業界を覆す方法は2つある?
株式会社TeaRoomの岩本涼さんは、起業当初から「業界の覆し方には2つある」と考えていたといいます。1つは既存の業界を敵とみなし、過去のものとして新勢力を立てるやり方です。
もう1つは、既存の権威の中で一定の地位を持ち、内側から変えながら自分の市場を築くやり方です。岩本さんは一部は協業し、一部は自社で手がけ、既存のネットワークにレバレッジをかけて新市場をつくる後者を「圧倒的に」選んでいると話します。
岩本さんは25歳という若さで茶道の世界で一定の立場を得ており、裏千家の青年部の役員も務めているといいます。若手は文化の世界でも政治の世界でも人口比率的に希少で、その立場からできることを最大限やるのが自分のやり方だと説明しています。
ホストの高木晋平さんは、前者をディスラプション ── 既存の市場や業界の秩序を、新しい技術やビジネスモデルで破壊的に塗り替えること。破壊的イノベーションとも呼ばれます的な、Uberの創業者のような「ヤンキー的」「ストリート的」な戦い方と表現しました。そのうえで、岩本さんの後者のやり方には政治家に近いものを感じると返しています。
既存業界を敵対視し、過去のものとして新勢力を立てる。高木さんの言う「ヤンキー的」な戦い方
権威の中で地位を持ち、協業と自社事業を組み合わせて既存ネットワークにレバレッジをかける。岩本さんが選んだ道
一方で岩本さん自身は、パンクやヤンキー的なものに憧れもあるといいます。「俺には音楽しかねえんだ」というバンドマンのライブのような姿は、いつかやってみたいと個人的には思っているそうです。
「自己的な起業」と「最適な方法としての起業」
岩本さんは、起業するときに全く不安がなかったと振り返ります。自己がいろいろな場所に分散しているため、起業は「自分ができることを最大限やるのみ」という選択の一つだったといいます。
世界を変えたいというビジョンはもちろんあるものの、起業しない別のキャリアの選択肢もありました。岩本さんにとって起業は、当時自分が一番できそうだったものを選んだ結果だったと話しています。
高木さんは、番組のゲストには2種類の起業家がいると感じてきたそうです。生きるために起業するしかなかった「自己的な」起業家と、価値の出し方として起業が一番いいと判断するタイプです。
| タイプ | 起業の理由 | 番組で挙がった例 |
|---|---|---|
| 自己的な起業 | 起業するしか生きていく方法がなかった | 高木さん自身、CAMPFIREの家入さん |
| 最適な方法としての起業 | やりたいことを実現するには株式会社が一番よかった | ファストドクターの創業者、岩本さん |
高木さんは自身をアクシデンタルアントレプレナー ── 意図せず、成り行きで起業家になった人を指す言い方。最初から起業を目指していたわけではない起業家を表しますタイプだと言い、師匠であるCAMPFIREの家入さんも組織が無理で起業するしかなかった人だと紹介します。対照的に、夜間診療などで医療業界のルールを変えたファストドクターの創業者は、医者でいるより株式会社をつくるほうがよいと合理的に判断したといいます。
ただ岩本さんは、当時は何も考えていなかったと笑います。学生起業のど真ん中で、借金をして工場を買い、3年ほど赤字が続く金のない生活だったそうです。
岩本さんが起業したのは、留学から帰ってきた直後の大学生のときでした。人と違う評価軸を持たなければ勉強だけでは天才に追いつけないという危機感があり、大学の最初から「起業する」「留学に行く」と周囲に言っていたといいます。
早稲田大学で起業志望の仲間と知り合い、彼らが次々と起業していくのを見て、留学帰りのいいタイミングだからと起業に踏み切ったと話しています。
TeaRoomという社名に込めた「文化と産業の統合」とは
事業をお茶でやることは「もう絶対に決まっていた」と岩本さんは言います。テーマは文化と産業の統合で、社名のTeaRoomもTとRが大文字の1語になっています。
プロダクトとしての日本茶(Tea)と、文化としての空間性(Room)が合わさって1語になってほしい。普通は小文字の2語で書くTea roomを1語にした社名には、その希望が込められているそうです。
