「長生きしてごめんね」から始まった起業
この回のゲストは、株式会社AgeWellJapan代表の赤木円香さんです。2020年に創業し、「100歳まで生きたい社会を作る」を掲げてシニア向けの事業を展開しています。
赤木さんが提唱するのがAge-Well ── アンチエイジングと逆の発想で、歳を重ねることそのものを豊かさとしてとらえる価値観。エイジングすればするほどウェル(well)であるという考え方という価値観です。年を取るほど豊かになっていくという考え方を、当たり前にしようとしています。
いくつになっても明日起きるのが楽しみで、人生まだまだこれからっていうシニア世代、あわよくば全世代を作っていこうという会社を運営しております。
なぜこの領域なのか。きっかけは自身の祖母でした。赤木さんが26歳、祖母が86歳のとき、怪我をした祖母が発した一言が原点になっています。
手伝ってもらってごめんね、ちょっと長く生きすぎちゃったかしらっていう風に言って。
なんで人生の最後に人生の先輩たちが家族や社会に謝りながら生きてるんだろうって思って。そんな社会おかしいだろうと思って起業しました。
味の素で数年間OLとして働いた後、赤木さんは慶應義塾大学を卒業してこの道に進みました。創業時には100人と決めて街頭に立ち、インタビューを重ねたと言います。
74人目に青山学院大学の前で出会った70代の人から得たインサイトが、事業の形を決めました。介護と、百貨店へのわくわくしたお出かけは、全然違うという気づきです。
百貨店にお出かけ行きたい人と自分のおむつとか替えてもらうような介護をしてほしい人は全然違うっていうようなインサイトをいただいて。
大学生がシニアの家を訪ねる「相棒サービス」
AgeWellJapanの事業は、BtoCとBtoBの両輪で回っています。売上の9割は現在BtoBが占めていますが、事業の原点にあるのはBtoCの訪問サービスです。
BtoCは、地元の大学生を中心とした若者「エイジウェルデザイナー」がシニアの自宅を訪問するサービスです。介護や医療のように「できなくなったことを元に戻す」のではなく、新しい挑戦を促す点が特徴です。
睡眠、食事、排泄、入浴ができなくなった自立した生活ができなくなった方を元に戻すというサポート領域は結構日本充実してるんですけど、(うちは)新しい挑戦みたいなことを促すっていうのを大事にしていて。
サービスは月に1〜4回の月額会員制で、習い事のような感覚で使われます。スマホの使い方を教えたり、一人では行けない場所へ一緒に出かけたりします。
クリスマスや誕生日を一緒に祝うこともあります。老老世帯や独居のシニアにとっては当たり前のように過ぎ去ってしまう日を、デザイナーがサンタの帽子を被って祝うこともあると言います。
出来のいい孫のような存在って言ってもらえたりとか、若いお友達ができたって言われたりとか、相棒サービスという風に言ってるんですけど。
働き手である大学生の時給は平均で約1700円と、最低賃金より高めに設定されています。効率を求める人ではなく、利他精神を持つ人に来てもらうブランディングを意識していると赤木さんは話します。
コスパタイパと思う人はタイミーに行って、利他精神があって誰かのためになりたいって思ってる人はうちに来てくださいっていう、そこのブランディングをしてます。
半年で「100歳まで生きたい」が94.6%に
BtoB側では、シニアの深いインサイトを持つ会社として、企業のシニア向け事業開発支援や、シニア接点を持つ人材の育成を行っています。取引先には銀行などが含まれます。
その知見の源泉が、2020年から蓄積してきた膨大な対話データです。家族以外が自宅を訪問することで、本人も気づいていなかった潜在ニーズや価値観が見えてくると言います。
死にたいって言ってた方が、あの、イギリス留学に行くの夢になったっていうような価値観変容が起こるとか、スマホとか触るの怖いって言ってた方がYouTuberになられるぐらい(デジタルのレクチャーで伴走させていただいたり)。
効果は数字にも表れています。「100歳まで生きたいですか」という問いに対する日本平均は21〜22%ですが、半年ほど続けた会員では大きく変わると赤木さんは説明します。
会員の中心は70代で、平均は75歳ほど。最も若くて54歳、最高で97歳ほどまでいると言います。生きたいと思えるようになる理由は、知的好奇心やできることが増える実感、そして何かあったときに頼れる安心感です。
高木さんは、この構造をシンプルに言い当てます。お金や時間はあるのに、生きがいがないシニアが多いという指摘です。
