未来を描くより、過去を回収するほうが満たされる?
高木新平さんは、クリエイティブディレクターでニューピーのCEOとして、東京のスタートアップと未来のビジョンを描く「ビジョニング」の仕事をしてきました。一方でこの1年ほどは、地元の富山県を中心に地域の仕事にも多く関わっています。
高木さんによると、東京のスタートアップと未来の話をするのはワクワクするものの、満たされる感じとは少し違ったといいます。対して富山の仕事では、それまでにない種類の感情が生まれたそうです。
高木さんの地元は、富山県射水市の新湊です。内川という川沿いに漁船がたくさん停まる海沿いの町で、高木さん自身はずっと「寂れた漁港町」だと思っていました。
ところが内川の景色を気に入って移住してきた人たちが現れ、地元の人から見れば裏口にあたる川沿いに、ホテルやバー、古民家カフェが少しずつでき始めました。外の人から「むっちゃ素敵だね」と言われるようになり、高木さんは「過去を回収できた感じ」がして自己肯定感が大きく上がったと話しています。
それまでプロフィールにも富山出身と書いていなかった高木さんは、この1年で積極的に地元の話をするようになりました。年末年始に振り返る中で、未来ばかり語ってきた自分は過去との向き合いが弱かったと気づいたといいます。
高木さんは、ヒストリーとストーリーが同じ語源を持つことに触れ、物語とは歴史なのだと語ります。「自分の人生はこういう物語で素敵だった」と思えることが、満たされる感覚の正体なのではないかという見立てです。
新しいことはエキサイティングで楽しいが、満たされる感じではない
地元が肯定され、自分の人生の物語が素敵だったと思えて満たされる
家入一真さんは、未来を追う仕事はどちらかというと「飢えている」状態で、もっともっとと追い求め続けるのは大変だと応じます。高木さんはこれを受けて、見えない正解を探るのではなく、過去を正解にしていくという感覚が幸せにつながると語りました。
いじめも中卒も、地元の「何もない」も意味を持つのか
家入さんは、高木さんの話を自分の経験に重ねます。いじめられた経験や中卒であることは、ペパボ ── 家入さんが創業したホスティング事業などを手がける会社の通称。現在のGMOペパボやリバテを立ち上げていく中で特に意識していなかったそうです。
しかし家入さんは、「この経験があったから今これをやっているのか」と過去と活動が接続された瞬間に満たされたといいます。つらい出来事やコンプレックスにも意味があったと思えた、という振り返りです。
家入さんの出身地である福岡県宗像市は、北九州と福岡市の間にあるベッドタウンで、昔は田んぼばかりだったそうです。最近は市として頑張っていて、コイケヤとポテトチップスを出したり、宗像の醤油や塩を都内の居酒屋で見かけたりするようになったと話します。ただ家入さん自身は、まだピンと来ていないとも付け加えています。
高木さんは各地で地域の価値を掘り起こすプレイヤーと出会ってきましたが、その多くは一度地元の外に出た人だといいます。地域の人は必ず「うちには何もない」と言うものの、外に出れば自然や文化のよさに気づけるという指摘です。
地域の価値が掘り起こされて形になり、スポットライトが当たって「素敵だね」と言われると、地元の人も本当にいい場所だったと実感できる、と高木さんは語ります。
高木さんは、日本は東京依存や国依存が強く、自分の生まれに誇りを持てる人が少ないと考えています。大阪出身の妻を例に挙げ、大阪の人の地元への誇りは幸福度に影響しているのではないかと話しました。
高木さんによれば、オリジナルとは「オリジン(起源)」を掘り起こし、取り入れることです。オリジンを持つ人は他者比較をせず「自分たちはこれがいい」とピュアにいられる一方、持たない人は外ばかり見てふわふわしてしまうといいます。家入さんはそれを「根無し草」と言い表しました。
何があるかより、誰が何をやっているか
高木さんは観光の文脈として、デンマークが2018年ごろに「エンドオブツーリズム」を掲げたことを紹介します。像のような名所は写真を撮って帰れば終わりで二度と行かないが、人には粘着性があり、「また一緒にやりましょう」という関係が関係人口 ── 移住した定住人口でも観光に来た交流人口でもなく、地域と多様に関わり続ける人々を指す言葉を生むという考え方です。