この問題意識は中高時代に芽生えました。岩本さんがお茶の先生方に抹茶のつくり方を尋ねると、多くの先生が「発酵してるのよ、熟成してるのよ」と答えたといいます。
茶室では、お茶を詰めたお茶屋さんの名前である「お詰め」と、お茶についた銘という2つを客が亭主に問うのが作法です。それ以外を知らなくても茶会は成り立つため、文化の世界の人々はお茶の成り立ちを知らなかったと岩本さんは話します。
茶道の人々が詳しいのは、もてなしや配慮の思想、道具の名前や作家、お茶屋さんのネットワークです。品種や市場については、家元も含めて理解する立場にありません。家元のミッションは文化の継続だからです。
一方、茶畑を回り始めると、生産者は文化にアクセスがなく、千利休の話を知らないこともわかったといいます。文化の担い手と農業の担い手が分断されていたわけです。
大学生のとき、岩本さんはアメリカの取引先の縁でカンファレンスに登壇しました。紋付き袴姿で日本の文化人と紹介されたにもかかわらず、学生からの最初の質問は「抹茶ラテってどうやってつくるんですか」だったといいます。
次の質問は「千利休って誰なんですか」でした。海外から見ると、抹茶ラテから茶の湯までが一続きの厚みある日本文化として捉えられているのに、両方の質問に答えられる人物が日本にいなかったことに衝撃を受けたそうです。
茶の湯の世界は、日本の軟水と地元の地下水で釜を沸かすという制約の中での解釈が中心で、体験の提供には長けていても市場を大きくすることには長けていなかったと岩本さんは見ています。文化を理解する人が市場を大きくすれば、文化にもお金が循環する。そう考えて会社をつくったと話しています。
お茶を起点に「対立のない優しい世界」をどうつくる?
岩本さんが創業時から掲げる理念は、世の中のいろいろな対立をなくし、対立のない優しい世界を目指すことです。文化と経済、地方と東京、人と人、組織の課題など、あらゆる摩擦を指して「コンフリクト」と表現しています。
対立を一つずつ解消していけば、世の中は人間らしい本来の生活に戻っていく。岩本さんは、そこには必ずお茶が入ると信じて事業をしているといいます。
具体例として岩本さんは、都市で団欒の世界を取り戻すために、不動産会社と組んでソーシャルキャピタル ── 人と人とのつながりや信頼関係を、社会の資本としてとらえる考え方。地域の結束やネットワークの豊かさを指しますや関係人口を軸に「家族化」していく事業を開発中だと紹介します。人が集まる場には、媒介としてのお茶が必ず入るという考え方です。
岩本さんによれば、お茶屋さんの起源は東インド会社 ── 17世紀にイギリスやオランダなどが設立した、アジアとの貿易を担う特許会社。茶や香辛料の取引で大きな役割を果たしましたにさかのぼり、スパイスやハーブの流通を担う飲料と食のインフラです。団欒の暮らしが生まれれば、そこへ自社の商材を卸せるといいます。
高木さんはこの話を受けて、お茶は単なる飲み物ではなく、コミュニケーションツールであり思想を伝えるものだからこそ、どこにでも入るのだと整理しました。
1日8回の接点を持つお茶は、なぜ文化の武器になる?
岩本さんは、人間はマグカップ1杯ほどの飲み物を1日8回飲むと言われていると紹介します。トイレでさえ8回行かない日があるほどで、1日8回も接点がある行為はほとんどないといいます。
中国や韓国は、お茶を自国文化の接点として産業ごと保護していると岩本さんは話します。韓国では日本茶に500%の関税がかかり、中国はセシウムを理由に日本茶を入れないままだといいます。
研究所の所長たちに理由を聞いたところ、中国の戦略は次のような流れだったそうです。
人の移動
中華街をつくり、人民を移動させて中華の思想を広げる
料理
中華料理を世界中に広め、思想をあふれさせる
飲料
次の接点として飲料を押さえ、1日8回の接点を失わないよう自国の茶産業を保護
研究と輸出
国家予算でプーアル茶などの機能性飲料を研究開発し、生活習慣病予防などで東南アジアに流す
岩本さんは、1日8回も自国の文化を伝えられる接点があるのに、日本はなぜそれを使って文化を伝えないのかと問いかけます。高木さんは、本来はiPhoneやApple Watchほどの接点があるのに、メディアとしてうまく使えていない状態だと表現しました。
川上と川下の力関係をどう変える?
