同い年のブランド屋2人、YAMAPのパーパスに何を見た?
深夜1時の経営者ラジオ「インサイドビジョン」の特別編には、クリエイティブディレクターでNEWPEACE CEOの高木新平さんと、同い年の工藤拓真さんが登場します。高木さんは工藤さんを、ブランドの戦略からクリエイティブまで一貫して手がける、自分に最も近い仕事をしている人だと紹介しています。
今回のテーマは、ブランディングのこれまでとこれから、そして高木さんが「ブランディングには今コミュニティが重要だ」と語る意味です。普段はインタビュアーの高木さんが、逆に工藤さんからインタビューを受ける形で対話が進みます。
工藤さんはもともと電通に在籍していましたが、コロナ禍に「違う空気を吸う」ために退社しました。現在は自身の会社BRAND FARMを率い、マス広告も手がけるクリエイティブブティックdofの執行役員を務め、登山アプリのYAMAP ── 登山者向けの地図・記録アプリ、およびその運営会社。登山やアウトドアのコミュニティ機能も備えていますの仕事にも関わっています。
高木さんは以前、YAMAP代表の原山さんを番組に迎えたことがあり、その話から「使命に突き動かされる人とはこういう人か」と感じたといいます。マーケットの波に乗るスタートアップというより、自分の信念を事業として立ち上げる「真のベンチャー」だという印象だったそうです。
本当に(YAMAPの)原山さんの話聞いてて、なんかミッションってこういうことだなと思いました。
工藤さんはYAMAPで「地球とつながる喜び」というパーパスづくりに携わりました。その経験から、ビジョンやパーパスは身の丈に合った「言い得て妙」なものが選ばれがちだと指摘します。
現状のナウの自己紹介しても、もしかしたらしょうがない部分もあるかもしれなくて。かといって全然関係ない別人格持ってても意味なくて。
半歩先なのかもうちょい先なのか、ここだよって旗立ててあげるっていうようなのが(ビジョンづくりの)仕事なんだとすると、ちょっと違うとこ持っていくっていうのがいい仕事なんじゃないかな。
ビジョニングはなぜ「リリース止まり」になったのか
工藤さんの問いは、ビジョニングの会社に見えていたNEWPEACEが、いつの間にか「コミュニティだ」と訴えるようになったのはなぜか、というものです。高木さんは「Insideしんぺい」と笑いながら答え始めます。
高木さんによると、ビジョニングは自ら言い始めた概念です。企業が持つビジョン・ミッション・パーパスといった「Why」を中心に、そこへ共感する社員やユーザーを1つのコミュニティとして作っていく考え方だといいます。
従来のブランディングは「100万人が使った」のように、過去の実績を見せて安心を保証し、それを広告でアピールするものだったと高木さんは整理します。しかし周りのスタートアップには、見せられる過去がありませんでした。
だってこれから会社作るんだし、これからやるんでないわけだから、夢しかない。
ところが、新しいビジョンを設定してキャンペーンを打ち上げても、それで終わってしまう感覚があったといいます。上場などのイベントに合わせて打ち出しても1回きりで、運用にならず、ブランディングというよりPRに近い「リリースマックス」になってしまうという問題です。
高木さんは社内でさまざまな事業を手がけるなかで、リリースよりもグロースが大事だと気づきました。コンサルや制作のプロダクションワークは「ガンとやって終わり」になりがちで、その後の運用は担ってこなかったと振り返ります。
では何を運用するのかと考えたとき、高木さんの答えはコミュニティでした。ビジョンに共感した熱のあるコミュニティをマネジメントすることが、ビジョニングの「ing」の部分にあたるという整理です。
過去を見せるブランディング
実績を広告でアピールし、安心を保証する
ビジョニング
過去のないスタートアップは、ビジョンを求心力にする
リリースマックスの壁
キャンペーンが1回で終わり、運用にならない
コミュニティマネジメント
ビジョンに共感した人々を継続的に運用する
企業の「庭」ではなく、独立した語り手をどう束ねる?