ものが欲しいわけじゃなくて、出会いとかトキメキとかワクワク感が欲しいっていう方が一定数いらっしゃって。
赤木さんは、定年退職が「会社からの卒業」で終わらず「社会からの卒業」になってしまう実態を問題視しています。行くところがなくなり、1週間もすれば妻に「いつもテレビ見てるの?」と言われる67歳がたくさんいる、と話します。
想定より「3倍遅い」変革のリアリティ
日経WOMANのウーマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど注目を集める赤木さんですが、事業のスピードには手応えと同時に焦りも感じています。想定より3倍ほど遅い、というのが率直な実感です。
受賞についても、赤木さんは深夜らしい本音を口にします。事業が伸びているからではなく、切り口や新しさが評価されているのではないか、という自己認識です。
この新しいって言われ続けてる限り、当たり前になってないっていう実感があるんで。
目指すのは、AgeWellが浸透してシニア市場に多くのプレイヤーが生まれ、その中で「AgeWellJapanがリーディングカンパニーですよね」と紹介される状態です。4〜5年目にはそうなれると考えていたと言います。
難しさの一つは、価値をどう伝えるかです。「シニア事業」と言った瞬間に「介護ですか、医療ですか」と受け取られてしまう構造があります。
まずシニア事業ですって思われた瞬間に、介護ですか、医療ですかってなるんですよね。
担当者には刺さっても、決裁者に刺さらないという壁もあります。「ウェルビーイングとは」というカタカナの説明で頓挫することがずっとあったと赤木さんは振り返ります。
BtoCの葛藤と、BtoBの快感
現在の売上の9割はBtoBです。顧客接点を持つ企業と組んで「共創」する方が、エイジウェルの実現が早いと赤木さんは考えています。一方で、本音では解像度の高いBtoCへの思い入れも強くにじみます。
楽しいのはBtoCです。
BtoCの難しさは、獲得コストの高さです。自宅にこもりがちなシニアにリーチするには、地域の紹介や口コミ、テレビからの流入に頼らざるを得ません。チラシや検索広告からの電話が主な入口です。
さらに、亡くなったり急にホームに入ったりと、シニア事業ならではの不安定さもあります。訪問詐欺が横行する時代に、地元のよくわからない大学生が家に来ることへの抵抗感も課題です。
赤木さんは、BtoBを始めた当初の複雑な感情も語りました。3500円ほどのサービスを変化コストの高い相手に必死で伝えていた頃、BtoBは数百万円がすんなり決まる。快感の裏で、切なさもあったと言います。
あんまよくわかってない、なんか言い方悪いですけど、サラリーマンのおじ様に、なんかこのエイジウェル伝えて、それっぽい仕事して、これでいいんだっけ?っていう風に激やみしてた。
それでも今は、目の前の孤独なシニアを減らしたい気持ちと、社会変革のリーダーでありたいという欲の両方が育っていると話します。
同時にマジで私たちにしか向いてない世界があるのである。だからリーディングカンパニー、社会変革のリーダーでありたいっていう欲も出てきていて。
コストは「接点」ではなく「変化」にある
高木さんは、BtoCがうまくいかない理由の捉え方に、赤木さんとは違う角度から切り込みます。問題は接点を取るコストではなく、変化そのもののコストだという指摘です。
僕はなんか接点のコストじゃなくて、単純に変化をさせるコストが単純に死ぬほど高い人たちに対して変化要求するから、それ高いだろうと思うんですよ。
高木さんは、シニアが選挙に行き、チラシを見て、テレビ通販で掃除機を買うことを例に挙げます。接点自体はそれほど高くない。テレビで流しても機能しないのは、何かしらの変化を要求するからだと説明します。
自宅にこもるシニアにリーチする広告・紹介の費用。赤木さんが当初つらさとして感じていた点
一度社会との接点を失った人に、もう一度学び・仕事・つながりへ変化を促すコスト。高木さんが本質だと指摘した点
高木さんは、年を取るほど変化のコストが上がると考えています。自分自身も20代の頃に比べれば上がってきていると認めた上で、社会や地方が変わりづらいのも変化を拒むからだと語ります。
この視点は、赤木さんの原点である祖母世代へのこだわりと、事業のスケールという課題の間にある緊張を浮き彫りにします。目の前の孤独なシニアに向かうほど、変化コストの最も高い層がターゲットになってしまう構造です。
今のシニアより、未来のシニアを変える
