最高価値とスキルはどう噛み合うのか
前編から続く「最高価値」の話を受けて、高木さんはまず、最高価値とスキルの関係を尋ねます。最高価値を体現するための手段としてスキルがある、という位置づけなのかという問いです。
福田さんは少し考えたうえで、最高価値を体現すること自体が目的ではないとしつつも、「最高価値を一番最大化するためのサポートとしてスキルがある」という位置づけなのかもしれない、と答えています。
高木さんは、人はわかりやすいスキルから入りがちだと指摘します。そのうえで、福田さんがSHEのビジョンを体現する人になれているのは、ストーリーテラーとしてのスキルが高く、最高価値とスキルが噛み合っているからではないか、と見立てています。
では、一人ひとりバラバラな最高価値とスキルを、チームとしてどう組み合わせればよいのか。福田さんによると、人と人とのベストマッチングや、一番パフォーマンスが出るチーミングを科学することが、いまSHE社内で盛り上がっているテーマだといいます。
組み合わせの材料として挙がるのは、最高価値同士の相性、ストレングスファインダー ── 米ギャラップ社が開発した才能診断ツール。34の資質のうち、その人の上位の資質を明らかにするもので、チームづくりにも使われますの上位資質、そして専門スキルです。ただし福田さんは、まだ具現化しているわけではないと前置きしています。
規模について問われると、福田さんは、まず普段一番一緒に仕事をする小さな単位でのベストマッチングを実験しようとしていると答えます。ゆくゆくはユニットや組織全体へ広げたいという考えです。
相性が悪かった場合はどうするのか。福田さんの答えは「普通にもう配置変更」です。重視しているのは人同士の相性よりも、その仕事に本人の最高価値やスキルが合っているかどうかで、合わないなら異動するほうが双方にとって幸せだと話しています。
上の図は、福田さんが挙げたチーミングの材料と、合わなかったときの対応を順に並べたものです。
序列をつけない組織は、ぶつかり合わないのか
高木さんは、ここで少し込み入った質問をします。昔の会社はヒエラルキーと役割分担がはっきりしていて、歯車のように一部しか担えず自己効力感を持ちにくい一方で、ぶつかり合うことは少なかったのではないか、という問題提起です。
一人ひとりの最高価値が比較できないほど価値があるという考え方は、序列をつけないことでもあります。高木さんは、だからこそぶつかり合う可能性が高く、トップマネジメントもしづらいのではないかと尋ねます。
福田さんは、序列をつけないことと組織が作れないことは別だと答えます。マネジメントは序列ではなく役割であり、得意な人もいれば得意でない人もいる、という考え方です。
福田さんによれば、全員の最高価値と、マネジメントを含む役割を最適に紐付けていけば、個性が溢れすぎて統率が取れなくなることはないといいます。最高価値を全員が発揮しても「動物園みたいに個性的なやつだらけ」になるわけではない、という説明です。
具体例として福田さんが挙げるのは、人と人とを調整することそのものが最高価値だという人の存在です。逆に、個として突き抜けたい人を調整役の部署に入れるのは地獄だと話します。
福田さんは、世の中にある「夢組・叶組」のような考え方にも触れながら、本人の最高価値と組織内の役割を加味していけばカオスにはならない、というのが今の社内を見ての実感だと語っています。
調整することが最高価値の人が、人と人とをつなぐ役割を担う
個として突き抜けたい人が、調整役の部署に入ってしまう
組織図と言葉遣いに宿るカルチャー
高木さんは、組織図をどう書いているのかを尋ねます。組織図はどうしても上下関係のように見えてしまう、という問題意識からです。
福田さんによると、SHEはマトリックス型組織です。縦にキャリア事業部のSheLikes、美容事業部のSheBeauty、ファイナンス事業部のSheMoneyといった領域が並び、横にはコーポレートユニットやデザインユニットなどのユニットがあります。
SHEのユニットの中にはマネージャーとメンバーがいる構造もあります。ただし福田さんは、それは上下関係ではなく、全員がフラットな立場だという解釈をしていると話します。
高木さんは、意図がなくても図式化の限界で上下に見えてしまうと応じ、自身の会社で自分たちが「経営陣」と呼ばれていると知ってショックだったというエピソードを明かします。福田さんも、SHEでも経営陣と呼んでいると気づき、どうなのかなと考え込みます。
福田さんは、無意識に階層構造を作らない言葉選びのような細部にこそカルチャーは宿ると話します。たとえば「上司」「部下」と言った瞬間に上下関係が生まれてしまうので、マネジメントをする人としての「マネージャー」、あくまで「メンバー」といった言葉を選んでいるそうです。
