日本が世界で勝てるのは「道」と「食」?
後編は、高木さんの問いから始まります。日本のものを海外へ輸出するなら、片付けのように何かに絞った提案が必要なのではないか、という問いです。
川原さんはアメリカで暮らす実感から、日本が世界に届けうる勝ち筋は明確に「道」と「食」だと答えます。
今の時点でアメリカにいてて、日本の持ってるもので届きうる切り口というか、勝ち筋が見えてるのは明確に道と食なんだよね。
川原さんの言う「道」とは、書道、華道、茶道のように、日々の行いに意味付けをして深めていく営みのことです。川原さんは、こんまりの片付けも「片付け道」だと位置づけています。
(道は)生真面目な国民性からしか生まれない。言うたら片付け道なんですよ、僕らは。
高木さんが柔道の広がりや、世界的ベストセラーになった武士道 ── 新渡戸稲造が1899年に英語で出版した書籍『Bushido: The Soul of Japan』。日本人の倫理観を海外に紹介し、世界で広く読まれましたを挙げると、川原さんも剣道や武士道を挙げ、日本人が世界に誇るべきものは思想としての道だと重ねました。
もう一つの「食」について、川原さんは、海外で暮らす感度の高い人ほど日本食を食べているうえ、日本で食べられるもののほうがまだ美味しいと指摘します。そこに勝ち筋しかない、という見立てです。
具体的には、地方で知られていない美味しいものを見つけてつなぎ、料理人に調理してもらって価値を大きくし、売りに行くことをやりたいと話しています。
輸出と観光のどちらを想定しているのかという問いに、川原さんは「どっちでもいい」と答えます。ただ、観光客を迎え入れるかどうかは自分では決められないため、良いものを作って持っていく方が今は動きやすいといいます。
こんまりは「人生の前奏曲」。プロデューサーが自ら前へ出る理由
続いて高木さんは、対象の話とは別に、川原さん自身の仕事に踏み込みます。目立つセーターや派手なアイコンを見て、川原さん自身ももっと暴れたくなったのではないか、と問いかけました。
こんまりさんのプロデュースももちろんあるけれど、なんかやっぱりそれって引き立て役じゃん、ある種の。
川原さんはこの問いに、結婚して一緒に仕事を始めた頃、妻の近藤麻理恵さん(マリエさん)から言われた言葉を明かします。
私はあなたの方がすごいと思ってると。で、こんまりでやることはあなたの人生の前奏曲だからって言われてんの。
当時の川原さんはまだ会社員で、その意味をよくわかっていなかったそうです。近藤さんは、一緒に仕事をして身につけたことや気づいたことを、後の人生で生かしてほしいと伝えていました。
言われたこと自体はすっかり忘れていたものの、10年一緒にやってきた今、川原さんは「ちょうど今からそれが切り替わっていくタイミング」だと感じながら生きているといいます。
「出たい」のではなく「伝えるのが最適」
高木さんは、ステージが上がるほど自分の力を試したくなるものではないかと重ねて尋ねます。高木さん自身が地元から東京に出たいと思った感覚に近いのでは、という問いです。
川原さんの答えは、自己顕示とは少し違っていました。自分が経験してきたことを、自分のためだけに置いておくのはもったいないという感覚だといいます。
なんかここまでの経験させてもらってて、人のために使わなかったら多分すげえ後悔する。
だから自分が出たいというより、多分自分が伝えるのが最適だなって思ってる感じ。
さらに川原さんは、おばちゃん根性やコミュニケーションがそもそも嫌いではなく、無限にできるのだから「それをやるように作られてる人」なのだと自分を捉えています。
高木さんは、オンラインサロンでメンバーに火をつけることも地方での活動も、持っている武器をいろいろな方向へ使う動きだと整理しました。川原さんは「わざとやってない」とし、楽しんで生きているとそうしたくなる生き物だと自覚しているだけだと話しています。
一本道の10年から、IPビジネスの再現へ
高木さんは、これまで川原さんがこんまりのプロデュース一本で来たことに触れ、個人に評判がたまり仕事が業界を越えてつながる今の時代に、どんな転換があったのかを尋ねます。