高木さんは、企業コミュニティというと運営者が管理する「庭」を思い浮かべがちだと話します。成功例として挙げるのは、ユーザーのアイデアを商品化するレゴアイデア ── レゴ社の公式プラットフォーム。ファンが作品案を投稿し、支持を集めた案は製品化の検討対象になりますや、化粧品店のセフォラで利用者が商品をレビューし合う仕組みです。
ただし高木さんは、企業の庭に人が完全に入りに行くのは、よほど強いブランドでないと難しいと考えています。今はユーザーのほうに選択権と主導権があり、個人がいろいろなコミュニティを自由に出入りしているからです。
どちらかというと自分たちの考えとかを共感して語ってくれる人たちをどうマネージするかっていうぐらいのゲームだと思うんですよ。
広告全盛の時代は、新聞広告のように企業の思想やロゴを全員に見せられました。高木さんは、今はそれがかなり難しくなったと見ています。
代わりに例として挙げたのが、BTSのファンARMYやBLACKPINKのファンです。ファン自身が動画を編集して投稿し、それらしくなるよう情報や素材が共有されています。
高木さんは、ユーザーのほうが発信力を持つ今、企業が最後の一人まで直接届けるのは難しく、間にいるユーザーが実際には届けていると指摘します。影響力のある語り手は会社のコミュニティに入るわけではなく、あくまで独立した存在です。
広告とかだと短すぎて、文脈とか誰も語れないじゃないですか。
でも語る人って、いや、ヤマップってさ、こういうブランドとさみたいな語ってくれるじゃないですか。
こうした語り手を、コントロールではなく緩やかにマネジメントし続けなければ、ビジョンや思想は伝わっていかないというのが高木さんの考えです。
資生堂はなぜ「銀座」を語り続けたのか
工藤さんは、YAMAPや自治体、ナショナルブランドの仕事を通じて「みんな場を求めている」と感じてきたといいます。もともと工藤さんにとって、ブランディングは「どう届けるか」「どう考えさせるか」が中心で、場は必要なパーツに思えていなかったそうです。
場が求められる理由のヒントになったのが、工藤さんがVoicyで配信する番組「じっくりブランディング学」で、ティールームの岩本さんに紹介された本です。資生堂の元会長・福原 ── 福原義春氏。資生堂創業家出身で社長・会長を務め、企業による文化支援(メセナ)の推進でも知られますさんによる『文化資本の経営』で、現在は絶版だといいます。
工藤さんによれば、この本は文化資本で商売をすべきだと訴え、資生堂にとって銀座がいかに大事かを熱く語っています。国やナショナルブランドはフィクションで、銀座や横浜に生まれたことのほうがリアルだという主張です。
日本初グローバルブランドとか言うけど、本当は日本に生まれたってことはフィクションで。
本の中には、60年代に銀座で作られたポスターのエピソードがあります。フランス的なものを取り入れた作品としてフランスで見せたところ絶賛されたものの、「全然フランス的ではない、むしろ銀座のものではないか」と言われたそうです。
工藤さんはここから、生まれ育った場所で知覚し続けたものが溜まり、それがブランドとして発信されていくという見方を紹介します。サントリーが水づくりの拠点を大事にしているのも、場を大切にする例だといいます。
四半期ダメだから、じゃあこの場終わろうみたいなことはできないわけで。
場は手間がかかり、放っておくと沈んでしまう、時間軸の長い活動です。工藤さんは、コロナ禍にブランドの議論で「コミュニティ」が頻繁に出てくるのも、こうした実体を人々が求めているからではないかと考えています。
認知率から熱狂率へ、ブランドの物差しはどう変わった?
高木さんは、現代的にブランドを作れている日本企業は多くないとしたうえで、スノーピークやベネッセ(福武財団)を挙げます。スノーピークはフィールドを、ベネッセは瀬戸内の直島 ── 香川県の島。ベネッセと福武財団による美術館やアート作品が点在し、海外からも多くの人が訪れますなどを、実際の場として持っています。
高木さんの見立てでは、こうした場は企業が直接語るためではなく、人々が語るための体験を用意する装置です。そこで体験した人がブランドについて語り合い、外でも語ることで広がっていきます。
工藤さんはこれを「ブランドの関係人口」と表現し、高木さんも同意します。企業アカウントはいちいちフォローされず、新聞広告も一瞬の出会いにすぎないなかで、影響力のあるブランドは語り手を大切にできている会社だという見方です。
高木さんは、ブランド力はかつてほぼ認知率で測られ、99%が知っているものがブランドだったと話します。しかし今は、熱狂率が高くないとブランドとは言えないといいます。
広告で多くの人に知られるが、熱狂が低ければ憧れも口コミも生まれない
認知がそこまで高くなくても、ファンが異常に語ることで強いブランドになる
