なぜ欧米の投資家はアフリカの土地を買うのか
牧浦土雅さんは、気候変動や脱炭素への関心の高まりによって、アフリカにいい意味で注目が集まっていると話します。根拠として挙げるのは、世界の未開拓の耕作地の60%以上がアフリカに残っているという点です。
植林や農業は二酸化炭素を吸収したり隔離したりできるため、牧浦さんによると、欧米の投資家がこぞってアフリカの土地を買っている状況だといいます。
いわゆる世界の未開拓耕作地の60パーセント以上(が)アフリカに残ってるんで、で、まあ植林とか農業って割と二酸化炭素を吸収したり隔離できたりするんで、今すごい注目されていて。
ホストがビル・ゲイツの名前を出すと、牧浦さんは、ゲイツ氏はアメリカで農地を買っていると補足しました。ファンダメンタルを見ている人ほど、衣食住のようにコロナ禍でも売上が落ちない領域を押さえる、という見立てです。
牧浦さんは極論と断ったうえで、インフレに関係なく最終的に強いのは自分で作ったものを食べられる農家であり、だからこそ農地を持つ人は強いと話しています。
アフリカに資金を投じるファミリーオフィスの顔ぶれ
牧浦さんによると、アフリカに大きな資金を投じているのは、富裕層の資産を運用するファミリーオフィス ── 特定の富裕な一族の資産を管理・運用するための組織。財団と一体で社会課題への投資や寄付を行う例も多くありますです。ゲイツ氏はヘルスケアが中心ながら農業にも力を入れ、最近はベゾス・アース・ファンドが影響力を増しているといいます。
ほかにも、昔からいるロックフェラー、IKEA財団、マスターカード財団などが、アフリカに毎年三桁ミリオン規模で投資していると牧浦さんは説明します。
多分3兆、1兆円とかでも5パーで運用すれば毎年500億円みたいな話で、まあそれぐらいだったら全然余裕で投資していけるからっていう。
牧浦さんが強調するのは、ファミリーオフィスが単にお金を出すだけでなく、ルールメイキングの場に入ってくるという点です。
カーボンクレジットの値段は誰が決めるのか
牧浦さんは、アフリカで植林によって吸収した二酸化炭素の分を、排出を減らしたい企業に売れる仕組みとしてカーボンクレジット ── 温室効果ガスの削減量や吸収量を取引可能な単位にしたもの。購入した企業は自社の排出量の相殺に使えますを説明します。
例として挙げたのはトヨタです。仮に自社で100万トンのCO2を排出していて、自社ではもう減らせない場合、100万トン分を吸収したクレジットを買えば差し引きゼロにできる、という考え方です。
排出
企業が自社で例えば100万トンのCO2を排出している
自社削減の限界
自社だけでは減らしきれない
吸収分の購入
アフリカの植林などで吸収した100万トン分のクレジットを買う
相殺
排出と吸収でプラスマイナスゼロにする
このクレジットを1トンあたりいくらで売るのか、というルールをアフリカで作る団体やイニシアチブにお金を出しているのがファミリーオフィスだと、牧浦さんは話しています。
これを1トンいくらあたりで売るのかっていう、(中略)そのルールメイキングをやる団体とかイニシアチブにお金出してるのがファミリーオフィスだったりするんで。
ファーストロスギャランティーで銀行を呼び込む
牧浦さんがもう一つ挙げたのが、ファーストロスギャランティーという手法です。一般的な金融機関は、いきなりアフリカに融資することが難しいという前提があります。
そこでファミリーオフィスが前に出て、銀行が融資して回収額が予定を下回った場合に、最初の損失分を保証します。牧浦さんの例では、本来120戻るはずが60しか戻らなかった場合、60までは保証を出すという形です。
金融機関の躊躇
一般の銀行はいきなりアフリカに融資しづらい
保証の提供
ファミリーオフィスが最初の損失分を保証する
融資の実行
リスクの一部を肩代わりされた銀行が融資する
牧浦さんによると、ファミリーオフィスは自ら寄付の主体になるより、他の金融機関を引っ張ってきて保証を付ける形をよく取っています。最近は三桁億円規模で動くため、ファミリーオフィスの存在感はかなり強いといいます。
