に立てていると感じられたことが純粋に嬉しかったといいます。
駒下さんは、写真は時間が経つほど価値が増すものだと考えています。iPhoneや家のように、多くのものは時間とともに価値が下がるのに対し、写真や思い出は逆だというのです。
毎年新しいものが出て、時間が経つほど価値が下がっていく
撮った直後より、10年後・20年後に振り返るときのほうが価値が上がる
この感覚が強まったのは、ラブグラフを続ける中だったそうです。最初は夫婦として依頼してくれた人が、妊娠、出産を経て、5年ほど撮り続けるうちに子どもが話すようになっている、そんな変化を見てきたといいます。
写真があふれる時代、ラブグラフは「人生のしおり」に
高木さんは、写真が誰にでも撮れるようになった今、1枚1枚の価値は昔より減っているのではと問いかけます。駒下さんの答えは、ラブグラフは「しおり」だというものでした。
その逆にその写真がみんなライトに撮れるようになったからこそ、どの写真が大事かとか、なんかあんまり覚えてないと思うんですよね。
駒下さんによると、ラブグラフで撮る写真は、子どもの誕生や会社の周年記念のような記念の瞬間のはずです。前回はいなかった犬が次の撮影では写っている、というように、人生を振り返るときの目印になってほしいといいます。
高木さんがしおりを「人生のポイント」と言い換えると、駒下さんは「セーブポイント」と表現しました。ライトに撮れるようになったからこそ、ラブグラフの価値はより増していくと駒下さんは考えています。
なぜ「みてね」でなければならなかったのか?
撮った写真を後から見返して初めて、時間とともに増した価値を体験できます。ただ、ラブグラフにはフォトブックはあっても、見返す機能はあまりなかったそうです。
僕らで1から思い出を振り返るサービス作ろうって思うと結構パワーかかるんですけど、すでに1,000万人が思い出を振り返るためだけのアプリがあるってなったら組むしかないやんっていう。
高木さんは、「みてね」が祖父母も写真を見られる仕組みになっている点を「すごい装置」と評します。村田さんも、半年前や1年前の写真がふと表示される振り返りの体験を挙げ、「この時も可愛かったな」と思える瞬間に触れています。
高木さんは、新しい情報があふれる今、振り返る体験を生み出すこと自体がとても貴重になっていると話しています。
ダニエル・キムの成功循環モデルは何を教えてくれる?
駒下さんは、組織に悩む起業家に向けて、ある理論を紹介します。ゼクシィを運営するリクルートマーケティングパートナーズの社長に組織の悩みを相談した際に教わった、ダニエル・キム ── マサチューセッツ工科大学の組織学習センター共同創設者として知られる研究者。組織の「成功循環モデル」を提唱しましたの成功循環モデルです。
このモデルでは、組織に関係の質、思考の質、行動の質、結果の質という4つの要素があるとされます。いい組織は関係から入り、ダメな組織は結果から入る、というのが駒下さんの説明です。
結果が悪いと「お前のせいで」と関係がギクシャクし、思考の質が下がり、行動の質が下がり、また結果が悪くなる悪循環
関係がいいと「この仲間ならできそう」と思考の質が上がり、行動の質、結果の質が上がり、さらに関係が良くなる好循環
駒下さんは、ラブグラフが3年目に組織崩壊を起こしたときは、まさに結果から入っていたと振り返ります。結果を出すことが正義という空気の中で関係がおろそかになり、好循環は回らなかったといいます。
これがもうめっちゃ刺さってる。その通りだなって。まさにその図を何回見たかわかんないですね、その図。
高木さんが「関係性の質を良くするための摩擦力」とまとめると、駒下さんも同意しています。
関係の質は「仲良しこよし」ではない
駒下さんは、関係の質とは仲良しこよしのことではないと強調します。嫌なことでも率直に言えるかどうかで、今風に言えば心理的安全性に近いといいます。
ちゃんとなんかそのあるべき関係性みたいなことをちゃんと作れてるのかとかっていうのが結構大事って感じ。
1on1を増やす、ランチ会を開く、MVPを表彰するといった細かい施策もありますが、一番効いたのはやはり摩擦力、つまり腹を割って話すカルチャーだったそうです。
関係の質を可視化しているのかという問いに対しては、ツールを使って測る方法もあるとしつつ、目の届く規模なので、経営陣が関係がいいと感じられていればいいのではないか、という考えが示されています。
写真を撮ると「チーム肯定感」が上がる
高木さんの「写真一緒に撮ったら仲良くなれるのかな」という問いに、村田さんは「仲良くなると思う」と答えます。ラブグラフでは、関係の質を写真で上げている面があるそうです。
収録の少し前、ラブグラフでは8周年記念パーティーが開かれ、全国から集まったフォトグラファーのラブグラファーさんたちと全員で写真を撮ったといいます。
なんかうちらっていいなみたいな感じになったよな。何やろ、自分たちが肯定される自己肯定感というか、チーム肯定感みたいなのが。
参加者たちはその写真をInstagramのストーリーズに載せ、「ラブグラフに入れてよかった」と何十人も投稿してくれたそうです。村田さんはその投稿をスクリーンショットで数え、「入ってよかった」と言ってくれる人の数を、強いて言えば指標として見ていると話します。
「コマゲならこう言う」がブレない経営者
高木さんは、関係性が流動化した社会では見切りをつけるのも簡単だと指摘します。それでもスタートアップでも夫婦でも、うまくいかない期間をどう乗り越えるかが難しいといいます。
村田さんは、好かれる必要はないものの、一緒にいてもいいと思われる経営者であることが大事だと答えます。給与や成長の面で折り合わないことはあっても、代表のことが好きなら社員は残ってくれるといいます。
駒下さんが意識していることとして、村田さんが挙げたのは「嘘をつかない」ことでした。
もう誰に話してもコマゲならこう言うやろなっていう、
率直すぎて裏目に出ることもあるものの、言うことが変わらない点が信頼につながっているのではないか、と村田さんは考えています。
共同創業者2人が体現するラブグラフの物語
番組の最後に高木さんは、多くの共同創業者を見てきたなかで、ここまでいい関係を続けている2人はそもそもいないと語ります。高木さんは2人の関係を「いい夫婦の姿」とたとえています。
ピュアにやりたいことを持つ駒下さんを、村田さんが感覚的・感情的に後押しし、リズムは違っても互いにリスペクトし合っている、というのが高木さんの見立てです。摩擦力で2人が腹を割って話す姿を、社員が親の姿を見る子どものように学んでいくのではないか、とも話しています。
高木さんは、2人の関係そのものが、大切な人といい時間を過ごすシーンを作るラブグラフの物語であり、創業者がブランドを体現している会社が愛される理由なのだろうと締めくくっています。
まとめ
ラブグラフは、陰口とDMが蔓延した組織を「摩擦力」で立て直し、世界観が重なる「みてね」と相思相愛のM&Aを果たしました。その根底には、写真を時間とともに価値が増す「人生のしおり」と捉える考え方と、関係の質を何より大事にする組織観があります。
- 本人に直接言うカルチャーとDM原則禁止で、人間関係の問題は7〜8割なくなった
- MIXIとのM&Aは、デザイン思想まで一致した「両思い」で実現した
- 写真は時間が経つほど価値が増す「未来への贈り物」であり、振り返る場として「みてね」が必要だった
- 成功循環モデルが示すように、組織は結果ではなく関係の質から整える
- 言うことがブレない経営者像が、社員からの信頼につながっている







