経営者が「政治のこと」を言ってはいけないのか
聞き手の今田素平今田素平さんは、会社は人生のある時期に「むっちゃ頑張ってること」の1つでしかなく、ほかにも取り組むことがあると考えています。そのうえで、山野さんが政治などの領域にも力を入れている点に話を向けます。
今田さんによると、山野さんはTwitterで「経営者やビジネスをやる人間は政治のことを言ってはいけないと言われるが、それは嘘だ」「リーダーなんだから社会のリーダーだろ」という趣旨の発信を熱く行っていました。今田さんは、日本社会への意識の強さを感じていたといいます。
山野さんがまず挙げたのは、環境が自分を成長させてくれたという感覚です。同世代の仲間や少し上の世代の先輩たちが、事業がうまくいくほど事業の周辺領域の環境も良くしようとする姿を見て、自分もそういう存在でいたいと考えるようになったと話しています。
山野さんは、会社の判断には2種類あると整理します。PL ── 損益計算書。一定期間の売上や費用、利益を示す財務諸表ですやBS ── 貸借対照表。ある時点の資産・負債・純資産を示す財務諸表ですだけを見て株主に合理的に説明できることと、説明はしにくいけれど周辺領域として重要だと感じていることです。
PLやBSの数字で、今の会社の取り組みとして説明できる領域
10年後の社長としては取り組むべきかもしれない、事業の周辺領域や一人の人間として見たいこと
山野さんにとって、後者は「今の社長の立場ではすぐできないが、今やっておくべきではないか」と思うテーマです。そうしたテーマに向き合うことが、事業の外へ声を上げる動機になっていると考えられます。
有料の遊びと補助金の構造に何を見たのか
山野さんは具体例として、アソビューの事業の外側にいる人たちの話をします。アソビューは遊びを通じて思い出の機会をつくり、人生を豊かにする会社ですが、扱っているのはすべて有料の遊びです。
山野さんは、お金を払えないために遊べない人がいると指摘します。「ローソーシャル」と呼ばれる人たちが遊べれば、社会性が豊かになり、人間関係やコミュニケーション能力も育つかもしれません。それでも有料の遊びしかビジネスにしていないため、その人たちには届いていないといいます。
「生きるに遊びを」を掲げる会社としては、ビジネスですぐにできなくても、ミッションとしては実現しなければなりません。山野さんは、株主に今は理解されなくても、個人の活動としてはベットしたいと語っています。
政治に関わる例として山野さんが挙げたのが、GoToトラベル ── コロナ禍で落ち込んだ観光需要を喚起するため、政府が旅行代金の一部を支援した事業。後継として全国旅行支援が実施されましたや全国旅行支援のような補助金の配分です。山野さんの見立てでは、声の大きい組合に多くの補助金が集まる構造になっていました。
業界団体の有無
移動や宿泊には業界団体があるが、注目され始めたばかりの現地の遊び体験には業界団体がない
補助金の偏り
補助金の多くが移動と宿泊施設に持っていかれる
産業への影響
遊び体験の事業者が潰れてしまうと、業界の発展がまた10年遅れかねない
山野さんは、旅行の思い出には宿泊や移動だけでなく、現地での遊び体験も重要だと話します。だからこそ、産業界として遊び体験に注力する必要を声に出して伝えないと、業界全体が良くならないと考えています。
山野さんは、自分の見えている範囲でわかることはちゃんと声を大にして伝え、業界のリーダーシップを持っていきたいと締めくくっています。経営者の政治的発言は、山野さんにとって業界全体を良くするための行動として位置づけられています。
「もう12年本気でやる」先に描く未来
10年後や20年後のイメージを聞かれた山野さんは、創業から12年が経ち、次が13年目になると話します。そして去年、「もう12年本気でやる」と決めたといいます。
山野さんが描く10年後は、アソビューのビジネス基盤を大きく拡大し、業界のトップランナー、フロントランナーとしてリーダーシップを持って走っている姿です。一方で、20年後は「わかんない」と率直に答えています。
20年後がわからない理由について、山野さんは社長も人間であり、その時の人生で燃えたぎるテーマがあるから会社に注ぎ込んでいるのだと説明します。そのテーマが会社の外に出てくるとしても、否定されるものではないと考えています。全く違う「マザーテレサの家」のようなものを作っているかもしれない、とも話しています。
将来のビジョンについて、山野さんは会社を立ち上げた時の構想やミッションは不変だと考えています。100年スパンでミッションを追う会社であるべきだとすると、自分の寿命が足りないため、いつか引き継ぐことはもう決まっているといいます。
代表としての山野さんの野心は、メイドインジャパンのスタートアップとして、海外でも顧客価値を提供できるグローバルのビジネス基盤を作ることです。国内では、アソビューのプロダクトによって遊びのハードルが下がり、機会が増え、質が上がった状態をどこまで広げられるかがチャレンジだと話しています。
山野さんはもう1つのチャレンジとして、事業者側の変化も挙げます。アソビューがあったから経営の生産性が上がり、担い手がいて、事業が継続できたという事業者の数をどこまで増やせるか、という点です。
一方で、個人としてどんな人生を歩みたいかは、まだあまり考えられていないといいます。今は個人としての存在と経営者としての存在が一体化していて、山野さん自身はそれを心地よいと感じています。少なくとももう12年、その状態で走れれば幸せそうだと語っています。
まとめ
山野さんは、経営者が政治や業界の構造に声を上げることを、社会のリーダーとしての役割と捉えています。株主にすぐ説明できない周辺領域にも目を向け、12年先、さらに100年先のミッションを見据えて動こうとしています。
- 事業がうまくいくほど周辺領域の環境も良くしようとする先輩や仲間の姿が、山野さんの考え方を育てた
- 有料の遊びに届かない人たちへの取り組みは、株主に理解されなくても個人としてベットしたいテーマとして語られた
- 旅行補助金が移動と宿泊に偏る構造に対し、遊び体験の業界を代表して声を上げる必要性が示された
- 山野さんは「もう12年本気でやる」と決め、グローバル基盤づくりと事業者の継続支援を目指している