高木さんは、再現できる形のものほどどこにでもあるものになっていくと話します。だから大事なのは「何があるか」ではなく「誰が何をやっているか」であり、高木さんが人を富山に案内するときも、地域で活動する人を紹介して考えを聞くツアーしかしないそうです。
モノ消費
ものを手に入れる
コト消費
体験をする
人消費
人との関係性そのものが豊かになっていく
高木さんは、隣の人の顔が見えない都会では、みんながつながって一緒に何かをやる「グルーブ」に参加する体験はつくりづらいと語ります。提供すべき体験の種類そのものが根本的に変わっている、という見方です。
豆腐が固まらない、それでも地元を良くしたい人たち
高木さんが例に挙げたのは、香川県三豊市です。ウユニ塩湖のような景色になる秩父ヶ浜で観光的に注目を集めた場所で、高木さんは2回訪れたといいます。
三豊市では、ヒマさんらが火をつけ、地元のプレイヤーたちが共同でお金を出し合って事業を始めています。大企業がないため10社ほどでホテルをつくったり、2人で組んでカフェを開いたりして、この2、3年でプロジェクトごとの会社が30個ほど生まれ、30人ほどのコアメンバーがいるそうです。
ヒマさんはこの動きを「身の丈資本主義」と呼んでいたといいます。外に求めるのではなく、自分たちが欲しいものをまず自分たちでつくろうという姿勢に、家入さんは「ポートランドっぽい」と反応し、高木さんもDIYの精神だと応じました。
高木さんによると、一つひとつのクオリティを東京と比べれば見劣りするかもしれませんが、そこで働く人たちは心から楽しんでいます。プレイヤーも老舗の酒蔵や大地主の跡継ぎではなく、スーパーの三代目のような人たちで、地元を良くしたいと生き生きしているそうです。
高木さんが印象に残ったのは、彼らのプレゼンのピュアさです。地元が嫌いで東京に出て、うまくいかずに戻ってきたが悔しくて何かをつくり始め、今では「この地元最高っす」と言える、という語り口に気持ちが熱くなったといいます。
コーヒーの経験がないのにコーヒー屋を始め、豆腐屋ではオープン直前まで豆腐が固まらずに困っていたという話もあったそうです。恥をかきながらも挑戦し続ける姿が輝いて見えた、と高木さんは振り返ります。
家入さんは、こうした一人ひとりの小さな物語の集積が地域の魅力になり、外に漏れ伝わって地方が創生されていくと語ります。地方創生とは成功事例のコピペではなく、一人ひとりの物語が地方創生なのだというのが家入さんの考えです。
グローバルの反対は、ローカルではなくコミュニティ
高木さんは、グローバルの反対はローカルではなくコミュニティだという考えを紹介します。地域にもiPhoneのようなグローバルなものは流れ込んでいるため、地域だからといってグローバルの反対になるわけではありません。
一方で、そこにあるコミュニティはグローバル化もコピペもできないため、むしろそちらが価値になる、と高木さんは話します。
家入さんは、チームラボ ── デジタルアートなどを手がけるアート集団。代表は猪子寿之さんの猪子さんが語る「ハイクオリティグローバルとロークオリティコミュニティへの二極化」という言葉を挙げ、高木さんも同意しました。
インフラやiPhone、BTSのような音楽など。浸透するが居場所は持ちづらく、競争も激しい
小さな共同体。これがあるから自分の居場所だと思える
高木さんは、CAMPFIREは小さなコミュニティをつくる装置だと位置づけます。マーク・ザッカーバーグが、FacebookはSNSとして人をつなぎすぎ、10億人、20億人のコミュニティの中で役割を見出せる人は少ないと話していたことにも触れました。
高木さんによれば、CAMPFIREのプロジェクト自体はコミュニティ的なのに、それを投げかけるSNSはコミュニティから遠くなっているといいます。LINEで個別に送るような使われ方は別としつつ、まだ形が変わる可能性があって面白いと語りました。
時間と金に追われる都市で、挑戦は生まれるのか
高木さんは、マインドに格差が生まれていると指摘します。家入さんは、収入やゆとりも影響しているだろうとし、貧しくても豊かに暮らす人はいる一方で、時間や金に追われると余裕が生まれにくいと応じました。
高木さんは、東京の都市生活は時間と金に追われすぎているのに、そこへの憧れが強いと話します。地方を回ると「この家いくらだと思う?」という話がよく出て、家賃が十数万円と聞いて月額かと思ったら年間だったと驚いたエピソードを紹介しました。それならいくらでも挑戦できる、という実感です。
