カオスなシェアハウスから始まった縁
この回のゲストは、思想家で投資家の山口揚平さんです。専門は貨幣論と情報化社会論で、著書に『1日3時間だけ働いて穏やかに暮らすための思考法』などがあります。
MCの高木新平さんと山口さんの出会いは、高木さんが会社を辞めた後に運営していたシェアハウスでした。六本木から本郷へ移転したそのシェアハウスに、山口さんは二段ベッドの一つを買って、たまに寝に来ていたといいます。
いろんな人たちが住んでた中で、アゲヘイさんも来てくれて、二段ベッドの一個を買ってくれて、たまに遊びに来るみたいな感じでいて。
高木さんは山口さんを「世界に対してすごい仮説を持っている天才性がある人」と評しつつ、その思想が世の中にまだ知られていないと感じていると話します。この回では、山口さんの世界認識と、山口さん自身の人生の両方を掘り下げていくと宣言します。
山口さんは自らを「思想家」と名乗ります。ただ、それは勇気がいることだとも打ち明けます。
一応思想家を名乗っていて、これは勇気がいることですね。
堂々と言ってください。僕、思想家だと思ってるんで。
日産M&Aから宇宙開発まで、シーズンで語る半生
山口さんは自身のキャリアを、Netflixのシーズンになぞらえて語ります。まずシーズン1は、21歳から31歳までの「修行時代」だといいます。
山口さんはこの時期、コンサル会社でM&Aに携わっていました。1999年ごろから、カルロス・ゴーン氏が来て日産に資本注入する案件を扱うチームに、たまたま入っていたと振り返ります。
その後もGMがいすゞに資本参加する案件や、カネボウ、ダイエーといった経営破綻・再建案件に関わっていきます。カネボウは繊維の会社でありながら、フリスクやアイスなど何でも手がけて散らかっていた企業だったと説明します。
だからもう本当にその会社の本質を見抜くとか、会社の粉飾を見抜くとか、あと会社の価値を出す。
山口さんは、こうした仕事を「バブルの尻ぬぐい」と表現します。20代でそんな大きな案件に関われたのは、当時それをやる人が誰もいなかったからだと語ります。
そういうのを本当、何て言うのかな、バブルの尻ぬぐいっていうのを。(自分たちの世代が当時やっていた)
シーズン2は起業家時代です。パイプ椅子から始めて人を集め、最後はGMOに事業を売却しました。ただ、山口さんはこの売却を華々しいEXITではなかったと明かします。リーマンショックでヘロヘロになり、兄が実家に迎えに来て、強制送還されるように売却のサインをしたのだといいます。
だから会社最初の会社辞める時も、別にいや終わった、じゃあ辞めるぞじゃなくて、もうなんかもうこんなウォーキングデッドみたいにさ、もう逃げるようにして辞めてるわけよ。
シーズン3は2010年から2020年の投資家時代で、宇宙開発から劇団まで十社ほどを設立に関与しました。そして2020年以降のシーズン4は、地域開発を中心とした「国家創生」だといいます。
そのシーズン3がだからいろんな会社を作った。アニメとか作ったって言うと大げさだけど、宇宙開発から劇団まで。
いま本当のVUCAが到来したと感じる理由
高木さんは、山口さんがSNSに投稿する時代認識のポストに感銘を受けてきたと話し、今の時代をどう捉えているのかを尋ねます。山口さんの答えは「最高に楽しい」というものでした。
山口さんは、政治も経済もテクノロジーも価値観も、すべてが同時に取っ散らかっていると指摘します。これを政治・経済・社会・技術の頭文字でPESTと呼び、その全部が動いていると説明します。
一時期VUCAという言葉が流行ったものの、当時はまだ予測可能性が高かったと山口さんは言います。しかし今は違うと感じています。
本当のVUCAだなと思って。VUCAってなんか一時期流行ったんだよ。
全然VUCAじゃねえやと思って。全然予測可能性高いなと思ったんだけど。
山口さんは、この変化が本当に激しくなったのはごく最近だと見ています。去年末ごろまではまだ予測性があった気がするが、この2026年から2040年までをどう生き延びればいいのか、その解を出したいと語ります。
一方で高木さんは、この曖昧で不確実な感じに、多くの人がどこか不安を感じているのではないかと問いかけます。キャリアや未来が描けないなかで、少子化も最低を更新していると指摘します。
AIに追いつかれた先、人間に残る「四次元」の仕事
山口さんは、AIについては一つ一つ整理して考えていると話します。特にコンサルや投資銀行がやってきた調査・分析・レポートといったホワイトカラーの業務は、もういらなくなると見ています。
山口さんが問題視するのは、キャリアの「はしご」の下段が抜けてしまったことです。若手が経験を積むための下積みの仕事が、AIによって消えてしまったといいます。
