いいプロダクトを作りたいという思いは、なぜ資本市場の話につながるのか
高木さんは鶴岡さんに、長い時間軸で物事を見ることや、資本主義と社会をつなぐ視点は壮大で、持つのは簡単ではないのではないかと問いかけます。そうした目線とどう向き合っているのか、という質問です。
鶴岡さんの答えの出発点は、意外にも自分の承認欲求でした。事業を続けるうちに、自分はお金を儲けることより、ユーザーに喜ばれたり多くの人に感謝されたりするほうが楽しいタイプだと気づいたといいます。
すごくお金をめちゃくちゃ儲けることに喜びを得るタイプというよりかは、誰かが喜んでくれてる方が嬉しいみたいな。
鶴岡さんによると、誰かに喜ばれたいという気持ちが、大きなプロダクトや大きな社会貢献を目指す方向へ徐々に変わっていきました。そうなると長期で物事を考える必要があり、資本市場と社会の「喜んでもらうベクトル」を同じにしなければならない、と考えるようになったそうです。
鶴岡さんの承認欲求から資本市場との向き合い方までの流れを整理すると、次のようになります。
承認欲求に気づく
お金より、誰かに喜ばれるほうが嬉しいとわかる
大きな貢献を目指す
いいプロダクトで社会への還元を最大化したくなる
長期で考える
大きなプロダクトには長い時間軸が必要になる
ベクトルを合わせる
資本市場と社会の両方が喜ぶ合致点を探し続ける
鶴岡さんは、資本市場は喜ぶけれど社会は喜ばないことも世の中にはあるはずだと話します。その合致点を探し続けるための手段として、長期の視点や資本主義との接合が必要になる、という整理です。
なので基本的にはやっぱいいプロダクト作りたいっていうのが全ての源泉だと思うんですけどね。
では鶴岡さんの言う「いいプロダクト」とは何か。答えは、より多くの人の生活に関与できるものです。BASEでいえば、利用者である「オーナーズ」の生活が良くなり、その人数が最大化されるプロダクトを指します。
鶴岡さんは、深く掘るけれど局所的な人たちに届けばよいと考える起業家もいるはずで、そこは人それぞれだと前置きします。そのうえで自分は、使ってくれる人の規模や多さに嬉しさを感じるタイプだと話します。
それこそ地方行ってBASE使ってくれてる人がいるのがめっちゃ原動力だし、そういう場面に出会えることが、サステナブルに事業をやるきっかけにもなってるんで。
規模を重視する感覚がどこから来たのかと聞かれ、鶴岡さんは「やりながら」と答えます。資本主義とのバランスを取ろうとすると、プロダクトの規模を出さなければ資本市場にメリットがない。規模が小さければ、8年も9年も赤字を許容されることはなかったはずだ、といいます。
BASEのミッションを達成するには、資本市場にもメリットがあることが大前提になります。だから規模を追うことがテーマになった、という鶴岡さんの説明は、本人いわく「結構合理的な導き出し方」です。
学生起業家が勝てるのは、10年かかる勝負だった
高木さんは、BASEが8年、9年と掘り続けてきた時間は、ある意味で市場を作っていた時間ではないかと投げかけます。新しい市場を作るには10年ほどかかる感覚があるのか、という問いです。
僕みたいな起業家がやるんだったらかかるなっていう認識はあります。
鶴岡さんによると、創業時に使えるお金やリソースは限られていました。21〜22歳で起業し、持っているものは時間しかなかったため、時間がかかるものをやらないと勝てないと考えたそうです。
鶴岡さんは、短期決戦では大人のほうが強いと話します。10年、20年やってようやく世の中がわかってくれる勝負なら、学生でも勝てる可能性がある、という読みでした。
あれがなんか3年で勝負決まったら、もう例えばPayPayみたいな。わかりやすく言うと、あんなの絶対学生起業でできないじゃないですか。
その対極にあるのが、長い時間をかけて世の中が変わるのを待つやり方です。鶴岡さんはこれを「波が来るまで沖に居続ける」と表現し、自分のようなタイプには合っていたと振り返ります。
高木さんが「急ぐと広告をすることになり、商業的なイメージになる」と続けると、鶴岡さんは急いだ場合に起こりうることを挙げます。下品な感じになる、手数料を早く上げてしまう、BASEでいえばもっと大きな加盟店にシフトしてしまう、といった選択です。