川原さんによれば、こんまり一本に絞ろうと決めていたわけではありません。こんまりに集中せざるを得ないほど大変で、10年間よそ見する暇がなかったというのが実感です。
絶対95パー以上英語しか喋れない会社員をマネジメントしながら、なんかハリウッドのトップ弁護士と交渉しながらみたいなのを、もう無理なことばっかりやってきた。
英語ができたわけでもないのにアメリカに住み、無理なことばかりを続けた結果、能力が一気に引き上げられたといいます。組織が回るようになり、ようやく自分のことを考える余裕が持てるようになりました。
こんまりでやりたいことも、全部は叶っていないものの「こうやったら叶う」まで見えている段階だそうです。
英語ができないままアメリカへ。こんまり以外によそ見する暇もなく、無理なことばかりに取り組む日々
組織が回り、やりたいことの実現の道筋も見えた。自分のことを考える余裕と、他でも再現したい能力が手に入った
川原さんが手にしたのは、IPビジネス ── IPは知的財産(Intellectual Property)の略。キャラクターや作品、人物などのコンテンツを核に、出版・映像・商品などへ展開して収益を生むビジネスのことの感覚です。コンテンツを基に360度でやりうることを試し、何がうまくいくかがわかるようになったといいます。
でもこの能力って多分こんまりだけに生きることじゃなくて、他の人もみんなやったらいいけど、なんかあんま誰もまだやってないな。
高木さんはこれを「起業家的」だと受け止め、自分のやってきたことが他でも効くのかを試したいのだろうと言います。川原さんも「再現できるのか」を今試している感じかもしれない、と応じました。
女性を生かす「ネオヒモ」という生き方
川原さんは、自分のような働き方や生き方をしたい人に向けて、それを教えられる場を持ちたいとも考えています。
高木さんと川原さんの縁も、もともとは高木さんが「奥さんをどうプロデュースしたいか」という話からだったそうです。川原さんはそれを新しい生き方だと捉え、自身をその先駆者だと位置づけます。
女性を異常に強くして生きていくっていう、ネオヒモみたいな生き方をしてるわけなんだけど、これめっちゃ幸せなのよ。実際。
女性を生かせる男性が増えることも一つの道として伝えていきたいし、それができる人は今後増えると思う、と川原さんは話しています。
なぜ日本人アイコンは世界で生まれにくいのか?
高木さんは、人をプロデュースすることの難しさに触れます。人をどうキャラ化し、どう伝えるか。それが本やドラマ、番組コンテンツになり、時にはピエロ役もさせるなど、モノ以上に多面的だという指摘です。
そのうえで高木さんは、世界で有名な日本人はこんまりさんやサッカー選手くらいで、シェフや、かつてのファッションデザイナーのようなアイコンが、中国や韓国に比べて弱いと問題提起します。
川原さんは、そうした縁があればぜひやりたいし得意だと答えつつ、他の領域が世界で広がりにくい理由をシビアに説明しました。エンターテインメントは経済と強く結びついている、という話です。
結局エンターテインメント作ろうとすると、そこの裏にスポンサーとかが必要なんですよ。
じゃあハリウッドの主演に日本人持ってくるメリットはあるのかっていうと、今ないのよ。
川原さんの見立てでは、お金を入れた国にメリットが出るよう采配されるため、日本がこれ以上豊かにならないと見られている今、日本人を起用する理由が生まれにくいといいます。
エンタメには資金が要る
作品の裏にはスポンサーが必要
出資国に有利な采配
お金を入れた国にメリットが出るよう決まる
日本は成長が描かれていない
これ以上豊かにならないと見られている
起用のメリットがない
日本人を主演に置く理由が生まれにくい
だからこそ、韓国のようにエンタメの領域で「絶対にいいもの」として選ばれる突出したものを、国として選択して作り売っていく必要がある、と川原さんは話します。