高木さんは、変化コストの低い層に事業を振る戦略の例として、飲食店向けサービスの話を持ち出します。既存店を変えるのは大変でも、新規開業だけを狙えば新陳代謝の速さで浸透するという考え方です。
この発想をシニアに当てはめると、結論はこうなります。シニアになってからでは遅くて、シニアになるときにもうエイジウェルを始めないとダメだというものです。
一回中に閉じて社会との接点なくなった人に、もう一回社会との接点を持ちましょう、もう一回学びましょう、もう一回仕事しましょうって言うときついと思うんですよ。
マラソン、長いマラソンだって一回座ったらもう終わりじゃないですか。走ってるから走り続けられるわけで。
赤木さんも、幸せなエイジングの第一歩は「ポジティブな自己認識」だと捉えています。今のシニアは自己肯定感が低くなりやすく、できないことを数えてしまいがちだと言います。
未来のシニアに向けては、制度を変えるしかないと考え、赤木さんは「貢献寿命」という言葉を提唱しています。
赤木さんは、週5日8時間の仕事でなくても、貢献する「ひらがなの働く」のような形を作れないかと話します。高木さんも、直感的にそちらの方が早いと応じました。
行政を巻き込む「第二成人式」という打開策
ここで高木さんが、以前から温めていた構想を切り出します。それが、社会の変化の入口を押さえるための「第二成人式」です。
20歳の成人式が社会へ出ていく儀式であるように、65歳になった人を行政が一括で送り出す式典を作るという案です。会社を卒業し、これからは地域のために違う生き方をするという節目を、儀式として用意します。
卒業は何かしらの入学やん。それをまあ今までは残りが短かったから、別に入学みたいな必要なくて。
高木さんは、特に男性には儀式が必要だと指摘します。「俺はどこどこ会社で部長やってたんだ」と過去の栄光に縛られがちな人ほど、退職と地域への再参加を区切る儀式が効くという見立てです。
この式典は、行政にとってもメリットがあります。導入自治体と非導入自治体で社会保障費の差を出せれば、やった方がいいと判断されるという設計です。
儀式で送り出す
65歳の節目を行政が式典化し、卒業ではなく新しい人生の入学として位置づける
つながりが生まれる
仲間やグループができ、社会との接点を保ったまま次の生き方へ進む
社会保障費が下がる
孤独や病気が減り、導入自治体で健康・保障面の差が数字に表れる
他自治体が続く
一つの事例ができれば、困っている全国の自治体が乗ってくる
赤木さんは強く反応します。実は免許返納を「シニアカーのデビュー式」とセットにする案は考えていたものの、定年退職そのものを始まりに変える発想はなかったと言います。
これYouTubeに出したくない。真似されちゃう。
AgeWellJapanは、二子玉川で2日間に約1.6万人を集める「エイジウェルフェスティバル」を全国で開いています。高木さんは、そのメインに第二成人式を据えることを提案しました。
名刺とグループで、よそよそしさを溶かす
高木さんは、式典を「メディア」として機能させるための具体的な仕掛けも重ねます。まずは、参加者が自分を語れる名刺です。
今の60代・70代には、名刺からしか自己紹介ができない人が多いと赤木さんは言います。仕事一本で趣味もなく、名刺を取り上げられると過去の栄光を語り出して嫌われる、という構図です。
名刺からしか自己紹介ができない方が本当に多くて、名刺を取り上げられたら自己説明ができなくて。
そこで高木さんは、AgeWellの名刺やプロフィールを用意し、できるスキルや経験を書けるようにすることを提案します。自分では作らないものだからこそ、良いデザインで渡せば使う気がすると言います。
赤木さんは、会員紹介施策で「AgeWellアンバサダー」の名刺を配った経験を思い出します。人生で名刺を配ったことがない女性や、数十年ぶりの男性がとても喜び、銭湯で配って会員につながった例もあったと言います。
もう一つの仕掛けが、5〜6人のグループづくりです。何百人集まってもよそよそしいので、あらかじめ男女混成のグループを作り、デザイナーがファシリテートする案です。
高木さんは、ベネッセの赤ペン先生を例に挙げます。子育てを終えた母親が数人でグループを組み、教え方を共有し合うことで仲間ができ、長く続く仕組みだという話です。
赤木さんも、シニアのダンスチームで見た光景と重ねます。「チームに負けたくない」「あの人が頑張っているから自分も」という第三者の存在が、自己検査と仲間意識を生むという話です。訪問型は一対一が多く、グループの発想が薄かったと気づきます。