お茶の未来の構想について、岩本さんは供給サイドと文化サイドの両方があると話します。供給サイドの日本茶市場は清涼飲料が中心で、川下にはキリンやサントリーなど大手5社がいる一方、川上の農家や工場は数千から数万社あるといいます。
清涼飲料メーカーなど大手5社。売り手が少なく、競争力が集まる
農家や工場が数千〜数万社。全員が同じコモディティを扱い、立場が弱い
売り手が5社しかいないのに作り手が何千社もいれば、構造上、川下が強くなるのは当然だと岩本さんは指摘します。そこで川上を5社程度に統合することを目指し、工場の買収とバンドリングを粛々と続けているそうです。
大手メーカーはなぜ川上を持たないのか、という高木さんの問いに対し、岩本さんは農業の大変さを挙げます。24時間工場が稼働する世界で正規雇用での農業は難しく、日本国内のコストは低く叩かれ続けてきました。今ではベトナム産より日本産のお茶のほうが安いほどだといいます。
業界が弱まった結果、今後お茶が不足する見通しとなり、ようやくメーカーが農業に先行投資し始めていると岩本さんは話します。目標は、川上と川下が適切に競争できる状態です。
岩本さんによると、お茶の会社は平均の利益率が2%弱とされ、売上10億円の会社でも1億円弱で買えてしまうそうです。そのため売上の確保はほぼM&Aで完了させる考えだといいます。
そのうえで、お茶の多面的な価値を使えば、どの業界とも組め、ウェルビーイングやサステナブルといったマクロトレンドにも合う事業を仕掛けられると岩本さんは見ています。茶室で培われた考え方を技術化して全市場に導入すれば、テクノロジー企業並みのマルチプル ── 企業価値を利益などの指標で割った倍率。成長が期待される企業ほど高くなり、企業評価の目安になりますがついてもよいという構想です。
岩本さんは、少なくとも伊藤園に張れる会社を2年以内につくる道筋がやっと見えてきたと話します。6期目に入るタイミングでの発言です。
高木さんが「ビッグマウスだけどビッグマウス感が出ない」と不思議がると、岩本さんは、生産者やJAの人々と厳しい対話を続けてきたからだと答えます。業界で一番苦しい農業から始めれば民意を獲得できると考え、頭を下げて借金をして工場を買ったところから始めたといいます。
千利休の茶杓が70万円で買える?文化の価値下落
岩本さんは、茶道具をたくさん買い占めたいとも話します。千利休の茶杓が今では70万円ほどで、もともとは1,500万円くらいしたといいます。
価格が下がった理由として、岩本さんは人口減少を挙げます。茶会の数も茶道をする人口も減り、道具を使う場面と市場そのものがなくなってきているといいます。
高木さんが国家的な損失ではないかと問うと、岩本さんは「激しくネガティブ」と応じました。文化財を国内にとどめる仕掛けをつくり、国宝の茶碗や茶室を使った茶会のようなラグジュアリー観光として価値化すべきだと考えています。
もし日本の「茶担当大臣」だったら何をするかと聞かれた岩本さんは、国家予算での茶道具の買い占めと、全茶室の民間委託を挙げました。
よい茶室の多くは財団が保有し、公益財団法人として助成金で運営されています。その結果、学芸員が保護を前提に管理するため使えなくなる、と岩本さんは説明します。学芸員という職業を否定しているわけではないと断ったうえでの指摘です。
岩本さんは、お茶は500年前の茶碗が現代でも使えるから価値があると強調します。地震の多い国で、1,000年前の着物を能の演者が今も着られるほどの保存技術は他国では考えられず、焼き締めや桐箱の技術を使いながら残したいといいます。千利休がつくった待庵のような茶室も、どんどん使ってほしいと話しています。
国の介入については、岩本さんは公園の民間活用であるパークPFI ── 都市公園で、民間事業者が飲食店などの収益施設を設け、その収益で公園整備も担う制度。2017年の法改正で導入されましたを例に挙げ、自助・共助・公助を組み合わせる形を茶室や文化財、庭にも広げてよいと話しています。
