「家族のように助け合う」カルチャーは、なぜ邪魔になったのか
清水さんが最初に投げかけたのは、組織の分断についての問いです。カンパニー制で事業を分散させ、仕組み化まで進めると、遠心力は利くものの求心力が減るのではないか、という疑問でした。
なんかそういう壁、なんか組織が分断していくとか、そういう壁にぶち当たんなかったんですか?
田口さんによると、ボーダレス・ジャパンでは既存のカンパニーも株式会社化し、それぞれが代表取締役として名実ともに社長になる形へ移っていきました。それでも当時は、世界中の人が幸せになるためにワンチームで頑張るという意識がとても強かったといいます。
むっちゃ強かったですね。だからファミリーワークみたいな感じの言葉もあったりとか、
田口さんは当時、カルチャーづくりこそが創業者として一番の仕事だと考え、インタビュー記事でもそう話していたそうです。
ところが、いろいろな人が集まり始めると状況が変わります。田口さん自身はこれをポジティブなことだと捉えつつも、同じ経験も共に過ごした時間も少ない人にとっては、強いカルチャーが入りづらさや異質さにつながると感じるようになりました。
そう、カルチャーが邪魔になってんなと思って。
ボーダレス・ジャパンの社長たちは年に1〜2回、「世界会議」と呼ばれる社長会で対面で集まり、2日間ほどかけて方向性を議論します。田口さんによれば、8年前ぐらいのその場で、もうカルチャーとは言わないほうがいいのではないか、という話になりました。
「ファミリーワーク」のように家族として助け合う強いカルチャーで、ワンチームを掲げていた
多様な人が入りづらくなるとして、8年前ぐらいからカルチャーという言葉自体を使わなくなった
株はいつでも額面で買い戻せる? 資本の自由さ
清水さんは自身の会社で分散型に変えた経験も踏まえ、事業が自走し始めると「自分でやりたい」「外でやりたい」という人が必ず出てくるのではないかと問います。カルチャーで支えていたのか、仕組みで解決したのかを、ぶっちゃけて聞きたいという質問でした。
田口さんが明かしたのは、ボーダレス・ジャパンの資本の仕組みです。事業の立ち上げ時にはボーダレス・ジャパンが資本金を出しますが、自己資本や他社資本を入れるのも自由で、起業家本人はいつでも株を額面価格で買い戻せるといいます。
資本として入れるのは、そのほうが借り入れや無利子貸し付けがしやすいからだそうです。評価付けをした場合は税法上のディールが必要になるものの、ボーダレス内のやりとりは額面でできると説明しています。
いつでもボーダレスの株ゼロにしてもいいし、
田口さんによると、ボーダレス・ジャパンはホールディングスとして大きくなるためにこの体制をつくったのではありません。社会のために立ち上がる人をどう増やすかだけを見ており、資本はあくまで立ち上がるための「スタンドアップキャピタル」だという考え方です。
立ち上げ
ボーダレス・ジャパンが資本金として資金を出す
自走へ
自己資本や他社資本を入れるのも自由
独立も可
立ち上げ資金が不要になれば、額面で株を買い戻して自分の会社にしてよい
清水さんが、それでも結局は辞めないのかと尋ねると、田口さんは「自分でやりたい」と出ていく人はいないと答えます。合わないと感じる人がいた場合は田口さんから話をして、自分でやったほうがいいと送り出したことはあるそうです。
「国連みたい」と言われる組織とは
清水さんが、事業領域がバラバラでも50社あればナレッジ共有のコミュニティになるのではと問うと、田口さんはカルチャーをやめた話に補足を加えました。あるメンバーが、ボーダレスは国連みたいな組織だと表現したというのです。
でも本当に世界良くしていこうっていうところで、しっかりそこだけはみんなガチッと共通言語で集まってるっていう、なんか国連みたいですね。
田口さんは、インドにはインドの、日本には日本の文化があるから面白いのであって、統一文化にするほうがかえって面白くないのではないか、と続けます。個性ややり方はバラバラでも、世界を良くするという一点だけでつながっている、という自己認識です。
一方で田口さんは、多様な人の多様なニーズに仕組みとしてどう応えるかは、まだ試行錯誤の途中だと話しています。一人でやるより集まっているからこそ出る強さがなければ、集う理由はなくなってしまうからです。
田口さんにとっての裏のテーマは、束ねるという意味ではないコミュニティのあり方です。人がたくさんいるからこそ生まれる強さとは何かを、立ち上がった後もみんなが歩んでいけるように問い続けているといいます。
最高意思決定機関は、毎月1回の社長会
ボーダレス・ジャパンの組織は基本的にリモートで、ミーティングもリモートで行われています。清水さんは、事業領域も国もバラバラな中で一緒にいる強さをどうつくるのか、そして立ち上げよりも継続のほうが難しいのではないかと問いかけました。
田口さんは継続の支援はまだ全然足りていないと認めつつ、ずっと大切にしてきたのは頻度を保つことだと答えます。その中心にあるのが、毎月1回開かれる社長会です。
ボーダレスはすごく面白いのは、社長会が最高意思決定機関って決まってるんですよね。僕が決める組織じゃなくて、何事も全部社長会で決まるっていう。
田口さんによると、新しい仕組みも社長会の決裁で決まります。新しい起業家が誕生するときも、田口さんと一緒にプランニングした事業計画を社長会で発表し、みんながOKと言えば会社設立になるそうです。
プランニング担当は現在も田口さん一人で、これまで立ち上がった事業はすべて田口さんと各起業家が一緒につくってきたといいます。清水さんは、同時に何人もの起業家と並走している点に驚いていました。
50分の1の反対でも止まる、全会一致の意味
社長会での会社設立の承認は全会一致です。田口さんは、50人の社長のうち1人でもダメと言えば通らないと説明します。
でもそれが結構起こるのがやっぱすごくいいところで。
田口さんによると、社長会には空気を読まず、起業家のためを思って「もう一度詰めたほうがいい」「この点は気になる」と堂々と言う人たちがいます。みんな実践家なので「やりながらどうにかすればいい」と考える人もいて、そのバランスは人によって違うそうです。
反対が一人でもあれば、田口さんと起業家は計画を持ち帰り、その視点をどう超えられるかをもう一度プランニングします。清水さんはこれを「ガバナンスが効いている」と評しました。
田口さんは、多数決ではなくマイノリティーの視点を大切にしていると話します。少数の懸念を乗り越えようとすることで、事業計画そのものが良くなるという実感があるようです。
まとめ
田口さんは、かつて創業者の一番の仕事と考えていたカルチャーづくりを、多様な人が入りづらくなるとしてやめました。代わりに、世界を良くするという一点で集まり、自由な資本の仕組みと、全会一致の社長会で組織を運営しています。
- 強いカルチャーは、経験や時間を共有していない新しい人にとって入りづらさにつながると田口さんは考えた
- 立ち上げ資本は「スタンドアップキャピタル」で、起業家はいつでも額面で株を買い戻せる
- 「国連みたいな組織」として、個性ややり方の違いをそのまま認めている
- 毎月1回の社長会が最高意思決定機関で、会社設立は全会一致で決まる
- 一人の反対を乗り越えようとすることで、事業計画が変わり良くなるという