福田さんは、組織が大きくなり、自分の思考が通じない人が増えていくときに、分断を生み出さない言葉選びをさらに整備していく必要があるとも語っています。
高木さんは海外の事例として、ユニリーバ ── 英国に本社を置く世界的な日用品メーカー。化粧品や食品など多数のブランドを展開していますが「ノーマル」という言葉を使わなくしたことや、ラッシュ ── 英国発の化粧品・バス用品ブランド。動物実験反対など社会的な姿勢を打ち出すことで知られていますが差別的になり得る名前を商品名から外した動きを挙げます。名前を変えること自体がビジョンの体現になっている、という見方です。
一方で高木さんは、人は既存のラベルを貼ったほうが安心する側面もあり、油断すると組織は序列や比較に戻ってしまうという葛藤も口にしています。
「これっておかしくないですか?」が出る組織
組織が序列や比較に戻ってしまう力学にどう向き合うのか。福田さんは、トップや経営陣、人事が是正しようとすると抜け漏れが出て浸透もしないと考えています。
福田さんがSHEで創業当初から言い続けているのは、ピラミッドではなく「球体型のコミュニティ」だということです。みんなが自分のできることをギブし合い、コミュニティを大きくしていくフラットな組織、という考え方です。
あわせて「ビジョンドリブン」「強みドリブン」というスローガンを掲げ、苦手を伸ばすより徹底的に強みにフォーカスするカルチャーを打ち出しています。こうした前提を全員が理解していると、メンバー側から「これっておかしくないですか」と声が上がるようになったといいます。
上下関係と役割分担がはっきりし、ぶつかりにくい一方で歯車になりやすい
みんなが自分のできることをギブし合い、強みにフォーカスしてコミュニティを大きくする
具体例として福田さんが挙げたのは、SHEの「褒める文化」についての提案です。褒める文化は心理的安全性を高めてきた一方で、常態化すると、褒められないと頑張れない、褒められるために頑張るという本末転倒も一部で起きていたそうです。
メンバー自身がこの点に課題意識を持ち、SHEが掲げているのは自分の人生の手綱を握ることなのに、承認欲求を人参のようにぶら下げる形になっていないか、と提案してきたといいます。福田さんは、この提案に自分もハッとしたと振り返ります。
福田さんは、カルチャーが根付いているからこそメンバーから気づきが上がってくる、自律的な仕組みを作れるとよいと話しています。
SHEハワイ構想を広げる「空気づくり」
高木さんは、福田さんがある日「海外拠点を作らなきゃいけない」と思い立ったSHEハワイの構想を例に、現場から「この前拠点を作ったばかりなのに無理では」という反発は出ないのかと尋ねます。
福田さんによると、まっさらな状態でいきなり持っていくのではなく、まず役員陣で共有し、大まかな共通認識を取っておくそうです。そのうえで、マネージャーなどに降ろすときに一番大事なのは空気づくりだと話します。
福田さんは、同じ一つのファクトでも、どういう空気を醸し出すかによってネガティブにもポジティブにもすぐ振れてしまうと考えています。そこでSHEハワイの構想も、いろいろな人に少しずつ前出ししておいたそうです。
高木さんが「ちゃんと政治してるんだ」と反応すると、福田さんは恐縮しつつ続けます。最初に聞いた人は、秘密情報をちょい出ししてもらった嬉しさと、楽しそうというワクワクを感じます。福田さんはそうした人を「刺客」として放っておき、発表の場でワクワクした空気を作ってもらうのだといいます。
心配しそうな人には、事前に説明しに行くこともあるそうです。ただ福田さんは、そもそも今のSHEはそうした反発を抱きにくい人を採用しているとも話しています。
福田さんは、空気は伝播するので、不安を感じていたかもしれない人も盛り上がりに飲まれ、みんな一緒に「熱狂の渦」に入っていくのかもしれないと語ります。戦略っぽいのであまり言いたくない、とも付け加えています。
役員陣で共有
まず役員陣で大まかな共通認識を取る
少しずつ前出し
いろいろな人に構想をちょい出しし、ワクワクを生む
心配な人へ説明
心配しそうな人には事前に説明しに行く
熱狂の渦
発表の場で前出しした人が盛り上げ、空気が伝播する
高木さんは、こうした工夫をずる賢いとは思わないと応じます。ジョブズのプレゼンもリハーサルを重ねたうえでの、インフルエンサーも呼ぶメディアカンファレンスでもあった、と例を挙げます。
さらに高木さんは、れいわ新選組 ── 俳優出身の政治家、山本太郎氏が2019年に立ち上げた政党がブームになった頃に新橋のSL広場で山本太郎さんの演説を見に行った体験を語ります。駅のホームから手を振る人たちがいて、広場全体が盛り上がっているような空気が作られていたといい、高木さんはそれを「すごいな」と思ったそうです。