だから去年まではその若者の就職率が急に上がってラッキーって話だったんだよ。だけど今年から怪しいなと。
だから下がいらないわけ。上の方にあるんだけど、ジャンプしてさ、捕まる力がないといらんって感じになっちゃって。
山口さんは、AIができないことを次元で整理します。論理や計算といった二次元、ロボットが担う三次元はもう人間が敵わない。残るのは倫理観や概念といった四次元だといいます。
四次元っていうのはさ、倫理観とか概念っていう世界なんだけど、そこで人間が判断をするとか、責任を取るとか、監査するっていうか、オブザーブするっていうか、そういうところが残ってるんだよね。
ただ、四次元に相当する「判断して責任を取る」仕事は、いわば管理職の仕事です。若手がいきなりそこに立つのは難しく、学生時代や大学院で下積みをするしかなくなってしまったと山口さんは指摘します。
なるほどね。会社の給与として成立しないから。(下積みの仕事が)
高木さんは、これまでの日本企業が持っていた「学部で何もしていなくても、ポテンシャルがあれば採用して育てる」というモデルが崩れていることに驚きます。
山口さんは、この状況への一つの答えとして「山口道場」という少人数の私塾をやっていると明かします。ペイはしないが、本質を見抜き打ち手を考える力を、一対一で教えるしかないと考えています。
「価値」と「給料」は比例しない、関係経済という残酷
もう一つの生き方として、山口さんは「関係経済」を挙げます。今の世界では、お金を稼ぐことと社会的な価値を出すことが、もはや一致しなくなったといいます。
今の世界ってもうお金を稼ぐのは価値を出すってことじゃなくなっちゃった。
山口さんは、大企業のサラリーマンや広告代理店のマネジメントを例に、社会的価値と給料が比例しないと語ります。一方で、清掃員や保育士のようなエッセンシャルワーカーは高い価値を出していると指摘します。
逆に清掃員とか病院のスタッフとか。(社会的価値が高い)
実際にアメリカで給料が最も上がっているのは配管工や庭師といったフィジカルな職種だと山口さんは言います。高い寿司はロボットには握れない、という職人の生き方が価値を持ち始めていると説明します。
そのうえで山口さんは、ホワイトワーカーのもう一つの生き方が「関係経済」だと語ります。かつての労働経済、価値経済を経て、今は誰と付き合っているかで所得が決まる時代になったといいます。
要は価値を出すとかじゃなくて、誰と付き合ってるかでお金が入ってくるよねってわかってきちゃってるわけ。
高木さんは、これは一周回って階級社会や中世に戻っているのではないかと問いかけます。山口さんは、努力より愛嬌、学歴より学閥、スキルより生まれへとシフトしてきていると答えます。
エージェントAIが「責任」まで担う日
高木さんは、四次元とされた判断や責任の階段も、AIの進化でどんどん削られていくのではないかと問いかけます。山口さんはその通りだと認めます。
山口さんは、AIが「エンティティ」として個体化していくと予測します。今は業務というフローをこなすだけだが、信頼や信用が積み重なれば、それが資産となり、AIが責任を取れるようになるといいます。
で、信頼が高まって信用が高まると、資産とか信用が資産になってくるから、そのエージェントが責任を取れるようになるんだよ。
高木さんは、人間が責任を取れるのは、謝ったりお金を払ったりできる積み上げ、つまりストックがあるからだと整理します。山口さんは、AIがそのストックを持ち始めれば、四次元のレイヤーでも人間より強くなると応じます。
さらに高木さんは、AIがストックを持てるなら、それは株や資産を持てることに近く、AIだけの会社が生まれ得ると指摘します。テスラの生産をロボットが担う例を挙げ、ほぼAIだけの会社が現実になっていくと話します。
そうなると、人間はさらに上の「五次元」へ行かざるを得なくなると山口さんは言います。四次元が時間や貨幣価値だとすれば、五次元は効率性を抜きにした「自分の道」だといいます。
五次元って言ったらもう効率性とかを抜かした自分の道ってやつだよね。
俺の意味っていうか、俺だけの固有の概念のことを五次元って言うんだよ。
アイデンティティが脅かされ、宗教が流行る時代
高木さんは、自分自身が自分のKPIで生きる「五次元的」な生き方をしているとしつつ、教育はいまだに共通のものさしで結果を出すことを前提にしていると指摘します。そこに大きなギャップがあるのではないかと問いかけます。
山口さんは、自分の存在が脅かされることで、これから宗教が流行ると予測します。稼げず、優秀なAIが出てくるなかで、人は自分とは何かを問わざるを得なくなるからです。
