世の中に足りないのは「話す側」より「聞く側」?
後編は、高木さんが紹介したアメリカの深夜通販の話から始まります。CCCの増田さんが代官山 蔦屋書店をつくった際に出した企画本『蔦屋代官山大人計画』に載っていたエピソードだといいます。
高木さんによると、深夜の通販番組で「家が汚い」といった悩みを扱うと、電話が大量にかかってきます。その会社では、1時間近く話を聞かされても途中で遮らないことが決まりでした。
(電話の相手の話を)全部聞くらしいんですよ。全部聞いたらすっきりして買うらしいんですよ。
高木さんはこの通販の話から、世の中には聞いてほしい人が多く、受け止める側が足りないのではないかと考えます。コーチングもその一種で、聞く仕事は体力を使うからこそAIが担っていくのでは、と問いかけました。
けんすうさんは、実際にそういう使われ方は多いと応じます。自社で作っているAIツールでも、実用的な機能より「話を聞いてもらいたい」コーナーが人気だそうです。
当然あの愚痴言ってる側もこれ機械だってわかってるんですけど、それでもやっぱ反応返ってくるとこちらも反応するので、
けんすうさんの見立てでは、相手が人でも機械でも「今日何がありましたか?」と聞かれると人は考えてしまいます。そのため、AIに愚痴を聞いてもらう使い方も十分に機能すると考えられます。
高木さんは、失恋したときに似た経験の歌を聴いて慰められる感覚も同じだと話します。歌詞や小説に気持ちを語ってもらうことで、自分で言葉にしたようなすっきり感が得られ、代わりに涙が出るのではないか、という見方です。
SNSで不足する「感情のキャッチャー」
高木さんは、SNSではボールを投げる側ばかりが多いと指摘します。投げてもキャッチしてくれる人がいなければ虚しいので、受け止める存在が必要だというのが、最近よく考えていることだそうです。
けんすうさんはこの指摘を、自身がTwitterで続けているQAに重ねます。QAが読まれるのは、質問文を読むと「こいつムカつくな」「かわいそうだな」と何らかの感情が湧き、それを回答側がある程度解消してくれるからだといいます。
(QAの質問文に湧いた)感情がアンサー側である程度解消してくれるので、中毒性高いんだろうなと思ってます。
高木さんは、けんすうさんの回答の語り口を「お坊さんっぽい」と評します。そして、友人がInstagramで運営する禅のサービスIntripの例を挙げました。サービス自体が伸びているわけではないものの、投稿には大量のコメントがつくそうです。
Intripの投稿の設定はお坊さんが答えるというもので、基本的には相手の言葉を繰り返して返しているだけだといいます。「暑くなりましたね、そういう季節ですね」と返すだけで「スッキリしました」と感謝されるそうです。
けんすうさんも、繰り返して返すだけで人が癒やされる現象に同意し、テレビ番組の企画を紹介します。石田純一さんが「なるほど」「すごいね」など3つほどの言葉だけで飲み会を乗り切るというもので、2時間後には相手が「すごく話が面白かった」と答えたそうです。
自分がずっと喋ってるはずなのに、すごい面白い話をしてくれたっていう感覚になってるっていう。
高木さんは、孤独や孤立を自分のテーマとして持ち、インターネットやコミュニティにその解消を期待してきました。それでも、発信する側を鍛えるだけではあまり解決しないと感じているそうです。
高木さんが例に出すのは家庭での出来事です。子どもが絵を見せてきたとき、妻から聞き方を注意され、コメントは要らないから「えー」と驚けばいいと言われたといいます。そう反応すると、子どもはとても満足した顔をするそうです。
そうそうそう。批評も解決策もいらなくて。
高木さんは、行き場のない感情の矛先についても話します。芸能人への執拗な攻撃や不倫報道への反応は、パートナーへの苛立ちや妬みがぶつけられている可能性があるという見方です。けんすうさんも「自分の旦那への不満の対象になっている」と応じました。
発信ツールは増え続け、愚痴や不満、悩みを発信する人は多い
批評や解決策ではなく感情のクッションが必要だが、こちらはあまり進化していない
この比較のように、高木さんは発信ツールばかりが伸び、受け止める側の進化が追いついていないと感じています。
カスタマーサポートが「寄り添う」ようになった理由
受け止める側の進化について、けんすうさんはAmazonやAppleのカスタマーサポートを挙げます。この5年から10年ほどで方針を変え、明らかに感情に寄り添うようになったと感じているそうです。
これ壊れたんですけどって言ったら、それは大変でしたね。仕事で使うのになんとかでしたねみたいなことを言う。
けんすうさんは、こうした応対はおそらくマニュアルに入ったもので、そのほうが満足度が上がるのだろうと推測しています。