3年ほどで勝負が決まる。資金のある大人が強く、学生起業では難しい
10年、20年かけて世の中が変わるのを待つ。時間しか持たない学生にも勝機がある
法人を取ったほうが早い、という話にもなりがちです。それでもBASEがそうしなかったのは、長くやってもいいと思えていたからだと鶴岡さんは話します。
高木さんは、こうしたサービスなら法人から「うちのために機能を作ってくれ」という大型契約の話も必ずあったはずだと尋ねます。鶴岡さんの答えは「全部断りますね」でした。
てかそのために僕たちが存在しているわけではないからっていう。別にそれを作ることを否定しているわけでは一切なくて。
鶴岡さんは、社員の時間をもらっている以上、そのメンバーにしかできない付加価値を作ることに時間を使ってもらう責任が経営者にはある、と考えています。他の会社が頑張ればできることをBASEもやると、社会全体で生まれる価値の最大化にならない、という理屈です。
もちろん会社同士で営利企業として成長していくのは大事だけど、とはいえ人類としては一緒じゃんみたいな感じで。だったらみんなで別々の課題解決した方が効率良くない?みたいな。
高木さんはこれを、多様性や個性をみんなが出していった結果として価値が最大化される考え方だと受け止めています。
俯瞰した視点の正体は「殴り合いが好きじゃない」こと?
高木さんは、鶴岡さんにはときどき非常に俯瞰した目線になる面があると指摘します。私欲的で短期的な人も多い中で、その視点は経営の中で育ったものなのか、昔からのものなのか、という問いです。
なんか好きじゃないっていう。
鶴岡さんの答えは、俯瞰した視点を高尚な理念として語るものではありませんでした。殴り合うことや戦うことがあまり好きではなく、長くやらなければならないからこそ好きなことをやりたい、という感覚が根にあるといいます。
たとえば価格競争で殴り合うようなことは得意ではない、と鶴岡さんは話します。得意でないことを避けようとした結果、今のような考え方で自分を納得させたほうが好きなことに集中できると気づいたのかもしれない、と本人は「悪く言うと」と添えて分析しています。
高木さんは、ぶつかり合うと短期的な争いになってしまうので、それを避けて独自の価値を作ろうとすると、一歩引いて見るほうがよかったのではないかとまとめます。鶴岡さんもそれに同意します。
続いて高木さんは、これだけの会社を経営し苦労もしているはずなのに、鶴岡さんはとても自然体に見えるのはなぜかと尋ねます。
鶴岡さんは、つらいと思うことが人より少ないのかもしれないと答えます。自分にどれほどのハードシングス ── 困難な出来事や修羅場のこと。ベン・ホロウィッツの経営書『HARD THINGS』で広く知られるようになった言葉ですが降りかかっているかは、他社の状況がわからない以上比べられないし、経営者だけがつらいわけでもない、という考えです。
もちろんハードシングス多分あったと思うんですけど、それはなんか自分のせいだったなって。
鶴岡さんは、困難を自分のせいだと捉えられると、すぐに向き合って改善にあたれるのだと話します。逆に「つらいですか?」と聞き返された高木さんは、大変だな、なんでこんなことをやっているんだろうと思うことは多いと率直に答えています。
鶴岡さんがもう一つ挙げた理由は、仕事内容にこだわりがないことです。経営者の仕事は会社の段階によって変わりますが、鶴岡さんはそれに対して何も思わないといいます。
コード書いてるのもいいし、カスタマーサポートしてるのもいいし。昔は銀行振り込み(の対応)も手でしてたし。
高木さんが「ちょっと悟ってる感じがある」と言うと、鶴岡さんは家入さんの影響かもしれないと返します。そのうえで、自分は長期思考であり、今日を良くしようと思っているわけではないから、目の前のことが誤差に思えるのだと説明します。
鶴岡さんは、BASEのミッションと同じミッションを持つ会社があるなら、一緒にやったほうが世の中のためになる可能性もあると割り切っているとも話します。今はBASEという組織が世界で一番いいと考えているから独立してやっている、という位置づけです。
次の10年に、鶴岡さんが感じているプレッシャーとは?