ゲイツとロックフェラーは「政府ぐらいの勢い」
ホストは、SDGsのロゴもビル・ゲイツ財団系のインハウスデザイン事務所が作っていたと触れ、「国連とかじゃねえんだ」と驚きます。
牧浦さんは、ゲイツとロックフェラーの2つのプレイヤーが特に強く、ガーナのGDPと同じくらいの規模を持つため、政府ぐらいの勢いがあると話します。
アメリカからしてみたら、もうゲイツとウォルマートとベゾスと、あとマスク財団あたりが組んだら、もうそれ大統領なんて余裕で会えますみたいな感じで。
牧浦さんは、アメリカの二桁兆円規模の気候変動向けパッケージの裏にもゲイツ氏がいると言われているほどだと語っています。
日本にファミリーオフィスが育たない理由
牧浦さんは、日本はファミリーオフィスが弱すぎると指摘します。ホストが財閥解体の影響を口にすると、牧浦さんはそれに同意しつつ、日本の多くはプライベートバンカーにお金を預けているだけだと話しました。
その中で注目されているのが任天堂のファミリーオフィスです。自らチーフインベストメントオフィサーを雇い、銀行に任せずポートフォリオを運営している点が違いだといいます。
プライベートバンカーにお金を預けているだけ
自ら運用責任者を雇い、銀行に任せず四桁億円規模を運用する
牧浦さんは、四桁億円規模を自ら運用するところが出てくると、ほぼ機関投資家のような存在になり、周囲の見る目も変わると話しています。
脱炭素アライアンスで情報と投資機会をつなぐ
ホストが、そうした人たちとどう付き合っているのかを尋ねると、牧浦さんは最近は脱炭素が中心だと答えます。牧浦さんの会社では脱炭素のアライアンスを立ち上げ、日本企業に脱炭素の情報を流しています。
年会費は300万円で、情報提供だけでなく、アフリカで立ち上がるカーボンクレジットのファンドへの投資の優先権なども提供するといいます。
そういう優先権とか、そういう情報って、本当は我々みたいなフロントラインのところにしか流れてこないんで。日本にいてもそんな絶対来ないんで。
アメリカのファミリーオフィスと組む話もできるのか、という質問に、牧浦さんは「全然あります」と答えます。ただし相手には膨大な件数の提案が来るため、警戒心が強いといいます。
そのため牧浦さんは「うちに投資してくれ」という利益誘導に見える形を避け、西アフリカへの戦略的な投資が気候変動対策にもなることを数字で示すストラテジーを一緒に作る立ち位置を取っています。マッキンゼーなどのコンサルティング会社とも組んでいるそうです。
グローバルサウス外交とガーナでの立ち位置
ホストが、事業開発と同時に政治的な流れの中での仕掛けが大事なのかと問うと、牧浦さんは「めっちゃ大事」と答えます。
牧浦さんは、岸田総理の目玉政策の一つとしてグローバルサウスへの支援と国際協力を挙げ、ゴールデンウィークに総理がエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪れる予定だと話しました。中国が先に訪れていたため、それに負けずに行く形だといいます。
ガーナでの牧浦さんの立ち位置は、今の政権と近く、農業のファイナンスを手がけるスタートアップというものです。経済同友会での講演では、テーマの見せ方を変えたことにも触れています。
アフリカを主語にしていたが、人が集まらなかった
炭素をキーにし「世界の脱炭素化の鍵はアフリカにある」と打ち出す
アフリカにとって気候危機は追い風になるのか
ホストは、クライメート・クライシスの文脈がアフリカにとって大きな追い風になっているのかと尋ねます。牧浦さんは、みんなピンチと言うけれど、と前置きして答えました。
アフリカって世界の温室効果ガスの3.8パーセントしか排出してないのにも関わらず、世界で一番影響を受けてるんで。みんな天水農業なんで。
一方で牧浦さんは、土壌での炭素の吸着を考えると、アフリカにはまだ大きな余地があると見ています。ファミリーオフィスもこの文脈をよく理解しているといいます。
牧浦さんは、この文脈を日本だけでなく各国の企業、団体、政府に問いかけていると話しています。