いや、もうアイデンティティ。自分の存在が脅かされるんだよ。
ただし山口さんは、今流行しているスピリチュアルの多くはエゴを拡大するものだと言います。本当の意味でのスピリチュアリティは、自分を俯瞰して認知していくことだと考えています。
山口さんは、大谷翔平さんやキムタクさんと比べられるとつらいが、職人のなかにはお金や称号とは違うレイヤーで幸せに生きている人がいると指摘します。本当は誰もが自分の道を行くほうがいいが、実際にできる人はごくわずかだと語ります。
みんな悩んでますもんね。
自分なんだろうと。自分の道を定義しないと生きづらい。笑えない。
時代を「次元」で捉える思想家の思考法
高木さんは、山口さんの時代認識を「一級品」と評価し、思想をどう構造化しているのかを尋ねます。山口さんは、世界を次元やレイヤーで捉えていると説明します。
山口さんによれば、第一レイヤーは金や数字、第二はロジック、第三は言葉のような立体、第四は概念、第五は自分の道、第六は愛や全体性、第七は空や解脱だといいます。この仮説的な枠組みで、人間やAIが何をどこまでできるかを見ているのです。
山口さんは、思想家の基本スキルを「抽象と具体の距離を伸ばすこと」だと語ります。どんな抽象的な話も、どこかの棚に入るように鍛えることを日々やっていると話します。
山口さんは、包括的にものを見る例として、地球規模での貨幣の総量を挙げます。2000年から2020年までに、お金全体の総量は資産で3.7倍になったと指摘します。
それこそ2020年から2000、2000年から2020年までにお金全体の総量は3.7倍になってるんだよね。資産でいうと。
一方でエネルギーの使用量やタンカーが運ぶ量はほぼ横ばいだと山口さんは言います。実体経済が変わらないのに貨幣だけが膨らめば、当然価格は上がっていくと説明します。
資産ベースで3.7倍に膨張
エネルギー使用量やタンカーの輸送量はほぼ横ばい
天下国家を語りながら「シャバで勝ちたい」飢え
これだけクリアに時代を捉えている一方で、高木さんは山口さんが自分の人生については永遠に悩んでいるイメージがあると切り出します。山口さんは、プライベートは失敗だったと打ち明けます。
山口さんは、結婚しようとした頃にコロナが来て、兄が亡くなり、親が認知症になり、あっという間に10年が過ぎたと振り返ります。本や投資はうまくいっていると思う一方で、プライベートは全部失敗だと語ります。
山口さんは、天下国家を語りながら「器がちっちゃい」自分を自覚しています。菩薩になりたいという欲深さと、下世話な欲深さのバランスが取れないのだといいます。
あと公証と俗物が混ざってるから、天下国家語りながら、結構器がちっちゃいんだよな。
山口さんは、かつて高木さんから「こじらせ妄想中年」と言われたことを覚えていて、それが的確だったと振り返ります。この言葉をきっかけに、妄想ではなくファクトチェックをするようになったといいます。
ヨウヘイさん相変わらずそのなんかこじらせ妄想中年ですねって言ったんだよな。(高木に言われて)確かにこじらせもあるし。
山口さんは、大人しく大学に戻って研究する思想家の道と、社会で形にする「シャバで勝ちたい」道の二つが、ずっと自分の中で戦っていると明かします。落合陽一さんら同世代への嫉妬もあると率直に語ります。
つまり何かそのシャバでシャバって言ってるんだけど、いわゆるその社会でなんとか形にしたいっていうのと。
「二位じゃダメなんですか」に隠された人生の傷
高木さんは、山口さんがずっと悩んでいる根っこを掘り下げようとします。山口さんは、頭を使うことの大切さに気づいたのは18歳ごろだと語ります。
山口さんは高校卒業後、田舎で釣りばかりしているプータローだったといいます。たまたま予備校に無料で入れてくれる人がいて、そこで初めて「考える」ことをやったと振り返ります。
高校行かなくていいんだぜ。もう釣りしかないじゃない?つって、ずっと釣りしてたの。
高木さんが「勝ちたいのは負け続けた歴史があるのか」と尋ねると、山口さんは人生で初めて言うと前置きして、自分が常に二位だったと打ち明けます。
人生初めて言うけど、全部準優勝しかしてねえ。よく考えたら。
トップを取ったことがないわ。
空手も水泳も美術も二位、大学の奨学金も一位の大隈奨学金ではなく二位の小野梓奨学金だったと具体的に挙げます。ガチの一位が人生で一度もないのだといいます。
だから勝ったことがないからじゃない。
高木さんが「連戦連勝の人だって二位ではダメなのか」と重ねると、山口さんは即座に否定します。この短いやり取りが、山口さんの飢えの核心を浮き彫りにします。
じゃあ連邦さんの二位じゃダメなんですか?
