なぜ医療法人ではなく株式会社だったのか
ファストドクター代表の菊池亮さんは、医療法人 ── 病院や診療所を運営するための法人形態。医療法で非営利性が求められ、剰余金の配当が禁止されていますではなく株式会社を選んだ理由がいくつかあると話します。
菊池さんが挙げた理由の一つは、株式会社のほうが資金調達力が強く、自分が目指す未来へ最短でたどり着けると考えたことです。菊池さんは、この判断は今も正しいと思っていると語っています。
菊池さんがその実例として挙げたのが、コロナ禍の自宅療養です。当時は入院できずに自宅で療養する人が非常に多く、地域の医師会の医師たちもオンライン診療や往診に取り組んでいました。
ただ、菊池さんによれば、コロナ禍の自宅療養者への対応は実数としてなかなか伸びませんでした。結果的に、菊池さんのチームが自治体と直接連携し、地域を面で見ていく形をとったといいます。
菊池さんは、多くの医療機関が自宅療養者に対応しきれなかった理由を、利益にならなかったからだと説明します。夜間や休日に1日1件あるかどうかわからない往診のために、開業医が365日待機し続けるのはそもそも無理だという見立てです。
1日に何件も回れば往診は採算が合いますが、1件行ってあとは待機という形では基本的にペイしません。菊池さんは「お金にならないし疲れるからやらない」という構造があったと話します。
これに対して菊池さんのチームは、往診の依頼を集約化して回転率を上げ、利益が出る構造をつくりました。菊池さんの言葉を借りれば、本来ビジネスにならないところをビジネスにできるようにしたという取り組みです。
個別の待機
開業医が1日1件あるかないかの依頼のために待機し続けると、採算が合わない
集約化
往診の依頼を1つのチームに集める
回転率の向上
1日に回る件数を増やす
利益が出る構造
ビジネスにならなかった領域が事業として続けられるようになる
お金で解決できない医療を押し上げる「限界曲線」
菊池さんは、世の中にはお金で解決できることとできないことがあると言われている、という話から始めます。お金で解決できた例として、菊池さんはコロナのワクチンを挙げています。
一方でお金で解決できない例として、菊池さんは無医村 ── 医師が常駐していない村や地域のこと。山間部や離島などに多く、住民は遠方の医療機関に通う必要がありますの医療や救急車を挙げます。こうした領域は基本的にお金にならないため、国や自治体の公益事業、あるいはボランティアが担っているといいます。
コロナのワクチンのように、資金を投じることで解決に向かった領域
無医村の医療や救急車など、利益にならず国・自治体・ボランティアが担う領域
菊池さんは、お金で解決できる領域とできない領域の間には大きな「限界曲線」のようなものがあり、両者は分断されていると表現します。そして、限界曲線を下から上に押し上げる力こそが株式会社の力だと考えているそうです。
菊池さんの考えでは、グロース力を求めるかどうかで、身を置く組織の形態が変わってきます。菊池さんは、医療の非営利性を重んじる立場との価値観の違いについて、語弊があるかもしれないと断ったうえで、根底の違和感はそこから来ているのかもしれないと話しています。
聞き手は、今の仕組みのままでは無理だという前提に立つか、今の仕組みの中でいいことをしようとするかの違いなのかと問いかけます。菊池さんはその見方におおむね同意しました。
菊池さんは、いいことはいいことであり、問題はそれをどれだけ普及できるかだと話します。違いを生むのは、その普及をどれくらいのスピードで望んでいるかだろう、というのが菊池さんの整理です。
2040年の医療需要ピークに、なぜ「爆発力」が必要なのか
聞き手が「時間軸」とまとめると、菊池さんは日本の医療が迎える節目の話に移ります。国内では少子高齢化によって、2040年ごろに医療需要がピークを迎えると言われているそうです。
菊池さんは、2040年までにファストドクターがどれだけ価値を出せるかが重要だと考えています。2040年は遠く感じるものの、その手前に2025年という節目もあると話します。
菊池さんによると、2025年は都市部と地方で医療の需要と供給のバランスが変わり始める時期です。地方の多くは人口が減り、高齢者も減り、生産年齢人口はさらに減るフェーズに入ります。
反対に都市部では、2025年以降も高齢者が増え続け、医療の供給が追いつかなくなっていくといいます。菊池さんは、2025年を都市部の需給悪化の出発点ととらえ、そこでどれだけ価値を出せるかを1つのマイルストーンにしています。
菊池さんは、2040年に向けて医療のインフラをどうつくるかを考えると、医療法人では10年、20年かかることを5年でやる必要が出てくると話します。そのためには爆発力が要るというのが、菊池さんが株式会社を選んだ理由の核心です。
まとめ
菊池亮さんは、医療法人ではなく株式会社を選んだ理由を、資金調達力と普及のスピードから説明しました。コロナ禍の往診のように利益にならず誰も担えなかった領域も、集約化によって事業にできたという経験が、営利の意義を考える土台になっています。
- 菊池さんが株式会社を選んだ理由の一つは、資金調達力が強く目指す未来へ最短でたどり着けることです
- 夜間・休日の往診は個別の待機では採算が合わないものの、集約化して回転率を上げることで事業にできたといいます
- 菊池さんは、お金で解決できない領域との境界である「限界曲線」を押し上げるのが株式会社の力だと考えています
- 2025年は都市部の需給悪化の出発点、2040年は国内の医療需要のピークとされ、それまでに価値を出す爆発力が必要だと話しています






