肩書きは誰のため?死と「肌で感じるもの」を描く理由
高木さんは冒頭で、VRアーティストとして生きていくことはもう変わらなそうか、とせきぐちあいみさんに尋ねました。せきぐちさんはVRだけでなく、ARや現実空間に作品を浮かべる表現、脳波で絵を描く実験にも取り組んでいると答えています。
せきぐちさんによれば、肩書きは結局、相手のためにつけるものです。自分では定めなくてもいいけれど、いろいろな場面で必要になるので、わかりやすさのために「VRアーティスト」と名乗っているといいます。
これからの自己表現について聞かれると、せきぐちさんは「ちょっと蓋をしすぎました」と振り返ります。死や生にとても興味があるのに、これまでそれを隠して生きてきたそうです。
ただし、せきぐちさんは死を前面に出せば人に刺さるわけではないとも考えています。死の捉え方が変わると人生が変わる気もするからこそ、その見せ方を作品を作りながら模索している段階だと話しています。
せきぐちさんのVR作品には、トンネルのような表現や、何かを越えて別の場所へ行く表現がよく出てきます。せきぐちさんはそれを、産道や生まれ変わりのメタファーだと説明しました。題材には山の中、神社、磐座 ── いわくら。神が宿るとされる岩や岩場のこと。古くから信仰の対象とされ、神社の起源になった場所もあります磐座、島など、見えない力を肌で感じられる場所を選んでいるといいます。
せきぐちさんは、自分にはスピリチュアルな感覚や霊感はないと断ったうえで、「なんとなくここってすごい肌で感じる」場所があると語ります。そして、そうした場所がこれからとても大事になると考えています。
情報や知識はパソコンなどで手に入り、これからすごい勢いで進化する。生活を豊かにしてくれる
見えない力を感じる場所は、現実でしか味わえない
せきぐちさんは、理屈で説明できるものの進化を否定しているわけではありません。生活が豊かになり、知識も増えて面白いと認めたうえで、現実でしか味わえないものの価値が際立つと話しています。
AIが絵を描く時代に、人間は何を作るのか
せきぐちさんは、うまい絵を描くといったことは、あっという間に「AIがやればいいじゃん」になると考えています。それでも人間だからこそ作れるものは、肌で感じる場所に足を運び、そこから受け取ったエッセンスを通して出てくるのではないか、というのがせきぐちさんの考えです。
高木さんはこの問いを面白がり、フィジカルなものの強さとデジタルの可能性の中で、人間が何をするのかについて仮説はあるのかと重ねて尋ねました。
せきぐちさんの答えは、圧倒的な大自然の力と人をつなぐ巫女のようなものになるしかないのでは、というものでした。昔の巫女が呪いやお告げでしていたことを、せきぐちさんなら絵などで行い、人と見えない力の間に立つというイメージです。
神様のお告げなどを人々に伝え、日々の生活や政(まつりごと)の指針になった
絵などの表現を通して、現代人から遠くなった見えない力と人をつなぐ
せきぐちさん自身は、まだ答えが見つかっていないと認めています。自分のことはよくわかっていないけれど、そうした存在が必要な気がしていて、ただ当時の巫女と同じ形ではないだろう、とも話しました。
せきぐちさんは神社などが好きだといいます。デジタルに圧倒的に欠けているのは、目に見えないものに感謝する気持ちだと考えているからです。
高木さんが、デジタルに精神的なものは乗るのかと聞くと、せきぐちさんは「乗っかりたいなと思って」模索していると答えました。
せきぐちさんによれば、メタバース ── インターネット上の3次元の仮想空間で、人々がアバターを通じて交流したり活動したりする場を指す言葉ですに学校やエンタメ、お店、病院までそろい、人生の一部を過ごすような映画の世界になるには、無秩序では成り立ちません。かといって、新しい世界を規制で縛りまくるのも違うと考えています。
そこでせきぐちさんが大事だと考えるのが、思いやりやモラル、血の通った温度感です。きれいごとに聞こえるかもしれない、と前置きしたうえで語られました。
株式会社無双とバーチャル秘書、独立したての現在地
高木さんは、せきぐちさんがアーティスト活動は以前から続けつつも、今まさに独立したタイミングなのだと確認します。せきぐちさんは「したてです」と答え、まだ固定のマネージャーはおらず、オンライン秘書の何人かに事務作業を手伝ってもらっていると話しました。
ユニークなのは、せきぐちさんが立てた「バーチャル秘書」です。せきぐちさんが名付けた架空の人物「武田ゆうり」武田ゆうりさんがいて、その中身を何人かが担当し、対応しているそうです。
せきぐちさんは独立して株式会社を設立しており、社名は「株式会社無双」です。アルファベット表記で、夢の想像の「夢想」を具現化しながら、バシバシ戦って「無双」していく、という意味が込められています。
せきぐちさんは、番組に出てきた経営者たちに比べればまだ小規模な話だと恐縮します。それでも、海外からのオファーの交渉など、どうあるべきか考える場面は増えているといいます。
高木さんは、自分の行動は早いせきぐちさんが、交渉には慎重なのだと指摘しました。せきぐちさんは、痛い目を見たことがたくさんあるからだと答えています。自分一人でできることは限られているので、いろいろなところと協力したいし、活動はボーダレスなので海外でも展開したいそうです。
実際に、ある国のカントリーマネージャーをやりたいと申し出る会社もあるそうです。ただ、人づてのつながりがない相手については、任せて大丈夫か、まだ判断しかねているといいます。
「直感に従わずにうまくいったことがない」という教訓
海外とのパートナー選びの話から、せきぐちさんは「結局直感ですね」と言い切ります。これまで直感に従わずにやって、うまくいった試しがなかったそうです。
せきぐちさんの言う直感は、頭を使わずに逃げることではありません。たとえば、すでに案件を進めているから、大手企業のちゃんとした人だから、と理屈で考えて付き合い続けた相手ほど、後でとんでもないしっぺ返しが来たといいます。
違和感
直感では「変だな」「嫌だな」と感じる
理屈で打ち消す
案件が進んでいる、相手の経歴が立派だ、などと考えて付き合い続ける
しっぺ返し
後から、より嫌なことが起こる
こうした経験から、せきぐちさんは今では直感的に嫌だと思った人とはあまり仕事をしない、と伝えるようにしています。相手もたいてい受け入れてくれるそうです。
せきぐちさんは極端な例も明かしました。以前一緒に仕事をしていた50代の男性が、白血病で死んでしまうからいろいろ残したいと言い出し、せきぐちさんと養子縁組をしたいと持ちかけてきたそうです。
その男性はその後、途中で坊主にするなどし、ある日せきぐちさんを殴ったといいます。せきぐちさんがビジネス上の理由を説明して意見しただけなのに、もっと言うことを聞くようにと迫られ、閉じ込められ、大きなトラブルになりました。
せきぐちさんは、この相手にも何度も直感でおかしいと感じていたのに、すでに仕事をしていたことを理由に関係を続けてしまったと振り返ります。高木さんが「経歴があるし」と考えてしまう心理を代弁すると、せきぐちさんは「まさにそれ」と応じました。
巫女の側近に必要なのは「賢いハブ」?