ゲームやアウトドアは少し前までマスなものではなかったものの、熱狂率が高いためSNSとともに広がったと高木さんは見ています。工藤さんは、サザンオールスターズの「茅ヶ崎ライブ決定」で人々が沸く様子にも、場の持つ力を感じたといいます。
高木さんはさらに、BAD HOPの川崎のように地元を背負う「レペゼンローカル」なアーティストやシェフの動きに注目します。東京で匿名的に戦うより、土着の熱狂的なファンを持つほうが影響力を持ち、ローカルのほうが意外とグローバルとつながると話しています。
「文脈のデータ」はブランディングを数字で語れるか
高木さんは、広告による認知は上がっても、その先の推奨につながらない現象がよくあると指摘します。その原因は、コンテクスト(文脈)がないことだといいます。
YouTuberやローカルに根ざしたブランドが強いのは、文脈があるからだと高木さんは考えています。そのため、文脈のデータをどう集めるかが重要だと話します。
今はターゲティングのほうが精度が高く、短期的に結果が出るため、多くの企業がそちらを選びます。しかし高木さんは、それではブランドイメージは上がらず、むしろ毀損しているケースもあると見ています。
さらに、ダイレクトマーケティング部門とブランディングチームが分かれ、「エモで語る派」と「数字で語る派」という違う宗教のようになりがちだといいます。文脈づくりの再現性が上がれば、短期の刈り取りより長期的に資産になると、ブランディングもエモではなく語れるようになるというのが高木さんの狙いです。
本当はそこまで行きたいんですよね。僕やりたいこと。
その一歩として、高木さんの会社では、Discord ── ゲーマーを中心に広く使われるチャット・通話サービス。サーバー単位でコミュニティを運営できます上のデータを一元管理し、ダッシュボードで見られるコムコムアナリティクスというサービスを作っています。会話データにはブランドやゲームタイトルがどう語られ、どこで盛り上がっているかという、場に近い文脈が含まれているといいます。
高木さんは、マスメディア以降の広告は出会った瞬間に強く当てる形が中心で、Google以降はどんな記事に表示されるかという文脈も切り捨てられてきたと話します。ファッションの記事を見ていても、まったく関係ない広告が出てくる、という例も挙げています。
既存ユーザーを「同じ方向を向く人」に変えるには?
工藤さんは、作り手側のロジックで場やコミュニティを考えるアプローチには限界が来るのではないかと問いかけます。高木さんの出身である博報堂の「生活者発想」も、作り手にハックされてしまいがちだという指摘です。
高木さんは生活者発想という言葉が好きだとしたうえで、相手を消費者ではなく「同じ方向を向いている人」と捉えるべきだと答えます。
その例が、ワークマンの社外取締役の話です。YouTubeでワークマンを取り上げ続け、「ワークマン女子」という言葉を言い出したとされる女性を、ワークマンの土屋さんが社外取締役に起用したといいます。
高木さんによると、市場が求めるから形式的に選ぶのではなく、本当に意見をくれる人を選んだという経緯です。企業に所属していなくても、ブランドを一緒に進める側の人をいかに増やすかが鍵だと高木さんは話します。
リーチを最大化して新しい客を取る。人口ボーナス期の発想
既存ユーザーをこっち側に近づけ、彼らが語る量を増やす
高木さんは、ゼルダやファイナルファンタジーのようなゲームも、多くの人は広告をそれほど見ていないと指摘します。コアなゲーマーがSNSで語り、ゲーム会社もプレイの様子を共有しやすくしているため、広がっていくという見方です。
高木さんが目指すのは、ニッチでも濃いファンと一緒にブランドを作り、その人たちの発信力でブランドが育っていくモデルです。自らを「ニッチブランド請負人」になりたいと表現しています。
でも非常にビジョンを共有されてて、熱があって影響力があるみたいな。なんかその時代のモデルを作りたいなって。
前編の最後に、高木さんはAppleのVision Proの発表に触れ、すごいと感じたと話し始めます。その続きは後編に持ち越されています。
まとめ
前編で高木さんが語ったのは、ビジョンは掲げるだけでは届かず、共感して語ってくれる人を通じて初めて広がるという考え方です。工藤さんが紹介した資生堂と銀座の話も合わせて、場と語り手を長い時間軸で育てることが、今の時代の愛されるブランドの共通点として浮かび上がります。
- ビジョニングは1回のリリースで終わりがちで、その後の運用としてコミュニティマネジメントが必要になった
- ユーザーが主導権を持つ今、企業の「庭」より、独立した語り手を緩やかに束ねることが重要になっている
- スノーピークや資生堂の銀座のように、語るための体験を生む「場」がブランドを支えている
- ブランドの物差しは認知率から熱狂率へ移りつつあり、既存ユーザーの語る量が鍵になる
- 文脈のデータを集めることで、ブランディングを「エモ」ではなく再現性のあるものとして語れるようにしたいと高木さんは考えている