高木さんは、韓国がIMF ── 国際通貨基金。1997年のアジア通貨危機で韓国は経済危機に陥り、IMFの支援を受けました。これを機に文化産業の育成が進んだとも言われますの時期に一度ピンチを経験したことを挙げます。日本は緩やかに生き延びてきたが限界を迎えており、絞らなければ勝ち筋は見えないという考えです。川原さんは、その絞り先として「食」と「道」なら勝てる見込みがあると改めて答えました。
観光で勝てない日本に足りない「越境体験」
川原さんは、食と道に加えて観光も「絶対勝てる」はずだと言い、なぜやらないのかとイラッとするほどだと話します。
高木さんも、日本は観光のポテンシャルがありスペインやフランスを抜けるはずなのに、外国人向けの設計がいろいろな面で追いついていないと応じます。
川原さんが挙げる大きな要因は、言語と、島国であることによる他民族への受容度の低さです。アメリカでは肌の色が違う人が日常にいるのが当たり前ですが、日本、特に地方では「違うものを受け入れる」段階がまだ一度生じるといいます。
そこで川原さんがキーワードにするのが越境体験です。国境である必要はなく、県をまたぐだけでもよく、「外のやつもいいやつじゃん」と感じる経験を増やすことだといいます。
なんか外のやつもいいやつじゃんみたいな。この友達理論を増やしていくっていうのがすげえ大事だと思ってて。これ外国人じゃなくてもよくて。
越境体験によって、他者を受け入れる力だけでなく、自分たちが持っているものへの自尊心も増える、と川原さんは話します。観光立国や地方創生の問題は、自分の地域から出たことがない人が多すぎることだという見立てです。
境目を越える
国でも県でも、自分の地域の外に出る
外の人を知る
「外のやつもいいやつじゃん」という友達が増える
受容と自尊心が育つ
他者を受け入れ、地元の良さにも気づく
観光・地方創生の土台に
迎え入れる力と、売り出す自信が生まれる
川原さんは日本人のパスポート所持率の低さにも触れます。川原さんも高木さんも、初めての海外は大学生になってからでした。川原さんはグアム、高木さんはバンコクだったそうです。
海外に出ると、日本の安全さ、時間通りに来る電車、飲んでもお腹を下さない水のありがたさに気づけます。川原さんは、ニューヨークのいいホテルでシャワーが出なかった経験も挙げ、外に出ると感謝が増えると話しました。
「一回行ってこいキャンペーン」と関係人口1000万
ここで高木さんがアイデアを出します。インバウンドを盛り上げる策として、Go To トラベルのように、国民が海外へ行くための補助金を出すというものです。
いいと思う。一回行ってこいキャンペーン。
高木さん自身も富山で18年間過ごし、東京に出てから地元の良さに気づいたといいます。地方で新しい日本酒やワイナリーをつくるなど面白い価値を作り直している人は、一度外に出ている人が多いそうです。
高木さんは、富山県が居住人口100万人へのこだわりをやめ、関係人口 ── 移住した定住人口でも、一時的な観光客でもなく、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。地方創生の文脈で総務省も使っている概念です1000万人を県のKPIにしたことを紹介します。
居住人口100万人にこだわる
関係人口1000万人を県のKPIにする
高木さんは、流動性を高めないと地域は閉じていき、アクティブな人ほど出て行って戻らなくなると指摘します。そうした状況は日本各地で起きているのだろう、と話しました。
「美味しいとこ取り」をやめる瀬戸際
話題は、川原さん自身の残りの人生へと移ります。子どもが3人いて下の子はまだ1歳。その子が大人になる頃の日本を想像すると「やばくない?」と感じるといいます。
川原さんは、これまでは面倒くさそうなことを避け、美味しいところだけを選んで生きてきたと振り返ります。
多分そうじゃないもの(面倒なこと)にまで今からタップしていかないと、本当にやりたいこととか成したいことが動かなそう。な、今瀬戸際です。
高木さんが、それはアメリカに行っているからこそ痛感するのかと尋ねると、川原さんは「する。違いすぎる」と即答しました。