文化庁と経産省と外務省を統合すべき理由
岩本さんはさらに、文化庁と経産省と外務省の統合を提案します。高木さんが「お茶のために」と驚くと、岩本さんは間違いなく必要だと答えました。
岩本さんが関わった最近の事業は外務省の予算でしたが、外交用途のため商業利用は禁止で、サンプリングもできなかったといいます。世界中から有力者が来る外交の場で紹介できないのは、明らかな機会損失だと指摘します。
| 省庁 | 役割 | 文化産業との関係 |
|---|---|---|
| 文化庁 | 文化の保護 | 保護にお金を出すが、産業活性は対象外 |
| 経産省 | 経済・産業の活性化 | 文化財の産業活性はほとんど絡まない |
| 外務省 | 外交 | 商業利用が禁じられ、文化輸出につながりにくい |
3省庁が同時に補助する事業はほとんどないと岩本さんは言います。これらが統合されて一つの機関になれば、日本の文化資産を活用した商圏ができていくと考えています。
文化を知る人はなぜブレないのか
話を聞いた高木さんは、文化を学ぶ価値がわかった気がしたと語ります。自分は25歳のとき、岩本さんのように確信を持ってビジョンやあるべき社会を語れなかったといいます。
高木さんは、岩本さんの自信はほらを吹くようなものではなく、淡々と地に足のついたものだと感じたそうです。その源泉は、先人が研鑽してきた事実と思想、つまり文化を土台に思考できることにあるのではないかと話します。
不確実性の高い時代でも、文化や歴史を知る人は未来に対してパターンを持て、備えられる。高木さんはこれを「文化を知ってるやつはブレない」と表現しました。
岩本さんは、文化は人間に根ざした活動であり、時代が変わっても人との接し方など人間のあり方は変わらないと応じます。コミュニケーションツールがどれだけ発展しても、そこがベースになるといいます。
さらに岩本さんは、文化の家元が式典でいつも祈る「安寧」という言葉を挙げます。会社のミッションが安寧を祈ることなら誰も否定できず、否定するほうがばかっぽく見えてくるのが面白いといいます。
TeaRoomの「対立をなくす」というミッションも同じで、紛争や分断はなくなったほうがいいのは自明です。その先の未来を目指すことを創業からの理念にしている点が面白い、と岩本さんは話しています。
高木さんは、文化と経済をこうした視点で考えると解像度が上がると振り返ります。ただ、自分の分野を支えてきた文化に触れる機会はなさすぎるとも感じたといいます。
岩本さんによれば、茶事を一度も体験したことがない人がほとんどです。茶会に参加したい人は多いものの、権威の世界で誰かに誘われないと怖いといいます。一度茶会に来ると、余興の舞をきっかけに能にも足を運ぶようになる人がいて、文化の入り口にお茶があるとよいと話しています。
最後に高木さんは、ニュートラルに起業を選び、盲目的にならず冷静に業界や社会と向き合う岩本さんの姿勢を新鮮だと評しました。お茶を起点に日本社会やライフスタイルを変える取り組みに、自分も関わりたいと締めくくっています。
まとめ
岩本涼さんは、茶道という「型」の内側に立ちながら、日本茶の産業構造と文化財のあり方を同時に変えようとしています。文化と経済を分けずに考えることが、ブレない確信の土台になっていることが伝わる回です。
- 岩本さんは業界を外から壊すのではなく、権威の中で地位を持ち内側から変える道を選んでいる
- 社名TeaRoomは、プロダクトとしての日本茶と文化としての空間を1語に統合する思いを表している
- 1日8回の接点を持つお茶は文化を伝えるメディアになり得ると、中国の事例を交えて語られた
- 川上の統合やM&A、茶室の民間委託、3省庁の統合など、産業と文化の両面にわたる構想が示された
- 高木さんは、文化を土台に考える人は不確実な時代でもブレないと受け止めた