グレタさんでは動かず、機関投資家で動いた
ホストが、グレタ・トゥーンベリさんがタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた頃からアフリカの流れが変わったのかと尋ねます。牧浦さんは、その時期をコロナの3年ほど前と振り返りました。
牧浦さんによると、グレタさんで燃えたのは一般の人々で、ビジネスは動かなかったといいます。ワンガリ・マータイさんの「もったいない」や、アル・ゴアさんの『不都合な真実』のときも同じだったと話します。
転機として挙げたのは、COP26グラスゴーで立ち上がったGFANZ ── Glasgow Financial Alliance for Net Zeroの略。ネットゼロを目指す世界の金融機関が参加する連合で、COP26に合わせて発足しましたです。世界の機関投資家が、気候変動対策をしていない企業からは投資を引き揚げるという姿勢を示しました。
世論の高まり
グレタさんなどで一般の人々の関心が高まるが、ビジネスは動かない
機関投資家の参加
COP26でGFANZが立ち上がり、ダイベストメントの方針が示される
企業の反応
株主である機関投資家が抜けるのを恐れ、企業が動く
潮目の変化
みんながカーボンニュートラル、脱炭素と言い始める
牧浦さんは、機関投資家が抜けるとなると企業はやばいため、一気にゲームチェンジが起きたと説明します。潮目が変わったのは約2年前だといいます。
ジャンクカーボン問題と「質の高い」クレジット
潮目が変わった時点ですぐアフリカに結びついたのか、というホストの問いに、牧浦さんは当初は遠目に見ていたと答えます。変化はこの1年ほどだといいます。
きっかけは、植林を100万ヘクタール行っていると言っていたのに、ザ・ガーディアンの記者などが現地に行くと全くなかった、というジャンクカーボンの問題です。インドネシアなどでも例があったと牧浦さんは話します。
それを受けて、質の高いカーボンクレジットだけを認める流れが生まれました。CO2の吸収量だけでなく、生物多様性をどれだけ増やしたか、周辺農家の所得をどれだけ増やしたかも評価に含めていく方向です。
植林面積の主張だけで、実態がない「ジャンクカーボン」も存在した
CO2吸収量に加え、生物多様性や周辺農家の所得向上も含めて評価する
牧浦さんは、この流れの裏にもルールメーカーとして多くのファミリーオフィスがいると指摘しています。
合理的でないものを合理的に見せるルール作り
牧浦さんは、ファミリーオフィスの意図と自分自身の意図はよく似ていて、「一見合理的ではないけれど、合理的に見せる」ことだと話します。
正直その二酸化炭素の吸収とかも、その辺で工場を建てて大気中のCO2を吸収した方が、中長期的には安いし、大量のCO2吸えるんだけれども。
それでも、二酸化炭素を吸収したいならアフリカからでなければならない、というルールを作ればよいというのが牧浦さんの考えです。
牧浦さんによると、そのルールに入り込めば、日本企業も欧米企業も合理的な判断としてアフリカへ投資するようになります。その潮流を作ることが最近の自分の仕事だと、牧浦さんは締めくくりました。
まとめ
牧浦土雅さんの話からは、気候変動対策の資金がアフリカに向かう背景に、土地と炭素吸収の潜在力、そして機関投資家とファミリーオフィスによるルール作りがあることが見えてきます。牧浦さん自身も、その潮流を作る側に立とうとしています。
- 世界の未開拓耕作地の60%以上がアフリカにあり、植林や農業による炭素吸収の場として注目されている
- ゲイツやロックフェラーなどのファミリーオフィスは、資金提供に加えてカーボンクレジットのルール作りや融資保証で影響力を持つ
- 脱炭素が一気に進んだのは世論ではなく、GFANZなど機関投資家が動いたためだと牧浦さんは見ている
- ジャンクカーボン問題を経て、生物多様性や農家の所得まで含めた質の高いクレジットが求められている
- 牧浦さんは「アフリカから吸収すべき」というルールを作り、投資が合理的に流れる潮流を生み出すことを仕事にしている