さらにけんすうさんは、『夢をかなえるゾウ』で知られる水野敬也さんのブログを紹介します。女性には「大変じゃない?」と「頑張ったね」しか言わない、という内容だったそうです。「大変じゃない?」と聞くだけで、相手が愚痴を言える余地が生まれるといいます。
高木さんは、キャバクラやホストなど、多くのサービスが話を聞くために存在しているように思えてきたと話します。けんすうさんはそれを、福祉なども含む感情労働 ── 自分の感情をコントロールし、相手の感情に働きかけることが仕事の中心になる労働。接客や介護、コールセンターなどが代表例とされますと呼ばれる領域だと整理しました。
カスタマーサポートに愚痴を言う感じで言っても、その愚痴を全部除去してくれて、必要な内容だけをオペレーターには教えてとか(AIなら)できますもんね。
けんすうさんは、感情労働の領域はAIに向いていると見ています。愚痴を受け止める部分と、用件を処理する部分を分けられるからです。
話は、けんすうさんが自ら受け止め役を担っているマシュマロ ── 匿名でメッセージや質問を送れるWebサービス。受け取った質問に答えて、SNSで回答を公開する使い方が広まっていますのQAに移ります。けんすうさん自身は「何のためにやっているのかまだわからない」と言いつつ、ニーズはあると感じています。質問は千件単位で届くそうです。
マシュマロQAでフォロワーは増えるのかという高木さんの問いに、けんすうさんは「増えます」と答え、Twitterのアルゴリズムの仕組みを軽く説明しました。
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アルゴリズム上のポイントが上がり、表示されやすくなる
けんすうさんによれば、マシュマロQAには中毒性があります。その中毒性を利用して「こういうのは詐欺だから引っかかっちゃダメだよ」といった情報を届け、普段読まない情報を多くの人が手に入れられるようにしたい、というのがQAを続ける感覚だそうです。
けんすうさんが「余計なお世話」をやめない理由
高木さんは、けんすうさんがnanapi ── けんすうさんが立ち上げた、暮らしのハウツーやライフハックを集めたWebサービスを離れても、nanapiらしいことを続けていると指摘します。けんすうさんも「こうすればもっと楽だよ」というハウツーが好きだと認めました。
高木さんは、一つのサービスを辞めても形を変えて同じことをする起業家は多いと話し、けんすうさんはこれからもライフハック的なことを続けるのかと尋ねます。
けんすうさんは、無駄な努力が嫌いというより、「それは認知バイアスだよ」「こう考えるだけで違うよ」と伝えたくなってしまうのだと話します。
けんすうさんが挙げる小さな例が、飲み放題に怒る人です。自分は2杯しか飲まないのに、もっと飲む人のせいで搾取されている、だから飲食店が儲かるのだと怒っている人がいたそうです。
けんすうさんは、この数字のように原価はわずかなのに、飲み会のたびに怒るのはもったいないと感じるそうです。ホテルの清掃費も汚す人と汚さない人で変わるはずなのに、誰も気にしません。けんすうさんは、飲み放題も気にしなければ「楽しかったね」で済むと話します。
(飲み放題で)毎回怒っちゃっててかわいそうだなって思っちゃうみたいなのが。
けんすうさんは、こうした指摘を「余計なお世話が好き」なのだと笑います。高木さんが「その人は飲み放題が解決しても、別のことに同じ構造で怒りそう」と返すと、けんすうさんは抽象度を上げる考え方を示しました。
けんすうさんによれば、抽象度を上げていくと世の中で気になることはそんなになかったと気づけます。そう思えれば心穏やかに暮らせる、というのがけんすうさんの考えです。
高木さんが「煩悩から解放していく宗教家のようだ」と言うと、けんすうさんは「ブッダもマシュマロをやっていたような感じに近いのでは」と冗談めかして応じ、高木さんが「木の下でね」と返して対談は締めくくられました。
まとめ
この後編では、発信ばかりが増えたインターネットで不足する「受け止める側」が軸になりました。けんすうさんのマシュマロQAは、その受け止め役と、人を楽にする情報の届け役を兼ねた試みとして語られています。
- 人は批評や解決策よりも、まず話を最後まで聞いてもらうことを求めている
- AIや相づち、言葉の繰り返しでも、反応が返るだけで感情は整理されうる
- カスタマーサポートなどの感情労働は寄り添う方向に変わり、AIにも向いている領域とされる
- けんすうさんのQAは中毒性を利用して、普段読まれない役立つ情報を届ける狙いがある
- 抽象度を上げれば、気になることは意外と少ないと気づけるというのがけんすうさんの考え