その成人式を機にクラスができるみたいなことですよね。第二成人式を機に。
「シニア」という言葉を、そもそも生まない
赤木さんは、以前から「シニア」という言葉をなくしたいと考えていました。アクティブシニアやゴールデンエイジなど代替語も試みますが、なかなか広がらないと相談します。
高木さんの答えは、ラベルの付け替えを否定するものでした。世代のラベリングはそもそも誰も嬉しくない、というのが起点です。Z世代もゆとり世代も、一括りにされること自体が嫌われる、と指摘します。
世代のラベリングってそもそも誰も嬉しくないですよ。
高木さんが勧めたのは、世代でくくるのではなく、行為に名前をつけることです。退職後に起業したり何かを始めたりする「行為」を称賛する方向です。
その人たちをこう、ああいいよねっていうふうにしていかないと、その特定の行為をしてる人たちの(行為)を素晴らしいってやっていくことの方が大事なんじゃないですかね。
高木さんは、SNSのように誰もがやっていることには価値が感じられず、スタートアップ起業家のようにチャレンジとして見られるものに称賛が生まれると説明します。挑戦している行為そのものに価値がある、という論です。
赤木さんは、10月のカンファレンスで「シニアのアップデート」というお題を出すつもりだったと明かし、ラベルを作らずに挑戦をフォーカスするお題へ変えると即断しました。
じゃあ八十五歳おめでとうって言った時に、多くの方が人に迷惑をかけないように、一日一日大切に感謝をしながらっておっしゃるんですけど、そうじゃないって。
卒業を入学に変える。郷ひろみと文化の時差
収録後半、高木さんは「シニアを増やさない」という発想を、より鮮明な例に落とし込みます。年齢を意識させない世界観です。元気な人はそもそも年齢を気にしていない、という観察です。
おいくつですか?って言ったら、あ、何歳だっけな。八十かなみたいな。マジっすかみたいな感じのノリ。
話題は、2025年末の紅白歌合戦で引退した郷ひろみさんに及びます。赤木さんは、70歳での引退を尊いとしつつ、85歳まで見たかったと惜しみます。
高木さんの応答は、新陳代謝と活躍の場を切り分けるものでした。紅白の席は限られているから後進に譲る。その上で、卒業した人の次の舞台をこそ用意すべきだ、という考えです。
紅白引退された郷ひろみさんにエイジウェルフェスティバルの舞台を用意して、そこでやってもらえれば、後輩のことも気にせずに自由にパフォーマンスしていただけますと。
赤木さんは、これをポートフォリオ全体の構想と結びつけます。「エイジウェルキャリア」と呼ぶ転職支援から、最後まで自分らしく生きられるホスピス的な場まで、入口から出口までを描きたいと語ります。
赤木さんは、経営していて一番つらいのはお客さんが亡くなることだと打ち明けます。だからこそ「何が何でも楽しそうにやる」と決めていると言います。
楽しそうにやってるところにしか人って集まらないから。
最後に高木さんが渡したのが、事業の順番についての視点です。文化と経済は時差があるという一言です。
ビジネスが経済を作るんじゃないから。まずは例えば夜踊る人たちがいて、そこにクラブとかナイトタイムエコノミーが生まれるわけよ。
高木さんは、まず価値観と文化を作れば、後からマーケットがついてくると説きます。だから当面はBtoBやBtoGで仕組み化して社会に広げ、BtoCで文化を作り続ける。ヘラルボニーと同じ構えだと重ねます。
まとめ
祖母の「長生きしてごめんね」から始まった赤木さんの事業は、価値観変容のスピードという壁に直面していました。高木さんとの相談を通じて、変化コストの捉え方を変え、シニアになる入口を押さえる「第二成人式」という打開策と、行為を称賛し文化から作るという戦略の輪郭が見えてきました。
- AgeWellJapanは、シニアの挑戦を後押しするBtoCと、企業と共創するBtoBの両輪で「100歳まで生きたい社会」を目指している
- 高木さんは、シニア獲得の難しさは接点のコストではなく「変化のコスト」にあると指摘し、シニアになってからでは遅いと論じた
- 打開策として、65歳を行政が式典で送り出す「第二成人式」を提案。卒業を入学に変え、名刺やグループでつながりを生み、社会保障費の差で行政を巻き込む構想が語られた
- 「シニア」という言葉のラベルを付け替えるのではなく、挑戦という行為そのものを称賛する方向へ発想を転換した
- 高木さんは「文化と経済は時差がある」とし、まず価値観と文化を作れば後からマーケットがついてくるという順番を示した