ダメだよ。ダメに決まってるじゃないかって。だから俺勝ったことがないんだと思う、人生で。
高木さんは、一位は上に誰もいないから自分で切り開けるが、二位や三位は上に固定されてしまうと整理します。山口さんは、それがユニークネス、つまり「道」の話につながると応じます。
山口さんは、社会のなかでポジションを取れば一位なのだろうが、社会が認めなければ単なる変人になる危険もあると語ります。そして自分は本当の孤独をまだ味わっていないから未熟なのだと分析します。
でもその孤独さと味、本当の孤独さを味わってないんじゃない。だから未熟なんだと思う。
富士山、結婚、そして思想家としての決意
高木さんは、山口さんが百万人のユーザーを目指しても本質的には満たされないのではないかと指摘します。むしろ「二番目コンプレックス」に決着をつけるべきだと提案します。その第一歩が結婚だと高木さんは言います。
山口さんは毎年、誕生日の6月3日までに結婚すると宣言してはネタにしてきたと明かします。高木さんは、それが自虐ネタになっている時点でダメだと諭します。
本気でマジで結婚するって思わないと。今もう自虐ネタになったらダメなんですよ。
高木さんは、結婚は「するって決めてやるもの」だと語ります。条件から入るのではなく、決めれば1年以内に相手が見えてくるという持論を展開します。
だからなんか決めればできると思うんですよね。その条件とか考え始めるとすごい難しくなりますけど。
さらに高木さんは、悔しがれないのは諦めているからだと指摘します。金メダルを本気で目指した人だけが悔し涙を流せるのに、山口さんは「また今年もか」と流してしまっていると鋭く突きます。
高木さんは、まず富士山に登って「一番」の景色を知り、今年中に結婚して誰かの一番になり、そのうえで思想家としての賞を取りに行こうと提案します。山口さんは、哲学の世界にはノーベル賞に相当するバーグルエン賞があると応じます。
バーグル演賞っていうんだけどね、哲学の場合は。ノーベル賞ないからさ。
高木さんは、お金をいつ使い、いつ使わないほうがいいかを相対化する方程式こそ、山口さんが世界に残せるものだと励まします。山口さんは、被災地のボランティアや医療現場のシフト交代を例に、その研究の中身を語ります。
要するにお金を使った時がいいのと、お金を使わない時がいいっていうケースが全部計算できるっていう方程式を作ってるわけ。
最後に山口さんは、人間はそんな立派で綺麗なものではないと語り、人間の業を肯定したいと締めくくります。それこそが未来を作るエネルギーだと話します。
うまくいってるやつってビジョンないんで。
まとめ
資本主義の最前線を渡り歩いた思想家・山口揚平さんが、AI後の世界認識と、その裏にある「二位で終われない」飢えを率直に語った回でした。時代の構造を次元で捉える鋭さと、人生の葛藤を抱えたままの人間らしさが同居した対話です。
- 山口さんはキャリアを4シーズンで語り、M&A、起業、投資家、国家創生と領域を変えてきた
- AIが二〜三次元を担い、判断や責任という四次元も担い始めると、人間は「自分の道」という五次元へ向かうと予測する
- 今は価値ではなく「誰と付き合っているか」で所得が決まる関係経済へ移り、アイデンティティが脅かされる時代だと指摘する
- 山口さんは人生で常に二位で、ガチの一位を取ったことがないという飢えを、初めて言葉にした
- 高木さんは富士山と結婚を「一番になる」第一歩として提案し、哲学のバーグルエン賞を目指すよう励ました