本能型のコミュニケーションは誰から学んだのか
高木さんは、熱狂を共有しながら非連続のアイデアを差し込んでいく福田さんのやり方を、独学で身につけたのかと尋ねます。
福田さんは、自分はロジックタイプではなく本能型だと答えます。高木さんも、こうしたことはロジックではできず、カルチャーや振る舞いの部分だと応じ、影響を受けた人はいないのかと重ねて聞きます。
福田さんは、尊敬する経営者として、自分が起業するきっかけになった難波さんの名前を挙げ、ロールモデルだとします。ただし自分とは全く違うタイプだと考えていて、振る舞いやコミュニケーションの参考にした人はいないと話しています。
高木さんはそれを受けて、福田さんは天然でそれができてしまう人であり、本当に語り部なのだと表現しています。
ギャルマインドとは「適度な軽率さ」
ここで、収録に同席していた広報担当者から、福田さんは「ギャルなだけ」という声が入ります。福田さん自身も、中学生の頃からギャルに憧れ、実際にギャルになった人だと認めます。
ギャルマインドとは何かと問われ、福田さんは「適度な軽率さ」「バランスの取れた軽率さ」と答えます。思考が軽率なのではなく、自分がこうしたいという強い欲求や願望、心の動きに素直に従って、行動やチャレンジを軽率にすることだと説明しています。
福田さんは、「これやりたい、やろう」という行動のスピードと軽率性こそ、自分の中にずっと根付いているギャルマインドだと語ります。
高木さんがギャルはコミュニティ作りが上手だと話すと、福田さんはルーズソックスを例に、同じものを身につけ、同じ言語、同じメイクをするギャル文化は一種の宗教であり、カルトブランドだと応じます。
高木さんは、渋谷センター街のマクドナルドに、ギャルたちが好きな店の食べ物を持ち寄っていた様子からフードコートが発明された、という噂話も紹介します。高木さん自身も真偽は定かではないとしています。
福田さんは、ギャルは固定概念や常識を無視して、こうなったほうが楽しいという素直な欲求に従い、それを実現してしまうと話し、自分も「あれでいたい」と語ります。大人になって見た目が変わっても、心はギャルのままだといいます。
高木さんは、キャリアを重く考えすぎ、完璧でなければいけないと思い込む人が多いと指摘します。適度な軽率さを持たないと、自分らしさも、柔軟に変わる世の中への適応も難しいという考えです。高木さんが「世界ギャル化計画」と言いかけると、広報からバツが出る一幕もありました。
ライフコーチングカンパニーとしてのSHEの展望
話題はSHEの今後の展望に移ります。福田さんによると、第一段階は、ライフコーチングカンパニーという看板のもと、キャリアだけでなく人生全般に寄り添うブランドポートフォリオを展開することです。
具体的には、自分らしい外見を見つけるための美容、自分らしい生き方のインフラになるお金の知識を学ぶマネースクールに加え、今後はパートナーシップや子育てのキッズなど、さまざまなライフドメインに広げていく構想だといいます。
| 領域 | 福田さんの説明 | 状況 |
|---|---|---|
| キャリア | SheLikesによるキャリア支援 | 展開中 |
| 美容 | 自分らしい外見を見つける | 展開中 |
| お金 | 生き方のインフラになるお金の知識 | 展開中 |
| パートナーシップ・子育て | 人生に寄り添う領域の拡張 | 今後の構想 |
もう一つの軸が世界への展開です。福田さんは「華僑」ならぬ「She僑」として、世界中にSheのコミュニティやネットワークが広がった状態を目指しているといいます。
福田さんは、海外で実際に働こうとすると、現地で仕事を見つける、言語を話すといった高いハードルがあると話します。SHEは仕事の斡旋も行っており、今後は働くためのプラットフォームも整えていきたい考えです。
世界中どこにいてもSHEでスキルを学び、それを生かして働けて、現地のSheメイトに話を聞きに行ける。福田さんは、旅するように生きることが夢物語ではなくなる、働き方と生き方が滑らかになる世界を作りたいと語っています。
最終目標は義務教育のアップデート
福田さんは、働くことを軸にした自己実現の支援に加えて、最後は子どもの教育を自分の人生のミッションにしたいと話します。キーワードは「義務教育のアップデート」です。
背景にあるのは、SheLikesに来る受講生たちが、過去の義務教育で正解を早く解くことばかり教えられて苦しんできたという実感です。
福田さん自身、1歳半の息子がいます。息子にどんな教育を受けさせたいかを考えたとき、英数国理のような学力に加えて、自分で意思を養う力や道を切り開く力が必要だと感じたといいます。