高木さんは、家入さんの思想を受け継ぎ、インターネットと出会い、それを形にしてきたBASEの10年を「すごい10年」と表現し、次の10年はどうなるのかを尋ねます。
鶴岡さんは、根底の思いもミッションも変わらないと答えます。事業としてはやりたいことが多く、ポートフォリオも増やしたいけれど、方向性を変えたいわけではなく、会社のメンバー、ユーザー、社会、株主とともに、この延長線上でより大きな付加価値を生みたいといいます。
そのうえで鶴岡さんが口にしたのは、次の10年への強いプレッシャーでした。
過去10年と同じ付加価値しか作れないと、基本的には僕のアウトプットが下がってるってことなのかなみたいな。1年目と11年目はスタートラインが違うわけじゃないですか。
1年目: 持っているのは時間だけ。アセットも信頼も少ない
11年目: アセットも信頼もある。だからこそ過去10年以上のアウトプットが求められる
やりたいことは変わらないので楽しみでもある、と鶴岡さんは付け加えます。高木さんは、個が経済の中心になっていく転換はまだ始まったばかりで、もっと長い時間をかけて起きていくものだろうと応じ、そこを純粋にエンパワーしている存在はBASEほかにはなかなかないと評価しています。
鶴岡さんは、BASEを作った時はこんなことは一切考えていなかったと明かします。やりながら「次の山を登れる」と感じてきたのは、BASEを使うユーザーを見て自信をもらってきたからだといいます。
鶴岡さんによると、BASEのユーザーにはたまたま法人より個人が多く、SNSをやっている人が多いといいます。そうしたユーザーとの距離感が、プロダクトを更新し続けたいと思える原動力になっているそうです。
鶴岡さんは、BASEの利用者を「OWNERS」と呼ぶ言葉を高木さんに考えてもらった経緯にも触れます。ユーザーを見ていて、中小企業と呼ぶのは違う、大とか中とかでもう言いたくない、と感じたことがきっかけでした。
鶴岡さんの言う共依存とは、ユーザーと会社が行ったり来たりしながら、お互いを強くしている関係です。その思想がビジネスモデルを含むすべてに表現されている、と二人は話しています。
一方で鶴岡さんは、プラットフォームを運営していると、無意識に搾取しかねない危うさがあるとも語ります。立場上どうしてもプラットフォーマーのほうが強くなるため、10年、20年、30年とサービスを続けるなら、自分たちのポジショニングを間違えないよう向き合い続ける必要がある、という自戒です。
フランスで聞いた「自分の国を好きになるきっかけ」としてのブランド
鶴岡さんは先月フランスを訪れ、さまざまな人と話した体験を紹介します。印象に残ったのは、ルイ・ヴィトンをはじめとするメゾンに対する、現地の人たちの強いプライドでした。
鶴岡さんによると、日本でのルイ・ヴィトンの受け止められ方とは違い、フランスの人たちは「俺らのLVMH ── ルイ・ヴィトンやディオールなどを傘下に持つフランスの高級ブランド・コングロマリットすげえだろ」と自分たちを代表する存在として誇っているといいます。
展示会でフランスのデザイナーに、どういうブランドになりたいのかを聞いたときの答えも、鶴岡さんの心に残りました。本人は「パクろうと思った」と笑いながら紹介しています。
自分たちの国の人たちが、自分たちの国のことを好きになるきっかけとなるブランドを作りたいって。
鶴岡さんは、ルイ・ヴィトンはおそらくすでにそうなっていて、「ルイ・ヴィトンがあるからフランスが好きだ」という存在になっていると話します。グローバル化で境目がなくなっていく一方で、カルチャーが強まるきっかけになるブランドもある、という見方です。
高木さんはこれを受け、文化とは本来ローカルに帰着していくものだと話します。ストリート、音楽、地元のサッカーチームのように、「この場所で良かった」と自分を肯定してくれる存在が、アイデンティティをもたらすという考えです。
それがあることが、これ最高っていう人がいることが、結局ファンを作り、広がっていって、結果外からでも呼んできちゃうような。
高木さんは、日本に必要なのは表面的な文化観光ではなく、地元の人や各ローカルが誇りを持てるもの、一人ひとりが「これが俺なんだ」と言えるものがたくさんあることだと話します。飲食の分野はまだ日本が強く、だから外から見て魅力的に映っているのだろう、という見立てです。
ブランドとファン、どちらが主体者なのか?