高木さんは、この番組には事業を作る人が多く出てきたが、せきぐちさんはまったく違うアプローチで、ある意味すごくビジョナリーだと感想を伝えました。違う世界を作ろうとしている、と高木さんは表現しています。
せきぐちさんはこの番組のリスナーでもあり、特に上野山上野山さんの回が良かったと語ります。突拍子もないことを言っているようで、実際の人の課題を解決していく姿がかっこいいと感じたそうです。
高木さんは「現代の巫女」という言葉を聞いて、デジタルや自然など多くのものと向き合う中で、どう捉えればいいかわからなくなる人類の姿が浮かんだといいます。その人類をつなぐ存在という考えを面白いと感じ、せきぐちさんが神社などを題材にしてきた理由がようやく腑に落ちたと話しました。
せきぐちさんは今、一人で考えていくことの限界を感じているといいます。一人で頑張ったり外注したりしてそこそこうまくやることはできるけれど、全部を自分で考えようとするのは良くない気がする、というのがせきぐちさんの実感です。
せきぐちさんは、巫女のような存在にはきっと側近に頭のいい人がついていたはずだと考えています。どちらが上ということではなく、浮世離れして生きる人がまともに生活するのは難しいので、社会となじむためのハブになる賢い人がいたのではないか、という見立てです。
せきぐちさんが想像する側近の役割は、お告げや「こうあるべき」を人が飲み込める言葉に変えることでもあります。そうした人は先に探すのではなく、自分がひたすら狂って進めば、支えなければと自然に現れるのかもしれない、とせきぐちさんは話しました。
高木さんは、ハードルは高いかもしれないが現れそうだと応じ、せきぐちさんは飛んでいるから、もっともっと飛び散ってほしいとエールを送りました。
Inside Visionが1年で見たもの。起業家はWhyをビジョンにする
高木さんは振り返りで、せきぐちさんがYouTubeでいろいろなものを公開し、黒歴史として残している生き方そのものがインターネット的だと語りました。インターネットへの愛から、VRの世界に精神性を取り戻したい、現代の巫女になりたいというビジョンは、事業家では思い浮かばないものだと評しています。
そのうえで高木さんは、約1年続けてきたInside Visionがこの回でひとまず最終回になると発表しました。アーティストやクリエイター、上場企業や大企業の人など、多くのゲストが登場した番組でした。
高木さんがゲスト全員に共通して感じたのは、みな総じてすごい起業家だということです。答えのないWhyを大切にし、そのプロセスの中で次のように進んでいくと語っています。
高木さんは、その道のりに型にはまったものは1つもなく、人の数だけストーリーがあったと話します。丸ごとロールモデルにできる人は今の時代少ないけれど、「この話は自分にも当てはまる」「ここは自分に足りない」と、いろいろな角度から自分の人生を見直す機会になったそうです。
偉大な人でも、プロセスの中ではアホみたいなミスやひどい選択をしていると聞くほど、まだまだこれからだと勇気をもらえた、と高木さんは振り返ります。自分が一番役得だったのではないか、とも語りました。
高木さんは、Inside Visionは他にはあまりないコンテンツだと考えており、起業家の人生に迫るという核は変えずに、コンセプトを磨いたシーズン2を出したいと予告しました。リスナーには引き続きフォローしてほしいと呼びかけて、番組を締めくくっています。
まとめ
せきぐちあいみさんは、肩書きにとらわれず、死や見えない力といったテーマを作品で描きながら、デジタルに精神性を乗せる「現代の巫女」を目指しています。独立したばかりの今は、直感を信じて仲間を選び、一人で考える限界を越えるための支えを求めている段階です。
- 肩書きは相手のためのもので、せきぐちさんはわかりやすさのために「VRアーティスト」と名乗っている
- AIがうまい絵を描く時代に、人間が作れるものは現実で肌で感じる体験から生まれる、とせきぐちさんは考えている
- メタバースには規制ではなく、思いやりやモラル、血の通った温度感が必要だというのがせきぐちさんの考え
- 株式会社無双を立ち上げたせきぐちさんは、直感で違和感を覚えた相手とは仕事をしないと決めている
- Inside Visionはこの回でひとまず最終回となり、高木さんはシーズン2を予告した