福田さんは、そうした力を育てなければ、孫正義さんやイーロン・マスクのように日本や世界を変える人材を生み続けられないと考えています。教育システムのアップデートをSHEからやることは、非常に大きな構想であり、最終的にやりたいことだと語っています。
超長期のビジョンを語り続ける意味
こうした超長期の話を社内でもしているのかと聞かれ、福田さんは「めちゃめちゃしてます」と答えます。義務教育のアップデートは産休・育休中に考えたもので、復帰後最初のキックオフで初めて話したそうです。
福田さんによると、メンバーからは士気が上がった、視座が高まったという声が届き、組織の一体感が生まれた時間になったといいます。どこにゴールを置くかで日々の仕事の仕方や優先順位が変わるため、夢を語り続けることで組織全体が底上げされることを何度も経験してきたと話します。
SHEのメンバーは、もともとSHEに夢を見てジョインしている面があるため、夢が広がることをポジティブに受け止めているそうです。
高木さんは、会社は油断すると計画どおりに進むことが一番偉くなり、不確実な要素が嫌われがちだと指摘します。本来はビジョン、戦略、計画の順なのに、いつの間にか計画を実現するために戦略がある構造になってしまう、という見方です。
本来はビジョンがあり、その下に戦略、さらに計画がある
計画が一番偉くなり、計画を実現するために戦略があるような構造になる
高木さんは、不確実な未来を言い続けるのはファウンダーの役割であり、一メンバーが最初から起点になるのは難しいと語ります。福田さんは「本当にいい会社なんですよ」と応じ、次は壁にぶつかったときにお悩み相談に来ると約束しています。
ゆとり教育は間違っていなかったのか
高木さんは、福田さんにお願いがあると切り出します。二人とも、いわゆるゆとり教育を受けた世代です。高木さんは中学3年頃にゆとり教育が始まったといいます。
高木さんの仮説は、ゆとり教育は間違っていなかったと誰かが言う必要がある、というものです。ゆとり教育は知識の詰め込みではなく自主性を重んじる取り組みで、その後スポーツの分野では大谷翔平さんのような人材も出ている、と高木さんは見ています。
一方で、ゆとり教育は政権の失敗とともに失敗だったと受け止められ、世代ごと揶揄されてきました。高木さんは、それが文部科学省が教育改革に踏み込めない原因になっているのではないか、と推測しています。
自主性重視
ゆとり教育は詰め込みではなく自主性を重んじた
失敗の烙印
政権の失敗とともに、ゆとり教育も失敗とされた
世代への揶揄
「ゆとりだから」と世代ごと馬鹿にされた
改革への萎縮
文科省が教育改革を恐れている、と高木さんは想像する
高木さんは、福田さんがやろうとしていることもゆとり教育が目指したことに近いと考えています。当時は国民にビジョンを信じさせきれず途中で折れてしまったが、SHEハワイのときのように「いいじゃん」という空気を作れる福田さんなら、その勢いでやってほしいという期待です。
福田さんは、この観点を面白がり、これから取材のたびに言っていくと応じます。自分が一旗揚げることがその証明にもなるかもしれない、世代で頑張っていかなければ、と語っています。
教育に必要なのは考え方の世代交代とブランド
高木さんは、広く言えば世代交代が必要だと話します。若い人が出て年長者が引っ込むという意味ではなく、考え方の世代交代だという点を強調しています。
高木さんによると、教育は過去の経験者の影響を強く受けるうえ、成果はその子が大人になってからしか答え合わせできません。そのため、若い人が関わらなければ常に時代遅れになり続ける産業だと考えています。
さらに高木さんは、教育業界こそブランドが重要だと指摘します。人が東大を目指すのも、要するにブランドを求めているからだという見方です。
福田さんは、以前にもこの話を聞いて面白かったと振り返り、教育とブランドを掛け合わせたビジネスをSHEから盛り上げていきたいと語って、対話は締めくくられました。
まとめ
SHEの福田恵里さんは、一人ひとりの最高価値を役割と結びつけることで、序列のないフラットな組織を運営しようとしています。新しい構想は空気づくりで熱狂に変え、ギャルマインドの軽率さで動き、最終的には義務教育のアップデートという長期ビジョンを語り続けています。
- マネジメントは序列ではなく役割と捉え、最高価値とスキルに合わせた配置で組織のカオスを防いでいる
- 「上司・部下」を使わないなど、分断を生まない言葉選びの細部にカルチャーが宿る
- SHEハワイ構想は、役員共有と前出しで空気を作り、社内を熱狂の渦に巻き込んで広げた
- 福田さんのギャルマインドは「適度な軽率さ」で、心の動きに素直に行動するスピードのこと
- SHEはライフコーチングカンパニーとして人生全般と世界へ広がり、最終的に義務教育のアップデートを目指す