鶴岡さんは、BASEのユーザーを見ていても、ブランドとファンの関係がとても好きだと話します。二人がこの日着ていたENNOYを例に、ブランドがあり、ファンがいて、そこも共依存しているといいます。
どっちが主体者かわかんないんですよ。服作ってる人がすごいのか、買ってる人がすごいのかがわかんない。
鶴岡さんがもう一つ挙げたのは、大好きなサッカーチームである大分トリニータです。選手が移籍するとファンは怒りますが、ファンはチームと契約しているわけではなく、明日別のチームを応援してもいいはずです。
でもファンって応援変えないじゃないですか。ファンの方がコミットメントが強いんですよ。この関係性えぐいなと思って。
高木さんは、ファンにとっては人生がかかっていて、自分の人生と一体化しているから価値があるのだと応じます。鶴岡さんは、その手伝いができることが本当に嬉しいと話しています。
高木さんは、こうした文化への愛着はこれまで土地に強く紐付いていたが、BASEはそこから完全に切り離されていても出会える接点や買ってもらえる場所を作る装置なのだと捉えます。人が文化を支えにする根底の考えは変わらない、という見方です。
鶴岡さんも、BASEのショップを見ていると、ブランドが好きで心のよりどころになっている人が多いと話します。出身地のようなわかりやすいよりどころに加えて、ブランドやウェブサービスや人がよりどころになっていけば、いろいろな人の生きやすさにつながり、セーフティーネットにもなるのではないかと考えています。
鶴岡さんによると、小さな経済圏は過去にもあったものの、1つずつの経済規模が小さいため発展させられませんでした。インターネットが登場したことで状況が変わった、と鶴岡さんは説明します。
小さな経済圏
昔からあったが、1つずつの規模が小さく発展できなかった
インターネット
小さな経済圏がたくさん集まれるようになる
BASE
集まった経済圏をビジネスにできる
インフラ
そうした人たちを支える仕組みをサステナブルに作り続けられる
鶴岡さんは、インターネットがようやく成熟期に入り、エコシステムも生まれ、日本中・世界中でこうした営みを支える人が出てきて、また次のカルチャーができるタイミングだと話します。その意味で、今は「ようやく創成期」だといいます。
高木さんが「BASEの成長はこれから」とまとめると、鶴岡さんは「本当に」と応じます。個の経済圏が盛り上がればBASEも自然と盛り上がる、という言葉で対話は締めくくられます。
高木さんが見た、鶴岡さんの強さは「何者でもない」時間
対話のあと、高木さんは鶴岡さんについて改めて振り返ります。鶴岡さんはブレない人で、何が違うのかといえば、本人も話したとおりロングタームで物事を見られるところだといいます。
高木さんは、その理由を鶴岡さんの「何者でもない」時間の長さに見ています。大学時代は友達が誰一人いないような状況で、そこでインターネットと出会い、BASEを作っていったという経緯です。
高木さんによると、立場を持つと責任が生まれ、家族や守るもの、世の中での立ち位置が決まるにつれて、「自分はこういうことしかやらない」と視点が狭くなり、短い時間軸で考えがちになります。
鶴岡さんは何者でもない時に家入さんの壮大な思想を受け継ぎ、それだけを抱えていたからこそ、どう実現するかに大きくベットできた、と高木さんは考えています。それは20歳ぐらいで起業した強みでもある、という評価です。
高木さんは最後に、鶴岡さんには壮大なスポンジ力があったのではないかと語り、番組を締めくくっています。
まとめ
鶴岡裕太さんの長期思考は、誰かに喜ばれたいという素朴な欲求と、資本市場と社会のベクトルを合わせようとする合理的な判断から形づくられていました。ユーザーとの共依存やブランドとファンの関係に価値を見いだす視点は、個の文化を支えるBASEの姿勢そのものとして語られています。
- 鶴岡さんにとってのいいプロダクトは、より多くの人の生活を良くするもので、規模を追うことが資本市場との合致点になっている
- 時間しか持たない学生起業家として、短期決戦ではなく10年単位で世の中が変わるのを待つ戦い方を選んだ
- 俯瞰した視点は、殴り合いを避けて好きなことに集中しようとした結果、会社の発展にもつながったものだと本人は捉えている
- ブランドとファン、サッカーチームとサポーターのような共依存の関係を、インターネットで支えることにBASEの役割がある
- 高木さんは、何者でもない時間に壮大な思想を受け継いだことが、鶴岡さんのブレない強さの源泉だと見ている