家入さんは、この話はリバテの思想に戻ってくると語ります。みんなで共同生活をして生きるコストを下げられれば、失敗しても戻ってこられるので、挑戦がしやすくなるという考え方です。
高木さんはさらに、SNSでも都市化が進み、発言は無料でもコストは上がっていると指摘します。コストの低い領域を見つけ、つくっていかなければ挑戦は生まれない、というのが高木さんの結論でした。
居づらくなった人は、なぜ次の場所へ移るのか
家入さんは、あらゆるネットサービスやSNSは、ジェントリフィケーション ── 都市の再開発などで地域が高級化し、もともと住んでいた人々が住みづらくなって押し出される現象で排斥された人たちが次のサービスへ移る歴史を繰り返しているだけではないか、と話します。
家入さんによると、インターネットはもともとマイナーなもので、家入さん自身も含め、現実世界に生きづらさを抱える人たちが吐き出す場所でした。チャンネルやTwitterもそうした場所だったのに、スマホの普及とともに当たり前になって都市化し、居づらくなった人がまた別のSNSへ移っていくといいます。
高木さんは、エストニアを訪れたときに聞いた話を重ねます。エストニアがIT先進国になれた背景にはロシアの脅威があり、当時32歳だったマルト・ラル首相は、物理的な国家がなくなってもネットワーク上に政府があれば国民を維持できると考えて電子国家化を始めたそうです。
弱者のグレートイミグレーションと「長い恥」
高木さんはエストニアの話から、探検家の関野吉晴 ── 人類の拡散ルートを逆向きにたどる旅「グレートジャーニー」で知られる探検家・医師さんの話を思い出したといいます。人類の大陸移動は好奇心による勇敢なグレートジャーニーと言われますが、実は弱者によるグレートイミグレーションだったのではないか、という説です。
好奇心のある者が、山の向こうのより良い暮らしを求めて開拓した
絶滅寸前の弱い人たちが追い出され、新しい場所で生き残るために知恵を発揮した
高木さんによれば、追い出された人たちが新しい環境で料理や道具を生み出してきたのであり、日本はその移動の最果てにあります。居場所を失った人たちが新しいものをつくる繰り返しが人類の歴史であり、地域で活動する人にも、都会でうまくいかなかった人が新しい世界をつくろうとする姿にロマンを感じるのかもしれない、と語りました。
高木さんは起業家についても触れます。家入さんや高木さんは、起業するしか術がなかった「アクシデンタルアントレプレナー」でした。一方、最近の起業家は会社員や専門家の道も選べる中で、社会へのインパクトを考えて冷静に起業を選ぶ「強い人たち」だといいます。
起業するしか術がなかった人たち。家入さんや高木さん
会社員や専門家も選べる中で、最も合理的な選択肢として起業する人たち
高木さんは、最近の起業のあり方を極めて正しく、一般化したことはよいことだと評価しています。そのうえで、三豊市の人たちのように弱者になりかけた人による新しい自己表現が世界をつくろうとしている点に、ワクワクを感じたのかもしれないと話しました。
話の締めくくりに家入さんは、自分たちのようなアクシデンタルアントレプレナーは、これからも積極的に恥をかいていくことが必要だと語ります。高木さんは、太ったお腹の写真を見せるような恥ではなく「長い恥」だと冗談まじりに応じ、アンラーニングされた楽しい時間だったと振り返りました。
まとめ
この回では、富山の地元が外から肯定された高木さんの体験を起点に、未来を追う飢えとは違う「過去を正解にする」満たされ方が語られました。そこから地方のプレイヤーの物語、コピペできないコミュニティの価値、生きるコストを下げることの意味、そして恥をかきながら挑戦する姿勢へと話が広がっています。
- 未来を追う仕事のワクワクとは別に、過去を肯定し自分の物語として回収することで満たされる感覚がある
- 地方創生は成功事例のコピペではなく、恥をかきながら挑戦する一人ひとりの物語の集積だと家入さんは語る
- グローバルの反対はコミュニティであり、コピペできない関係性や「誰が何をやっているか」が価値になる
- 生きるコストが低い場所や共同生活は、失敗しても戻れる余白をつくり、挑戦を生みやすくする
- 居場所を失った人が新しい世界をつくる繰り返しに、二人はアクシデンタルアントレプレナーとしての共感を重ねた