日米で一番違うのは「希望」
日米で一番違うのはスピード感なのか。高木さんの問いに、川原さんは「希望」と一言で答えます。
彼らは自分たちで人生を切り開けるって思ってるし。国は良くなるって思って生きてるんですよ。
これ(希望)がないんだよ、日本にいると。でもそれは作んなきゃいけないんだよ、自分たちで。
川原さんは、日本では悲観的な情報を入れすぎて希望がなくなっていると見ています。だからこそ、希望が持てる対話をもっとみんなでしたい、松下村塾のような場をやりたいと語りました。
高木さんは、地方にも面白い人が100人ほどいるとしても、100万人の中の100人では1万分の1でほとんど見えないと指摘します。その100人をぎゅっと集めれば「すごい人たちがめっちゃいる」状態になり得るという考えです。
100万人の中の100人は1万分の1。ほぼいないように見え、現状維持の空気に引っ張られる
「すごい人たちがめっちゃいる」空間になり、ポジティブの濃度が高まる
川原さんはそこから、小さな自治であればカーボンニュートラルも実現し得ると話し、自分たちで希望のある未来を作る選択肢が普通の思想の中に出てくる可能性に触れます。そのためにも、思いを共有できる人との対話が必要で、この番組もその意味で「超いい」と語りました。
「明るく元気」が希望の始まり
高木さんは、川原さんを「焚き付けられる問いがあったら爆発するタイプ」だと評します。専門性やスキル以上に、「希望を作れるのか」という問いに使命感を持ち、そのためなら何でもできる人だという見立てです。
川原さんは、根が真面目なので問われるとちゃんと考えてしまうのだと応じます。そして、妻に自分の才能を尋ねたときのエピソードを明かしました。
明るく元気って言われた。でもコアバリューだなと思って。明るく元気なんだよ。
小学校の通知表で書くことがない時の定番の言葉のようでいて、川原さんはそれを自分の核だと受け止めています。高木さんも、希望は明るく元気から始まると返し、「楽観は意志だ」という言葉にも触れました。
絶望は数字が取れる。それなら希望に依存させる
高木さんが、ニュースを普通に見ていると絶望することしかないと言うと、川原さんは、世の中は絶望集めがうまいと応じます。
川原さんはこれを資本主義の罠だと捉えます。人を弱い方に追い込んだ方が儲かるからです。セコイア ── 米国の有力ベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルのこと。Apple、Google、Airbnbなど多くのテック企業に初期から投資してきましたのパートナーからも、ビジネスで成功したければ依存を狙えと言われていたそうです。
それ(絶望への反応)は数字を善としちゃった瞬間にそうなるようになってるわけで。ということは、やっぱり希望って自分たちで持つしかないんだよ。
そのうえで川原さんは、発想を逆転させます。
川原さんは「ニューホープっていう会社やろうかな」と冗談めかし、高木さんは自身の会社名ニューピースになぞらえて「いいね」と笑いました。
エンディングで高木さんは、日本発のコンテンツやカルチャーを世界に売ってきた川原さんの目線を振り返ります。外に出ることで地域や物事を客観視してプロデュースできるという視点を、日本という単位で実践してきた話は学びが多かったと締めくくりました。
まとめ
川原卓巳さんは、こんまりを世界に届けた10年で得たIPビジネスの力を、日本の「道」と「食」、地方、そして人々の希望づくりへ広げようとしています。その根底には、外に出て初めて見える価値と、希望は自分たちで作るものだという確信があります。
- 日本が世界で勝てる切り口として、川原さんは片付けを含む「道」と、地方に眠る「食」を挙げる
- こんまりは「人生の前奏曲」。経験を自分だけに留めず、他でも再現し伝えることが次の挑戦
- 観光や地方創生の鍵は、国や県の境を越えて外を知る「越境体験」
- 日米の最大の違いは「希望」。絶望が数字を取る時代だからこそ、希望に依存させる発想が必要





